1989年に結成された5人組バンド、LUNA SEA(ルナシー)。
90年代から2000年にかけての大活躍し、終幕。REBOOT後となる2010年代からはコンスタントに活動を続けており、ヴィジュアル系の発展、ならびに日本のロックシーンに多大な影響を与え続ける。
最高傑作とされる94年作『MOTHER』を始めとして、オリジナルアルバムは10作を数えます。1999年、日本では初となった10万人という大規模のライブを成功させています。
本記事ではオリジナルアルバム10作品+3作品の計13作品について書いています。
アルバム紹介
LUNA SEA(1991)
1stアルバム。全10曲38分収録。インディーズ時代唯一の作品。バンド名にある通りに、月と海が溶け合うような幻想的な美しさを持つのが彼等の特徴のひとつ。
しかしながら本作では若さゆえの荒々しい衝動、スターダムにのし上がろうとする気概に満ち溢れています。
ただ本人達がネタのように”音が非常に悪い”と口にしています(笑)。クリーントーンによる透明感のある美しさ、SUGIZO氏のヴァイオリンは初期から披露。
それよりも“狂気”が聴き手を正気でいさせなくなるぐらいに強烈。XやDEAD END辺りの影響下にあることを伺わせるものの、ハードコア寄りの印象が強い。
RYUICHI氏の鬼気迫るヴォーカルはメジャー以降と比べると刺々しく、この後にいかに優しい人間になっていったかがわかる。”今は、ラララ。狂って痛い”と歌っていたのに。
#6「BLUE TRANSPARENCY 限りなく透明に近いブルー」は、村上龍氏が芥川賞を受賞した同名小説にインスパイアされている。SUGIZO氏のディレイギターの原点といえる#9「MOON」も存在感が大きい。
初期衝動と譲れない美徳、ジャケット通りのヴィジュアル・ショックが本作にある。初期を代表する重要曲#2「TIME IS DEAD」、#10「PRECIOUS…」収録。
IMAGE(1992)
2ndアルバム。全12曲約54分収録。メジャーデビュー作にして、ヴィジュアル系が百花繚乱化していく諸々の種が詰まった作品です。
前作の荒々しさや衝動性はやや薄れましたが、メジャー移行による洗練と人々を惹きつけるマニアックな部分が光る。
代表曲#2「Dejavu」は仄かに狂気を帯びながらメロディアスな疾走を聴かせ、ヴィジュアル系の王道といえる礎を築く。#5「Image」や#7「IMITATION」における耽美と神秘性は次作『EDEN』に引き継がれていくものがある。
#3「MECHANICAL DANCE」には中盤のベースソロからギターソロという聴きどころと共に妖艶/狂気のダンスが開演。
#9「SYMPTOM」は美しいムードが一変して嵐に巻き込まれたかのようなダークな攻撃性、ツタツタビートによってヴィジュアル系発狂ソングの原点を作り出しました。ツインギターは多彩な表現力で幅広くなった曲調を支え、RYUICHI氏の声は刺さる鋭利さがこの頃はまだ勝っています。
終盤には、リメイクされたことで壮大さと神秘性を帯びた#11「MOON」、LUNA SEA殿堂入り曲#12「WISH」がSLAVEとの絆をつなぐ。
きめ細かなメロディとインディーズ期の衝動が融合し、美学が一気に開眼した作品と言えます。
EDEN(1993)
3rdアルバム。全11曲約48分収録。楽園のごとし。ポップになったと評される作品ですが、影ができないほどに清冽な光をあてようとする。クリーントーンを中心とした音の構築は神秘的な美しさ、独特の浮遊感を漂わせます。
RYUICHI氏の歌声は狂気をひた隠しにし、包み込むような柔らかい表現へと向かう。オープニングを飾る#1「JESUS」が最も攻撃的な曲ですが、透明感のあるメロディは組み込まれています。
以降の曲は儚さと神秘的な雰囲気が漂い、単純なポップとは一線を置いている辺りはLUNA SEAの美学。
垣間見せる刹那の衝動や狂気を上手く利用しながら、各人の放つ音がメランコリックに調和。美を純化して一層磨き上げています。
#2「BELIEVE」の煌びやかさと神聖さを携えての疾走を筆頭に、#4「RECALL」のような幻想的なバラードがあり、本作における変化の象徴といえる#7「IN MY DREAM」が大らかなポップ曲として存在する。
