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夢中夢が奏でるエレガントな暗黒譚

 2002年にY.Dを中心に大阪で結成された2人組。ユニット名は”夢と現実の境目が曖昧になる感覚を音楽として表現していきたい”ということから。ポストロックを主体にクラシカルとゴシック、ブラックメタル等の暗黒音楽をドッキング。自らの音楽性をフューネラル・クラシカルと評し、「ヒーリング・ミュージックfrom HELL!」「ブラック・メタル meets 久石譲」などという言葉で噂が噂を呼び、関西シーンで一時話題となります。

 06年に1stアルバム『夢中夢』、08年に2ndアルバム『イリヤ -ilya-』をリリース。以降は2021年の現在まで13年間、特に作品の発表はありません。

 もともとは6人編成のバンドでしたがそういう事情もあってか、いつからかヴォーカルのハチスノイトさん、先述したギター&コンポーザーのY.Dのユニットへと生まれ変わっています。ハチスノイトさんはソロ作品や別ユニット等でも活躍。次があるのかはわかりませんが、SNSで動き続けている気配はあります。

 わたしはかつて名古屋の今池TOKUZOにて、夢中夢のライヴをみています。あれは2008年10月のこと。今では「森、道、市場」を主宰するjerryfishによる企画でした。MERZBOW / 夢中夢 / NICE VIEW という並びは、今見てもあまりにも異色で強烈。ハードコアとノイズの狭間で夢中夢の壮麗なるサウンドが、妖しく煌びやかに会場を彩っていました。

 以下、本記事ではアルバム2作品を追います。

目次

夢中夢(2006)

 全12曲67分収録の1stアルバム。強い毒気と妖しい闇の薫り、その上でメルヘンチックな幻想性。ポストロックやクラシックの要素が主体ではあるものの、オルタナティヴ~ブラックメタル~ゴシックと多彩がピースがちりばめられています。果てはオペラまでもがじっくりと煮詰められ、暗澹怪奇な世界を構築しています。とてもマニアックな音楽でありながら、全体を通して不思議な統一感がある。

 オペラティックな女性ソプラノヴォーカルと語り、麗しきストリングスとピアノがなめらかな曲線を描けば、極端に歪められたギターや獰猛なブラストビートが惨劇と苦行を塗りたくる。さながらその対比は、”天国と地獄を行き交う音絵巻” と表現できるかもしれません。聖なる昇天と邪なる転落、その両方にリミッターが降り切れています。悲鳴のようなシャウトやブラストビートはとにかくアンダーグラウンド臭が強い。

 ジブリ音楽を闇夜に溶け込ませた#2「斬鉄」、RPGの戦闘シーンで使っても差し支えない#3「クロノス∞カイレス」、ちょっと笑ってしまうぐらいにブラックメタル要素を押し出した#6「”魔道院妄奏天使曲」と多彩な表現。その上で和の風情は大事にし、湿地で永遠にもがいている感覚も植え付けられます。12分を超える#9「楽園」が核として存在し、全てを赦し祈るような美しい調べ#12「他々」で作品は締めくくられる。

 美しい音に酔いしれて油断していると、暗と負に捻じれていく音に鬱々と精神が侵食されてしまう。ポップとしての機能性は薄いながらも、創的なサウンドは聴けば聴くほど抜け出せなくなります。鬱ロックという表現が軽々しく感じられるほどに、残酷なロマンがキミを夢中夢の世界と結ぶ。あまりにも濃厚すぎる終末のサウンドトラック。

イリヤ -ilya-(2008)

 全11曲約60分収録の2ndアルバム。壮麗なるビルドアップ。全体通しての印象がまずそれです。終末のサウンドトラックとして、暗澹と世界を包んでいたその音は、白き光沢と希望を奏でるようになりました。キメ細やかな美しさ、さらにはポップスとしての機能美が備わり、慈愛に満ちた女性ヴォーカルと流麗なストリングス、煌びやかなピアノによる彩りは陶酔感を一層強めています。

 オープナーの#1「intro ~イリヤ~」で前作からの地続きを思わせておいて、#2「火焔鳥」が世界を鮮やかに染め上げます。浄化と祈りの螺旋。一方でMVが制作された#3「眼は神」でもわかる通りに凶悪なブラストビート、邪気を滲ませる咆哮も前作同様に登場。心を食い荒らすような破壊と美しき情愛を込めた再生。その二つが繰り広げられる過激なドラマが聴き手の感覚を狂わせます。

 ゲストとして参加したworld’s end girlfriendやミドリも艶やかな装飾を施し、意識を鋭敏に刺激。多様なジャンルを飲みこんで活力にし、独創的な世界を築き上げるというスタイルは堅持されています。それは、ただキレイに加飾してポップ化しただけにとどまらないもの。劇的な歌唱と可憐なメロディが主導権を持ち、後半の楽曲ではバンドのアーティスティックなエゴと表現が濃厚になっていく。灰色のメルヘン地獄というべきか。

 そのピークは10分を越える大曲#10「祈り」で迎えます。オペラティックな歌で幕をあけ、ひとつひとつの音がドラマティックに重なっていき、スリリングに渋滞が巻き起こる壮大なサウンドへと変貌して全てを飲み込んでいく。そんな美しくも危険な音の渦を抜けると、#11「灰の日」が静かに世界を包み込んで『イリヤ』は終幕します。このエレガントな暗黒譚は、10年以上経ってもひっそりと語り継がれている。そんな傑作なのです。

 ちなみに先着購入特典で未発表曲「赤と青の革命家」がCD-Rとして付属。凛として時雨のTK氏がMIXを担当していたことも大きなトピックでした。楽曲自体は、当時の夢中夢なりのブラックメタル解釈ということで、7分を超える中で苛烈さとダイナミズムと美麗さが渦巻くもの。特典のみというのが惜しい楽曲です。

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