2020年 映画BEST15

2020年のベスト映画15本。劇場鑑賞数80本から選出しています。順位が決めれず以下のように並んでますけども、最後の3本がトップ3です。やっぱりヒューマンドラマ系ばかり観ているので、ランクインしているのもほぼ同系。『テネット』も観ずに終わってしまいました。とはいえ、下記に挙げた作品は良いものですので、お時間あればぜひともご鑑賞ください。

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燃ゆる女の肖像

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画家のマリアンヌはブルターニュの貴婦人から、娘のエロイーズの見合いのための肖像画を頼まれる。だが、エロイーズ自身は結婚を拒んでいた。身分を隠して近づき、孤島の屋敷で密かに肖像画を完成させたマリアンヌは、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを否定される。描き直すと決めたマリアンヌに、意外にもモデルになると申し出るエロイーズ。キャンバスをはさんで見つめ合い、美しい島を共に散策し、音楽や文学について語り合ううちに、恋におちる二人。約束の5日後、肖像画はあと一筆で完成となるが、それは別れを意味していた──。カンヌ国際映画祭で脚本賞&クィア・パルム賞を受賞するなど世界の映画賞を席巻

 お互いの感情は、始めは静かに揺らぐ炎だったが、ある時を境にして一気に燃え上がる。相手を見ること、相手から見られること。画家とモデルの関係性であった見る・見られるは、やがて見つめ、見つめられるに変わっていく。交わる視線、それゆえの想いの増幅、情念の猛り。女性だけのユートピアが生むロマン、絵画のような美しいシーンの連続。

 それでも、時間と社会が彼女たちの関係を許さない世界に引きずりだす。別れても想い合っている2人。決して忘れられない時間と温もり。ラストシーンは鑑賞者にも選択を迫るようで苦しさを覚えた。

ある画家の数奇な運命

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ナチ政権下のドイツ。少年クルトは叔母の影響から、芸術に親しむ日々を送っていた。ところが、精神のバランスを崩した叔母は強制入院の果て、安楽死政策によって命を奪われる。終戦後、クルト (トム・シリング) は東ドイツの美術学校に進学し、そこで出会ったエリーと恋におちる。元ナチ高官の彼女の父親こそが叔母を死へと追い込んだ張本人なのだが、誰もその残酷な運命に気づかぬまま二人は結婚する。やがて、東のアート界に疑問を抱いたクルトは、ベルリンの壁が築かれる直前に、エリーと西ドイツへと逃亡し、創作に没頭する。美術学校の教授から作品を全否定され、もがき苦しみながらも、魂に刻む叔母の言葉「真実はすべて美しい」を信じ続けるクルトだったが―。

 鑑賞時間が長いと言われている『TENET』よりもさらに長い3時間9分の本作は、僕が劇場で観た作品では過去最長です。ドイツの現代アート巨匠、ゲルハルト・リヒターの若かりし日々(幼少時代~30代前半あたり)をモデルにしており、映画化の条件として名前を変え(本作の主人公の名はクルト)、何が真実で何が真実でないかを明かさないこととなっている。

 前半は、ナチ政権下のドイツを描き出す。美しき叔母・エリザベト(叔母といっても20歳ぐらい)の影響で芸術に目覚めたクルト少年。だが、第2次世界大戦下の過酷な日常があり、優生思想に基づいた断種・安楽死、戦後の東西分裂、東ドイツの社会主義等の背景が描かれている。精神疾患と診断された叔母を断種によって失い、美術学校に入学した直後には父が自殺。過酷な運命に彼は翻弄された。その中で冒頭のエリザベトによる全裸ピアノの強烈インパクト、「真実は全て美しい」という言葉は、クルト少年にとって生きていく上での主題となる。

 後半は、ベルリンの壁ができる前に東ドイツから西ドイツに移住し、自身が生み出す芸術・作品に思い悩み、創り出していくことについて。西ドイツにくるとガラッと変わり、オリジナリティの追求、お前の作品とはなんだ?というのをとにかく問われる。自由であるが故の苦悩。絵画は死んだみたいなことを周りに言われ、教授から全否定される中で、クルトは芸術家として目覚め、形成されていく。3時間を超える作品と言えど、日本の朝ドラ的であり、大河ドラマ的であったりで内容は明瞭な形だし、入ってきやすい。芸術とは何か?という命題に対しても向き合っていた。

ルース・エドガー

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アフリカ系移民の高校生ルース (ケルヴィン・ハリソン・Jr.) はオバマの再来と呼ばれる文武両道の優等生だが、ある日教師のウィルソンが彼のロッカーから違法な火薬を発見したことをきっかけに、たちまち疑惑の人物に。家族の中でも、様々な疑念や軋轢が生じ始める。本当にルースに非があるのか?それともウィルソンが彼に偏見を持っているだけなのか?両親にも教師にも自分を信じてもらえずに苦しむルース。果たして、真実を語っているのはいったい誰なのか?

