長文デスロードの個人趣向丸だし2023年上半期ベストアルバム6選です。
新作は相変わらず15~20作ぐらいしか聴いてないので6作品。ですが、少数精鋭かつ当ブログらしい作品を基準に選んでおります。
明日にだれかと話題を共有できる・・・という作品は本記事にはないかもしれませんが、何かしらのインパクトが残る。そんな作品を知っていただければ幸いです。
2023年上半期ベストアルバム6選
kokeshi『冷刻』
ブルータル・ブラックゲイズを標榜して活動する東京・西荻窪の4人組バンドによる2ndアルバム。
赤い糸が結ぶ、虚ろと衝撃。前作から続くブラッケンド・ハードコア~ブラックゲイズを中心軸にニューメタル、オルタナ、メタルコアが呪いの装備として躍動。”和ホラー×メタル”の形容はkokeshiをよく表しています。
急加減速の滑らかな駆動によるシャープな切れ味、トレモロ~クリーントーンで表出する凍りついた美と醜。
そして、変わらずにひとり全役スタイルで牽引するVo.亡無(なな)さまが、鬼神のごときパフォーマンスで圧倒する。彼女がDIR EN REYの京さんに影響を受けていることもその手のファンに訴えかけるはず。
こだわり抜いた日本語詩、貫かれる”冷・和・呪”の三原則。CD帯に書かれた“私はまだ、人のカタチをしていますか?” は#4「報いの祈り」の一節ですが、戦禍に向かったひとりの人間の渦巻く胸中が描かれています。
暗闇なのに感じるまぶしさ、零下なのに感じる熱。いくつかの激音系をパッケージングしただけではない日本人としての、日本人でしか生まれない音楽。それを感じさせるのが何よりも素晴らしい。
昨年10月は東京、今年5月はリリースツアーの大阪と体感できて良かったです。
オススメ曲:#9「彼は誰の慈雨の中で」
deathcrash『Less』
2018年から活動しているUK・ロンドンを拠点とする4人組の2ndアルバム。基本路線は前作からの延長にあり、Slint~CodeineラインからMogwaiの『Come on Die Young』が近しく感じるものです。
日本的に言えばわびさびが効いたと表現できるような、着飾らずにしんみりとした音楽。さらには2作目にして早くも熟成した旨味。そして波打ち際のような静けさと零れ落ちる歌声は、セラピーのようにさえ感じます。
それでいて荒ぶる激情轟音ムーブが前作よりも沸点高く炸裂。曲によっては、人格が突如変わったかのようにスラッジ系の歪む重低音と血の通った叫びを耳にする。
聴き手の心を震わすとか共感を呼ぶとは無縁で”あてもないどこかの場所で、音楽がただ鳴っているだけ”というそっけなさや温度感は特徴のひとつ。
それにLessは”より少ない”を意味しますが、減らすことで豊かさや本質に迫るミニマリスト気質は、deathcrashの趣向と合っています。
現代社会という消耗戦を離れて、ただ浸り、ただ耽る。その感覚を思い出させてくれる『Less』に敬意。
オススメ曲:#2「Empty Heavy」
BIG|BRAVE『nature morte』
カナダ・モントリオールを拠点に活動する3人組の6作目。タイトルは”静物画“を意味するフランス語用語より。
Southern Lord系列に連なるヘヴィネス、Thrill Jockeyに属すことを証明する実験的な構築、銃にも蜜にもなるRobin Wattieの声。迫りくるドローンの波状とヴォーカルの気迫が聴き手をおののかせます。
作品のテーマは公式Bandcampに”あらゆる多元的な女性性の被支配に重点を置いています“と書かれており、言葉にできない感情を暗い心の底で掘り起こしているとのこと。
当然ながら、Robin Wattieの個人的な体験に基づいた事柄も含まれます。特に#2「The One Who Bornes a Weary Load」の9分間におよぶ衝撃は計り知れない。
最小限から最大限までの音量を用いながら紡ぐ高いアート性とダイナミクスを持つ音楽。その側面はありますが、切実な痛みを訴える音楽として比重が大きい。
ヘヴィであることの意義。サウンドからもメッセージからも本作からは必然性を感じます。
オススメ曲:#2「The One Who Bornes a Weary Load」
The Ocean (Collective)『Holocene』
結成から20年以上活躍し続けるドイツのプログレッシヴ・メタル集団の9thアルバム。タイトルの”Holocene = 完新世”。最後の氷河期が終わった1万1700年前から現在までを示します。
音楽的には大胆にもデジタルなトーンが主導権を握ることが明らかに増えました。深海を優雅にスライドしていく#1「Preborial」~#3「Sea of Reeds」までのエレクトロ・サイドの追及は新鮮味をもたらしています。