シャッフル調のリズムを用いた#8「STEAL」、弾けるようなポップさと疾走感が伴った#11「STAY」という試みもあり。前作からベクトルを変えて描かれた夢の世界、それはロマンティックな美をまとっている。
MOTHER(1994)
4thアルバム。全10曲約48分収録。#1「LOVELESS」の神々しい幕開けから世界は変わる。そして、繰り出されるヴィジュアル系世界遺産#2「ROSIER」が世界を切り拓く。
前作には希薄だったヴィジュアル系の狂おしいトーンを内包し、澄みきった光と退廃的な闇が混在。曲調はこれまで以上のバラエティに富む。結成初期からの想像/創造性がここにきて爆発しています。
ゴシックとインダストリアルの深みにはまる#3「FACE TO FACE」、前作の延長上にある優美なメロディが降り注ぐ#6「AURORA」、デジタルエディットを交えながらパンキッシュな衝動と共に突っ走る#7「IN FUTURE」。
ひとつひとつの楽曲は個性的でありながらも、不思議な一体感を持ち、相互に存在感を高め合う。細部におけるLUNA SEAとしての表現の追及。と同時にマニアックに寄り過ぎない大衆性も兼ね備えています。
だからこそヴィジュアル系の教典/王道と言われるべき作品になりました。終盤はチャート1位を初記録したシングル#9「TRUE BLUE」を経て、#10「MOTHER」で壮大な締めくくり。
『MOTHER』は5人の創造と融合が奇跡的に嚙み合ってできた月と海の伝説。ヴィジュアル系のみならず、日本の音楽界においても宝のような作品。
STYLE(1996)
5thアルバム。全11曲約60分収録。前作を超えなければいけない苦悩の中で放たれた作品です。おぼろげでいて重厚な#1「WITH LOVE」をスタート地点にして、様々なスタイルがひしめき合う。
らしさが凝縮した疾走チューン#2「G」、変拍子を主体に退廃的で浮き沈みがある#4「RA-SE-N」、かつてのLUNA SEA最長曲であった儚いバラード#6「FOREVER & EVER」。
前半は意図的にミディアムテンポが中心。暗く重い雰囲気をつくりあげています。演奏陣のグルーヴは練度を増す一方で、曲自体は明らかに難解さが増す。
『MOTHER』とは別世界へ向かっており、それが当時の使命だったかのようにマニアックな音作りと精神性を支えています。初期の狂気と終末論を振りまく#7「1999」を着火点にして後半は、視界が開けていく感覚があります。
#8「END OF SORROW」と#9「DESIRE」のヒット曲が聴き手を迎え入れ、#10「IN SILENCE」がプリズムのような輝きを乱反射する。
こだわり、苦しみぬいた先の構築美である『STYLE』は『MOTHER』を超えたと評する声もある。締めくくりの#11「SELVES」からは、安易な着地点よりも複雑な感情を聴き手に残して終える。
その混沌としたわからなさこそが本作の醍醐味だというように。
SHINE(1998)
1年間の活動休止(各自ソロ活動)から復活後初となる6thアルバム。全13曲約69分収録。わたしが初めて聴いたLUNA SEAのアルバム。
ソロ活動期間を終えてバンドが復活したら、RYUICHI氏が”河村隆一”としてLUNA SEAに加入したという事実が思いのほか大きかった。それは後に過去作をさかのぼって聴いて知れたこと。
最大のヒットシングル#2「STORM」、ドラマ主題歌の珠玉バラードということでモノマネされる際に最もチョイスされる#5「I for you」という人気シングル曲を収録。
ということで1番売れたオリジナルアルバムでもありますが、最も批判を集めている作品でもある。その不思議。
理由としては、前述したように河村隆一化したRYUICHI氏の活かし方の模索。そして、アルバム自体がミディアムテンポの歌ものが多く、冗長になりすぎているきらい。
壊れそうなほどの切なさは詰まっていても、かつての狂気じみたものが無くなってしまったことでしょうか。ヴォーカルの変化に合わせにいった結果、マイルド化したLUNA SEAという印象は拭えないです。
その中でも、珠玉バラードってむしろこれじゃないかと言わしめる名曲#12「BREATHE」の存在が際立つ。しかし、1998年にヴィジュアル系ブームを勢いづけた作品として功績は大きい。
LUNACY(2000)
