フランスの六重奏による重音叙事詩 Year of No Light

 2001年にフランス・ボルドーで結成されたポストメタル系インスト・バンド6人組。トリプルギターを要した重量感のあるサウンド、シネマティックな音像を主体に全世界を揺さぶる。オランダのヘヴィロックの祭典、ROADBURN FESTIVALの好演は語り草となっていて、のちにライヴ盤としても発売されました。

 2006年リリースした1st『Nord』では凶悪なスラッジ・メタルを創り上げていましたが、ヴォーカリスト脱退後の2010年にリリースした2nd『Ausserwelt』ではNadjaを思わせるアンビエントも含んだ重厚なインストへとシフト。いずれのスタイルでも高い評価を獲得しています。2013年には3rdアルバム『Tocsin』を発表、日本でもDaymare Recordingsから初めて国内盤がリリースされました。

 結成20周年を迎えた2021年、8年ぶりとなる4thアルバム『Consolamentum』が遂に発売。本記事はそれを含む、全オリジナルアルバムの感想を綴ったものです。彼等を聴くきっかけになれば幸いです。

目次

Nord(2007)

   ISISのオープニング・アクトも務めたことがあるというフランスの6人組ドゥーム・バンドの初作。荘厳な空気の中を天空から打ち落とされる鉄槌の如し轟音が重たく駆け、ドラマティックなフレーズが瞬き、フィードバック・ノイズが吹き荒すさぶ、シューゲイザー風味のエッセンスを交えた激震ドゥームでございまする。この頃はまだヴォーカリストがいて、スラッジメタルの印象が強い。

 悪意と獣性を剥き出しにひたすら音を塗り重ねて打ち立てられる巨大な壁には唖然、呆然。ドゥーム直系の重さとスラッジ直系の苛烈さ、その両方の種が芽を出して実を結び、とてつもなく重いグルーヴとなって脳髄をかき乱し、骨肉にガシガシと響いてくる。絶えず押し寄せる爆発的衝撃。一音、一音の鳴りは空間を軽く歪ませるほどに恐ろしく強烈です。

 けれどもフランスのお国柄ともいうべお芸術志向も生きていて、うっすらと耽美の薫りを詰め込むことで恐ろしい重圧の中に麗しさが顔を出してくる。#1や#5辺りはその特徴が顕著に表れており、美しい轟音を無限の荒野に咲かせていく。重くて息苦しい、そういった思いを和らげる叙情性は、昨今のポストメタル勢と共振していることも伺えます。#9を聴いているとRosettaと交信しているようにも思えるし。

 ただ、やはり本作はスラッジ/ドゥーム色が強く、ひたすら視界の悪いところを汚い音と共に進んでいく、こやつらの気概が逆に頼もしい。どす黒い暗黒の情感を纏いながら、地獄へと駆け下りていくラストの#10における人生の投げ捨て具合、素晴らしいじゃありませんか。

Ausserwelt(2010)

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 3年ぶりとなる2ndフルアルバム。前作からは随分とモデルチェンジしていて、まず4曲約46分という構成に驚かされます。そして、あの獣性に満ちた野太い絶叫が跡形も無く消えて、完全インストゥルメンタルの作品となりました。

 地表に裂け目をもたらすかのような激重のリズムはそのまま本作に受け継がれているものの、アンビエントの愉悦を覚え、シューゲイザーの恍惚感が増しています。前作でのシューゲを内包したスラッジ/ドゥームから飛躍してアンビエント~ドローンの領域まで侵食。破壊的なヘヴィネスに覆いかぶさっていく耽美・陶酔のサウンドは彼等しか成しえないものとなっています。

 こんなYONLの音楽を聴いて想起するのはNadjaです。壮絶なまでの美しさと重量感を伴った轟音の調べが、確かにあの夫婦デュオに通ずるものがあるから。とはいえ、バンド形態だからこその強烈なダイナミズムがしっかり感じ取れるし、Ufomammutにも接近する重さも獲得しているように思えます。

 大地に淡々と降り注ぐ冷たい雪のようなアンビエントに、積もり積もった白銀の雪景色から引き起こされる雪崩のような轟音、それは美しさを纏いながらも一歩も二歩も他バンドを凌駕している印象。強靭なまでにタフで重たいリズムの一撃は脳髄を穿ち、反復することで酩酊を促していく。20分に及ぶ組曲形式の#1、#2での差し迫ってくる音の洪水には恍惚感を味わうことができます。

 ブラックメタルのような激しいブラストが飛び出す13分超の#4のような飛び道具も確かに機能していて、世界観はさらに深まっている。全編から伝わってくる身を切るような凍てつく寒さと閉塞感がまた本作のキーとなっていて、MONOのようなもの悲しい雰囲気までもがシビアに伝わってくるのも個人的に惹かれます。

Tocsin(2013)

 約3年半ぶりとなる3rdアルバム。獣性剥き出しの激烈スラッジを轟かせた1stアルバムから、ヴォーカリストの脱退を経て、2ndアルバムではNadjaを思わせる吹雪のような重音インストへとシフト。異なる作風であるとはいえ、いずれの作品でも世界的に大きな衝撃を与えたのは、記憶にあるところ。

 本作では、ひとまず2ndアルバムの路線を継続。トリプルギター、ツインドラムが叩き出す脅威の音圧/轟音で鼓膜を蹂躙する。そして、変わらずに長尺曲を並べていて5曲中4曲で10分越え。トータルでも5曲約57分という構成になっています。

