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鋭角で豊穣なインストマスロック・バンド、LITE

 2003年に東京で結成された4人組インストゥルメンタル・バンド、LITE。武田信幸(Gt)、楠本構造(Gt&Syn)、井澤淳(B)、山本晃紀(Dr)による不動の4人で現在も精力的に活動する日本のポストロック、マスロックの代表的な存在のひとつです。

 2006年リリースの1stアルバム『Filmlets』から既に海外を含めて活動しており、自身のアメリカやヨーロッパ・ツアーの敢行、海外バンドの招聘などで国内外の音楽交流を盛んにするなど尽力しています。バンド自身は08年からシンセサイザーの導入、インストを軸にしつつバラエティに富んだ楽曲制作など変化を求めながら、自らのサウンドを拡張してきました。活動休止もなく、コンスタントに作品の発表をしており、結成から15年以上経過する中でも精力的な活動は変わっていません。

 2020年にコロナ禍へ突入した中でも、Stay Home Sessionと題したすさまじいリモート演奏で業界を驚かさせ、ミュージシャンのひとつの在り方を示しています。リーダーを務めるギターの武田氏は行政書士としても活動しており、「ミュージシャンのためのお金のセミナー」を開催や著書の出版(私の感想はこちら)など、バンドマン兼起業家としても支持を得ています。

 わたしがLITEを聴き始めたのは2008年で2ndアルバム『Phantasia』で発売されるちょっと前。『filmlets』を購入してその年の5月5日にOFF MINORの来日名古屋公演を観ています。この時のメンツが、OFF MINOR、killie、heaven in her arms、BALOONSだからすさまじいなと今でも記憶に残っています。7月に行われた『Phantasia』ツアーでもみましたし、フジロックでもみましたし、定期的にはみている(最近みれてないですが)。

 本記事ではLITEのオリジナルアルバム6作品とEP作品等を追っていきます。

目次

LITE (2005)

 5曲入り1stEP。バンドは4人編成でオーソドックスにギター2本、ベース、ドラムという編成。本作を起点にマスロックという形容が似合うバンドに変貌を遂げていきますが、この初作では詩的な響きを持つ音色を重視。風景を奏でるようにツインギターがメロディを奏で、ベースが抑揚をつけ、ドラムがそれを束ねてエモーションを放つ。

 今作では#1こそダウナー系の仄暗いミッドナンバーで意表をつきますが、全体としては静謐で流麗な音が鳴っています。白眉である#5「Past Three Days」を聴くと感情がゆっくりとせせらいでいく、と同時に明媚な風景が燦然と輝いている様子を思い浮かべます。“静かな楽園”がそこにあるかのような音楽に思えた作品。

Filmlets (2006)

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 LITEの1stフルアルバム。前作では叙情性に重きを置いた作品でしたが、今作では全10曲が”filmlets = 短編映画集”通り、様々な風景で彩られたジャケット通りの作品に仕上がっています。

 際立ってきたのが前衛的であり肉体へ訴えかける衝動性。前作では静謐な楽曲ばかりのアプローチが多かったが、今作では楽曲のレンジが広がり、アグレッシブな楽曲とのバランスがしっかりと取れています。ツインギターが美しく重なり合って美麗な響きを聴かせたり、そこにベースが歌うようなメロディをつけ、時にはユニゾンで絡む。ドラムも非常にリズムカルかつタフで変幻自在。

 静と動をダイナミックに行き交うLITEの代名詞と言える名曲でライヴの最後に演奏されることが多い#2「Contemporary Disease」、スリリングなアッパーチューン#3「Human Gift」、本作中で最もメロディアスで懐古的な#10「Recollection」といった曲は特に印象的。

 繊細なタッチと卓越したテクニックと構成力、そして独特の感性で描かれる彩り鮮やかな美しい10のショートフィルムはきっと心に刻まれます。

Phantasia(2008)

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 2年ぶりの発表となった2ndフルアルバム。本作はエンジニアにtoeの美濃氏を起用。『a tiny twofer』は重厚で強靭な音とマスロック(数学的ロック)への接近を試みて、進化の跡を確実に残していました。本作においてもハードコア系の切れ味を増した鋭角的なアプローチ、研磨された美しく艶やかなメロディが溢れており、さらに強力です。

