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【アルバム紹介】杏露虫、スウィート・オルタナティヴ

CMソングの女王、Mirrorや3ndのメンバーを擁するスウィート・オルタナティヴ・バンド、杏露虫。現在は活動休止中だが、短い期間で確かな存在感を放った。

本記事は3作品について書いています。

Nobody Knows(2005)

 2005年リリースの1st Single『echo e.p.』に続いて、約1年ぶりとなる2nd Single。4曲約17分という全容。「誰も知らない」「ピーターパン症候群」「収束ウィスパー」の3曲は、この後に発売される1stフルアルバムにも収録。

 既にこの頃から完成された職人技の甘美なポップスを奏でており、そよ風のように心地よい演奏と女性ヴォーカル・葉々の透き通る歌声が至高ともいえるメランコリアを生み出します。

 本作では行間を楽しむように、音と音の隙間/ゆとりを楽曲に持たせた広がりのあるアレンジが効いていて、”引きの美学”を存分に発揮。葉々さんのヴォーカルが際立つ。

 #1「誰も知らない」を聴くと、USインディーの良心からJ-POPにも迫るポップセンスが乗っているし、夢と現実の狭間をゆらゆらと浮遊する様な#3「ピーターパン症候群」、ポストロック風の精微な演奏と内省的な歌が感傷的な世界に浸らせる「収束ウィスパー」も良曲。

 そんな中で本作の目玉は、他作品には収録されていない#2「My Favorite Things」。映画「サウンドオブミュージック」に出てくるこの曲は、日本のCMなんかでも度々使われているので誰しもが知っていると思うが、原曲の良さを十分に伝えながら彼等なりのポストロック風の解釈で新しい魅力を引きだしている。

Lick me all over(2006)

 1stフルアルバム。”スウィート・オルタナティヴ”というぴったりのキャッチコピー通りの作品です。

 肌がヒリヒリとする様なサウンドも随所に登場するけど、表層的には甘く柔和に包み込み、ポップに上手くまとめられている印象。一聴して耳を引くのは、Charaっぽい女性Vo.葉さん。

 幽かなウィスパーヴォイスから可憐で力強い歌声までを通じ、楽曲に華やかさと情熱を与えていく。また、メンバーが3ndやMirrorといったバンドで活躍している事が物語るように、自由自在に変化を加えていく演奏隊も相当なもの。

 ソニック・ユースやShellac経由のオルタナ色に、Sigur Ros系統のポストロック、さらにはSlintやDon Caballero的な精微さを感じるサウンドは、アルバム通しての曲調をより豊かなものへと変えています。

 聴いてるとクラムボンがオルタナ色を強めたらって感じがしなくもない。春風を運ぶようなしなやかさと心地良い浮遊感はバンド独特のものといえるだろうし、緊張と緩和、静と動のバランス感覚の良さは職人的。

 凛とした美しさを鮮やかに紡ぎ出す#3「薔薇色」、各楽器が火花を散らすようにぶつかり合い狂騒を生み出すインスト#7「逃走」、ゆるやかな立ち上がりから激動の展開をみせる#10「サロメ」。

 こうした魅力ある楽曲が勢揃いの全10曲。隠れ名盤の位置づけにはもったいないほどの優れたクオリティを持つ作品です。

メインアーティスト:杏露虫
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jacuzzi(2008)

 約2年ぶりとなる新音源は、6曲入りのミニアルバム。帯のコメントを引用すると”泡のように耳に溶け込むサウンド・歌詞を表現”。

 前作と比べるとだいぶ角が取れて丸くなっており、かなり洒落たジャズっぽいテイストとなっている。ガツンと来るような表現はほぼなくなっていて、耳からスッと入って体中にじわーっと広がっていくような印象。

 クールでスタイリッシュと評すことはできるだろうが、その中で甘美なポップさがあり、しっとりと涼やかな聴き応えもある。優雅な白鳥の如き流麗なアンサンブルは風通しがよく、相変わらず自由自在に楽曲の表情を変えていく。

 また、葉さんもその美しい歌声で涼やかに聴き手を包み込み、楽曲に生命を吹き込んでいる。

 その中でも個人的には、カフェで流すような小洒落た品位がある#1「深海ランデブー」、スウィート&ビターな味わいがある#3「メランコリー」、瑞々しい音と声の連なりが鮮やかな風景を紡ぐ#6「SUNSHOWER」が好み。

 前作のファンはもちろんだが、じっくりと女性ヴォーカルものが聴きたいという人にはオススメしたいです。

お読みいただきありがとうございました!
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