【アルバム紹介】PassCode、激動と情熱のピコリーモ系グループ

 2013年に大阪で結成されたエレクトロニコア系4人組グループ、PassCode。愛称はパスコ。現在のメンバーは南菜生さん、高嶋楓さん、大上陽奈子さん、有馬えみりさん。長らくスクリーマーとして大きく貢献した今田夢菜さんは2021年8月に勇退。

 初期はアイドルソングをやっていたそうですが、2014年に新たにエレクトロ+メタルコアのサウンド(日本ではピコリーモともいわれる)を軸としたサウンドへ。バンドとアイドルの垣根を壊しにかかる音楽性とライヴでファンを獲得。

 2016年にメジャー・デビュー。それに伴ってライブがサポートバンドを引き連れた生演奏へ変更。各音楽フェスやロックバンドとの対バンも積極的に出演。

 2022年に日本武道館公演を開催。これまでに5枚のフルアルバムを発表。本記事では1st~4thアルバム、再録アルバム『LOCUS』の5作品について書いています。

 パスコの単独公演は個人的に平成最後のライヴ鑑賞だった2019年4月29日のZEPP NAGOYA公演を拝見。他はフェスにて。FREEDOM NAGOYAで2回(15、16)、サマソニ東京で2回(17、18)。意外と黒原さんがいた初期を見ていたりします。

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アルバム紹介

ALL is VANITY(2014)

 1stアルバム。全10曲36分収録。当時のラインナップは黒原優梨さん、南菜生さん、高嶋楓さん、今田夢菜さんの4人。プロデュースは発起人でもある平地孝次氏(以降、全ての楽曲に携わる)。

 結成当初はKAWAii曲をやっていたそうですが反応が得られず、すぐに封印。代わりにエレクトロニコア(日本でいうピコリーモ)を主体とした音楽性は早くも固まっており、パスコの土台がここに築かれています。

 平地氏がもともとやっていたラウド系バンドのDaylight Seasonの要素を引き継ぎ、アイドルに掛け合わせている。代表曲のひとつ#4「Club kids never die」は同バンドのカバー曲です。

 聴いていてFear, and Loathing in Las Vegasが真っ先に浮かぶラウド+EDMサウンドに、シャウトやブレイクダウンといった揺さぶり、たこやきよりもレインボーなシンセで頭をスパークさせにきます。

 そして初期は、オートチューンをあまり用いずにアイドルポップスとしてのかわいらしい情感を残している。

 とはいえメリーゴーランドに乗ったつもりが、ジェットコースターでした的な#2「激動プログレッシブ」や#8「アスタリスク」を始め、急転直下の複雑な展開が多くて刺激にあふれています。

 BiSの「ODD FUTURE」を彷彿とさせるような儚い美しさと疾走感にジャジーなパートも盛り込んだ#10「Link」の名曲ぶりにも脱帽。

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VIRTUAL(2016)

 2ndアルバム。全12曲約42分収録。大上陽奈子さんが加入して、唯一のオリジナル・メンバーだった黒原さんが脱退(脱退前の約2カ月だけ5人体制)。新たにSiMやcoldrain等を手掛けた原浩一さんがマスタリングを担当。

 前作で培った土台にきちんと地に足を着けて正しく諸要素を積み上げています。バンド好きとアイドル好きの垣根を破壊するラウドさがあり、目まぐるしすぎる展開があり、パリピの生産体制も整ったシンセのまばゆさがあり、あまりに強烈なシャウトがあり。

 それらが本当に何段階もレベルアップを遂げています。冒頭を飾る#1「MOON PHASE」からPassCodeの銃弾は威力増で、ちゆな様(今田夢菜さん)のシャウトは特に凄まじい進化。

 全体的には展開過多のピコリーモに無事着していますが、でんぱ組.incっぽい#4「ドリームメーカー」や和の要素を押し出した#5「NINJA BOMBER」等の存在でキめすぎないための遊び心が良い感じに作用しています。