 奇しくも公開時期に人種差別がタイムリーな話題となってます。とはいえ本作はより複雑で、単なる黒人差別の作品ではない。黒人と黒人の間にも溝があることや特殊な家族形態、教師による生徒への安易なカテゴライズなどをサスペンス仕立てで描く。ルースくんは優秀、その完璧さの中で本当はどんな人間なのか。 悲惨な体験をした少年を養子として迎えて素晴らしい人間に育てあげた夫婦、でも本音はどうなのか。

 オクタヴィア・スペンサー演じる黒人のウィルソン先生がとにかく強烈で、この人も箱に閉じ込められないように生きてきたんだなあと憂う。本当のことを話してという人が本当の想いを話していない。勝手に押し付けられた役割・カテゴライズが人々を苦しめてしまう。と同時に人間のわからなさを突きつける。人間は複雑な面を持ち合わせ、ある人が見れるのはその一面であり、他の人が見れるのは別の一面であり。本作を観ながら、平野啓一郎氏の”分人”という考え方があるが、じわっと頭の中に浸透してきた。他者はわかるってことは、相当に傲慢なことなんだと改めて思います。

劇場

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高校からの友人と立ち上げた劇団「おろか」で脚本家兼演出家を担う永田(山﨑)。しかし、その劇団は上演ごとに酷評され、解散状態となっていた。ある日、永田は街で、偶然、女優になる夢を抱き上京し、服飾の大学に通っている沙希(松岡)と出会う。常に演劇のことだけを考え、生きることがひどく不器用な永田を、沙希は「よく生きてこれたね」と笑い、いつしか二人は恋に落ちる。沙希は「一番安全な場所だよ」と自宅に永田を迎え一緒に暮らし始める。沙希は永田を応援し続け、永田もまた自分を理解し支えてくれる彼女に感じたことのない安らぎを覚えるが、理想と現実と間を埋めるようにますます演劇に没頭していく―。夢を叶えることが、君を幸せにすることだと思って。

 基本的には原作に忠実なストーリー。プライドだけは一丁前の売れない演劇人・劇作家の永田(山崎賢人)、青森出身で服飾の学校に通っている沙希(松岡茉優)、2人の7年間を描く。その中で『劇場』は映画に置き換えたときの見事さ。それは純粋に永田と沙希の描き方・追い方で、「靴、同じですね?」という新しいナンパ様式?から始まる恋を長い時間をかけて追っていく。2人の心が密接になるところから離れていくまで。山崎賢人くんと松岡茉優さんの演技がまた見事でしてね。

 小説は3回読んでいます。公開直後に伏見ミリオン座で鑑賞後、すぐにアマゾンプライムビデオにて2回観返す。映画館とプライムビデオ見放題同時スタートっていう試みがあるからこそ、これができるというのが新鮮でした。理解力も深まりますしね。

アンダードッグ

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一度は手にしかけたチャンピオンへの道……そこからはずれた今も“かませ犬(=アンダードッグ)”としてリングに上がり、ボクシングにしがみつく日々をおくる崖っぷちボクサー・末永晃(森山未來)。幼い息子・太郎には父親としての背中すら見せてやることができず“かませ犬”から“負け犬”に。一抹のプライドも粉砕され、どん底を這いずる“夢みる”燃えカスとなった男は、宿命的な出会いを果たす。一人は、 “夢あふれる”若き天才ボクサー・大村龍太(北村匠海)。児童養護施設で晃と出会いボクシングに目覚めるが、過去に起こした事件によってボクサーとして期待された将来に暗い影を落とす。もう一人は、夢も笑いも半人前な “夢さがす”芸人ボクサー・宮木瞬(勝地涼)。大物俳優の二世タレントで、芸人としても鳴かず飛ばずの宮木は、自らの存在を証明するかのようにボクシングに挑む。三者三様の理由を持つ男たちが再起という名のリングに立つとき、飛び散るのは汗か、血か、涙か。

