
森博嗣先生はエッセイこそが珠玉
ミステリー作家の大御所でドラマ化された『すべてがFになる』や映画化された『スカイ・クロラ』など300冊以上を出版し、信者も多い。なのにこんなことをいうと間違いなく袋叩きにあってしまう(汗)。
わたしはVシリーズと四季シリーズは全作読んでます。他も単発で何冊か。けれどもエッセイの方を好んでよく読んでいますね。

新書『孤独の価値』を最初に読んだときは、ずいぶんと救われた気になったのを覚えています。友達がほとんどおらず、ひとりで活動することが多い自分は、孤独の何が悪いんだ!と強く思っていたので。
エッセイの方に惹かれるのは、講義を受けている感覚になるからでしょうか。本質を突く視点とドライな語り口。氏の考えにうなずいたり、首を傾げたりしながらも森節が人生の処方箋になっている。
ということで本記事は【森博嗣新書bot】と題して、オススメの新書を10冊紹介します。
著者紹介

森博嗣先生について軽く紹介。後にオススメする新書でも話されている内容です。
大学工学部の助教授だった森先生は1996年、38歳の時に小説家としてデビューします。なぜ小説を書き始めたのか。
それは自宅の庭に鉄道を走らせるという夢をかなえるため。”金を稼ぐためにバイトとして小説を書いた”ことが驚きですが、1週間で書き上げて出版社に送ったら即デビューが決まるということも凄い。
以降の10年間、大学に務めながら小説を書き続ける。兼業時代の生活がまたすごい。以下は『面白いとは何か? 面白く生きるには? 』からの引用。
- 本業の大学に約15~16時間勤務
- 22時ごろに帰宅後、食事→ 風呂→ 睡眠
- 1時間半後に起床
- 3時間:執筆
- 2時間:睡眠 → 出勤
このループで作品を量産しまくる。自分の夢のためとはいえ、できることじゃねえ(苦笑)。
05年に本業を退職。08年に小説活動も縮小。もともと有名になることが大嫌いという性格だそうで、現在は遠く離れた場所にひきこもり、鬱蒼とした森の中でひっそり暮らしている。
働くのは1日1時間だけ、今でいえばセミリタイアの生活といえますね。
オススメ10選
諦めの価値

「あきらめたらそこで試合終了ですよ 」を無効化してしまう1冊です。
諦めることは戦略である。 失うことでも負けを認めることでもない。単なる判断の結果だと本書は説きます。人生を良くするために何を諦め、何を諦めないかの見極めこそが大切だと。
他人に期待せず、社会に依存せず。また自分にも期待しすぎず。森博嗣を、諦めましょうという結びの言葉で本書は締めくくられますが、諦めの先により良い生き方を知りたい方に本書をオススメします。
「諦める」という行為に善悪はない。正解も間違いもない。そのときどきで、難しい判断をするしかない。生きていくうえで、これは避けられないことなのだ。唯一のアドバイスは「考えなさい」である。この「自分で考えること」だけは、諦めてはいけない。それだけは、いえる。
『諦めの価値』 より
孤独の価値

“孤独に死す、ゆえに孤独”は悪いのか?
「孤独は悪い、他者とのつながりを良し」とする風潮に警鐘を鳴らし、”人間には孤独が絶対に必要である“と述べる森先生。
“絆の肥満状態である”と指摘するほどにオン/オフラインでつながっている状態が続く現代。なぜ人間はさみしさを感じるのか、孤独を悪だと思ってしまっているのか、ひとりの時間で何をすべきなのか。本書はそれに答えます。
孤独はさみしいという価値観から脱却し、孤独の時間を大切にして自分が何者かを考える。無駄なことをする。創作する。自由になる。孤独という状態をプラスに転化させていく人生論が詰まっています。
僕がこの本で書いた「孤独」というのは、社会を拒絶することではなく、また他者を無視することでもない。社会における最低限の関係は、そもそも拒絶できないという前提に成り立っている。だから、そういった社会への貢献、他者の尊重の上に、自分の思い描いた「自由」を築く必要がある。
『孤独の価値』 p177より
読書の価値

大人の約半分(47%)は読書をしない。でも読書する価値は大いにある。そんな読書する価値とは?に迫る本です。
- 本はとにかく自分で選べ
- 意味が理解できたとき、初めて文章が読めたことになる
- ベストセラーを読んではいけない。小説家になりたいなら小説を読んではいけない。
読書で最も重要なことは“本を自分で選ぶこと”。これがたったひとつの原則。リアル書店でもネット書店でも良いから、面白そうな本がないかと自分で選ぶ時間が大切だと説いています。
タイトル通り、読書をする価値を知りたい方はぜひ読んでみてください。
結局、本というのは、人とほぼ同じだといえる。本に出会うことは、人に出会うこととかぎりなく近い。それを読むことで、その人と知り合いになれる
『読書の価値』より
集中力はいらない

“全集中”という言葉が流行する数年前、森先生は集中力自体を否定しておりました。むしろ「だらだらも悪くない」とさえ述べています。「集中は善ではない」と申し上げる氏の意図とは?
- 集中とは機械のように動くこと
- 集中は人間を排除する
- 発想は集中から生まれない
集中力に親を〇されたのかと思うぐらいのパワーワードが飛び交う本書。集中力信仰をくつがえすような内容になっています。
思考するのが人間であり、思考しているから自分が存在する。逆にいえば、考えないほど人間から遠ざかり、機械に近づく、ということになるかもしれない
『集中力はいらない』 p193より
悲観する力

