【アルバム紹介】HUM、終わりなきヘヴィネスの旅路

 1990年代に活躍したアメリカ・イリノイ州の4人組オルタナティブ・ロックバンド、HUM(ハム)。主な活動期間は1989年~2000年までで、その後に何度か再結成を果たしています。

 ヒット曲「Stars」を擁した1995年発表の3rdアルバム『You’d Prefer an Astronaut』が25万枚を超えるセールスを記録。Deftonesを始めとして大きな影響を与えています。2020年に22年ぶりの5thアルバム『Inlet』を発表。しかし、ドラマーのブライアン・セント・ペレが2021年6月に死去したというニュースが報じられました。

 本記事ではフルアルバム4作品について書いています。

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アルバム紹介

Electra 2000(1993)

 2ndアルバム。全9曲約44分収録。元々のフロントマンがバンドを去りましたが、HUMの主要ラインナップでの制作は本作から。実質的な1stアルバムと言えます。

 #1「Iron Clad You」がスロウコア風味のわびしげなギターから始まるも、90秒経つと強烈な歪みと重圧を持ったサウンドが強襲。殴りかかってくるようなディストーション・ギター、手数多めにリードするドラミングは目立つもので、#2「Pinch and Roll」や#5「Scraper」における骨太のグルーブは体の芯に効いてきます。

 バンドの特徴はポストハードコアというには行き過ぎた”ずっしりとした重み”。特にリフで執拗に圧しまくる姿勢がみえ、そこに乗るヴォーカルはオルタナ寄りの気だるげな歌と熱のこもったシャウトが入り混じる。

 またハードコア然とした勢いと機動力をみせており、次作からは落ち着いていくことを思うと初期にしかない切迫感と熱量が感じられます。全作品の中で最もハードコアしている。

 それでも#4「Pewter」や#10「Diffuse」辺りは90’sエモに繋がっていくようなアルペジオの潤いや枯れ気味の歌を活かした展開があり、引きのパートでも旨味をもたらしています。

メインアーティスト:HUM
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You’d Prefer an Astronaut(1995)

 3rdアルバム。全9曲約46分収録。メジャー・レコードからのリリース。タイトルは#7「I’d Like Your Hair Long」の歌詞から引用したもので、”宇宙飛行士の方がいいよ”という意。

 Deftonesのチノ・モレノが”我々が大きな影響を受けた”と語る作品です。ビルボードのHot Modern Rock Tracksチャートで第11位を記録したバンド最大のヒット曲#3「Stars」を擁し、本作は25万枚以上を売り上げました。

 オルタナ/グランジのエンジンを搭載していることに変わりないものの、全体的な風通しとバランスの良さが整えられています。アコースティック・サウンドの導入が顕著にあり、切迫感のあったヴォーカルもナイーブに歌うパートだけで構成。

 重さから解放されて穏やかで懐かしい音色と歌声で綴られた#5「The Very Old Man」は新境地といえるものです。しかし、前作のようにリフのゴリ押しまではいきませんが、うねりのあるギターやリズム隊の強度を中心に歪みと圧は十分に機能を果たしています。

 DeftonesやCave In辺りに転用されていく#1「Little Dipper」のヘヴィネスと揺らぎは特筆すべきものでしょう。そして、メランコリックな哀感と重層的なギターが相まみえる#3「Stars」の存在感。

 隠れ名盤などと言われるのがもったいない重要作です。

メインアーティスト:HUM
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Downward Is Heavenward(1998)

 4thアルバム。全10曲約52分収録。前作ほどアコースティックが主張はしなくなりましたが、馬力のあるリズムと重層的なギター、気だるげなヴォーカルでつづるHUM節は変わりません。

 始まり(#1「Isle of the Cheetah」)と終わり(#10「The Scientists」)にはバンドの特色そのままの楽曲を配置し、その間の8曲でコマーシャルな部分と実験性を両立。

 アルバムからのリード曲#2「Comin’ Home」では初期を思わせる速めのテンポと声を荒げることで初期を再燃させるも、カラッと陽気なロックチューン#4「Ms. Lazarus」が爽快な空気感を持ってくる。

 そして静と動のスイッチングで聴かせる#5「Afternoon with the Axolotls」がもたらす昂揚感。彼等のカタログで最も静かな歌もの#9「Apollo」にはこれまでにない味わいがありますしね。

 本作では部分的にシューゲイザーやスペースロックへと踏み込む箇所もありますが、幻想的なムードを引き立てることはせず。荒波のごときヘヴィネスの上に素朴な歌声が懐に響いてくる。しかし#8「The Inuit Promise」のエレクトロニックなアプローチを加味した後半のネジの外れ具合だけは予想を超えてる。

 売れるにガッつかず、アーティスティックな部分は決して曲げない。ということで前作の売上げには全く及びませんでしたが媒体評価は高い。ALL MUSICでは”90年代ロックの失われ古典”というコメントが寄せられています。

メインアーティスト:HUM
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Inlet(2020)

 5thアルバム。全8曲約55分収録。なんと22年ぶりの復活作。でも再結成感謝祭の思い出づくりの作品なんかでは毛頭なく、むしろ最高傑作と声高にして言いたいほどの出来栄え。

 #1「Waves」から重みとまどろみのミルフィーユに舌鼓し、#2「In The Den」でNothingばりの推進力を持ったヘヴィ・シューゲイズを轟かせる。

 全体を通した変化としては、まるでオルタナティヴロック、エモ、ドゥーム、シューゲイザー、ポストロックが暗闇の中でミキサーにかけられたような音になっていること。22年もかけてこのリッチな合成術を会得するとは何事かと驚きを隠せません。

 90年代オルタナティヴがHUMの家紋ではありますが、#3「Desert Rambler」にしても#5「The Summoning」にしても領域的には完全にドゥーム/ポストメタル。それに本作では以前になかった甘美や官能が含まれており、重厚であっても色彩のある音像になっているのも特徴です。

 逆にマット・タルボットのリラックスと無感情の中間地点のようなヴォーカルは昔よりも渋い。左手じゃないが、声は添えるだけのようなそっけなさがアルバム全体を通して効いている。

 まるで暗鬱化したJesuのようであり、海外では”スペース・ドゥーム”なる表現も躍っています。ちなみに本作はFAR OUTが発表した”オルタネイティブ・ロックで過小評価されている13作品“に選ばれている。

お読みいただきありがとうございました!
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