【アルバム紹介】Elephant Gym、マスロックと友愛

 2012年に台湾で結成されたマスロック系トリオ。Tell(Gt)とKT(Ba)の兄妹にChia-Chin(Dr)の3人編成で世界を股にかけて活躍中です。

 toeをリスペクトするポストロック/マスロック系インストを出発点に、音楽性をどんどんと拡げており、台湾から国境を超えて音楽で人々を結びつける。日本ではフジロック’22やりんご音楽祭’18への出演。単独ツアーも成功を収めています。海外ではTopshelfと契約を結ぶ。

 本記事では現在までに発表されているフルアルバム4作品+ライヴアルバム1作品について書いています。

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アルバム紹介

Angle(2014)

 1stアルバム。ミックスとマスタリングはtoeの美濃隆章氏が担当。そのtoeをElephant Gymは”ロールモデル”とQeticのインタビューで語っており、影響は端々に感じられます。

 おもちゃ箱を開けたような#1「Intro」から続く#2「Day Time」は、涼やかなメロディと心地よい進行の上に柔らかい歌声が乗る。この曲は歌を除けばギターにtoeを感じまくる。

 #3「Games」ではEnemiesやPele等も浮かび、クリーンでメロディアスな印象は一層強まります。だからか変拍子や凝った構成を取っていても、風通しが良い。また丁寧な歌ものから楽器的な声の使い方、鍵盤を使った曲もあります。

 #9「Frog」ではLITEばりにバキバキ・マスロックを提供。#11「Swan」では台湾のSSWであるPanai Kusuiと共に伝統をミックスしたフォークソングを生み出しています。

 ただ単にトリオ編成に限定せず、インストという枠に収まろうともしない。その柔軟性が作品の瑞々しさと清涼感に繋がっています。音源としてはバランス的にtoeの2ndアルバム『For Long Tommorow』は近い存在かもしれません。

 ポストロック/マスロックの尖った部分は活かし、同時に滑らかな聴き心地を実現している辺りが凄い。

メインアーティスト:Elephant Gym
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Underwater(2018)

 2ndアルバム。「”Underwater “は、ある種のプライベートで神秘的な空間についてのアイデアだと説明し、没入感をテーマにしているという(Bandcampより)。

 また、3人それぞれがひとつの楽曲について作曲からプロデュースまで担当。各々の個性を発揮することで作品の豊かさに繋げたとSpincoasterのインタビューで語っています。

 Elephant Gymの個性を大事にしつつ音楽面での拡がりは確か。基盤としてマスロックは散耳されますが、楽曲はしっとりとしている。コンセプトにあるように心も身体も水中深くに沈みこんでいく感覚を持つと言えます。作品全体通してもムードが重視されるようになっている。

 鍵盤の登場回数が増えて少しダークさも加えていますが、十分にフィット。だからかmouse on the keysっぽさを感じ、「Half」は特にその印象が強い。

 ヒップホップやジャズ、シティポップ要素の積極的取得、加えてコラボレーションも盛んで、進化するために欠かせなかったバンドの多様性を担っている。「Shell」において前作同様にゲストVoと共に台湾の伝統を重んじていますし、日本へのリスペクトが伝わるWONKのKento NAGATSUKAやYeYeの起用もあり。

 バンドは常々、平等性を大事にしていると言います。音楽面でバランスを取りながら開拓の道を歩む。それでも、作品に通底するしなやかなグルーヴが心地よい。

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Audiotree Live(2018)

 アメリカ・シカゴにある音楽レコードレーベル、Audiotreeで収録のライヴ盤。全5曲約24分収録。

 Elephant Gymを最も手短に知るには、本作が一番適しています。選曲は演奏当時のベストといえる5曲。

 しっとりとしたダークな質感と水面を優雅に進んでいくように流麗に展開する#1「Underwater」でスタートし、お得意のベース・タッピング等の超絶テクを堪能できる#2「FInger」に流れ、mouse on the keysを思わせる鍵盤をフィーチャーしたエレガントな展開美#3「Half & Body」と続く。

