伝説の存在が、ついに日本へ上陸。事件だ! というと大げさな表現かもしれない。しかしながら、ヘヴィ・ドローン / パワー・アンビエントの始祖として、多数のアーティストに影響を及ぼしてきたあのアース(Earth)が結成から20年以上の時を経て、初来日を果たしたのだ。そう騒ぎたくもなってしまう。さらに今回の来日ツアーには、元アイシス(Isis)の中心人物であったアーロン・ターナー、そして彼の妻であるフェイス・コロッチャによるユニットのマミファー(Mamiffer)が全公演に帯同。時代に一石を投じたといえる存在の共演は、非常に濃厚な時間を約束してくれた。
まずは名古屋公演のみのゲストとして、名古屋のドゥーム/ストーナー・ロックの重鎮、エターナル・イリジウム(Eternal Elysium)が登場。「Views On C#」や「Shadowed Flower」など6曲を披露し、そのサイケデリックなサウンドが約50分間にわたって会場を揺さぶった。
Mamiffer
続いての登場がマミファー。サポート・ドラムとして、Pele~Collections Of Colonies Of Bees等で活躍したドラマー、ジョン・ミューラーが加わった3人編成でのライヴとなる。
簡素なライトと緊張感に包まれる中で、フェイス・コロッチャのスラっとした指から放たれるピアノの旋律が厳かに響き、また、祈りに似た彼女の歌声が物悲しい余韻を残しながら天へと吸い込まれていく。多くの人のお目当てのひとつであっただろうアーロン・ターナーは、ギターやエフェクターを巧みに駆使し、そこに空間を引き締めるようなジョンのドラムが入ってくる。
序盤からこれまでリリースした2枚の作品が物語る通りに、耽美なドローン系サウンドが会場に響き渡っていた。聴いていると呼応する音色のひとつひとつが仄暗い風景を描いているかのようで、独特の情緒も感じられる。また、ミニマル・ミュージックや現代音楽とも調和しているような感触もある。
演奏は約1時間ほど。最後に今年3月にリリースしたロクリアンとのスプリット作に収録されている「Metis/Amaranthine/The Emperor」を披露して、度肝を抜いていた。彼等らしい耽美な序盤から、メルツバウを思わせる神経が擦り切れるようなノイズが襲い掛かる中盤を経て、そして終盤には、アイシスの時を彷彿とさせるアーロン・ターナーのスクリームが轟く。この20分強は、本日のライヴでも最高の興奮があった。
Earth
22時手前ぐらいからお待ちかねのアースが登場。中心人物であるギタリストのディラン・カールソン、女性ドラマーのエイドリアン・デイヴィス、そしてサポート・ベーシストのドン・マクグリーヴィのトリオ編成での公演(とはいえ、本来はチェリストを交えた編成でのライヴが多いようだ)。
幕が開くとまずは、ディラン・カールソンがフランクに挨拶をかわす。そして、今年からお披露目になっているという新曲「バジャー」でライヴをスタートさせる。重厚かつブルージーなギターの旋律がたゆたい、間を活かすようにベースやドラムの音が配置され、反復を続けながら徐々に展開していく。
続けての「ア・マルチプリシティ・オブ・ドアーズ」、「ザ・ビーズ・メイド・ハニー・イン・ザ・ライオンズ・スカル」もまたシンプルながら、アメリカの雄大な大地を思わせるような大らかで味のあるサウンドがゆったりと紡がれる。アースの曲に歌はない。だが、彼の情念のギターが体中に深く深く染み渡ってくる。
サブポップから1993年に世に送り出し、今もなお絶大な影響力を誇る異型のヘヴィ・ミュージック作品『Earth 2』から大きな変化を遂げ、近年ではフォークやブルースなどの影響があらわれた非常に渋い音像へとシフト。ライヴ自体も音色のひとつひとつをじっくりと噛み締めて味わう、そういった感じのものであった。
曲間ではステージで笑顔を交えて談笑したり、客席に向かって優しく語りかけたりと、僕が勝手に想像していた厳格なイメージとは違って親しみやすさがある。また、いい意味でのゆるさが感じられたことにも凄く驚かされた。それでも漆黒のヘヴィネスが支配する初期の楽曲「ウロボロス・イズ・ブロークン」が演奏されると、多くの人から待っていましたといわんばかりに歓声があがる。あの暗鬱なリフの反復には、さすがに興奮を隠せなかった。その後にもうひとつの新曲を交えたりして、本編の演奏は終了した。
この時点で既に23時15分近く。終電が気になり出した人もいる中で、アンコールには20分を超える「エンジェルズ・オブ・ダークネス、ディーモンズ・オブ・ライト1」をプレイして大サービス。徐々に熱を帯び、覚醒を促していくような演奏に多くの人が満足したことだろう。最終的には90分近いライヴで、これまで待ちわびてきたファンの期待に応えてくれた。今日の公演に限らず終演後には、一緒に写真を撮ったり、サインをもらったりとディラン・カールソンの温かさに触れて感動が倍増した方もいたようだ。