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前衛とポップのマスロック、Battles

 元Don Caballeroのイアン・ウィリアムスや元Helmetのジョン・ステニアーを擁するマスロック・バンド。2002年に結成。当初は4人編成でしたが、2人のメンバーが脱退してしまって現在はデュオ体制となっています。

 初期に発表した3枚のEPで話題になり、2007年リリースした1stアルバム『Mirrored』が世界的にヒット。現在までに4枚のフルアルバムを残しており、音楽的に変容しながらも彼等でしかない前衛的でポップなマスロックを聴かせてくれます。日本でも数度の来日公演を敢行しており、フジロックやエレクトラグライドなどのフェスにも出演。

 以下、4枚の作品について書いています。

目次

Mirrored(2007)

 先にリリースされた3枚のEPによって既に多くのファンを獲得していた中、2007年にリリースされた1stフルアルバム。EPでは徹底したミニマリズムと実験精神が反映されていました。本作は最大公約数になりそうなポップを一部で持ってきつつ、前衛的なマスロックとしてのこだわりは貫いています。

 オルタナティブ・メタルの雄であるHelmet、マスロックの始祖といえるDon Caballeroのメンバーを擁する。それゆえの硬質で強靭な音が土台としてあり、人力ミニマルミュージックとエレクトロニックな要素が混合。良い意味で人間味の薄さと無機質さがあって、抑制が効いています。しかしながら、そこにヴォコーダを使った声やファニーな電子音など、巧みな編集作業によってユニークな味わいをもたらしています。EPには無かった親しみやすさが本作の特徴のひとつ。

 #1「Race In」や#10「Tij」などはループする音の中で少しずつ変容とユーモアが足されていき、スリリングに聴く者を陥れる。#4「Tonto」はバンドサウンドを主体とした中で中華フレーズを持ち込んで一癖つけ、EPの頃を彷彿とさせるミニマルな#9「Share Hanger」もラインナップに含まれます。

 ハードコアを経由して別の次元へ向かっていくバンドは結構多かった中、バトルスは類を見ない人気を獲得していくことになるのですが、その代表となるのが#2「Atlas」。異様なまでのポップさと祝祭感は広く彼等を知らしめるきっかけとなりました。海外のバンドなのに盆踊り的なものを感じさせる不思議さがあります。音楽フェスでこの曲を体感すると、最高の笑顔とダブルピースが約束されるとかしないとか。

 マスロックというと取っつきにくいし、よくわかんないと駄々こねる人はいるわけで。でも、Battlesが残した本作は精微でクールな構築の中に遊び心があります。それに2ndアルバム以降でいなくなってしまう、奇才タイヨンダイ・ブラクストンの声の演出とエディットがかなり効いている。4人編成で創り上げたこのフルアルバムにしかない前衛性とアンサンブルは、是非とも味わっていただきたいものです。

Gloss Drop(2011)

 タイヨンダイ・ブラクストンが脱退し、トリオ編成で制作された4年ぶりの2ndフルアルバム。とはいえ、僕等のイアン・ウィリアムス(ex-Don Caballero)がいるではありませんか。一応、タイヨンダイが残した曲は2,3曲入ってるらしいですが大半は3人になってつくられた曲だという。

 随分とカラフルな色彩とポップ感を増したというのが第一印象。前作でいう「Atlas」のテンションをさらに派手に盛り上げてくれております。マスロック的な精微な構成力は健在ですが、自由な筆使いで楽しいバトルスを演出。メロディの美しさやユニークなリズム転調、陽気なヴォーカルが主導権を握り、ナチュラルな温かみと人懐っこい感覚が強まりました。

 可愛らしいという言葉も場面によっては浮かんでしまうほどで、かつての無機質な印象を振り払うほどに全体的にカラフルに彩度を上げています。そこに、ブロンド・レッドヘッドのカズ・マキノ、ボアダムスのフロントマンのヤマツカアイ、ゲイリュー・ニューマンという個性派ゲストもポップさを加速させています。

 ストイックさやスリリングさが減退したように感じますが、それよりも違う場所を目指したという事でしょうか。多彩なアイデアの投下を力強いアンサンブルでもって聴き手を楽しませる。ジャンルという境界線を越えてバトルスという音像を自由に打ち立てていくところが彼等の肝。「Ice Cream」で鮮やかに弾ける体験をぜひ。

La Di Da Di(2015)

 柔よくマスロックを制す3人組の4年ぶり3作目。ゲイリー・ニューマンやカズ・マキノなどを招いて歌にフォーカスした前作を経て、「無敵のハードコア・アンサンブル」なるコピーが躍る本作。かつてを思わせるように全編がインストで綴られています。

 あからさまなポップには自分たちなりに線引したようで、実験的なアプローチの増量は原点回帰に通ずるところです。初っ端のヤッバ・スクランブル#1「The Yabba」でご挨拶された後、バトルスのしなやかな自由律を堪能し続けられます。快楽の音符昇降運動。歌が乗っかっていそうなイメージすら浮かぶファニーな#3「FF Bada」や#4「Summer Simmer」辺りは、聴いてて本当に心躍る。

 これまで発表した2枚のアルバムを咀嚼した上で、難解な展開の中にポップを上手く包んでいて、不思議と温かさと楽しさがにじむ。やっぱり彼等はこうでなくちゃね。徹底したミニマリズム、3人のストイックな演奏の交歓がバンドの肝。歌を取り除いたことでの自由さが良い方向にユーモアとキャッチーさを出している気もします(前作は僕は好きでしたが)。

 ゴージャスな実験的インスト#6「Non-Violence」、トライバルなビートで腰をくねらせる#9「Tricentennial」等も満足。「タイヨンダイ脱退を乗り越えて」は前作よりも、むしろ本作にこそふさわしいコピーでしょう。納得の一枚。翌年となるフジロック’16 ホワイトステージにおける真夜中の体験は素晴らしいものでしたよ。

Juice B Crypts(2019)

 4年ぶりとなる4thアルバム。いつの間にかイアン・ウィリアムスとジョン・ステニアーの2人だけになってしまいました。しかしながら、一番アグレッシヴだし、実験的だなと感じる作品です。

 美しくレイアウトするというよりは、どんどんやってしまえという感じで雑多な混合物という印象。独創性にさらに拍車がかかり、いくとこまでいったなという感じも受けます。多数のゲストヴォーカルを期用していることもあって2ndアルバムの雰囲気が近い。しかし、内容的にはもっと狂っていて刺激的です。

 本作ではシンセ音が主導権を握る。かなりにぎやかでやかましい感じで。もちろん精微強靭なドラムが根幹。その中でループするギターフレーズや奇天烈な電子音が飛び交って、ポップにもゲームミュージックにもプログレッシヴにも振れる。R&B、ファンク、HIPHOP、民族音楽的な交配もあれどこのカオスっぷり。耳が忙しくて仕方がないし、なんだか意識もバグってく感があります(笑)。

 #3「They Played It Twice」や6「Titanium 2 Step」が象徴するように多数のゲストヴォーカルがさらににぎやかし。相変わらず声も楽器のように用い、怪奇な色合いをしているのに謎のキャッチ―さを有している。このねじのぶっ飛び具合こそBattlesの前衛っぷりを物語っています。頭で聴くな、身体で感じろと言わんばかりの音は、あまりにもユーモラスで良い意味で狂っていて癖になる。

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