【インタビュー】OVUM ~Nostalgiaの真相~

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  2006年の結成以降、国内及び海外で存在感を示す日本のインストゥルメンタル・ロック・バンドのOVUM。MONOに続く繊細かつ大胆な表現を駆使したインスト・サウンドを鳴らし、作品を重ねるごとに評価を高めてきました。2008年からは海外公演にも積極的に出向いています。

 そんな彼等をTJLA FEST 2015にて久しぶりに目撃したのですが、その快演に驚かされました。以前までの自身のスタイルから変化を遂げ、”Metal oriented instrumental rock”と評したヘヴィなアプローチを展開。Downfall Of GaiaやThe Caution Childrenといった並み居る猛者が集まった同フェスに衝撃を与えていました。2016年3月にはその基となる新EP『Nostalgia』をリリースしていますが、改めてその変化を実感する強烈な作品に仕上がっています。

 この度は『Nostalgia』のリリースに伴い、ギタリストのNorikazu Chiba氏にメール・インタビューを実施。その最新作について、さらにはバンドの10年を振り返っていただきました。あくなき追求心と向上心を持って音楽と向き合う彼の貴重な言葉、是非チェックして欲しい。

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OVUM ‐ Interview

―― 昨年11月のTJLA FEST 2015の初日、今年3月のCaspian来日公演にて新たなOVUMの音楽を体感して、驚きと衝撃を受けました。「Metal oriented instrumental rock」と自身で表現した新スタイルは、2014年秋のヨーロッパツアー(スロバキア、チェコ、ドイツ。共演にCELESTEやLastofmykindなど)にてインスピレーションを得たとのことですが、具体的にはどんな出来事があったのでしょうか?

ある特定の出来事というよりも、ツアー全体を通して見た景色や肌で感じた空気から大きなインスピレーションを受けました。特に、ベニューの雰囲気や観に来ているお客さん達から感じたものが大きかったです。ベニューではショウの前に食事を提供してくれて、ショウの後には眠る場所も提供してくれました。眠る場所と言っても、さっきまで演奏していたホールのフロアに寝袋を敷いて寝るというようなものでしたが。それでも凄くありがたかったし、ほんの少しではあるものの、ヨーロッパのインディペンデントなシーンに身を投じている感覚がありました。

もちろん共演したバンド、特にCELESTEから感じたことは大きかったです。お客さんの多くは彼らを目当てに集まっていたわけで、CELESTEに熱狂するお客さんたちを見ている時に、今までのOVUMに足りなかったものが掴めたような気がしました。

―― 『Nostalgia』の発表前には、Virgin Babylon Records の5周年記念コンピレーションアルバム『ONE MINUTE OLDER(2015年7月リリース)』へ「Hell Yeah」を提供しています。作品の「45秒以上、90秒以内」という規定の中で新しいスタイルを打ち出したこの曲が今後の鍵になっていたと現在では考えられますが、どうでしょうか。

『ONE MINUTE OLDER』への参加については、2015年4月に前田さん(world’s end girlfriend / Virgin Babylon Records)からオファーをもらいました。締め切りは5月という話だったので、大急ぎで作曲をしました。

「Hell Yeah」は新体制となって初めて公表した楽曲ではあるものの、その前に『Nostalgia』に収録されている3曲のうちの2曲は出来ていたので、特別な意識はありません。

ただ、あのコンピレーションアルバムへの参加は、僕達が新しい音源を発表するのに凄く良いタイミングだったと思います。それにこういった企画でなければ90秒以内の曲を書くことなんてなかったでしょうし、凄く面白かったです。機会をくれた前田さんに感謝しています。

―― 『Nostalgia』は製作期間としてどれぐらいになりますか。また、当初からフルアルバムではなく、EPでのリリースを考えていたのでしょうか。

2014年9月のヨーロッパツアーから帰ってから曲を書き始めました。マスタリングを終えたのが2016年の1月なので、製作期間という意味では1年3ヶ月ほどになります。

これまでOVUMは、EPをリリースしてからアルバムを出すという流れを貫いており、僕達自身はEPとアルバムで1つのタームという捉え方をしています。これまでに2つのターム(『under the lost sky. ep』と『microcosmos』、『joy to the world. ep』と『ascension』)を過ごしてきて、今は3つ目のタームにいるという感覚です。

今回もまずは EP をリリースしようと考えました。従来のやり方を踏襲せずに一気にアルバムの完成を目指すことも考えましたが、とにかく新しい単独作を早く発表したかったんです。既に次のフルレングスのタイトルは決まっており、今はそのための作曲を進めているところです。

