【アルバム紹介】Julie Christmas、甘い歌声と怒声の総和

 Made Out of BabiesやBattle of Miceで活躍したNYブルックリンのヴォーカリスト。海外wikipediaを参照すると、”クリスマスは彼女の正式なミドルネームであり、クリスマスの日に生まれたことからその名が付けられたとのこと(生誕:1975年12月25日)”

 前述したバンドでのパワフルなパフォーマンスが話題となります。他にもMouth of the ArchitectやSpylacopaでのゲスト歌唱、2016年にリリースされたCult of Lunaとのコラボアルバム『Mariner』の活躍で知られている。

 ソロ名義では2010年に初作『The Bad Wife』を発表。14年の時を経て2024年6月に2ndアルバム『Ridiculous And Full Of Blood』をリリース。本記事はそれらのフルアルバム全2作品について書いています。

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アルバム紹介

The Bad Wife(2010)

 1stアルバム。全9曲約42分収録。プロデューサーにCave InやKen Modeを手掛けるAndrew Schneider、共同制作者としてCandiriaのギタリストであるJohn LaMacchiaなどが名を連ねます。当時はまだ解散していなかったMade Out of Babiesのメンバーも参加。

 ”私は怒りが多いヘヴィな音楽とは違う、他の感情の重要性について考え始めた。 そこで人生における他のことについて考え、もう少し美しい曲に取り組み始めました“という言葉がCOREandCOのインタビューに残ります。

 Made Out of BabiesやBattle of Miceといった彼女のキャリアを考えると怒りや重さはついてまわりますが、本作ではそれらを不気味な静けさや悲惨さにコンバート。冒頭を飾る#1「July 31st」からヘヴィなサウンドを見舞うものの、ずいぶんと余白をつくり抑制を効かせています。

 その上で彼女特有の甘い誘惑性あるロリ系歌唱とムカ着火な叫びを使い分け。人によってはそれがクセがスゴいとなるわけですが、ジュリー・クリスマスの声は心をつかんで離さない一番大きな要因。また全体的に統一されたというより多様性を重視しており、周波数の異なる9曲を用意して曲調は幅広いです。

 #3「Bow」はMade Out of Babiesの影が最もチラつく重量曲ですが、オルガン主体でホラー映画のような感触を生み出している#5「Six Pains~」やアコーディオンを用いてメルヘンな世界を生み出す#7「A Wigmaker’s Widow」といった曲が新たな一面をみせている。

 おもちゃ箱という言い回しは適切ではないにせよ、迷い込むべき箱庭がここにある。ちなみに2曲のカバー曲を収録しており、#2「If You Go Away」はシャンソン歌手のジャック・ブレル、#8「I Just Destroyed The World」はウィリー・ネルソン。両曲ともにジュリー・クリスマスの独自性を出したカバーとなっています。

メインアーティスト:Julie Christmas
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Ridiculous And Full Of Blood(2024)

 2ndアルバム。全10曲約42分収録。ポストメタル人脈最高のネキの14年ぶりとなるソロ作。前作に引き続き、Andrew SchneiderやJohn LaMacchiaが参加。それになんといってもCult of Lunaのヨハネス・パーションが参加していることが大きなトピックであり、リリースは彼のレーベルであるRed Creekから。

 余白と遊び心があったソロ初作に比べますと、本作はずいぶんポストメタル的だと思ったのが第一印象。それこそ14年前はMade Out of Babieが健在だったからそういった音楽と離れた表現になったのは理解できます。

 本作ではヨハネス・パーションによる重低音援護体制がスラッジィな轟きの大きな支えになっていますが、ジュリー・クリスマスも快心の怒声や痛々しい悲鳴を撒き散らしており、鼓膜に圧と刺すの両方を味合わせてくる。ゆえにわたしたちに刻まれたMarinerの遺伝子がざわつきだすもの。

 #2「Supernatural」や#5「The End of the World」、#8「Lighthouse」はMarinerの続編というべき衝撃をもたらす楽曲に仕上がっています。逆に前作のように遊び心あるメルヘンな曲調は#7「Kids」ぐらいに抑えている。

 意外なのは締めくくりの#10「Seven Days」。ドローンに近づいた音響が厳粛なムードを醸し出す中で”上に人はいない。神も天国もない”とひそやかに歌い上げる。思考を消耗させて物語の幕は閉じられます。

 しかしながら今回は全体を通して統一感があり、そこにはジュリー・クリスマスのキャリアを濃縮還元した旨味があります。”私は本の装丁で、彼らはページだ“と彼女は話している通りに、バンドを支配下に置いているわけでは決してない。優れたミュージシャンたちがジュリー・クリスマスを最高金賞にすべく創造性を結集・錬金しています。

 それこそ#8の歌詞にも出てくるようにハリケーンのようにあなたはなぎ倒される。そんなアルバムです。

メインアーティスト:Julie Christmas
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MUSIC VIDEO

Julie Christmas – End Of The World, feat. Johannes Persson
お読みいただきありがとうございました!
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