 緻密なバンド・アンサンブルは変幻自在のうねりを生んでおり、予想もつかないほどのスリリングな展開にはただただ圧倒されるのみ。さながら激しく降りしきる音符の雨のようです。切れ味抜群のマスロック#1「Ef」、Spotifyで最も再生回数の多い#3「Infinite Mirror」とバンドの代表曲が序盤を彩ります。

 美しいアコースティックな小インスト#6を挟み、後半は幻想的な美しさが際立つ#7「Ghost Dance」や轟音ポストロック寄りの展開で感傷をもたらす#10「Fade」など心にグッとくる楽曲でまとめています。混沌の螺旋の中に埋まっていくような#4「Shinkai」、目まぐるしい展開の連続が生む破格のダイナミズムが強烈な#9「Phantasia」は特に衝動を覚えた楽曲で本作でも重要な位置を占めています。

 初期のLITEが辿り着いた完成形。マスロックとしての構築の妙と肉体性、スリリングさを限りなく極めた一作であり、インストゥルメンタルの可能性をさらに押し広げる傑作となっています。バンド自身の知名度を上げた出世作でもあります。

Turns Red ep (2009)

 自身のレーベル”I WANT THE MOON”を立ち上げての3曲入りEP。J・ロビンス(ex. Jawbox)をエンジニアに迎え、USレコーディングを敢行。『Phantasia』で自身の限界を極めたということで、シンセを導入しています。手探りですが、プログレッシヴな構成にそのシンセの美しい旋律を噛み合わせ、これまでになかったダンス・ミュージック的な昂揚を投げかけているのが特徴。

 リード曲となった#1「The Sun Sank」からしてチープなシンセがフロア寄りの色合いを示す中で、タイトでキレのあるグルーヴ感でまとめ上げる様はさすがといったところ。#3「Vermillion」にしても拡がりのある柔らかな音世界を描き出しています。もちろん、試験的な意味合いが強いためにまだまと感じる点もありますが、自己改革ということで本作の意義は大きいはず。

Illuminate(2010)

 七夕の日に発売された約9ヶ月ぶりの新作となる全5曲収録のミニアルバム。シカゴ音響派の重鎮であるトータスのジョン・マッケンタイアを迎えて制作しています。本作ではシンセに限らず、パーカッションやマラカス、それにサンプリングにコーラスまでもが耳に飛び込んできます。

 硬質な金属音から美麗な響きまで備えたツインギター、自在に動き回って曲に豊かな音色とリズム感を加味するベース、鮮やかに明滅するシンセ、正確無比でリズミカルな躍動感を持つドラムに加えて、エレクトロニカっぽいアプローチやパーカッシヴなリズムを強調して迫力を出したり、前述のように感傷的なコーラスがひんやりとした空間に柔らかな広がりを持たせたり。今までにないスパイスが色々と入っています。

 雨音が悲しく滴り落ちていくような1曲目「Drops」の始まりにも敏感に反応してしまうが、全体的に彩度と自由度が高くなった本作も変化を如実に感じる内容です。ダイナミックな攻撃性と詩的な叙情性を含みながら、タイトにコントロールされているというか。ジョン・マッケンタイアのプロデュースもあって、多種の楽器や機材を用いた空間デザインの精妙さが、これまでの作品と比べて抜きん出ていることも実感。

 エレクトロニカ・音響派と呼ばれる領域にまで勇んで足を踏み入れ、曲によってはトータスのような面持ちもジャズのような佇まいも感じられます。ここ2作続けて彼等は、自己解体と再構築の真っ只中ではあると思うが、手探りだった前作で発露した新たな形が、自信を持って本作へと還元されています。

For all the innocence(2011)

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 3年ぶりとなる3作目。2枚のEPで徐々に孵化してきた形が、ここにきて遂に大きく実を結んだ傑作です。大胆にメジャーコードを取り入れる事で、制約を完全に取り払った先行シングル#3「Rabbit」を始めとして、キレのある攻撃力としっとりとした叙情性が見事に融合。