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―― 1st『microcosmos』や2nd『ascension』と比べて一番に感じるのは、聴き手をねじ伏せるほどの力強さです。これほどまでにパワフルなサウンドやストレートな衝動を想像していませんでした。改めて作品を聴いてこの変化に驚くのですが、本作の制作で一番に意識した点はどのようなところですか。

自分に正直であること、自分のやりたいことをやりたいようにやることです。

もちろん、過去の作品でもやりたいことをやっているのですが、ある種の普遍性というか、「他の人が聴いたらどう思うか?」ということをどこかで意識しながら曲を書いていたと思います。それも大切なことではあるのですが、今作ではそういうものは全部捨て去って、自分の心が本当に求めるものや個人的な想いを音楽にしようと決めていました。

音楽的な面でも、前作までの作曲においてはヴォイシング等について自分で設定していたルールがいくつかあったのですが、それら取り払うことによって力強さを獲得できたと思います。

―― Chibaさんは青春時代にXやメタリカなどに影響を受けたとおっしゃっていましたが(ototoyさんのインタビューを参照しています)、メタル色が強まっているのはその頃の衝動を表現に加えたかったからでしょうか? それにタイトルは『Nostalgia』とつけられていますし。

まさにその通りです。タイトルの『Nostalgia』もそういうところから来ています。

2013年11月に『ascension』をリリースし、翌2014年4月には台湾、香港、中国に行きました。お客さんは凄く熱く迎えてくれたのですが、自分たちの限界が見えたような気がしました。このままではこれより先には進めないだろうと感じてしまったんです。

長い時間と多大な労力を注いで作り上げた音楽だし、聴く価値のあるものだと今も思っていますが、なぜかその先のビジョンが見えませんでした。率直に言ってしまうと、オリジナリティという面で弱かったのだと思います。

じゃあどうすれば良いのかを考えるうちに、結局、自分が本当にやりたいこと、自分が本当に好きなことをやるしかないんだという結論に至りました。

僕はずっと音楽が大好きですが、盲目的に音楽を愛していたのは、やはりギターを始めた中学時代だったと思います。その頃から今も変わらずに好きなことを今の自分のフィルターを通して形にしたいと思いました。

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―― これまでの叙情的アプローチやドラマティックな展開 (曲の長さも変わらずに10分前後)は、本作でも十二分に発揮されていると感じます。そういった要素と新しく取り入れた要素との折り合いや融合にて注意したのはどんなところですか。

おそらく一般的に、人が音楽を聴いて叙情的だとかドラマティックだと感じる要因は主にコード進行や楽曲の展開の仕方にあると思います。それらは今回新たに取り入れた要素とはある意味無関係な部分なので、特に意識することなく共存が可能です。

それよりも何よりも、インストゥルメンタルの音楽にヘヴィな要素をどう取り入れるかについて悩みました。ギターがもう一人いたり、オーバーダビングを多用したりするのならだいぶ楽なのですが。

方法の一例として、ギターのフレーズを低い音域に集めるとか、メロディーやアルペジオではなくリフ的なフレーズの割合を増やすということがパッと思い浮かぶのではないかと思います。ですが、そのままでは普通のロックバンドやメタルバンドから、ボーカル・トラックを抜いただけのような楽曲になってしまいがちです。

それに、僕はポリフォニックな音楽が好きなので、ギター二本をメロディーと伴奏という風に役割をはっきり分担するのは安易でつまらないと感じます。そうならないように最大限の努力をしました。今作に収録されている曲を聴いて他の人がどう思うかはわかりませんが、自分としてはそういう基準をなんとかクリア出来たと思っています。

―― 変化といえば、2015年4月にベーシストの変更があってShin-ichi Taharaさんが加入しています。彼がもたらした影響について、それにバンド内での変化についてはどうですか。

彼が入ったことで、OVUMは音楽と向き合う覚悟をした人間の集まりになりました。結成以来、今が最も音楽に対して純粋だと思います。

それに彼は自身のバンド(December)でリーダーを務めていることもあり、凄くしっかりしているので色々と助かっています。今まで欠けていたパズルのピースがやっと揃ったような感じです。

―― ここでセルフライナーのような形で1曲1曲を解説していただけますか?

