【アルバム紹介】sads、変化を続けたロックンロール

 1999年1月に黒夢が無期限活動休止後、ヴォーカル・清春氏がすぐに結成した新バンド。1999年7月にデビューシングル『TOKYO』で鮮烈なインパクトを与えると、同年9月には1stアルバム『SAD BLOOD ROCK’N’ROLL』を発表。

 翌年にはシングル曲「忘却の空」がドラマ主題歌になったこともあって大ヒットを記録。その後も黒夢と同じく生き急ぐようにリリースとライヴを重ねていく。

 しかし03年7月にベスト盤を発表以降は、声明も無く自然消滅的な感じで活動休止。10年に清春さん以外のメンバーを一新して活動再開。再開後は2枚のフルアルバム、1枚のミニアルバムをリリース。コンスタントなライヴ活動を行うも2018年を持って活動を終えました。

 本記事は全フルアルバム7枚について書いています。表記はSADS、サッズ、sadsとその時々で変わっていますが、スリムクラブ・内間氏がこのツイートで本人に指摘されたとのことで、ここでも”sads”にしています。

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アルバム紹介

SAD BLOOD ROCK’N’ROLL(1999)

  1stアルバム。全13曲約48分収録。黒夢の無期限活動休止から8カ月ほどでのリリース。デビューシングル#10「TOKYO」は冒頭の歌詞で前バンドへの惑いを吐露し、TOKYOを狂った街に認定して鮮烈なインパクトを与えました。

 作風は黒夢『CORKSCREW』からの地続きといえる内容であり、新バンドながらそこまで距離を感じることなく楽しめます。

 SADSはパンキッシュさよりもタイトルにある通り、”ロックンロール”という言葉がしっくりくる。実際に清春さんはこちらのインタビューで「黒夢は青春でSADSが僕のロックンロール」と話す。

 彼の歌唱にも大きな変化はなく、ビブラートを中心にクセは相変わらず凄い。#1「LIAR」は甲高いギターの音と軽快なビートで疾走するアルバムを象徴するような1曲であり、#2「TRIPPER」や#4「HONEY HONEY」などシンプルな攻撃性と怖いものなしで走ることが多い。まるでロックンロール無敵状態。

 なかでも#7「Mr.YA」は黒夢感強め。#5「Loveless Lover」や#12「憂鬱という名の夢」といったミドルテンポの楽曲は、ギラツキと勢い重視の作品に憂いをもたらしています。

 さらにラスト曲#13「Happy」は後にリメイクされたり、ライヴで最後を飾ることが多かった名曲です。

アーティスト:SADS, その他:清春, その他:SADS, その他:土方隆行, その他:平出悟
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BABYLON(2000)

   2ndアルバム。全17曲約67分収録。池袋ウエストゲートパークの主題歌に起用された#8「忘却の空」がスマッシュヒットを記録したことが影響して(水曜日のダウンタウンでもネタにされていた)、チャート1位を記録。

 1stとは僅差ですが、SADSで一番売れたアルバムです。

 紫の蝶が誘うマニアックな世界。導入部として1曲目にSEを配置することが関連作で久しぶり。そして#2「PRAYER」の妖艶な歌と退廃的なグルーヴが早くも聴く人をふるいにかける。前作の勢いは残しつつ、サイケデリックな色合いやゴシック~グラムロックが艶やかに発光。

 シャッフルのリズムや民族音楽っぽい要素が入ってきたり、歌も楽器もブチ切れたテンションを炸裂させる#12「STUCK LIFE」~気だるい#13「Sad Pain」の高低差など、随所に前作とのベクトルの違いを明確化。

 明快なロックンロールよりもドロドロと粘質的な部分が強まっていて、後のソロ活動の音楽に通ずる部分も感じられます。

 「忘却の空」と同時発売シングル#5「ストロベリー」は重苦しくもポップな仕掛けを施したサウンドに清春節と言える声が重なる。本作を象徴するような楽曲です。

 SEの#14で本編を締めくくり、既発シングル「赤裸々」や「SANDY」がボーナストラック(ライヴのアンコール?)の意味合いでその後に収録。コンセプトを譲らない点にこだわりを感じます。

アーティスト:SADS
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THE ROSE GOD GAVE ME(2001)

   3rdアルバム。全13曲約56分収録。メンバーチェンジ、レコード会社を移籍したことで”リアル・ファーストアルバム”と謳われた。わたしがsadsの中で1番好きな作品です。

 作風がコロコロと変わるのは黒夢から続くものですが、幕開けの#1「Hello」からメタリックな重みが襲ってくる。全体通してヘヴィロック+グラムロック的なサウンドが支配し、9割ぐらい英語詞を採用していることで洋楽ナイズされたインパクトを与えます。

 メンバー交代によるリズム隊の骨太さが際立ち、ギターもダウンチューニングでずっしりと重い。ヴォーカルは狂気と大人のフェロモンが噛み合わさった表現が光る(#12の語りは何とも言えないが)。

 初期・黒夢の狂いに扇動されたダークさとはまた違う、グラマラスかつ官能的な暗さとヘヴィネスが全編を覆っています。

 ゴリゴリのサウンドの上を淫靡に揺らぐ#6「Porno Star」はSADSだからここまでキまる。あまり取り上げられないけど、本作はこの界隈のヘヴィネス化現象に先走って貢献した1枚だと思っています。

 ちなみに#2「Hate」と#3「See A Pink Thin Cellophane」を09年1月29日の黒夢・再結成公演で演奏。西川貴教氏に気が狂ってるとネット番組でつっこまれていた。

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untitled(2002)