 火花を散らし合うかのような楽器陣の苛烈なアンサンブルは、お互いの音色が有機的に絡み合うことで柔軟な拡がりと立体的なデザイン性をもたせています。キャッチーという部分にもギアを入れ、美しいギターとシンセの融合、さらに骨太のベースラインに運ばれ鮮やかな色彩感に包まれるクライマックスが印象的な#2、前述の#3、「The Sun Sank」のメインフレーズを大胆に用いて熱量をあげていく#4といった前半の曲は特にかっこいい。

 しかし、ゲーム・ミュージックのようなユーモラスな表現やアフロビートの心地よい振動、アニコレやギャング・ギャング・ダンスなどのブルックリン勢と共振している部分もあり、ポストロック/マスロック/プログレを基本軸に据えながらも、作品はボーダーレスで前衛的。

 ダンサブルなグルーヴの上で女性ヴォーカルのコーラスが飛び交う#6は、バンド自身の表現力を改めて思い知らされた曲でもあります。色彩感と曲調の幅で過去最高値を更新して、バラエティ性に富んではいるが、LITEらしさは全く損なわれていません。ストリングスと相まって広がっていく美しくファンタジックな世界観にバンドの持つ強さ、スリリングさ、エモーショナルが存分に詰め込まれた#10は、この新路線の完成系とも感じられた名曲。

 前作『Phantasia』を聴いた時もインストとしてここまでの世界を表現できるのかと驚くほどに傑作だと思ったが、その地点を彼等は違った形、新しい変化を遂げる事で超越してみせました。形骸化したジャンルに留まる事をよしとせず、勇ましく歩んだことで生まれた結晶。

past,present,future(2012)

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 8カ月ぶりというハイペースで届けられた5曲入りミニアルバム。Mice ParadeのVoとしても活動し、D&DのOLIVIAの実妹とも知られるCarolineをバンド史上初のゲスト・ヴォーカルとして迎えて、新境地へ突き進んでいます。

 印象としては、”回帰と開拓”。前半の3曲(「Bond」「Circle」「8」)は、1st『Filmlets』や2nd『Phantasia』といったマスロック色が濃い仕上がり。キーボードをやや減退させつつ、ポリリズム等も交えた複雑なアンサンブルで畳みかける。とはいえ、陽性のメロディが鳴っており初期の頃と比べても聴きやすいですね。バンドとしての余裕が楽曲からも感じ取れる。

 #4「Time Machine」と#5「Arch」は前述したようにCarolineさんがゲスト・ヴォーカルとして参加。静空間を意識したエレクトロニカ的音響の使い方、透明感のあるVoを最大限に生かそうとする姿勢が出ています。どこかジャズ的な味わいもある演奏で支え、繊細な光が差し込むようなキーボードとヴォーカルが重なり合う様は、バンドの新しいページを刻む。そんな過去、現在、未来を示した全5曲。

Installation(2013)

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 2年ぶりとなる通算4枚目。前作同様に三浦カオル氏を起用し、日米2カ国でレコーディング。昨年発表のミニアルバム『past,present,future』では、タイトル通りに過去・現在・未来を示す作風でしたが、本作だともっと自然体の印象がある。

 電子音の装飾は少なくし、以前のようなマスロック風の火花散るインスト・バトルが所々で見られます。『For all the innocence』の時よりも時計の針は戻る。#3「Hunger」では鋭いカッティングやファンキーなリズムを始点に、ミリ単位で練り上げられた構成が光るし、#6『Bond』における刹那の切れ味もかつての「Tomorrow」辺りを髣髴とさせる曲。この辺りは、昔からLITEを追っている自分としても嬉しいところです。

 かと思えば、#2「Echolocation」で前フルアルバムの正統進化とも表現すべき美しいインストが展開されるし、重いベース・ソロから始まる#4「Alter Ego」では、Skrillexでも意識したかのようなサウンドが入ってきたりするし、以前までのバンド・サウンドに回帰しているとはいえ、現在のモードもしっかりと感じ取れます。それに#5「Between Us」や#8「Starry Night」、#10「Nomad」といった涼やかで静謐なミニマル~エレクトロニカも心地よい。

