【アルバム紹介】Explosions In The Sky 静から動へのダイナミズムの真髄

 1999年にテキサス州オースティンで結成されたインストゥルメンタル、ポストロック4人組。Michael James(Gt)、Munaf Rayani(Gt)、Mark Smith(Gt)、 Chris Hrasky(Dr)のオリジナルメンバーでずっとずっと歩み続けています。

 ライヴはサポート1名を加えた5人体制が多い。2001年リリースの2ndアルバム以降はアメリカのTemporary Residence Limitedからリリースを続けています。

 静から動へ移り行くいわゆる轟音系ポストロックの先駆者のひとつとして、世界各国から高く評価されています。真摯なインストゥルメンタルは、万人の心を強く打つもの。

 特に2003年リリースの3rdアルバム『The Earth Is Not a Cold Dead Place』は世界各誌のオールタイム・ベスト・ポストロックにランクインすることが多い名盤として語り継がれています。

 本記事はオリジナルアルバム6枚とサウンドトラック1枚の計7枚について書いています。

 わたし自身、ライヴは計4回観ていますが(2012、16年のフジロック。17年の単独公演@名古屋、19年のAfter Hours)、音源をはるかに超えてくる体感がそこにはあるので、気になった方はぜひライヴを味わってほしいと思っています。

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アルバム紹介

How Strange, Innocence (2000)

 記念すべき1stフルアルバム。全7曲49分収録。まだTemporary Residenceと契約する前であり、Sad Loud Americaレーベルから発売した唯一の作品。 Temporary Residenceからのちにリマスター再発されています。

 インストゥルメンタル/ポストロックの00年代の中核を成していくことになる彼等。本作でその片鱗を見せつけます。アルペジオの反復、静から動への遷移と爆発。歌はなくとも雄弁なストーリー性。

 その確立された轟音ポストロックの様式を用いており、ドラマーのChris Hraskyは最も影響を受けたバンドとして、Mogwaiをインタビューで挙げています。

 アルバム全体から受ける印象は、もの悲しさでしょうか。#1「A Song For Our Fathers」の寂しさと孤独感を増幅するような単音ギターのフレーズが木霊し続けてるからか。

 #3「Magic Hours」の低域をゆるやかに泳ぐベースラインのせいでしょうか。しかしながら、両曲共にため込んだ感情を解放するように大きな爆発の瞬間が訪れます。その刹那がもたらす至福は、今日まで至るEITSを聴き続ける理由につながっていきます

 粗削りという部分もありますけど、本作はもっとデリケートな側面を持っています。後半に躍動感を増していく#4「Look Into The Air」、アコースティックな感触が強い#7「Remember Me At The Time Of Day」といった曲でアルバム全体のバランスを取りながら繊細な表現が光っています。

 彼等自身のスタイルは早くも確立していますが、轟音は少し控えめという印象は残りますかね。

 そして、Explosions In The Skyの伝統がぎっしりと詰まった#6「Time Stops」 。序盤はひたすらに穏やかな進行が続いていくも5分手前辺りから急変し、何かに駆り立てられるようにドラミングが加速し、流麗なギターも騒々しく荒れ狂うように姿を変えていく。

 大音量を浴びることで得るカタルシス。プロトタイプといえるかもしれないこのデビュー作でも、EITSの魅力は十分すぎるぐらいに伝わります。

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Those Who Tell the Truth Shall Die, Those Who Tell the Truth Shall Live Forever (2001)

 約1年8か月ぶりとなる2ndアルバム。全6曲約49分収録。本作のリリースからTemporary Residence Limitedとズブズブの関係が始まります。

 タイトルは直訳すると”真実を述べる者は死に、真実を述べる者は永遠に生きる“という意味。アルバムは大きく2編に分かれており前半3曲がDieに、後半3曲がLifeに紐づいています。

 死を迎えるというタイトルを冠した#1「Greet Death」からスタートする本作。険しく不穏な空気感が通底しています。そして、前作に引き続く一貫した/定型化したスタイルで楽曲は生み出されている。