 ここが勝負どころと踏んでしっかりとクオリティの高いものをメンバーも運営も提供してきてくれたのは頼もしい。

 カッコいいアイドルとしての鮮烈なる証明であるエレクトロニコア#2「AXIS」、”僕らが当たり前に過ごして生きていること 噛みしめてけ”と歌う#8「Now I Know」は今の時代に沿える強さを持っています。

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ZENITH(2017)

 3rdアルバム。全12曲約46分収録。昨年にメジャー・デビューを果たして、ツアーの動員も増し増し。ですが、PassCodeは大衆にこびず。大阪で叩き上げでやってきた自分たちの武器を一級品に磨き上げています。

 チャラさを助長するシンセ、ゲーム音楽のようなプログラミングをラウドな生演奏に混合。そこにオートチューンをかけた歌、強烈なスクリーム、崩しのラップを繰り出していくスタイルはさらに本格化。

 逆にアイドルらしいポップス要素を意図的に減らしているようで、女性も男性も憧れるだろうカッコよさを追及しているように感じます。

 先行シングル#4「ONE STEP BEYOND」や#11「MISS UNLIMITED」はらしさが凝縮した急転急転のピコリーモ・エクスプロージョン。

 他のグループと一番の差別化となっているのはスクリームをちゃんとメンバーがやっていることですが、ちゆな様は叫ぶ女としてどんどんスゴみを増しています。彼女の場合は、非常に感情的なスクリームであるのが聴き手をより熱くする。

 途中で三拍子の展開や和のテイストが入った#7「Same to you」、爽やかな歌もの#8「カタルシス」で曲調の幅はつくっていますが、エレクトロニコアという筋が一本通っています。

 それにデジタルなトーンがかなり強くても、PassCodeにはアスリート的な肉体性と情熱が宿っていることも特筆すべきことです。そして何よりも硬派であること。メジャー進出後の1stアルバムとして名刺代わりに申し分なしの作品。

メインアーティスト:PassCode
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LOCUS(2018)

 インディーズ時代の1stアルバム『All is Vanity』と2ndアルバム『VIRTUAL』からライブ定番曲を中心に9曲を選曲し、現体制で再録したアルバム。そこに新曲#10「PARALLEL」を加えた全10曲約37分収録。

 BARKSのインタビューによると”1stアルバムのころは平地プロデューサーの家でマイク前に毛布を置いて防音したりして録っていた”そうですが、そんな苦労を笑って話せるのはグループが大きくなった証拠。

 現在の録音環境とライブのサポート・バンドによる生のサウンド、風格が出てきたメンバーの歌唱表現を基にした『LOCUS』は明らかにパワーアップ。

 キーワードとして浮かび上がるのは”ライヴ感”ですが、アレンジもそのように変化しています。#2「激動プログレッシヴ」はイントロのコーラスがなくなり、逆に#8「Club Kids Never Die」は野郎声のコーラスが追加されており、ライヴでの模様をそのまま反映。

 アコースティック主体で聴かせる楽曲に魔改造された#6「Now I Know」だけは様変わりしていますが、様々な困難と鍛錬に向かってきた現在のパスコで、過去曲を最大限に活かした作品に仕上がっています。

 アイドルポップス的な側面を残す#7「KISSの花束」や#9「Seize the day!!」が選曲されている辺りも、音楽を自由に楽しめるグループとしての姿勢が表れている。

メインアーティスト:PassCode
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CLARITY(2019)

 4thアルバム。全13曲約49分収録。タイトルには”これまで築き上げてきた確かな自信を胸に、この作品が照らす未来(光射す道)を、迷いなく突き進んでいく”という想いが込められています(リリース情報より)。