 前後編合わせて4時間半の大作となる劇場版。ボクシング映画、けれどもスター選手をみるわけではなく。しがみつく者、チャンピオンを目指し邁進する者、何かをこじ開けようとする者、それぞれが拳を通して見る未来はいかようか。迸る熱量たっぷりの試合を前後編の終局に置き、トップランカーの試合ではないけれど観る者の胸に訴えかける。

 日本でトップランカーになろうと、世界チャンプにならないとボクシングで生活していくことは容易ではないのか。「輝けるのは世界チャンピオンだけ」ってセリフはそういう意味なのかなと思いました。それにしても、映画監督じゃなくて役者として出演していた、二ノ宮隆太郎さんのヘイコラ感MAXのデリヘル店長役は印象的だったな。

罪の声

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35年前、日本中を巻き込み震撼させた驚愕の大事件。食品会社を標的とした一連の企業脅迫事件は、誘拐や身代金要求、そして毒物混入など数々の犯罪を繰り返す凶悪さと同時に、警察やマスコミまでも挑発し、世間の関心を引き続けた挙句に忽然と姿を消した謎の犯人グループによる、日本の犯罪史上類を見ない劇場型犯罪だった。大日新聞記者の阿久津英士(小栗旬)は、既に時効となっているこの未解決事件を追う特別企画班に選ばれ、取材を重ねる毎日を過ごしていた。一方、京都でテーラーを営む曽根俊也(星野源)は、家族3人で幸せに暮らしていたが、ある日、父の遺品の中に古いカセットテープを見つける。「俺の声だ-」それは、あの未解決の大事件で犯人グループが身代金の受け渡しに使用した脅迫テープと全く同じ声だった!やがて運命に導かれるように2人は出会い、ある大きな決断へと向かう。

 塩田武士さんの1番のベストセラー小説の映画化。塩田さんの作品は7冊ぐらい読んでて、本作も文庫化された時に読了。冒頭の脅迫テープのシーンから、ずっとのめりんだままでした。映画の完成度は想像以上に高い。実在した昭和の未解決事件を基にした創作とはいえ、報道の矜持、社会の歪み、問われる正義。そして、犠牲になる子どもたち。

 小説はなかなか難しくてあまり理解できなかったのですが(読んだのがだいぶ前だし)、映像ではスマートに描きつつ、いくつもの点がちゃんと結びついていき線をしっかり形成する。その上で重たいテーマをも内包。流れにちゃんと乗せられて観れます。声を使われてしまった人生、勝手な正義に巻き込まれてしまった人生の悲惨さ。未来を奪われた子どもたちは、それぞれでこうも人生が変わってしまうとは。辛いものがあった。

コリーニ事件

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新米弁護士ライネンは、ある殺人事件の国選弁護人に任命される。だが被害者は少年時代からの恩人だった。動機について一切口を閉ざす被告人だったが、事件を調べるうちに戦後の歴史、ドイツ史上最大の司法スキャンダルへと発展ーー。国民誰もが知りたくなかった真実に向き合うことになる。本作で描かれている「法律の穴」「戦後ドイツの不都合な真実」は読者を中心に大きな反響を呼び、ドイツ連邦法務省が委員会を設置し調査に乗り出すなど、文字通り国を動かした。そのような背景もあり、公開するや大ヒット、最終的に2019年上半期ドイツ映画でNO.1のヒットとなった。

 ドイツの現役弁護士作家、フェルディナント・フォン・シーラッハの世界的ベストセラー小説を映画化。映画鑑賞後に原作を読みましたが、大筋はもちろん一緒ですけど、映像表現にあたってもっとわかりやすくしているなあと感じました。

 弁護士になってまだ3か月のカスパー・ライネンが、特に詳細を知らずに、ある殺人事件の犯人の弁護人を引き受ける。けれども殺害された相手は、幼少期から親代わりのように自分を育て、弁護士になる後押しをしてくれたベテランの大物実業家(親友の祖父)だった。殺害犯は初老といえる年齢のイタリア人・コリーニだったが、とにかく黙秘を続けており、弁護方法と恩人の死で主人公は二重の苦悩。ところが、殺害の証拠品として挙げられた銃を見て、カスパーは動き出す

 本作は犯人はもうわかりきっていて、動機の解明が焦点。ですけど、事実の積み重ねによって、ここまで大きなうねりを生み出すとはと驚いた。ドイツの過去がもたらした悲哀と憎悪。辿り着いた法の不条理。実際にこの小説はドイツの司法をも動かしており、時を超えても罪が消えることはない。法の重み、正義の在り方。静かな迫力を持った力作