 4thアルバム。2002年に行われた全131本に及ぶロングツアーの各所、ファンクラブの通販で手に入れるとこができた完全自主製作盤(現在は一般流通)。ということで基本・ライヴ会場限定販売が示すようにライヴ感を意識。

 前作のヘヴィネスを引き継ぎつつもヘヴィというよりは、”ラウド”という言葉の方が似合います。それはソリッドになった楽曲の印象がそうさせるのか。

 そして2作続いた全体を通すコンセプト作の雰囲気は薄まり、もっとラフな手触り。性急なビートで畳み掛けてくる#1「MAKING MOTHER FUCKER」からして荒々しいロックンロールに身を任せよと言わんばかりです。

 疾走曲が大半をしめ、タイトルの割には凶悪な暴走チューン#11「Thank you」もまた興奮状態へと持っていく。しかしながら、息苦しさをおぼえる歌ものヘヴィロック#6「サロメ」や哀愁と退廃的の狭間を行き交うミディアム・チューン#10「AWAKE」は2ndアルバムに収録されていそうな雰囲気がある。

 振り幅をもたせつつ、ライヴへの意識を最前線に置くとこういう作品に仕上がるのか。ぷらちなロンドンブーツのテーマ曲に起用された#8「GHOST」を番組もよく観ていたことも手伝って当時によく聴いていましたね。

アーティスト:SADS, 作曲:SADS, オーケストラ:SADS
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13(2003)

 5thアルバム。全13曲約57分収録。元々メンバーの入れ替わりが激しいですが、前年のロングツアーでの精神的な疲労も加わり、メンバー間が険悪な状況下でレコーディング。

 『13』は清春1人と3人という意味合いらしい。前作『untitled』からミックス違い4曲とリアレンジ1曲を加えて、曲数を13へ持って行った感じ。寄せ集め感が否めないのはそのため。

 しかしながら、本作でトピックとなるのがアコースティックという新境地。前年のツアーからアコギを持って清春さんがステージに立ち始めたとのこと。

 #2「Sherry」や#5「Beside you」、#13「Everything」といったメロディアスなバラードが存在感を放つ辺りが新鮮。逆境の時こそ道が切り拓かれるとはこのことで、彼のソロへつながる種が蒔かれています。

 一方でヘヴィサイドもちゃんと機能しており、#11「Fairy’s Malice」は休止前最後の渾身の一撃といえる楽曲です。とはいえsadsの全アルバム中、統一感を欠いた作品でもあるのは事実。

 バンドは同年7月にベストアルバムを発表し、活動継続を模索するも事実上の活動休止。清春さんはソロとして始動していくことになります。

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THE 7 DEADLY SINS(2010)

 6thアルバム。全10曲約36分収録。SADSがデビューシングルを発売した7月7日発売、7年振り、(ベスト盤を含めると)7枚目と7にこだわっているのがひとつのトピック。

 清春さんはソロ活動の傍らで黒夢を復活させました。sadsも同時に活動再開してメンバーは一新。

 路線としては『THE ROSE GOD GAVE ME』が近いですね。重量級の楽曲を取りそろえ、英語詞と日本語詞を7:3ぐらいの割合で置き、ダークな風合いが強い。

 K-A-Z氏のギターがヘヴィメタルのニュアンスが強いことに違いはあるが、悪意と毒気のあるヘヴィロックを掻き鳴らしています。

 そして、速い曲が多いのも特徴。若い連中には負けまいと重量感と切れ味の両刃をしっかり研いできていることが、再始動することへの覚悟と決意が表れています。

 加えてバンド型の激しい清春さんを求めていた方にはうれしい、攻撃的なシャウトやシアトリカルな表現がふんだんに用いられる。

 タイトルからして極悪モードの疾走曲#1「EVIL」や#7「VENOM」、マリリン・マンソンを彷彿とさせる#2「GOTHIC CIRCUS」など強力な楽曲が揃う。

 翌年の黒夢・再結成第1弾アルバムはデジタルチックな意匠が目立ったので、十分に差異はついている。sadsの方が獰猛でヘヴィに牙を剥いていたわけです。

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FALLING(2018)

 7thフルアルバム。全10曲約39分収録。清春さんが50歳となる2018年、バンド活動自体に区切りをつけたために本作がラストアルバム。心境に関してはBARKSのインタビューで詳しく語られています。

 最後もまた変化の道を辿る。sads流儀のヘヴィネスは健在ながらも、打ち込みが前面に出てきています。さらにはミドルテンポの曲を中心として、哀愁を漂わせる歌が中心となっている。

 そういった電子音のエッセンスを使用してのモダンさもさることながら、黒夢のシングル「KINGDOM」でも感じた、ポストロック/ポストメタル寄りの重量感と浮遊感が時に巧く使われている印象があります。

 しかし、清春さんのヴォーカルがあることでsadsでしかない魅力として昇華。

 冒頭を飾る#1「arch」、続く#2「freely」にしても変化は如実ですが、最後だからという気負いや力みはなし。新境地に踏み込みながら淡々とsadsを全うしている感は強い。

 そして最後の最後に#10「smily sadly」みたいな鮮やかで開放感のあるダンスナンバーで終える。未来を予感させるこの曲を置き土産にできること自体が凄い。そんな潔い最終作。

 なお通常盤にはセルフカバーアルバム『erosion』が付属しています。こちらも聴き逃しなく。

どれを聴く?

sadsに興味がわいたけど、どれから聴いたらよいの?

黒夢と同じく、作品ごとにスタイルが変わるので難しいところはあります。

ひとつ選ぶなら、大ヒット曲「忘却の空」の収録とパンクからサイケ~ゴシック~グラムロックと縦横無尽に行き交う2ndアルバム『BABYLON』がオススメです。

プレイリスト

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