【アルバム紹介】And So I Watch You from Afar、ベルファストの極彩マスロック

 北アイルランド・ベルファスト出身の4人組インスト・バンド。2005年から活動。マスロック+轟音系ポストロックの技巧と衝動を併せ持つサウンドで人気を獲得。

 これまでにフルアルバム6作品を発表。日本へもLITEが招聘した2016年を始め、2018年にも来日ツアーを行っています。

 本記事はフルアルバム全6作品について書いています。

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アルバム紹介

And So I Watch You from Afar(2009)

 1stアルバム。全11曲約64分収録。Mogwai+Battles(or Don Caballero)的な形容をされている轟音系インストです。

 だから単純に静→動へと向かう従来のスタイルをトレースしておらず。マスロック寄りの変則的な展開を主軸とするものの軽やかに進行し、ツインギターとリズム隊が暴れまわるのが特徴。

 そう、ASIWYFAは”暴れる”という感触が強く、ニュアンスとしては轟音よりも”爆音”の方が合っています。ディストーション・ギターの無礼講と力強いリズムにノセられて高まる昂揚感。

 そして突拍子もない展開でねじ伏せようとするのが魅力的。パンク精神でいてまえ的な向こう見ずなノリがあります。

 #1「Set Guitars to Kill」から彼等の姿勢が表れており、3分40秒過ぎからのベースリフの躍動から一気にテンションを上げ、ドラム乱れ打ちを合図に畳みかけるラストは強烈です。

 なかには#10「The Voiceless」のようにExplosions In The Skyを彷彿とさせる美しいインストゥルメンタルもありますが、解散してしまったアイルランドのAdebisi ShankやSleeping People辺りが近しい存在。

 そして#2「A Little Bit of Solidarity goes a Long Way」や#6「Tip of the Hat, Punch in the Face」辺りの小気味良さや陽気さも武器としてバンドを輝かせています。

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Gangs(2011)

 2ndアルバム。全8曲約45分収録。”このアルバムは前作より多くの色、より多くの光、より多くの音を持っていると思う。実際、ファースト・アルバムよりもポップかもしれない“とフランスのWeb誌インタビューに回答しています。

 和田アキ子より力みのない”ハッ!!”の掛け声からスタートする#1「BEAUTIFULUNIVERSEMASTERCHAMPION」からユニークさと陽気さを増したマスロックという印象が強めるも、肉体に訴えかける躍動感は変わってません。

 ギターの軽やかな単音フレーズから快楽の倍々ゲームのように展開を積み上げ、続く#2「Gang」はブレーキ知らずの高速ユニゾンリフが落としにかかる。

 頭でっかちや取っつきにくいを無効化するハイテンションとアグレッシヴさ。その上で聴き手を置き去りにしないキャッチーさがあります。

 要因のひとつが前作よりも登場回数を増やした”声”。”70 億人が一度に生きている”と題された#4「7 Billion People All Alive at Once」で顕著ですが、楽器のように用いながらリスナーとの距離を縮める大きな役目を果たしています。

 確かに前作と比べると整理されている部分はありますが、激しいラッシュに持っていかれます。ラストの#8「Lifeproof」は轟音ポストロックからカーニバルへと移行するにぎやかな締めくくり。うねりまくるマスロックの大海源に興奮が止まりません。

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All Hail Bright Futures(2013)

 3rdアルバム。全12曲約43分収録。Sargent Houseへと移籍してのリリース。本作は明らかにオープンでカラフルになったと誰しもが感じる作品です。なんてたってタイトルが直訳で”明るい未来に万歳”。

 その通りに暗くうつむく場面が全くなく、開放感でいっぱい。ツインギターを始めとしたテクニック展示会はあったり、複雑な回路や偶発的なセッションで組み立てていようと、それらを回避するキャッチーさに聴き手は引き込まれます。

 音の種類が増えたことによるにぎやかさは特筆すべき点です。エフェクトや電子音の魔術、フルートやホーンの鳴り、ノリの良いコーラスとハンドクラップ、鳥のさえずりまでがダイナミズムとポップの音像を盛り立てています。

 時たまDon Caballero~Battlesのラインを攻めようと本作に至ってはFang Island辺りに通ずる瑞々しさがあります。加えて1曲1曲がコンパクトになり、滑り台のように次の楽曲へと突き進んでいくのが聴きやすさをプラス。

 ここまでの垢抜けっぷりは、高校/大学デビューか!ってぐらい弾けてしまっていておもしろい。もともとの躍動感やアイデアをいかにして聴き手のハッピーにつなげるかを突き詰めています。

 衝撃的な#2「Big Thinks Do Remarkable」、歌とホーンの装飾で一気に突き抜ける#5「The Stay Golden」は特に強力。一緒にタイトルコールしたい#9「Ka Ba Ta Bo Da Ka」や表題曲#11の華やかなハーモニーにも大いに惹かれます。

