
2016年に結成され、ワシントン D.C.を拠点に活動するエモ・バンド。シンガー兼ギターのRyland Heagy、ドラムのPat Dohertyから2人から成る。エモやイージーコアといったスタイルに分類されますが、軽快でキャッチーな歌とメロディを軸にして、多彩なアイデアを投下する音楽は聴き手の心を惹きつける。
2019年にリリースした1stアルバム『Somewhere City』から注目を集め、21年に2nd『GAMI GANG』、24年に3rd『Feeling Not Found』を発表。折り紙をバンド名に冠したことや”ポケモンはノスタルジックなものではなく、ずっとわたしの人生の一部だ”(参照:Kerrang!インタビュー)の発言からも日本人が親近感を抱きやすいバンドのひとつ。
本記事はこれまでに発表されているフルアルバム全3作品について書いています。
作品紹介
Somewhere City(2019)

1stアルバム。全10曲約30分収録。バンド名に折り紙が入っていたり、ポケモンをテーマにしたEPを発売しているので日本人が親近感を抱きやすいのがOrigami Angelです。Grandma Sophia’s Cookiesのインタビューによると、本作の主要なテーマは”自分の居場所を見つけること”と語っています。街は逃避の場、遊びの場、安心の場など様々でリスナーが望むように姿を変えることができるという。
そして彼らにはエモという明確なラインが存在します。#1「Welcome to…」における煌めくアルペジオや陽気なコーラスワークは、導入としてわかりやすい。キャッチーな歌やメロディは軽快に聴き進める街の案内役として申し分ありません。
しかしながらフック入れなきゃ死ぬ病にでもかかっているのか、タッピングギターやブラストビートを代表例に自由度高く楽曲を盛り上げる。共にSpotify再生回数1000万回超えの#2「24 Hour Drive-Thru」や#7「The Title Track」は小気味よい進行の中でポップとひねりが交錯する。#3「666 Flags」に至ってはポップパンクがAdebishi ShankとLightning Boltに出会ったかのようで驚きます。
#10「The Air Up Here」の終盤ではリスナーに徹しようとしても、一緒に歌いだしてしまうほどのパワーがある。10曲30分を駆け抜けた後の爽快感は格別。『Somewhere City』は誰しもにとって特別な街になる、そんなエモのにぎやかハッピーセットです。

GAMI GANG(2021)

2ndアルバム。全20曲約51分収録。STEREOGUMのインタビューにてアルバムの方向性について”半分がSomewhere City 2、半分が実験的“と述べています。加えて様々な方向に曲がりくねり、まとめることはあえてしなかったとも語っている(参照:Bandcamp Daily)。
プレイリスト的な性質を持っているにせよ、聴衆を巻き込める歌とメロディはそのままに遊びが効いていると言えそうな本作。#2「Self-Destruct」や#4「Noah Fence」、#7「You Wan’t」等は前作から続くお得意のラインではっちゃけ。Origami Angelの主線はやはりエモ側にあると再認識するもので、清々しい聴感と熱気を生み出しています。
一方で2分過ぎからメタルコアのリフとブレイクダウンが持ち込まれる#8「Neutrogena Spektor」、湿っぽいフォークソング#9「Greenbelt Station」、タイトル通りにボサノヴァを錬金した#10「Bossa Nova Corps」など変化球を織り交ぜる。
ただ、こうした飛び道具で耳や意識に引っ掛かかるものの、アルバム全体の一筆書きを模したような流れを切っていません。#16「Dr. Fondoom」や#17「Bed Bath & Batman Beyond」といった1分前後のショートチューンではCap’n Jazzをメタル寄りにシフトした混沌がある。
20曲の中でデュオの核と変相をユーモラスに表現しており、”アルバムを通して聴く”という楽しさを再提示する意思を感じさせます。

Feeling Not Found(2024)

3rdアルバム。全14曲約40分収録。Will Yipによるプロデュース。本作は”スピリチュアルな404エラー(404エラーは存在しないwebページにアクセスしたときのエラーコード)”がテーマにあり、デジタルプラットフォームの過剰利用によって、人間同士の繋がりが失われつつある社会を揶揄しているとのこと(参照:Kerrang!インタビュー)。
実際にパラソーシャルな関係やフォロワー数の価値に疑問を投げかける#5「Underneath My Skin」、”血と汗と涙を$マークに変えなければならない”という歌詞と共に現代音楽ビジネスへ批判的な視線を向ける#10「Sixth Cents (Get It?)」といった楽曲を収録。
しかしながら、後ろめたさが目立ったりはしていません。快活さや陽気さが勝っているのは変わらず。エモを基点にマスロック、メタルコア、ジャズ、ゲーム音楽等を組み込むアクロバティック錬金術は聴いていて楽しくなります。突飛なひねりを入れるにせよ、アレン・アイバーソンのキラークロスオーバー並に身のこなしがなめらかで、切れ味がある。
#3「Where Blue Light Blooms」や#6「Wretched Trajectory」は軽快な勢いとアイデアがミックスされた曲が基本線。そこにデジタルなスタイルを押し出した#1「Lost Signal」、ポップパンクとメタルコアの衝突である#8「Living Proof」、”ポケモンは人生の一部だ”と語るぐらいにファンだからこその”たきのぼり”オマージュソング#12「HM07 Waterfall」を用意。
ここまで創意工夫、曲がりくねった要素を持ち込んでいるのに、キャッチーという着地点に持っていく。ストロングポイントは本作でも健在です。