 『ZENITH』がメジャーデビューということでパスコの名刺代わりに、システマチックで統一感のあるエレクトロニコア・グループを貫いた作品でした。

 OKMusicのインタビューによるとメンバーは”自由でカラフルさのあるものにしたい”という意向を伝えていたそうですが、本作は前作を踏まえた曲調の幅広さがアピールポイント。

 その象徴が南菜生さんが作詞したバラード#7「horoscope」になりますが、マスロック風のギターリフが踊る#4「4」やポップパンクにEDMの洗礼を浴びせた#6「THE DAY WITH NOTHING」など新しい風を吹かせている曲を多く収録。

 オートチューンを減らして4人の個性をわかりやすくしたり、インディーズ期の遊び心やポップ要素も加えられる。ですが1曲の中にテーマパークのアトラクションを3~4つ詰め込んだエンターテイメント性は変わっていません。

 彼女たちの光の歌である#3「Ray」、一線を越えたスクリームと目まぐるしい転調が衝撃的な#5「Taking you out」、そして「Seize the day!!」のパーツを組み込んだメジャー進化版として現在のライヴ終盤を飾ることが多い#8「It’s you」といった重要曲を収録。

 激しさは少し削いだとはいえ、コアな部分はそのままにアップデートを果たしていてファンをより獲得できる1枚に仕上がっています。

メインアーティスト:PassCode
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STRIVE(2020)

 5thアルバム。全12曲約46分収録。2020年5月にはBring Me The Horizon「MANTORA」をカバー。また本作にも収録のシングル『STARRY SKY』がオリコン週間シングル・チャート1位に輝くなどのトピックがありました。

 ”今回はふたつのアルバムのいいところを取ることでアップデートしたいと思ってて、『CLARITY』みたいな幅広さもありつつ、『ZENITH』みたいな激しい曲もある新しいものにしたいと思ってました”とRolling Stone Japanのインタビューで平地氏が回答。

 #1「SPARK IGNITION」から始まるPassCode流儀のピコリーモなおもてなしは、安定と信頼の品質を前述の通りにアップデートしております。

 渋滞するような音の情報量なのにしっかりと交通整理して、キャッチーに誘導しているデザイン性。セオリー通りの進化とセオリーを裏切る楽しみがあり、決して一筋縄ではいきませぬ。

 BABYMETAL意識?なアラビアン・テイストが散りばめられた#4「Seize Approaching~」、異国情緒レイヴ・ミュージック+メロディック・パワーメタルの#7「Stealth Haze」が以前とはまた違うユニークさを加味。

 そして軽やかなポップさと昂揚感を運ぶ#6「ATLAS」や#8「STARRY SKY」といった2枚のシングルが、彼女たちの広い入り口の手助けになっています。ピアノ主導で4人の歌声のハーモニーが堪能できる#11「Yours」も重要な場面を担う。

 生の歌声やユニゾンでの歌唱が増え、機械的には抑制できない生身の感情や表現が出ています。にぎやかなデジタルの質感が大半をしめていても作品ごとに増しているのは、彼女たちの人間味。

 そして不測の世界的な感染症が世の中を蝕んだ2020年にあっても、自分たちらしくライブへ向けた作品であることは変わりません。なかでも#9「Anything New」は新たなアンセムとしてチームPassCodeと人々をつなぐアンセムとなっています。

メインアーティスト:PassCode
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PassCode THE BEST -LINK-(2021)

 今田夢菜さんが2021年8月3日を持って勇退したことで、それまでの軌跡をまとめたベストアルバム。後任にはすぐに有馬えみりさん(元LADYBABY)が加入。新体制としてスタートを切っている。

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どれから聴く?

パスコに興味が出たけど、どれから聴けば良いの?

オリジナルアルバムですと、4thアルバム『CLARITY』がオススメです。より幅広いアプローチが取られ、それでいて攻撃性とキャッチーな部分がうまく共存しています。どの曲?というとまず「Ray」を聴いてみてください。

そしてベストアルバムですね。グループの足跡をたどるのには間違いないベスト盤。

プレイリスト

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