1.Nostalgia

この音源の中で最後に出来た曲です。ベースが半音ずつ上昇するフレーズをモチーフとして、それが発展しながら楽曲の最初から中盤まで貫かれています。その後の少し静かなセクションは、タイトル通り郷愁を誘うリリカルなメロディーを書きたくて、あのようになりました。ローティーンの頃から変わらない、僕の核のようなものが出ていると思います。

後半になるとベースは半音進行ではなくなりますが、ギターは前半のフレーズを引継ぎ、楽曲としての一貫性を表現しています。最後のセクションからはカタルシスが感じられるだろうと僕は思っているのですが、どうでしょうか。決意表明というか、覚悟のような気持ちを込めたつもりです。

「Nostalgia」という言葉から、どういうことをイメージするかは人それぞれだと思いますが、どちらかというと繊細で柔らかい印象があると僕は感じています。でも、この曲では無骨でタフで生々しい表現をしたかった。今までの人生で、色々なものを得て色々なものを失ってきましたが、それでもなおずっと変わらずに持ち続けているものを表現したつもりです。

また、この曲でバンドとしてのオフィシャルなビデオを初めて作りました。発端は『Nostalgia』のジャケットを写真家の世古君に依頼したことです。彼は僕達のショウの様子を海外ツアーも含めて撮影してくれていて、また、撮影以外の色々な面でもサポートをしてくれています。

彼の写真は、素朴だけど感情の奥行きや物事の本質が表現されていると僕には感じられます。決してオシャレではないし、悪く言うと野暮ったいのかもしれないけれど、僕は彼の作品が好きだし、OVUMの音楽とも共通点が多いと思います。

ジャケットのために数多くの写真を提供してくれたのですが、アートワークとして採用されたのは表ジャケットと裏ジャケットの2枚のみです。それ以外にも良い作品がたくさんあったので、それらを使ってビデオを作ろうと考えました。編集も世古君にお願いしました。シンプルですが、楽曲の本質を上手く表現したビデオになったと思っています。

2.The Nexus

Jinnouchi (Gt)が書いてきた曲です。新しい方向に進もうとする中で、彼も色々と試行錯誤していました。陣が弾くアルペジオが終始楽曲をリードしており、構造としてはシンプルですが、リズムの面での意匠やメロディーが聴き手に対して訴求力を持っている曲だと思います。

「The Nexus」というタイトルをつけたのも陣です。実は、タイトルについて彼の意図するところを掘り下げて聞いたりはしていないのですが、過去から現在、そして未来へと続く人生の中で変わることなく繋がっている芯のようなもの、信念のような感情を表現していると解釈しています。

3.Bleeding Grace

2014年9月のヨーロッパツアーから帰ってきてから作曲に着手しました。前作 『ascension』をリリースした後、最初に出来た曲になります。

作曲を始めた時点で、よりヘヴィな音を求めてギター、アンプ、ペダルなどの機材を全て入れ替えるつもりでいましたが、どれもそれなりに高価ですので一度に全てを揃えることができず(ローンまみれになりました…)、実際の音色を聴くことが出来ない状態での作曲に苦労しました。

僕は2バスを使う曲を書くのが初めてだったし、Tokuda(Dr)自身も2バスを叩いた経験がなかったので、実際に演奏可能なのかどうかも相談しながら作曲やアレンジを進めました。

とにかく自分のやりたいことを凝縮してやろうという意気込みに溢れていると思います。小さくまとまるのではなく、培ってきた経験と変わらずに持ち続けている蒼い情熱を生々しく形に出来たのではないかと思っています。

音楽から受け取った恩恵と、そのために支払った代償についての曲です。現時点ではこれまでに僕が書いてきた全ての楽曲の中で一番気に入っています。

余談ですが、楽曲の序盤のE-bowを使用したギターはLUNA SEAの「LOVELESS」への、7:43からのセクションのコード進行はXの「Rose of Pain」へのオマージュです。

―― 『Nostalgia』をリリースしてみて、また本作品の曲を中心に演奏するライヴにてこれまでと違った反応もあったかと思います。今後に関してはこの路線を突き詰めていくのか、またさらに変わっていくのか、現時点で展望はありますか。

次はフルアルバムのリリースを目指しており、新しい曲も徐々に揃ってきています。このEPからもタイトル曲の「Nostalgia」を収録するつもりです。

先の回答でも述べましたが、僕達は今回のEPと次のアルバムが地続きだと考えているので、アルバムはEPの延長線上にあるものになると思います。ただ、より表現の幅を広げる具体的なアイデアがいくつか浮かんでいるので、きっと聴く価値のあるアルバムになるはずです。