 謎の自己啓発本でポジティヴ開発するよりも本作を聴く方がよっぽど明るい気分にさせられます。これぞマスロック愉快犯。この快と陽ゲージのふりきれっぷりが最高。ASIWYFA入門編にオススメです。

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Heirs(2015)

 4thアルバム。全10曲約43分収録。こちらのインタビューでは”私たちはただ、自分たちの快適ゾーンから抜け出して、新しいサウンドを作り、物事を異なるアレンジ方法でアプローチし続けることを確認したかっただけです“と語る。

 基本的には前作の延長上にあり、ハッピーの十字架を背負った作風が続いてます。比較するとヴォーカルのパートがさらに増加。

 #2「These Secret Kings I Know」で歌メロによって陽気さを活性化させ、アイルランドの伝統音楽に影響されたという#4「Redesigned a Million Times」は弾けるリフと楽しげなコーラスが歓喜を運びます。

 意地でも閉塞的にしないところは売りで、明るく開放感のあるつくり。マスロックとハードコアとポップが交錯するアトラクションと化しており、スリルと熱狂で聴き手を引きずり込むさまは見事。

 甲高いギターとホーンが天へと導く#8「Animal Ghosts」からの終盤3曲は空間的なアプローチに秀でており、アートワークの宇宙遊泳を意識したかのような心地よさがあります。

 テクニックで成敗しない親しみやすさ。前作に続いてASIWYFA入門に向いたアルバムです。

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The Endless Shimmering(2017)

 5thアルバム。全9曲約44分収録。アートワークはドラマーのChris Weeの友人が撮った娘と愛犬の写真です。タイトルは直訳で”終わりないきらめき”。前2作にあったハッピーの押し売りから本作は離れています。

 一番わかりやすいのは、ポップの清涼剤となっていた歌やコーラスほとんど使っていないこと。その代わりとしたのが階級を上げた重量感と骨太さ。

 冒頭を飾る#1「Three Triangles」からその激しさと重さを実感し、最もヘヴィな#4「Dying Giants」にはポストメタルに連なる巨大な質量を誇ります。変則的な展開を軸としつつ、あらゆる障害物を蹴散らそうとするパワフルさは魅力。

 初期1st~2ndのスタイルを成熟した形で披露している印象があり、本作は多種の楽器を使っておらず、基本は4人の出力を最大限に発揮するという狙いが見えます。

 ドラムの手数の多さとどっしり感は過去最高ですし、#7「Mullally」のツインギターの複雑なデュエルと速弾きには興奮を隠せない。それでいて軽妙なメロディセンスを発揮していて、#5「All I Need Is Space」では前2作の流れにある軽やかさと煌びやかさを強調。

 インスト~マスロック~ポストロックを聴くハードルを下げるアイデアは惜しんでいません。でもバカテクと爆音は譲らず。彼等の王道の部分が磨かれ続けてきたことが伺える作品です。

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Jettison(2022)

 6thアルバム。全9曲約39分収録。5年ぶりのフルアルバムはオーケストレイターのConnor O’Boyleや同郷ベルファストのArco String Quartet、映像作家サム・ウィールとタッグを組み、新たな地平へと向かった作品です。

 ゲスト参加したエマ・ルース・ランドルのセリフから始まる全9章は、映画サウンドトラックのような側面が強まっています。特筆すべきは弦楽四重奏が紡ぐ緊迫感や優美さがこれまでにない色味を加えていること。

 冒頭の#1「Dive Pt1」~#2「Dive Pt2」の流れや終曲#9「A.D. Poet」で聴かせる厳かなハーモニーにそれが顕著に表れています。だからといってASIWYFAが持ち味を押し殺しているかと思えば違う。

 声を用いることは少ないですが、ツインギターは鮮やかに飛び交い、リズム隊は落ち着きと力強さの両輪で安定的にリード。あくまでバンド主導の中で弦楽四重奏との融合が気品を格上げしています。

 中華風フレーズを散りばめた#4「IN AIR」は3rd~4thアルバムのペースでにぎやかに盛り上げ、2分強で終わる#7「Emerge」には前作を踏襲するダイナミズムが急襲。最もインパクトの大きい表題曲#8「Jettison」で太陽を浴びたGY!BEを思わせる爆発的喧騒からドローン海峡へと渡り行く。

 終いに再登場するエマ・ルース・ランドルが”I Miss You”と言葉を添える幕引きには名残惜しさが…。オリジナルアルバムでは異色作なのはまちがいないですが、置きにいった変化ではなく野心あるものです。

 コラボやコンセプトを設けたことでのクラシカルな美しさを得ようと、マスロックの熱狂やハードコアの強さを本作は持ち合わせています。

メインアーティスト:And So I Watch You From Afar
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プレイリスト

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