終幕前最後となる7thアルバム。全11曲約58分収録。”LUNACY”は結成当初のバンド表記。“改めて初心に戻る、そして新たな第一歩”という意味で付けられたそうです。
しかし、ヴィジュアル系的な様式美からは離れている。作品としての世界観よりもメンバーそれぞれの趣向が強く出ています。常に新しい場所へと向かおうとする姿勢は最後まで貫かれている。
#2「Sweetest Coma Again」と#4「KISS」にはDJ CRUSH氏が参加してミクスチャーロックへの機運を高め、新機軸として機能。
インダストリアルなイントロから重厚なロックを轟かせる#8「a Vision」、重と美の間を華麗に行き来し続ける#9「FEEL」もまたそちらに属す曲でしょう。
野心と変化を信条とするバンドの精神性は、変わらない。終幕前の各人のバチバチ感はどこか感じる。
ですが成熟したグルーヴと歌があり、#5「VIRGIN MARY」や#11「Crazy About You」のバラードは10年かけて得た優しさと包容力があります。
幻想的な美しさとダウナーな雰囲気を持つ#3「gravity」、INORAN氏が最も主役となるライヴ定番曲#10「TONIGHT」という終幕直前の代表曲も収録。
PERIOD(2000)
終幕直前にリリースされたベストアルバム。全15曲約75分収録。全曲リマスタリング。#11「BELIEVE」、#12「Dejavu」、#13「PRECIOUS…」、#15「WISH」の初期4曲は再録されています。
97年リリースされた『SINGLES』と同じように、シングル曲中心に収録。活動休止から復活した98年以降のリリースが多めで、前述した初期曲も含まれる。
ラストシングルとなった#1「LOVE SONG」が幕開けに配置し、最大のヒットソング#2「STORM」で一気に加速する。他の楽曲に関してもLUNA SEAがレジェンドであったことを裏付けるものばかりです。
しかし、再録曲に関しては、昔の方が良かったというのは否めないですね。RYUICHI氏の狂気の薄まりもそうですが、楽器陣もどこかエッジが失われている感があります。
円熟味からくる柔らかさがプラスされているので、この辺りが評価がわかれそうなところです。ちなみにこの作品は20世紀最後のオリコンチャートで1位を獲得。
LUNA SEA(2011)
91年のインディーズ作のセルフ・カバー作品。全10曲約44分収録、原盤のパンク~ハードコアの狂気や衝動性は薄まっています。
余計な改編等はせずに、順当なアップデートという印象。さすがに20年分の経験と貫禄とが加えられると表現力が違う。スカスカだった録音もさすがに段違いの質ですしね。
ややマイルドで落ち着きのある落としどころにはなっていますが、RYUCHI氏のヴォーカルが全時代を経たうえでの歌唱となっているのが頼もしい。
ヴィジュアル系の流儀となっていく妖艶なるダークネスと耽美性を、アダルトな魅力を備えた状態で表現しているところが良いですね。
特に#9「MOON」の壮大な物語は本作にて完結したと思えるほどのできあがり。また、#10「PRECIOUS…」は『PERIOD』の再録を忘れさせる疾走感と力強さが重なり合う素晴らしさがあります。
20年をかけた完成形と言うのは難しいですが、結局は昔も良かった、今も良いという結論になるセルフカバー作品。
A WILL(2013)
約13年5カ月ぶりとなる8thフルアルバム。『A WILL』というタイトルは遺言を意味しているそうで、SUGIZO氏いわく”2度目にして最後の1stアルバム”。
端的に言えば、LUNA SEAらしさが溢れた作品であり、ファンが望んでたような作品です。先行でリリースされてきたシングル4曲(#2、#3、#6、#10)から、みながイメージするLUNA SEAがこれでもかと表現されていました。
REBOOTの重圧をはねのける制作意欲を源に、かつてを思わせる勢いと重厚さ、洗練・熟成された構築美が生まれています。
疾走感のある力強いロック、味わい深い叙情的なミディアム・チューン、甘美で壮大なバラードまで的確なバランスで作品を構成。
透き通るようなクリーン・トーンのギターとRYUICHI氏の見事な歌唱が映える#4「MARIA」、COTDを思わせる疾走曲#8「Metamorphosis」、ヴァイオリンがフィーチャされた#9「銀ノ月」など佳曲ぞろい。
