【アルバム紹介】SLINT、ルイヴィルに浮かんだポストロックの礎

 アメリカ・ケンタッキー州ルイヴィル出身の4人組ロックバンド。ハードコア・バンドのSquirrel Bait(スクワール・バイト)で活動していたギターのブライアン・マクマハン、ドラムのブリット・ウォルフォード、後にTortoise(トータス)などで活躍するデイヴィッド・パホを擁し、1986年~1992年まで活動。

 1991年にリリースした2ndアルバム『Spiderland』が発表から時を重ねるごとに評価を高め続け、静と動の構成に奥行きのある音像で今ではポストロックの先駆けとして支持されています。

 本記事ではSLINTが残したフルアルバム2作品について書いています。

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アルバム紹介

Tweez(1989)

 1stアルバム。全9曲約29分収録。アートワークはサーブ900ターボという車を使用。また曲名は8曲がバンド・メンバーの両親の名前で、ラスト1曲だけドラマーのブリット・ウォルフォードの愛犬から取られています。

 ハードコアにルーツを持つものの、SLINTはこのデビュー作から形式にとらわれない音楽を目指していたことが伺えます。変則的なリフと不協和音、語りと叫び、そして反復を基調としつつも小刻みに変わる展開。

 これらを2~3分前後に凝縮した楽曲で作品の大半を固め、くどくなりすぎる前に次の曲へと進行する。ただそれが消化が良いかといえばそういうこともなく、ひりついたフレーズや栄養価の足りてないボソボソ声が脳内にこびりつきます。

 加えてポストハードコアやノイズロックに接続した騒々しさと凶暴性を発揮しており、115秒で完結する#1「Ron」のノイジーなサウンドと目まぐるしい展開は痛快。また唯一のハードコアパンクの衝動と疾走が乗る#7「Warren」では初期衝動を置いてきぼりにしない。

 さらには後のマスロックにつながっていく無機質さとトリッキーなひねりも特徴。#2「Nan Ding」や#4「Kent」にはダンサブルと呼べるノリすら存在します。それに#6「Darlene」のクリーントーンは人間の感情を妖しく逆なでてきますしね。

 規律よりも実験精神に重きを置いて売れるにエスコートせず、キャッチーな部分はまるでない。しかしデビュー作にしてこだわりぬいた内向きな表現の中に、感電するような衝撃がある。『Spiderland』の風景の前に観るべきモノクロームの景色。

メインアーティスト:SLINT
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Spiderland(1991)

 2ndアルバム。全6曲約39分収録。2作目にしてラストアルバム。Pitchforkが選出した【1990年代のベストアルバム TOP100】の第12位にランクインしており、”ポストロックの源流”とされる傑作です。

 かといって売れるムーブは引き続きほぼ皆無で、暗い海面を漂い続ける。前作と比べると曲は長尺化して全曲が5分以上となり、最長曲は9分に迫ります。そしてモグワイやGY!BEなど多くのバンドにインストールされていく”静と動”の構成が、ゆったりとしたペースで組みあがる。

 #1「Breadcrumb Trail」で多用するハーモニクスからディストーションによる強烈なうねりは、そのコントラストが際立っていることを示します。ただ、その静と動はカタルシスや歓喜へのお導きではなく、張り詰める緊張感を増幅させることがSLINTの特色。

 その上でマスロックに引き継がれる不規則な展開や怪奇な音運びは健在です。ただし前作の攻撃性と熱情は控えめ。ヴォーカルは生気のない語りとささやきが中心となり、時たま我慢できずに叫ぶ。

 ギターやベースは#3「Don,Aman」に代表される鼓膜にこびりつくフレーズを繰り返しすことで、不穏な空気を生み出していく。

 まるで熱を氷の中に閉じ込めたような感覚があるのですが、押し殺した感情と静けさが漂う中で陰鬱に歌う#4「Washer」では後半の荒れ狂うギターノイズがポストロックの種を蒔いています。さらには抑圧が続く#6「Good Morning, Captain」の終盤にはハードコアの残滓が爆発力を伴って襲い掛かります。

 リリース当初は主役じゃなかったはずが、後にポストロックの正史として組み込まれる。これこそ本作が名盤とされる所以なんでしょうね。

メインアーティスト:SLINT
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