【アルバム紹介】色々な十字架『少し大きい声』

 バンドの中心人物である”tink”ことティンカーベル初野氏が開催した自身の2020年のエイプリルフール企画。そこから誕生した90’sヴィジュアル系リバイバル・バンド5人組。

 ただのネタだったはずが楽曲を発表すると軽くバズってしまい、group_inouのimai氏やスーパーカーのナカコー氏に注目されたこともあって本腰を入れて活動することに。

 2021年、2022年と続けてワンマン公演を成功。2023年7月に1stアルバム『少し大きい声』を元気で笑顔が輝くレコードより発売。本記事は同作について書いています。

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アルバム紹介

少し大きい声(2023)

 1stアルバム。全11曲約45分収録。ウソから始まったはずなのに90’sヴィジュアル系リバイバルを見事に体現するバンド、色々な十字架。これが”っぽい”じゃなくて”ちゃんとヴィジュアル系”なんです。マキタスポーツ氏がちょっと前にやってたFly or Dieのようなコテコテなパロディよりも、はるかに風通しが良いし、聴いてて清々しい。

 CDJournalのインタビューで各楽曲の影響元が語られていますが、90年代~00年代前半のヴィジュアル系を平準化してトレース。幻想性・疾走感・メロディアスという三要素が詰まった”耽美なりしし†音楽性”が貫かれています。

 #2「蜜」、#4「TAMAKIN」にその特性はよく表れており、無理して寄せにいっている印象がなく、自然体でヴィジュアル系の美学を表現している。BUCK-TICK~MALICE MIZERチックなデジタル要素を押し出す#6「機械仕掛けの変態」が用意されてますが、変化球はあくまでこの曲だけに留めています。

 逆に00年代中期辺りから流行っていくゴリゴリのヘヴィネスやデスボイスは本作に登場しません。90年代の懐かしし†ラインを突く絶妙さは曲作りの上手さゆえのものでしょう。

 そんな美しし†を引き出す音楽面があるにも関わらず、そのファンタジーは歌詞によって壊されます。ヴィジュアル系のフォーマットからはあえて遠ざかっており、ゴルゴダの丘に行くこともなければ、薔薇の聖堂を拝むこともないし、青い血からは程遠い。

 それよりもカレーだし、かき揚げだし、なんなら田んぼの水です。詞では”耽美なる”のかけらもないジジィ、ババァ、ガキの連呼。道徳の授業を受けてこなかったのかと疑ってしまうぐらい口が悪い総合商社と化してます。HEY!HEY!HEY!にもし出たとしたら浜田さんにどつかれる系。

 作詞を手掛けるtink氏は、リアルサウンドのインタビューによると『すごいよ!!マサルさん』を始めとした人気漫画で知られる・うすた京介先生の影響が大きいとのこと。だったらお昼はゆで卵とメガネ弁当に限りそうですが、それは置いときましょう。

 品のない歌詞とあの頃の空気感/音を再現する演奏の化学反応は、色々な十字架の最大の魅力です。大人の遊び心と同好会感覚。だからこそ紅に染まった我々を引き寄せるのです。セーブデータを消される覚悟で聴いてみて!

お読みいただきありがとうございました!
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