 #1では意味深な静寂からわりと早いタイミングで轟音のスイッチオン。リミットを超えていこうとするような大音量へ発展しながらも、繊細なギターフレーズをちりばめてしっかりと物語を編み上げています。

 続く#2「Yasmin the Light」は3rdアルバム『The Earth~』に昇華されていくような3本のギターによる美しいハーモニーが鳴らされます。この曲に限らず他の曲でもそうですが、作品にて多用されるマーチングドラムはバンドを象徴する技法のひとつ。

 #3「The Moon Is Down」は怒りの葡萄で知られる作家、ジョン・スタインベックの『The Moon Is Down(邦題:月はは沈みぬ)』に感化されたものらしく、前作のようなもの悲しさと小さな爆発を有する10分近い曲に仕上がっています。

 後半となる#4「Have You Passed This Through Your Mind?」では映画『シン・レッド・ライン』のセリフの引用があり、唯一の肉声入りの曲。Godspeed You! Black Emperorからの参照といえそうで、重苦しさを伴うヘヴィネスが鼓膜から襲い掛かってきます。

 これまた印象的なマーチングドラムからスタートする#5「A Poor Man’s Memory」は、後半で荒れ狂うノイズの嵐にさらされることになる。しかし、タイトルを訳すと貧乏人の記憶ってのが(苦笑)。

 そして、12分に及ぶ大曲#6「With Tired Eyes, Tired Minds, Tired Souls, We Slept」で作品は締めくくられます。本作をまるまる1曲で解釈するとこうなるのかと思える、EITS流ポストロックの壮大さを体現した1曲。夜が明けて希望の朝を迎えたかのようなまろやかなクライマックスには、感動が押し寄せるものです。

 生と死、光と闇、善と悪といった相反するものを丁寧にかつ大胆に表現した本作。キャリアを通しても一番重みを覚える作品ですが、前述した内容を描こうとするから必然的にそうなったのかもしれません。

 ちなみにPitchfork Mediaでは8.9を獲得しており、全アルバム中で最もスコアが高かったりします

The Earth Is Not a Cold Dead Place (2003)

 約2年ぶりとなる3rdアルバム。5曲約45分収録。 どの曲も8分越えています。Chris Hraskyによると”The Earth Is Not a Cold Dead Place”のタイトルは、「人生が非常に混乱しているという考えから生まれた」ものだそうです。

 また当時は暗い時代で、「このレコードは世界の美しさにしがみつこうとしているようなものだ」とも述べています(wikipediaより)。

 Explosions In The Skyといえば本作という人が多いのではないでしょうか。前作で感じたアルバム全体を覆う重苦しさや不穏なムードが明け、音のきらめきや美しさの方にベクトルが向かっています。

 聴いたひとりひとりの生命を輝かせるようにそのアルペジオは鳴り、リズムは刻まれる。さらなるシンプル化/整理されたと感じますし、それゆえのインスト・ポストロック基本型が示された作品ともいえます。実際にMogwaiよりもわかりやすいひな形は、多くのフォロワーを生み出しました。

 #1「First Breath After Coma」からギターがリードする豊かなサウンドスケープ。澄み切った美しさと温かさがあり、静寂から轟音へという遷移も滑らかに行われています。

 #4「Six Days at the Bottom of the Ocean」は2000年のクルスク潜水艦事故にインスパイアされた曲で「アルバムで最も暗い瞬間」と答えているそう。ただ、前作ほどの暗さは感じさせません。

 わたしがEITSの中で一番好きな曲が最後を飾る#5「Your Hand In Mine」。甘美と悲痛な瞬間が入り混じったギターが幾重にも重なりあいながら、あまりにも尊いエンディングへと向かっていく。この曲を聴いていると毎回毎回、涙腺が緩む。それほどに感動させられる曲です。インストでありながらもパワフルでロマンチックな説得力に満ちている。

 #2「The Only Moment We Were Alone」は最も重要曲といっても過言ではありません。EITS印のポストロック・ダイナミクスがキャリア通して一番に振り切れている楽曲。