単純に”悲観”と書くとネガティヴな印象が強いと思いますが、森先生がここで提唱する”悲観する力”とは、失敗を想定した行動・思考のこと。 生き延びる術としての悲観力。
常に絶対は無いを念頭に何事にもあたり、やれるだけのことはやったという準備を必ずすること。ただし、そこに感情は入れずに。仕事でもプライベートでも悲観的に先を見積もることの重要性を感じる一冊です。
悲観的な君と無慈悲な君、これからも悲観していこうな。
明日にも死ぬかもしれないという悲観と、まだしばらくは大丈夫だろうという楽観の狭間で、人は揺れ動く。生きるとは、考えるとは、つまりこの揺らぎのことである
『悲観する力』p230より
お金の減らし方

ギャンブルですっちゃったー、仮想通貨が暴落、パーティで豪遊・・・ってお金の減らし方ではないです。
小説・エッセイ等の計300冊に及ぶ執筆業で得た印税20億の作家による”お金をどう使うべきか”。
そんな銭闘力がバグった人の意見なんて参考にならない!?と思わないで読んでみてほしい本です。お金と仕事をメインとした人生の話だから。お金の”増やし方”についての提言もあります。
自分の欲しいもの、やりたいことをまず知ること。本著を読むと、使うお金の価値は周りではなく自分で決めるものだと強く実感するはず。
森先生は収入の8割で生活して、1割を趣味に使う(もう1割は奥様用)というのを徹底していたという。『バビロンの大富豪の教え』みたい。『作家の収支』という本では自身の稼ぎと出版業界の仕組みを暴露しておりますね。
多額のお金を持っていても、なにも良いことはない。そのお金を、自分が欲しいもの、やりたいことと交換しなければ、価値は生まれない。お金を失うことで、価値が得られるのだ。
『お金の減らし方』より
やりがいのある仕事という幻想

”やりがい”なんてものはまやかしじゃない?
森先生らしいドライな視点から”人は生きるために仕事をするのであって、仕事をするために生きているワケではない“ということを伝え続ける本です。
- 人は働くために生まれてきたわけではない
- 仕事で人間の価値は決まらない
- 人それぞれに生き方が違って、自分の道がある
常に勉強し続ける、将来を見通した仕事選びなどといったことも書かれています。
ですが、大事なのは人生のやりがいや楽しみは自分で作って育てること。そして、自分なりの自由を目指すこと。労働に悩む大半の人に効く一冊です。
仕事というものは、今どんな服を着ているのか、というのと同じくらい、人間の本質ではない。
『やりがいのある仕事という幻想』 p16より
自由をつくる 自在に生きる

自分の思い通りになること__これが「自由」なのだ。と同時に「自由」は思っているほど楽ではない
もっと自分勝手に生きていい。でも、やりたくないことをどう減らしていけばいいのか。自由になるための具体的な方法は自分で決めるしかありませんが、本著にある森先生の言葉や考え方は参考になるはず。
常識や社会的な支配にまず気づくこと。そして、”考えること”を活動の基礎に、自分の立てた計画に毎日少しずつ前進していくこと。その重要性を説いています。
どんな場合であっても、人間は自分が思ってもいない方向へはけっして進めない。必ず良い結果というものを夢見るのが人間なのだ。そして、その人が見た夢よりも素晴らしい現実は絶対に訪れないのである
『自由をつくる 自在に生きる』p140より
面白いとは何か?面白く生きるには?

面白いをできるだけ解き明かしていく前半、面白く生きていくためにどうするかを論じた後半。
結論、『てめえだけのおもしれーをつくれよ!』という森先生のありがたい洗礼を受けます。
なかでも”面白さを見つけることが生きるという行為“という言葉はシビれましたね。
大事な点は、自己完結していることだ、と思っています。他者に見せたり、他者と競争したり、他者からの評価を受けたり、あるいは協力を仰いだり、ということをしない。それが、僕が考えている「面白さ」の基本です。
『面白いとは何か? 面白く生きるには?』より
夢の叶え方を知っていますか?

『夢』自体があいまいなものですが、あくまで”自己満足で良い”と森先生は語ります。本書は特に第2章”抽象的な夢と具体的な夢”で読者の質問をドライな正論で返していくのが特におもしろい。
夢の詳細は、自分の中に仕舞っておけば良い。自分でさえ、まだその実像が見えていないことだって普通だろう。ぼんやりとしか見えなくても、そちらへ行けばもっと楽しいことがあるはずだ、と匂う。それが夢というものである。
『夢の叶え方を知っていますか?』 p235より
まとめ

自由、自分探し、お金、仕事、孤独、夢。恋愛以外は、多くの人が悩むことについて提言がある。いずれの本を読んだとしても、あなたは立ち止まって人生を見つめ直すことになるはず。
ほぼ全作に共通して書かれている最も大事なことは”考えること“です。それこそが人間が人間であるゆえんと森先生は言います。
10選として紹介してきましたが、どれを最初に読んだらいいの?と思う方もいるので下記に3冊挙げてみました。仕事とお金がメインの内容で、自分ごとになる人が多いはずですのでぜひ。
本記事をきっかけに森博嗣エッセイを読んでいただけるとうれしいです。きっとあなたの人生にプラスをもたらしてくれるでしょうから。