朝が来る

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「子どもを返してほしいんです。」平凡な家族のしあわせを脅かす、謎の女からの1本の電話。この女はいったい何者なのか―。一度は子どもを持つことを諦めた栗原清和と佐都子の夫婦は「特別養子縁組」という制度を知り、男の子を迎え入れる。それから6年、夫婦は朝斗と名付けた息子の成長を見守る幸せな日々を送っていた。ところが突然、朝斗の産みの母親“片倉ひかり”を名乗る女性から、「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話がかかってくる。

 辻村深月さんの原作は文庫化されたときに読了(多分、2年前ぐらい)。ドキュメンタリーのようなタッチで描かれていく本作は、産みの親と育ての親、特別養子縁組、不妊治療、望まない妊娠など重いテーマを内包する。加えて河瀨監督の大自然マジック(光・海・緑・風等)による輝きと心情への寄り添い。さらには役積みによる役者のその役への修練度がもたらすリアルと臨場感。

 幸福を得る夫婦と喪失感に苛まれて堕ちていく少女。そのコントラストはあまりに鮮明で残酷である。産んだことを周りに無かったことにして生きていくことを強制されるし、未成年出産後の生きる困難はただただ観ていて辛い。学校へも行けずに新聞配達、そして家族との不和と溝。『志乃ちゃん~』から印象的な演技を残し、『星の子』でまーちゃんを演じてた蒔田さんはさらに凄みを感じさせるもの。繋がる2人の母親、子の向けるまなざし、光と救済。予想以上に引き込まれた一作です。

ハッピーオールドイヤー

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デザイナーのジーン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)は、スウェーデンに留学しミニマルなライフスタイルを学んで帰国する。かつて父親が営んでいた音楽教室兼自宅の小さなビルで、出て行った父を忘れられずにいる母、オンラインで自作の服を販売する兄と三人で暮らす彼女は、家を改装しデザイン事務所にすることを思い立つ。理想的な事務所すべく、モノにあふれた家の“断捨離”を進めていく。一度は全てを手放そうとする彼女だったが、洋服、レコード、楽器、写真といった友達から借りたままだったモノを返して廻ることに。 友達の反応は千差万別で、なかなか思うように“断捨離”は進まない。そんな時、かつての恋人エーム(サニー・スワンメーターノン)から借りたカメラを見つける。処分に困りながらも小包として送るが、受取を拒否され返ってきてしまう…。

 2021年に入ってから時を経るごとに影響を受けている映画だなあと思います。私自身が”モノでは満たされない、経験の方が重要”ということを学び・気づいてから今年は、断捨離と言えないまでもモノを手放しています。そうなったきっかけは、やっぱり本作なのかなあと思っています。

 断捨離こそ正義!の大義名分のもと、ゴミ袋というブラックホールに物を捨てて、捨てて、捨てまくる。写真等はクラウドで管理し、音楽や本はサブスク等を利用してくのが正解だ。多分、今後は服とかもそうなりそう。服に関して言えばジーンさんは、家では白いオーバーサイズTシャツと黒系のショートパンツ、外では白の襟付きシャツとネイビーのワイドパンツとユニフォーム化しています。

 捨てるを邪魔するのは、自分の中にある思い出や感情。これらをシャットダウンしないと捨てることは、はかどらない。後悔も敵でしかない。そんな中、協力者の兄が”世界のKonMari(近藤麻理恵さん)”のときめきのこんまりメソッドを手本に観てる。おそらくNetflixの番組。KonMariさんは顔がギリギリ映らない感じで3、4回出てくるんだけど、その度に兄妹で煽ってて笑う。

 捨てる時にどうしても消えない罪悪感、それでも捨てるのは前へ進むため。物を整理することは、ひいては自然と人間関係の整理・精算につながっていく。断捨離を通して浮かび上がる”選択の重要性”。人生はその連続である。様々な過程を経て、ラストに溢れ出すジーンの感情は、なかなかに切ないものがありました。

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー

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明日は卒業式。親友同士のモリーとエイミーは、高校生活の全てを勉学に費やし輝かしい進路を勝ちとった。ところが、パーティー三昧だった同級生たちも同じくらいハイレベルな進路を歩むことを知り驚愕。2人は失った時間を取り戻すべく、卒業パーティーに乗り込むことを決意する。

