【アルバム紹介】A Swarm Of The Sun、心の奥底の風景を巡る荒涼とした美しい旅

 Erik NilssonとJakob Berglundの2人から成るスウェーデンのポストロック系デュオ。ポストロック/ポストメタル影響下にあるダークかつメランコリックなサウンドを主体に聴き手を魅了する。

 これまでにフルアルバム4作品とEP1作品を発表。最新作は2024年9月にリリースされた4thフルアルバム『An Empire』。本記事はフルアルバム4作品について書いています。

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アルバム紹介

Zenith(2010)

 1stアルバム。全10曲約50分収録。本作は2020年に10周年記念盤としてリマスター再発されていますが、その際に”サウンド、影響、コラボレーションを通じて自分たちのアイデンティティを探求し、それは長くて非常に重要なプロセスだった”と語っています。

 A Swarm of the Sunは、ポストロック7:ポストメタル3ぐらいの割合に位置するデュオ。そこにインディーロックやスロウコア、エレクトロニカ、ドローン、プログレ、映画サントラといった要素が組み合わさります。

 この自身の音楽性に関してはCVLTARTESのインタビューにて”明らかに、私たちはポスト何とかシーンのどこかに当てはまるのですが、それを何と呼べばいいのかわかりません。私は分類しにくいアートが好きなのです“と答えている。

 その上で特筆すべきは”哀愁と奥ゆかしさ”でしょうか。北欧の田園風景が浮かぶようなしっとりとしたギター、儚い雰囲気を助長する電子音を中心にゆっくりと織り上げ、そこに陰気で渋い歌声が乗る。

 冒頭を飾る#1「Lifeline」を始めとしてGod is An Astronaut辺りの影響が垣間見えますが、いわゆる静と動のクレッシェンドは控えめ。ポストメタル的な重厚さが表出する#3「Refuge」や#7「The Worms Are Out」はあれど、全体を通して暗鬱で思慮深い雰囲気が守られています。

 また本作では”歌もの”という身近なアクセス経路も全10曲の半分を占め、10分を超える表題曲#5を除けば平均して約4分の尺に収めているので入りやすさはあります。#2「This One Has No Heart」や表題曲となる#5「Zenith」がは特にこのデュオらしい個を発揮。しんみりと儚い余韻に浸れます。

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The Rifts(2015)

 2rdアルバム。全9曲約51分収録。本作では他に5人のサポートが参加しており、ミックスとマスタリングは同郷の重鎮であるCult of LunaのMagnus Lindbergが務めています。

 海底神殿で巫女が祈りを捧げているような厳かなイメージが浮かぶ。そんな重厚でシネマティックな作品です。荘重なピアノや淡いギターの響きを軸としたインストを基調とし、ここぞという場面で出てくる渋い歌声を重ねていくのは前作と同様。

 スラッジメタル風のリフでまれに地鳴りを起こしつつ、デリケートな音響で美しい物語を奏でています。例えるならCult of Lunaの傑作『Vertikal』からスラッジ色を薄めて野獣の雄叫びをなくし、ポストクラシカルやサントラの要素でしばらく漬け込んだ感じでしょうか。さらに海外のレビューではダークでKatatoniaを引き合いに出されていたりする。

 なかでも9分に及ぶ#2「Infants」は、彼等の音楽性を1曲に凝縮したような楽曲。ポストロック/ポストメタルの上昇アプローチをメソッドに、重く美しい音像が聴き手の意識を一気に取り込んでいきます。他の楽曲にしても、近未来を想起させるプログラミングやクラシカルな音色が、鈍い煌きと厳かな空気感をもたらしています。

 さらに極めつけは10分を超える#8「These Depths Were Always Meant for Both of Us」。GY!BEやMONOのような悲しみと混沌の果てを見せる轟音響から、心身に染みこむような渋い哀愁を残しながら終わっていく、一際インパクトの大きな楽曲となっています。

 ちなみに本作は”心と魂の最も深い部分を通過する厳しくて美しい旅路であり、バンド史上で最も暗くて最も感情的なアルバム“とBandcampで記されている。

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The Woods(2019)

 3rdアルバム。全3曲約38分収録。長年のコラボレーターのひとりであるKarl Daniel Lidénがミックスとマスタリングを担当。順に13分、13分、12分という3つの大曲を並べた作品です。

 印象としては、より厳かで慎重なテクスチャーを重視。ぼんやりと流れるように音の起伏を刻んでいますが、常に不安が襲ってくるような陰鬱さが傍らに存在しています。いずれの3曲も強烈なクライマックスにゆっくりと向かっていく轟音系といえそうなものの、その道のりは厳粛なムードに包まれている。

 もの悲しさに支配されたトレモロギターやストリングスを配置しながら、大音量化していく#1「Blackout」からして忍耐を要します。表題曲#2「The Woods」では途切れ途切れに挿入されるささやき声や聖堂のような奥行きを与えるオルガンの装飾から、一気にMONOを思わせる大音量が押し寄せる。

 #3「An Heir to the Throne」にしても希望の欠片すら落ちておらず、儚さと残酷さの狭間で揺れながら音が鳴っています。まるで人生の苦みを感じさせるように。

 作品としては前作『The Rifts』と比べると間違いなく閉じている。しかしながら、瞬間風速的なものが求められる現世において、芸術とは時間をとって味わうことというデュオの姿勢が表れています。

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An Empire(2024)

 4thアルバム。全6曲約71分収録。リリースインフォによると”4つの異なる楽章で語られる全6曲の物語”。それについて具体的な言及を現在のところ発見できてませんが、おそらくは曲尺を考えると#1~#2、#3、#4~#5、#6という4楽章にグループ分けされると思われる。

 内容的には前作『The Woods』の影響が引き続くものですが、ずっと喪に服しているような暗く沈んだドローンが強化されています。本作は18分の曲をふたつ含むこともあってより長尺に。そして儀式的で荘厳。

 コアメンバー2人に加えた6人編成でパイプオルガンやシンセサイザーなどの音を鳴らしているのに、暗闇の最深部を映しているかのように色味は抑えられています。抽象と葬送のミニマリズムが大半をしめ、生気が抜けてしまった歌声が重なる。

 決して急ぐことはなく、長い時間をかけて音の移ろいを表現。こちらのインタビューでは”この長さは芸術的選択からきている”と話していますが、ハイライト/切り抜き/ショート動画の断固拒否という姿勢は崩していません。その長さゆえに忍耐か没入か、というのは人によって分かれるところでしょう。

 しかしながら、肉体性を得ていく大音量化もあって抑揚はしっかりと設けられています。ただそれすらも沈黙への抵抗という感じの趣があります。例えるなら希望が訪れないGY!BE、あるいは轟音ドローン部分を抽出したSUNN O)))のような。

 緊張感とダイナミクスに溢れた先行シングル#5「The Burning Wall」は7分台ということもあり、ある種の踏み絵。それがA Swarm of the Sunによって建造された夜明けのない帝国の巡礼への一歩。

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プレイリスト

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