それでもトランペットやホーンなどの金管楽器が各所で盛り込まれ、#6「Unconformities」にはスウェーデン人歌手のカリン・パークが艶めかしい声を吹き込む。一方で転換期を示すようなヘヴィネスによる地殻変動も健在です。
加えて歌詞のテーマは”この時代の奇妙さ、陰謀論を取り扱っている”とOBNUBILのインタビューで回答。
#2「Boreal」にはパンデミック中の陰謀論、MVが制作された#7「Parabiosis」では寿命を延ばす再生医療や整形手術など、永遠の若さを求める現代に対しての疑問を投げかけています。
変わらずにCollectiveとうたう音楽的な連動性と分厚いハーモニーは魅力的。エレクトロニックな旅路の没入体験と共に、バンドのプログレッシヴで冒険的な側面に引き続き頼もしさを覚えます。
オススメ曲:#7「Parabiosis」
➡ The Ocean(Collective)の作品紹介はこちら
IKARIE『Arde』
2019年に結成されたスペインのドゥーム/ポストメタル系バンド5人組。ベーシスト兼作詞を担当するMaria V. Riañoのコンセプトを苦痛を伴うヘヴィネスと共に体現。また、IKARIEは”宇宙的実存主義”を掲げて活動しています。
破壊された人間の人生における3つの段階(痛み、怒り、再生)を描く3部作をデビュー作から発表しており、本作は2ndアルバムで、”怒り”がテーマ。
音楽的にはAmenraと初期Anathemaの美学を行き交うドゥーム~ポストメタル。野獣系グロウルによる威圧が苦しみを強制共有させ、反復する重音リフが目を潰すような闇を生み出します。
前述したように”怒り”をテーマに、歴史の中で数人の女性を巻き込んだ悲劇的な出来事や物語を伝える本作。前作以上に痛みを伴って胸の内に響く内容となっています。
全体を通してユダヤ人哲学者であるハンナ・アーレントの”悪の凡庸さ(意味についてはこちら参照)”が貫かれる。また『ブルーマインド』や『チタン TITANE』といった映画が参照元として挙げられます。
先行シングル#2「Santa Sangre」は同名のメキシコ映画にインスパイアされ、社会統制の手段としてのラテンアメリカの女性・嬰児殺害について抗議。日本からも#4「40dias」では女子高生コンクリート詰め殺人事件の被害者である古田順子氏、#6「Kanno Sugako」では大逆罪で死刑を執行された管野須賀子氏の2人が登場しています。
ドラマティックな演出やメランコリックな旋律が増えてもDream Unendingのような色味は無く、悲しみの暗い河を泳ぎ続けるような感覚が続く。IKARIEは音楽を通して痛みや怒りを共有し続けています。
オススメ曲:#4「40 días」
陰陽座『龍凰童子』
妖怪ヘヴィメタルに魂を捧げ続ける4人組の15thアルバム。Vo.黒猫さまの療養・復活となる4年半ぶりの新作は過去最長のインターバルであり、また全15曲収録と単独作としては過去最多曲数、約71分と最長分数を記録。
タイトルは瞬火兄上いわく「陰陽座の家紋のうしろに描かれている“龍”と“鳳凰”に、強力な鬼を示す“童子”を加えた”龍鳳童子”は、陰陽座を名乗っているのとほぼ同じ」とのこと。
セルフタイトルゆえのオールスター感謝祭というべき楽曲群の豊かさは、陰陽座が24年歩んできた妖怪ヘヴィメタル道の総決算といもいうべき内容です。
結成時からの己の武器を研ぎ澄まし、経年と共に武器を増やしながら磨き込み、貫き続けるヘヴィメタル愛とともに日本古来の妖怪や風習を歌い上げる。
それが陰陽座にとっての覇道であり、曲げられない信念となって表れています。#3「鳳凰の柩」や#5「茨木童子」は勇壮に突き進む新たな代表曲として君臨するはず。
これこそが陰陽座というものが『龍凰童子』には余すことなく詰めこまれており、歴史を凝縮しながらも新規ファンの魂をも揺さぶる器量を持った秀作となっています。
オススメ曲:#5「茨木童子」
2023年上半期 参加ライブ一覧
- 02/12 ROTH BART BARON
- 03/11 June of 44 / quiqui / THE ACT WE ACT
- 04/16 OOPARTS 2023(THE NOVEMBERS、Algernon Cadwalladerなど)
- 04/22 envy
- 04/26 陰陽座
- 05/04 kokeshi / Gillian Carter / SeeKなど
- 05/05 DIR EN GREY
- 05/09 Hexis
- 05/13 DIR EN GREY
- 05/26 森、道、市場 DAY1(toe、のん、アジカンなど)
2023年下半期も更新していきますのでよろしくどうぞ。