 ハチャメチャな物語だけど、クレイジーでいて美しい。青春は味わったもの勝ちだ。これ観ると、自分に青春はあったのかと悲しくなる(笑)。だってパーティーとか行ったことないですし。そして、多様性を描くのも次の段階ということか。誰の個性も否定しない、誰の人生も否定しない。下ネタが過ぎるのと鈴木福くんの進化系みたいな人が気になるけど、おもしろかったです。あまり多くを語るよりも観てほしい!っていう作品。

ミッドサマー

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アメリカで暮らす大学生のダニーと恋人のクリス、その仲間たちは、交換留学生であるペレの故郷スウェーデンで夏至(ミッドサマー)に行われる祝祭に誘われる。その村では、90年ごとに9日間の浄化の儀式が行われ、人々は着飾って様々な出し物をするのだという。人里離れたヘルシングランド地方、森の奥深く、美しい花々が咲き乱れる“ホルガ村”を訪れた5人は“白夜”のもと、優しく穏やかな村人たちから歓待を受ける。しかし、閉鎖空間の中、次第に不穏な空気が漂い始め、ダニーの心はかき乱されていく。妄想、トラウマ、不安、恐怖……それは想像を絶する悪夢の始まりだった。

 2020年に唯一、2回観た映画。通常版とディレクターズカット版という細かい違いはありますけども。「オラが村のしきたりを舐めんな」とお叱りを受けるような、スウェーデンの秘境における伝統祭に行ったがための惨劇。文化が違えば、生き方が違うし、ルールが違う。人間は怖い。ただ、生命は循環する。解放、昇華、微笑み。ホラーに分類されるといえど、コメディっぽく笑える部分もあったりします。なんにせよジワジワと内側を侵食してきますね。

 ディレクターズカット版は、ダニーとクリスチャンがさらに多く喧嘩して行き違い、精神に重石を乗せるホルガの嫌〜な儀式がもうひとつ増え、急にカットインしてきたモザイクが葬られる。こちらの方が熊ファイヤー度は高し。.

はちどり

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1994年、ソウル。家族と集合団地で暮らす14歳のウニは、学校に馴染めず、別の学校に通う親友と遊んだり、男子学生や後輩女子とデートをしたりして過ごしていた。両親は小さな店を必死に切り盛りし、子供達の心の動きと向き合う余裕がない。ウニは、自分に無関心な大人に囲まれ、孤独な思いを抱えていた。ある日、通っていた漢文塾に女性教師のヨンジがやってくる。ウニは、自分の話に耳を傾けてくれるヨンジに次第に心を開いていく。ヨンジは、ウニにとって初めて自分の人生を気にかけてくれる大人だった。ある朝、ソンス大橋崩落の知らせが入る。それは、いつも姉が乗るバスが橋を通過する時間帯だった。ほどなくして、ウニのもとにヨンジから一通の手紙と小包が届く−。

 1994年の韓国、中学2年生になる少女・ウニを通してみる日常、その日常を超えて繋がっていく世の中。理不尽や疎外感による14歳の心の揺れ動きを繊細に捉え、彼女を通して自分と周りの人間について振り返る。ヨンジ先生の言葉を手がかりに。”顔は知ってても、心まで知ってる人はどれだけいますか”

 淡々と描いていく中で本作では、登場人物のほとんどが弱さをみせるのも印象的。あの父親だって兄だって例外じゃない。苦しみや痛みを抱えずに生きている人間はいないというようだった。『世界は不思議で美しい』は、”日常の中には悲劇も起きる一方で、生きる価値を感じる美しい出来事もある”という意(ユリイカ5月号のキム・ボラ監督インタビュー参照)。観終わると、静かに心に迫ってくるものが確かにあった。

三島由紀夫 VS 東大全共闘 50年目の真実

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禁断のスクープ映像、その封印が遂に紐解かれた! 稀代の天才作家・三島由紀夫と、血気盛んな東大全共闘の討論会の全貌。時は1969年5月13日。東大駒場キャンパスの900番教室に、1000人を超える学生たちが集まり、三島を今か今かと待ち受けていた。旧体制変革のためには暴力も辞さない東大全共闘のメンバーが、この討論会の首謀者。世界各国が政治の季節に突入していたこの頃、日本でも自分たちの手で国を変えようとする学生運動が激化していた。「三島を論破して立ち往生させ、舞台の上で切腹させる」と盛り上がり、異様なテンションが充満している敵地に、三島は警察が申し出た警護も断り、その身一つで乗り込んで行った。