僕としてはようやくOVUMが鳴らすべき音を見つけられたような気持ちでいるので、しばらくはこの路線でいくのではないかなと思います。それに、過去を捨てて生まれ変わったというよりは、単純に新しい表現の方法を習得したという感覚なので、以前のようなアプローチも必要に応じて上手く活用できると思っています。

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―― 話をここで変えます。今年でOVUMは結成から10年を迎えますが、自身で振り返ってみていかがですか。

正直なところ、10年もやっているのにここまでしか来られなかったことがとても悔しいです。結局、僕達の力が足りなかったということだし、色々な面で甘かったのだと思います。今はまだ振り返るべき時ではないのでとにかく前に進んでいきたいです。

―― Presence of Soulにインタビューさせていただいた時も同じ質問をしていますが、あえて聞かせてください。海外公演を行うようになったきっかけについて。また、自分たちの音が国境を越えて広がっていると実感するのはどんな時ですか?

初めて海外で演奏したのは、2008年の台湾のFORMOZ FESTIVALでした。百景やMONOと同じステージで演奏しました。この時は先に百景の出演が決まっていて、彼らを経由して主催側に頼み込み、半ば無理矢理連れて行ってもらいました。

インストゥルメンタル・バンドである時点で海外を視野に入れることは当然で、活動を始めた時から海外で演奏することを夢見ていました。逆に日本だけで活動するメリットを見つけることの方が難しいのではないでしょうか。

それにインストゥルメンタルに限らず、特に最近のBABYMETALの快進撃などを見ていると、結局全てはコンテンツ次第で、それが日本語の歌ものであったとしても関係ないのだなと思わされますよね。

残念ながら、現時点では自分たちの音が国境を越えて広がっているという実感はありません。なぜなら、アメリカやヨーロッパの音楽ファンが思い浮かべるインストゥルメンタルのロックバンドのラインナップに、OVUMの名前はないと思うからです。僕は決して欧米至上主義ではありませんが、結局は欧米で認められないと世界規模のバンドになるのは難しいと思います。現時点では。

でも、これまでの海外でのツアーで実際に経験した、ライブを観てくれた人たちの反応が僕らの力になっています。ライブを観てもらえさえすればちゃんと伝わるということを、経験を通じて確信しています。それがあるから続けていこうと思うし、もっといろいろな場所に行きたいという気持ちになります。

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―― ChibaさんはOVUMを10年やってこられていて、他にも2013年にソロアルバムのリリースをしていますし、ギタリストとしての課外活動もありました。前述したように海外公演、それに国内外問わずに数々のバンドとの共演もある。それらを通して、さまざまな達成感があったと思うんですけど、音楽に対する情熱や追求心は尽きてない。そのモチベーションや想いはどこからきていますか。

先の回答と重複するかもしれませんが、僕は達成感というものをほとんど感じていません。

確かにいくつかの作品を残すことはできましたが、内容と評価に乖離があると思っていますし、そもそもきちんと聴いてもらえていないような気がします。僕はとても飢えています。

また、極論になりますが、仮に誰も聴いてくれなかったとしても僕は音楽を作りたいんです。もっと音楽のことを理解したいし、知りたいんです。でもまだまだ全然理解できたような感覚がないんです。楽器の演奏だって上手くなりたいですし。自分には伸びる余地が残っていると思っているので、いつだって向上させていきたいです。

―― 現段階では2年ぶりとなる中国ツアーが発表されてますが、最後に今後の予定をお聞かせいただけたらと思います。

中国ツアーの後は9月までライブの予定はありません。9月はロシアに行く予定です。とにかくアルバムのための作曲を進めて、年内には曲が出揃った状態にしたいです。

また、12月に今年の締めくくりとなる日本国内のツアーを予定しています。これについては整い次第情報を出していくので、是非ともチェックして欲しいですね。

OVUM ‐Information

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2年半振りとなる全3曲35分収録のNEW EP『Nostalgia』を3月にリリース。12 inch vinylとデータ配信(BandcampiTunes StoreAmazon Music等で購入可)。

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5月末から約2年ぶりとなる中国ツアーを予定。日程は下記の通り。

・05/27 – Zhuhai No.9 Livehouse
・05/28 – Guangzhou Live Wild Sky festival
・05/29 – Xi’an SPIRIT Festival
・05/31 – Hangzhou LINEOUT
・06/01 – Shanghai YYT
・06/02 – Nanjing Ola Art Space

OVUM ‐ Links

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