 荘厳な幕開けから、鉄槌の如きリフの反復が世界を暗転させる表題曲#1「Tocsin」から己の世界を浮かび上がらせており、Nadjaの初期の名作『Touched』を想起する重音とアンビエンス、エレクトロニクスの絶妙な混合が核となる中で、人力で叩き出すがゆえのダイナミズムが強烈。その独特の美意識と高まった破壊力を基に、前作からさらなるパワーアップが図られたといえます。

 Lentoが漆黒なら、YONLは灰色といったイメージがあります。フランスらしいお耽美さと芸術性がどこか通底しており、聴いていると異様にロマンティックに感じる部分もある。そんな轟音美麗の本作の中でも一番のインパクトがあったのは、彼等にしては珍しい約6分の#2「Géhenne」。掛け合う様にツインドラムが力強いリズムを刻み、3本のギターが美しく激しく鳴り響く。コンパクトながらも威力は絶大で、新境地を切り拓く一曲です。

 また、8分を過ぎた辺りで奈落の底から天上界へ駆け上がり、突き抜けていく劇的な展開に骨抜きにされる#4「Stella Retrix」も本作を象徴する1曲。見事な完成度を誇る1枚に仕上がっており、超人的な音の波動を鼓膜と身体で感じれば、あちらの世界も見えてきます。彼等の公式Bandcampの最後には、こんな文面もあり。

 『Maximum volume delivers maximum results! = 最高音量が最高の結果をもたらす!』

Consolamentum (2021)

 2001年にフランス・ボルドーで結成されたスラッジメタル/ポストメタル・バンドの2021年7月リリース作品。2013年に発表した『Tocsin』以来、8年ぶりとなる新作です。活動歴は長いけれども、ライヴ盤やサントラのリリースを除くとこれが4枚目のオリジナルアルバム。The Ocean(Collective)、日本のMONOやenvyなど、近年になってこの手のバンドをリリースしまくっているPelagic Recordsより発売。

 彼等もついに20年戦士。ヨーロッパのポストメタル界隈において、スウェーデンのCult Of Luna、ベルギーのAmenraに加え、フランスにYONLありの存在感を放ち続けています。8年という歳月が流れるもラインナップの変更はなく、変わらずの6人編成。2010年作から『Ausserwelt』から継続して歌無し声無しの完全インストゥルメンタル。5曲収録中4曲で10分越え。まさしくというスタイルは、『Tocsin』の流れを汲んだものといえます。

 YONLの特徴と言えば、スラッジメタルやドゥームの要素を含んでいるとはいえ、どちらかと言えばポストロック/シューゲイズを耐荷重オーバーに落とし込んだ形に近いと思っています。Pelicanの初期(1st~3rd辺り)もドラマティックなヘヴィポストロックという印象を持っていますが、YONLはもっと峻厳で哀切と冷気を含んだもの。ツインドラムによる自在の速遅操縦と驚異の推進力、トリプルギターによるドゥームからシューゲイズのエレメントの多層化は、他にはない味となって聴き手を禁断症状に陥れます。

 タイトルの『Consolamentum』は”慰め”という意。 デシベル・マガジンをGoogle翻訳しましたが、“「慰め」という用語は、12世紀から14世紀に南ヨーロッパで栄えたカサリック教会の開始儀式である聖餐式を表しており、この儀式は永遠の厳粛さと聖霊への没頭をもたらしました。”とのことです。

 ダークなアンビエントの装いから、重厚なリフの反復が成す精神窒息業#1「Objuration」で始まる本作。丹念な作業を積み重ね、ゆったりと進行する13分に身ををゆだねる。荘厳な六重奏は#2「Alètheia」において、pg.lostを思わせるドラマティックな展開からポストメタルへとマッスル化していく過程を辿ります。

 『Tocsin』はそれこそ全体的にタフなビルドアップされてましたが、本作は諸要素の密接的な連携、そして展開の妙によっての構成度の高さを伺わせます。一番の起伏に富む#3「Interdit aux Vivants, aux Morts et aux Chiens」は、重軽轟静速遅の職人だからこそのコントロールが冴えわたる。もちろん、衝撃度も高いです。

 特にインパクトが強いのは後半2曲。まずはMVが公開されている#4「Réalgar」。本作の中ではとりわけ静寂の占める割合が多い。ドゥームメタルを基盤に残したうえで、哀切を残すシューゲイズ風ギターが添えられ、終盤はアンビエント・パートへ移行。それはまるで現代における心の空虚さを映し出していくかのようです。バンドは、2013年に『Vampyr』のサントラ、パリのケブランリ美術館で上演したJeanRouchの1955年の短編映画「LesMaîtresFous」のオリジナルスコアを制作していますが、その影響が物濃く出ているのが本曲といえるかもしれません。

 そして、#5「Came」。スラッジメタルの重量で低地帯を埋め、その上を70’sプログレ~映画音楽のような意匠のキーボードが舞う。そのうちにドラムの打音が強烈になり、ギターの残響が物語を締めくくるように垂れ流される・・・と思ったのもつかの間、ブラストビートによる尋常じゃない加速で、劇的な旅路は衝撃の結末を迎えます。タイトルは訳せば”来た”でありますが、その来たは破滅への導きなのか。8年の歳月をかけてきた重音の叙事詩は、バンドの存在感を一層高めるものと言えそうです。

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