【ライブ感想】2025/07/17 Alcest『Les Chants de l’Aurore – Japan Tour 2025』@ 名古屋RAD HALL

 Alcestをみるのは11年ぶり4回目です。2012年の初来日、2014年に2回(名古屋と京都・法然院の寺セスト)。そして2025年の今回。前回の来日となった2017年はAfter Hours’17と名古屋公演が被っていて、先にチケットを抑えていた前者へ行ったために不参加。2020年5月の来日は行くつもりでしたが、パンデミックにより中止。結局、8年の歳月を要しての再来日となりました。

 わたし個人の話をすると、Alcestは2007年の1stアルバム『Souvenirs d’un autre monde』からリアルタイムで聴き続けています。07年ってこういう音楽をまだあまり聴いたことが無い時期なんですが(わたしのポストメタル/轟音系ポストロックを聴き始めた実質的な元年)、Alcestは初めて聴いた時からその幻想的で郷愁を誘う音に魅了されました。以降のアルバムもずっと独自のロマンチシズムや中心人物・ネージュのフェアリーランドを具現化した作風は続く。間違いなく、この手の音楽を追っていくきっかけとなった存在のひとつです。

 11年という時間は長すぎました。ですが、Alcestがまた来日し、それをこうして見に来られて嬉しいかぎり。

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ライブ感想

明日の叙景

 オープニング・アクトを務めるのは明日の叙景。2023年夏に大阪まで見にいき、同年11月のCOALTAR OF THE DEEPERS、BORISとの共演以来、3度目の体感です。

 名盤である『アイランド』は夏の季語をも兼ねているわけですが、1曲目の「臨界」から蝉時雨よりも聴きたいポストブラックの波状にさらされ、純文学の刹那とLUNA SEAの切なが交錯する新たなキラーチューン「コバルトの降る街で」を続けて一気にアげていきます。ポストブラックメタルとJ-POPとヴィジュアル系が手を握り合う最高到達点。そこを目指し、彼等は変化し続けている。

 1年半もみていなかった間に高まっていたのは美意識であり、魅せ方の部分。内輪ではなく開かれたロックのライブとしての興奮と親密さがあり、ヴォーカル・布さんのヴィジュアル面もえらく進化していて驚きました。加えて、この日は2nd EP『すべてか弱い願い』から「影法師の夢」が聴けたことも嬉しかった。光を浴びすぎてない頃の明日の叙景もまた良いのです。

 「キメラ」という一撃必殺で会場を大いに沸かせ、ラストは来月発売される新作『Think of You』からの新曲「明日は君の風が吹く」で締める。全6曲で約35分。アルバムへの期待、3カ月後の名古屋ワンマン公演への期待(私はすでにチケットを買っています)。その両方を膨らませるのと同時に、”日本人が演るポストブラックメタル”というのをAlcestツアーのオープニングで示したことが意義深い。

 そして、あえて書きます。今回は初日となる東京追加公演の共演となりましたが、Vampilliaのこれまでの尽力にもここで敬意を表しておきたいです。

—setlist—
01. 臨界
02. コバルトの降る街で
03. 影法師の夢
04. 土踏まず
05. キメラ
06. 明日は君の風が吹く

Alcest

 オープニングの「Komorebi」からGPSでも探知できない夢の世界へと誘われる。”暗い時代だからこそポジティヴで美しいアルバムを作る”という想いのもと、昨年発売された7thアルバム『Les Chants de l’Aurore』で取り戻した温かさと光。ライヴはそこからの出典を中心に、誰しもに優しく響く音色がステージから聴こえてきました。

 「L’Envol」や「Améthyste」といった曲では、ブラックメタルのエッジの部分を一部トレモロやヴィンターハルターのドラムに委託してはいますが、狂気や鋭利さよりも包み込まれる感覚の方がずっと強い。音のダイナミクスもキめどころを設けるものではなく、全体を通して心地よさに浸れるもの。ブラックメタルの要素すらも幻に変えるようにアコースティック風情の染み入る旋律、優しい歌声が響き渡る(ネージュだけでなくもうひとりのギタリスト・ゼロのコーラスもまたエンジェリック)。それに後光が差すかのような照明演出がAlcestの夢想空間に拍車をかけてきます。

 彼らのカタログでは比較的ダークな要素が強い『Spiritual Instinct』からも3曲されていましたが、「Écailles de lune – Part 2」や「Souvenirs d’un autre monde」といった初期曲の方がやはり心は動く。特に後者は1stアルバムにリアルタイムで感銘を受け、聴き続けている自分には格別。瑞々しい緑に囲まれた美と魂の秘境へ連れていかれるような。Alcestの音楽がもたらす童心への回帰やイメージのふくらみに改めて感服する。

 ちなみにこの日はadidasのジャージを着ていて神秘性が?!と心配するも、ジャージを脱ぐとシガーロスのTシャツで神秘性を回復していたネージュ。一段と流暢になった日本語でのMCに心の距離は縮む(英語も交えてますけどね)。それに彼からは日本で演奏できる敬意もいつも通りすごく感じますし。

 アンコールは3rdアルバムの名曲「Autre temps」でしみじみ。ただし、東京・大阪の3公演は最後に「L’Adieu」を演奏しているのに、なぜか名古屋だけ無し・・・。妖精が迎えに来るのが早かったからですか。しかしながら、身も心も清められたので良しとしましょう。だって今回も名古屋を飛ばさずに来てくれたんですから。

—setlist—
01. Komorebi
02. L’Envol
03. Améthyste
04. Protection
05. Sapphire
06. Écailles de lune – Part 2
07. Flamme jumelle
08. Le Miroir
09. Souvenirs d’un autre monde
10. Oiseaux de proie

–Encore–
11. Autre temps

お読みいただきありがとうございました!
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