 シンセを取り入れて以降の多彩な表現力とマスロック風の鋭角なインスト、その二つが高いレベルで結実した前作は到達点のひとつです。しかし、本作も華やかで切れ味鋭いインスト・サウンドと温かいエレクトロの融合が心地よく、多くの人を引き付ける作品となっています。

CUBIC(2016)

 約3年5ヶ月ぶりとなる5thフルアルバム。原点回帰をテーマに掲げているそうですが、シンセの割合は極端に減っていて、4人の奏でる音にもっと焦点を絞っています。初期のように緊張感を持って刻一刻と移り変わり、精密に音符をコントロール。その中で以前のような鋭利なマスロックとしての攻撃性よりも、投下されたユーモアやアイデアによって自由な楽しみ方を聴き手に与えてます。

 リズム隊がしなやかな躍動感をもたらす中で、最小単位からフレーズひとつひとつを丁寧に配置。ツインギターが複雑な絡みをみせる専売特許の#1「Else」、武田さんが日本語詞で軽快に歌う#3「Warp」、えらくグルーヴを重視した演奏の上にタブゾンビがトランペットで夜のムードをつくる#7「D」、根本潤がヴォーカルとして参加して54-71のような狂った破壊力を押し上げる#10「Zero」と様々なインパクトがあります。

 その自由なアプローチからはジャズ~ファンク~ヒップホップ等への影響も垣間見れ、その辺りへの意識はtoeの昨年のアルバムを思い出させるところ。世界ツアーでの経験を活かした柔軟な音楽性は円熟の証明か。やはりLITEと唸らせる作品に仕上がっています。

Multiple (2019)

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 約3年ぶりとなる6thフルアルバム。前作からの流れを汲むものであり、余計な装飾は極力省いてシンプル設計。とはいえ組み立ては精密。展開も過多。音符が怒涛の流れで飛び込んでくる仕様ではあります。感じられるのは肉体性の回帰といいますか。LITEらしいエッジと衝動は『CUBIC』よりも本作に軍配が上がる。1stや2nd辺りの感触があります。

 オープニングを飾る#1「Double」ではメインフレーズを基軸にスリリングな展開で炊きつけ、#6「Zone 3」は山本さんのスーパーチキチキタイムを含めて高速の揺さぶりが効く。一方で一定間隔の跳ねるベースラインを元手に不思議な空間を醸造する#3「Blizzard」、maco maretsと小林うてなさんが参加した「Ring」は抑制の美と彩度を作品にもたらしています。かつてほど単一にまとめないというのが、今のLITEのモードでもある。

 倍数、掛け算、多重を意味する『Multiple』というタイトルに落ち着いた意味。バンド活動15年を経て甦る感覚と新しく切り拓く感触、その二つが間違いなく本作にはあります。バンドとしてもある程度のラフさと自然体で作品をまとめられたことが、それに繋がっているのかなあと感じます。

映画『騙し絵の牙』 オリジナル・サウンドトラック (2021)

 塩田武士さん原作、吉田大八監督作『騙し絵の牙』のオリジナルサントラ。まさかLITEがメジャー映画のサントラを担当する日が来るとは!と2008年からのファンであるわたくしは感激しております。しかも吉田大八監督の作品は大体見ていますし、塩田さんの書籍も8冊ぐらい読んでるし。映画は2021年4月に鑑賞済みです(感想書いてないけど)。

 吉田監督がディスクレビューでLITEを見つけて、映画を作っている時に聴いてたからそのままLITEを起用したそうな(TBSのアフター6ジャンクションの監督インタビューによる)。『騙し絵の牙』は出版社を巡る騙し合い、馬鹿し合いみたいなものでして、大泉洋さん演じる雑誌編集長の奇策に松岡茉優さん演じる新人編集者を始め、多くの人が巻き込まれていくものです。

 展開自体が非常にスピーディであるのですが、そこに乗るLITEの音楽が絶妙。場面ごとに細かくディレクションされ、映像に合わせて音楽をつけたそうですが、物語の小気味よさ/臨場感/緊張感を増幅するように音が重なります。これは本当に見事だし、ハマっています。エッジの立ったスリリングなサウンド、映像表現においても非常に有効であることを思い知らされたのでした。テーマ曲である「Break Out」、これぞLITEですよ。

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