 わたしが参加した4回のライヴ(2012,16年のフジロック。17年の単独公演、19年のAfter Hours)でいつも最後に演奏された曲。3本の美しいギターの連なりから途轍もない轟音へと飛躍し、バンド名通りの爆発が味わえます。

 聴き手に様々な情景を浮かばせる、様々な感情を抱かせる。心の真芯を捉えようとするその音塊は、人生に彩りを与え、人生に寄り添うサウンドトラックのようです。

 本作は、Fact Magazineが2016年に発表した”The 30 best post-rock albums of all time“の20位に選出。また、Kerrang!が2020年に発表した”16 Of The Greatest Post-Rock Albums“にも選出されています。

All of a Sudden I Miss Everyone (2007)

 約4年ぶりとなる4thアルバム。全6曲約44分収録。2005年に『Rescue』という実験的作品をリリースしていますが、シークレット・アルバムという立ち位置なので今回は割愛しています(のちに追加するかも)。

 全くと言っていいほどブレません。奇をてらいません。EITS黄金法則のもとで育まれる静と動のダイナミズム。3本の流麗なギターの呼応、マーチング・ドラムの躍動という根幹の上で巧みに描きあげられる真摯なストーリー。

 物語の創造主として彼らは一歩二歩も抜きん出ています。バンドを代表する1曲となった#1「The Birth and Death of the Day」からして地を制圧し、空を制圧し、天を制圧しようとする音の結晶です。

 曲に関しては4分から14分近い曲までばらつきがあるのが特徴です。短く完結を迎える曲の中にあっても劇的な瞬間は盛り込まれています。

 後半に激しく燃え上がる#2「Welcome Ghosts」があり、その直後には13分30秒にわたってゆっくりと感傷の渦に巻き込んでいく#3「It’s Natural to Be Afraid」が控える。それでも一貫しているのはシンプルな美しさを伴っていることです。

 これまでから追加されている要素としてピアノの調べがあります。本作では#4「What Do You Go Home To」と#6「So Long, Lonesome」にて使用されていますが、五月雨のようなギターの旋律に絡み合うことで美しさが引き立っています。もともとドラマティックさとスケール感を併せ持っているバンドですが、さらに豊かさを獲得することとなりました。

 ライヴにおいて定番曲となっている#5「Catastrophe and the Cure」も収録。この手のバンドにみられるポストロックどんどこ祭が開催され、昂揚感が高まる1曲です。

 全体を通しても生の力強さと繊細な美しさが同居する作品。常に真っすぐに向き合い、純粋な音の力でもって感動に誘ってくれるEITSだからこそ、マンネリと言われようが心のうちに響くものがあるのです。

Take Care, Take Care, Take Care (2011)

 約4年ぶりとなる5thフルアルバム。全6曲約46分収録。

 先行披露された#3「Trembling Hands 」が3分半という時間の中に、力強さと優美さをソリッドに収録した曲だったので少し驚きました。ただ、こうして全貌を把握すると芯は何も変わっておりません。

 愚直なまでに静から動へと転換していく王道ポストロック/インストゥルメンタルです。これはもはや譲れない矜持であり、伝統の芸術様式を守り続けています

 前述の#3を除くと全て7分~10分という時間をかけ、ドラマティックな物語をゆっくりと丁寧に織り上げていきます。シンプルで正攻法なアプローチ。ですが、まさにこれだけを真摯に磨き上げてきた彼等だからこそ成せる劇的な音楽。

 ここまで純度の高い物語性を擁する作品を創り上げる辺りは、もはや職人芸。丹念なアルペジオの旋律、たゆたい飛翔するトレモロが叙情の稜線を奏で、虚空に轟くフィードバックがストレートに心身に響きます。

 しかし、そういった中で本作ではコーラスを取り入れるという定型外の挑戦も果たしています。逆に前作で取り入れた鍵盤は鳴りを潜めている。4人が鳴らす生身の音に向き合い立ちかえったことはバンドの自信の表れでしょうか、胸の深い部分にまで伝わってくる印象はありますね。