 ライヴ盤ではより滑らかに、より感情的に。本作はYouTubeにてライヴ映像として確認できますが、#2の途中でKTがヘッドフォンを投げ捨てて演奏に没頭するシーンが日本でバズったり。

 後半はバンドのトレードマークといえる軽快なマスロック#4「Spring Rain」、ラストはお馴染みの#5「Galaxy」で締めくくられる。バンドの魅力が凝縮し、入門編も兼ねるライヴ盤です。

メインアーティスト:エレファントジム
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Dreams(2022)

 3rdアルバム。夢をテーマに音楽面は前作より色彩豊かになり、明るくにぎやか。コラボレーションの相手も歌い手だけでなく、”Chio Tian Folk Drums And Art Troupe”という民族太鼓集団、Kaohsiung City Wind Orchestraという楽団にも及ぶ。連携を通じて新しい領域の開拓は本作でも続きます。

 冒頭を飾る#1「Anima」は木管楽器がメロディを生み出し、#2「Go Through The Night」でtoeの楽曲「Two Moons」をサンプリング。

 日本向けにchilldspotの比喩根さんが作詞と歌唱を担当した#3「Shadow」と続き、バンドがさらに広い間口を用意していることが伺えます。NMEのインタビューによると「自分たちの好きな音をすべて”集める”ことを実現したアルバム」とTellは語っている。

 また本作には中国語、英語、日本語、客家語(中国大陸の広東省・福建省・江西省を中心に話されている言語)の4つが使われており、「台湾の人たちが話す言葉の集まり」とのこと。

 #4「Witches」の歌詞はシェイクスピアの戯曲『マクベス』から引用されていたり、楽団とのコラボが伝統へのリスペクトと音楽を聴く歓びを与えてくれます。

 前衛的ポストロックといった表現に近づくも、豊かさと遊び心が本作のキー。ジャンルを越えてというのはもちろんですが、Elephant Gymは”楽しく芸術する”という精神を持ち続け、きっちりと楽曲へと反映する。

 そして、”音楽を通じた国境を越える友好”をバンドは願う。フジロック’22のステージを現地で見れて良かったです。

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WORLD(2023)

 4thアルバム。全9曲約32分収録。デビュー10周年を飾る作品です。プレスリリースによると、”Worldというタイトルは、バンドが世界的に活動するということのみならず、様々なジャンルや境界線を越えていったことも示している。国境、人種、国籍、性別、音楽的ジャンルなどの限界を越えていかんとする想いが込められている”とのこと。

 作品を重ねるごとにゲストが増えており、本作にいたっては単独名義は2曲のみ。オープナー#1「Feather」から台湾のR&BシンガーのWhyteと共にしっとりと聴かせ、林以樂とコラボする#8「Happy Prince」ではこれまでで最もポジティヴで弾けるようなポップナンバーを届けています。

 マスロックは下地にあるとはいえ、前作に続いてそのフィールドでは語り切れない間口の広さ。ギター、ベース、ドラムのコア部隊の確かな演奏技術を支えに、声やピアノを呼び水にして聴き手を上手く誘い込んでくる。

 Elephant Gymはすっきりとした聴きやすさがあり、凝った音楽という認識には決してなりません。ポップを機能させ、鼓膜からなめらかに音符が入ってきて喜びと昂揚感を掻き立ててくれます。アルバム全体の足し引きのバランス感は良いし、亀田誠治やTENDREを迎えた日台友愛精神も変わらずに嬉しいところ。

 そして、私が参加した2022年のフジロックで体感することができたホーン・セクションを迎えてのリ・アレンジ3曲(#5~#7)も堂に入っている。

 オリジナル作といいつつ実質は編集盤というか総集編というかそんな立ち位置の作品には感じますが、10年を超える活動の中で作品を重ね、世界を巡ってきた経験が詰め込まれています。

ポニーキャニオン
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プレイリスト

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