 三島由紀夫氏の小説は昨年の新装版発売はあったものの(この映画公開のあと)、まだ6~7冊ぐらいしか読めてません。この時代は学生運動が盛んだった頃。そんな程度の知識で本作に臨んだわけですが、自分がサンドバッグにでもなったかのように言葉の乱打に遭います。

 完全アウェイの中で討論会に乗り込んだ三島氏が、全共闘に対して論破ではなく説得しているのが印象的でした。討論内容は、抽象的で難しい。他者、持続性、天皇論などなど。次元の違いというのをはっきりと感じる。とはいえ小説家・平野啓一郎氏や哲学者・内田樹氏がポイントで出てきて解説してるので、自分の中でも少しだけ整理ができるかな。

 とにかく伝わるのは、言葉には重みがあり、怖さがあり、力があるということです。本作を観ると、言葉に対してもっと誠実に向き合うことが必要だと痛感する。

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春休みに江の島を訪れた男子高校生・井川迅と、湘南で高校に通う日比野渚。二人の間に芽生えた友情は、やがて愛へと発展し、お互いの気持ちを確かめ合っていく。しかし、迅が大学卒業を控えた頃、渚は「一緒にいても将来が見えない」と突如別れを告げる。出会いから13年後、周囲にゲイだと知られることを恐れ、迅がひっそりと一人で田舎暮らしを送る中、6歳の娘・空を連れた渚が突然現れる。「しばらくの間、居候させて欲しい」と言う渚に戸惑いを隠せない迅だったが、いつしか空も懐き、周囲の人々も三人を受け入れていく。そんな中、渚は妻・玲奈との間で離婚と親権の協議中だと迅に打ち明ける。ある日、空が玲奈に東京へ連れ戻され落ち込む渚に、迅は「三人で一緒に暮らしたい」と気持ちを伝える。しかし、離婚調停が進んでいく中、玲奈の弁護士や裁判官から心ない言葉を浴びせられ、自分たちを取り巻く環境に改めて向き合うことになっていく――。

 岐阜県白川町で撮影された一作。女性が働きに出て男性が主夫する形だったり、それ故に子育ての仕方がわからない女性側の苦悩であったり、はたまた男性カップルによる子育てとか。離婚のための親権争う法廷劇がリアルで痛切だけど、個人個人の愛のカタチ、新しい家族としての形・在り方など問いかけてることは多い。

 でも、今泉監督の作品らしく人々に人情味がある。中盤で子どもが真実を言っているけど(パパはしゅんくんが好きで、しゅんくんはパパが好き。どこが変なの?って台詞)、その愛の形は成長すると当たり前ではなく変なことになってしまう。捉われずに考え、理解すること。そして、鈴木慶一さん演じる緒方さんの「誰かに出会って影響を受ける。それが人生の醍醐味」という台詞が凄く印象的でした。全部観てるわけではないですけど、今泉作品では一番良いかも。

許された子どもたち

中学一年生の市川絆星は、同級生の倉持樹をいじめの末に殺してしまう。警察に犯行を自供する絆星だったが、無罪を信じる母親の説得により否認に転じる。少年審判は無罪に相当する「不処分」を決定し、絆星は自由を得るが、世間から激しいバッシングが巻き起こる。果たして、罪を犯したにも関わらず許されてしまった子どもはその罪をどう受け止め、生きていくのか。大人は罪を許された子どもと、どう向き合うのか。本作は実際に起きた複数の少年事件に着想を得たオリジナル作品である。『先生を流産させる会』『ライチ☆光クラブ』『ミスミソウ』など、その衝撃的な内容により作品が発表されるたび物議を醸す内藤瑛亮監督が、8年の歳月をかけて構想し、自主映画として完成させなくてはならなかった問題作。

 実際に起こった複数の事件から着想を得て、8年の歳月をかけて完成した自主製作映画。主に殺人を犯した加害者である中学生男子からの視点で描かれている。加害者視点っていうのがあまり観たことないし、本作の肝の部分だと思います。罪と赦し、被害者と加害者、無責任な正義、炙り出される現代社会の歪み。法ではなく、人が人を裁く恐ろしさと愚かさ。安易な救済は無い。衝撃だけが心に残る。

 観終わって1日過ぎても内側で渦巻いているものがありました。映画鑑賞後にYoutubeで配信されている、活弁シネマ倶楽部による内藤監督のインタビュー(1時間半ある)を3回ほど観て、理解を深めました。

お読みいただきありがとうございました!
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