【アルバム紹介】Cross My Heart、抑制の効いた叙情派エモ

 アメリカ・ボルティモアの叙情派エモ・バンド。1997年から2001年までと活動期間は短いながらも、90年代エモを陰で支えたバンドのひとつです。 Ryan Shelkett (Vo& Gt)、Dwayne Bruner (Gt)、Evan Tanner (Dr)、Christopher Camden (B)という面々で活動していました。

 1998年にセルフタイトルとなるEP『Cross My Heart』、2000年に1stアルバム『Temporary Contemporary』と主だったリリースは2枚のみ。

 本記事では上記2作品について書いています。知られざるにしておくのはもったいないバンドなので、この機会にぜひともチェックしていただければ幸いです。

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アルバム紹介

Cross My Heart(1998)

 1998年にリリースされた最初で最後のEP作品。全7曲入り約29分収録の本作は、Deep Elm Recordsからリリースされています。

 #1「Dornier」から彼等なりの90’sエモを味わうことができます。アルペジオを主体としたギターワークにポストハードコア的なアプローチが混じる。そして、基本は聴かせるように歌っていますが、エモと呼ぶよりもスクリーモに近いような絶叫が入っていたりする

 後に発売される1stフルアルバム『Temporary Contemporary』よりもやる気元気のエナジーは感じるところです。時に静かに、時に騒々しく、時に優しく、時に激しく。ポストロック寄りの静動の展開もあり、スロウコアと呼べる要素も感じさせます

 #3「Today I Discovered The World」が放つ節度ある激しさと躍動に持っていかれる。そして、彼等のプロトタイプと呼べる#4「Determination」のしっとりと聴かせる序盤~中盤から昂ぶりと爆発の展開を持つ曲に揺さぶられる。

 ラストを締めくくる#7「The Hypnotist」はポストロックの静動展開をベースにしていますが、短いバーストが示すように抑制とナイーブさが良い意味で機能しています。

 こちらの方が血が騒ぐロック感が少し上。ですが、しっとりと響く&心の奥に染みわたっていく、この特性は発揮されています。

 ヴォーカルのRyan Shelkettは前身バンド・Blankと比べると聴かせるっていう方向に力を置いてますし、Cross My Heartの叙情性はこの頃から特筆すべきものがあります

Temporary Contemporary(2000)

 Deep Elm Recordsから2000年に発表した最初で最後のフルアルバム。全9曲33分収録しています。こちらも Deep Elm Recordsからリリース。

 1st EPを踏まえて洗練された内容。#1「The Great Depression」をスタートにして、大人びた叙情性を帯びた曲が続く。クリーントーンを主体に彩られる淡く切ないサウンド、繊細な歌心を持ったRyan Shelkettのヴォーカル。

 バンドを支える屋台骨は変わりませんが、ゆったりとしたテンポの中で綴られる哀愁のメロディは、さらに磨きがかかっている。これぞ熟成のスロウ・エモという感じでしょうか。

 #2「Tonight We’ll Light Ourselves On Fire」はシャウトと呼べる叫びを聴かせ、ディストーションによる圧で荒ぶる中でも清流のようなメロディが息づく。#7「Self-Loathing Bastard」もやや速めのテンポで感情を昂らせる。この2曲はスマートなソングライティングの中で、ラウド寄りの曲として存在感を示しています。

 一方でメインとなるのは”歌”に力点を置いた曲です。サッドコアのごとき抑制からくる歌とメロディが沁みる#3「Paris」、ストリングスの音色に導かれるようにエモい爆発を伴う#6「Infinity Doesn’t Live Here Anymore」辺りがそうでしょう。染みわたるような情熱に心地よさすら覚えます。

 しかしながら本作は、 ヴォーカルであるRyan Shelkettの個人的な葛藤をつづった作品だという情報を見る。彼の鬱病との闘いを記録し、#4「London Bridge」は具体的に自殺未遂騒動を扱った曲だそうです(参照:PUNKNEWS.ORG)。

 それらが示すように書かれている歌詞は疎外感や自己嫌悪からきているものが多いという。ただ、そのデリケートな表現もメランコリックな美しさに覆われています。

 最も感動的な#8「Angels and Gargoyles」から哀愁のハーモニーをこじらせて湿っぽい雰囲気で締めくくる#9「How Slowly We Forget」までの全9曲。どこかもの悲しいドラマ性を湛えており、繊細かつ深みのある感情表現に心が締め付けられるのです。

Cross My Heartは、絶望と後悔、悲しみと決意の世界へとあなたを導きます。突き刺すような、落ち着きのない、パワフルなサウンドを持つ『Temporary Contemporary』は、繊細な誘惑のレッスンです。(レーベル紹介文より)

お読みいただきありがとうございました!
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