 伸びやかなギターフレーズと強いリズムの胎動が煌びやかな夜空を飛翔する#1から勇ましくも荘厳なラストトラック#6まで、彼等の魅力を存分に味わえる作品です。

 他のバンドが自らの領域を拡げていく中で、EITSは脇目も振らずに自身の武器を超一級品にまで磨きあげていく事を選び続けています。そうした姿勢を貫いた本作にもまた人々の悲しみを諭すような慈愛と優しさがあって、染みるのです。

Prince Avalanche O.S.T(2013)

 Ola Podridaというソロ・プロジェクトで活躍中のDavid Wingoとの共作による、デヴィッド・ゴードン・グリーン監督の「Prince Avalanche」のサウンド・トラック。

 EITSがサントラを手掛けるのは「Friday Night Lights」以来、実に9年ぶりのこと。

 さすがに共作&サントラということで、いつもの彼等の音楽というわけにはいきません。今年の頭の方に出たMogwaiのサントラもそうでしたが、静寂と叙情が紡いでいく穏やかな時間を心ゆくまでに嗜む作品であるといえるでしょう。

 アコースティック・ギターの柔らかな響きと優美なピアノのフレーズを軸に据えて、 丹念に編み上げていくことで全体を通して繊細なトーンでまとめています。

 David Wingoは自身のソロ・プロジェクトでフォーキーな唄ものをやっているそうですが、本作では彼の作風に寄りそう形で、そこにクラシカルな趣がプラスされている印象は強い。

 また、精霊のようなコーラスや電子音を取り入れた楽曲は、映画のイメージを膨らませるのに一役買っているし、黄昏の哀愁や淡い情緒が奥ゆかしく作品を彩っている点も良いですね。

 なかでもタイトなドラムを先導役にして、コーラスやホーンの音色を交えながら本作でも随一のダイナミックなサウンドを聴かせる#13「Join Me On My Avalanche」が特に印象的。

 1~2分台の曲が多いのも手伝って全15曲約38分の物語は滑らかに流れていきますが、上品で味わい深い作品であり、清冽とした音の余韻もまた美しい

The Wilderness (2016)

 実に5年ぶりとなる6thフルアルバム。間には3枚のサントラ作品に関わっていますが(僕が聴いてるのは1枚のみですが)、それが良いバカンスになった模様です。

 というのも自らが火付け役の一翼を担った伝家の宝刀「静寂から轟音へ」のパターンからは脱却。さらには曲をコンパクトに設計するなど、今までにない変化が聴けるのです。

 ビンテージ風のシンセや瑞々しいピアノの音色を有効活用し、そこに加算される彼等らしいメロディは優しさと温かさに満ちています。表題曲#1「Wilderness」や#3「Tangle Formations」を中心にそれは感じ取れるはず。前述したようにタメてのドッカーンは、ほぼありません。

 打ち込みの要素を昇華しながら、柔らかく情景が移ろっていくような新しいEITS像を確立しています。サントラを通した表現の拡張。そこには静パートへの探求があったのかもしれませんし、響きの重視があったのかもしれません。

 さらに#5「Disintegration Anxiety」や#7「Infinite Orbit」におけるミニマリズムからはBattlesの影響を感じたり。#8「Colors in Space」はクラウトロック~サイケ~プログレといった温故の産物と言った印象で、ラストを飾る#9「Landing Cliffs」は清冽かつのどかに最後を彩っています。

 全体を通せば少しシリアスで実験性を感じ取れるのですが、かつてのサントラで受けた控えめな印象を新しい表現を取り入れることで、豊かさに持っていく辺りは長年のバンドの積み重ねなんでしょう。

 ダイナミックな展開がなくても、デリケートゾーンまで徹底した精巧な音響の構築で楽曲間の連続性につなげ、じっくりと聴き入ってしまうような作品に仕上げる。そう、ここにあるのは空中爆発の先のお話なのです。

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3rdアルバム。

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