SUGIZO氏がbridge誌のインタビューでは”とにかく感謝と愛情が詰まったアルバム“と表現していましたが、「もう輝けない」なんて言ってほしくないほどに力強い音が本作で鳴り響いています。
NEVER SOLD OUT2(2014)
結成25周年を記念しての2枚組ライヴ・アルバム。REBOOT後のテイクを中心に収録しており、前回から漏れた曲もしっかりと拾っていますが、定番曲で仕方ない被りがある。
また、既に映像化された曲も含まれています。ですが、LUNA SEAのライヴへのガイドとしては最適。
DISC1はさながらライヴの疑似体験ともいえる曲順。07年の一夜限りの復活公演であるOne Night Dejavuの#1「LOVELESS」に始まり、14年前にタイムスリップしての#2「Dejavu」で加速し、その後も名曲のオンパレード。
最後は定番の#13「WISH」でひとつになる締めくくり。
一方のDISC2の方はというとわりとコアな楽曲が揃っています。#6「BROKEN」や#7「My Lover」辺りが選出されており、90年代のテイクも多く収録(5/8)されているから彼等の変化を感じ取りやすいかも。
なかでも最後を締めくくる#8「THE ONE -crash to create-」が際立つ。もう輝けないどころか、輝きは月のごとく永遠にと言いたくなるライヴ作。
LUV(2017)
9thアルバム。全11曲約60分収録。大黒摩季さんがコーラスとして3曲に参加。LUNA SEAらしさを追及した前作からすると、光と闇の両側面から浮かび上がらせた愛とポップさがあります。
リード曲となった#1「Hold Your Down」が分厚いアンサンブルとエレクトロニクスが溶け合い、本作中で最も明るい光を放つ。
その流れを汲むポップサイドの楽曲が並び、ロック色の強い楽曲にしても彼等らしいエッジがやや削がれた感じがあります。そのため、賛否両論の作品です。
モータウン風味の#3「誓い文」、ポストクラシカル風味を塗したクラブミュージック「Ride the Beat, Ride the Dream」という新機軸。
クールな疾走感で暗闇を駆け抜ける#5「THE LUV」、LUNATIC FEST2018で実際に体感して度肝を抜かれた壮大なプログレ曲#7「闇火」が控えており、LUNA SEAの影となる部分は切り離していない。
作品としては終幕前の『SHINE』と『LUNACY』の合成からの進化という印象があり、円熟した表現と感性で応える温かい愛が全編から溢れています。
ラストを飾る#12「BLACK AND BLUE」は音楽で世界の人々を救おうとするメッセージ性に富んでいる。
CROSS(2019)
約2年ぶりとなる10thアルバム。全11曲約54分収録。初めて外部プロデューサーを迎えた作品で、グラミーを5度受賞したスティーヴ・リリーホワイトとの共同制作。基本的には前作のポップ路線を継続しています。
U2イズムが浸透したスタジアム・ロック#1「LUCA」からスタート。シンセ/ストリングス/ピアノを交え、豊かな起伏の中でひたすら壮大に高みを目指していく#2「PHILIA」が鮮やかに世界を彩る。
30年に及ぶ熟練のグルーヴの上に重なり合う優美さ、浮遊感がこの上なく柔らかな雰囲気を生み出しています。音が一層上品になったという感覚があり、ジャケットのような聖性とした白がイメージとして浮かび上がる。
唯一パンチのある疾走曲となった#3「Closer」、SUGIZO氏特有のディレイギターが堪能できる#6「宇宙の詩」には、90年代のLUNA SEAを彷彿とさせる部分があります。
後半はバラード・コーディネーターとして才覚を存分に発揮。ヴォーカル、演奏共にどんどんと熱量を上げていくパワーバラード#10「静寂」、アコースティック調で切なさが際立つ#11「so tender…」という終盤は、悲痛さと美しさがせめぎあう。
30年に及ぶ熟成。大人のロック。
どれを聴く?
読んでたら興味が湧いたけど、LUNA SEAはどれから聴けばいいの??
鉄板なのは『MOTHER』ですね。ヴィジュアル系云々よりも日本のロックの金字塔ともいえる作品と言われています。
聴きやすい点で選べば最新作の『CROSS』は大人のロックという感じで、LUNA SEAの円熟を示しています。