【アルバム紹介】東京酒吐座はTokyo Shoegazerへ

 ex-Plastic Treeのササブチヒロシの生誕祭を機に生まれたバンド名通りのガチ・シューゲイザー・プロジェクト。2010年に本格始動。

 バンド名は遊び心かもしれませんが、音自体は”ぼくのかんがえるさいきょうのしゅーげいざー”を確実に形に落とし込んでいます。

 他のメンバーはPresence Of SoulのGt.菅原祥隆さん、ex-殻のGt.渡辺清美さん。あとのメンバーは転々としてしまいましたが、創初期にはPresence of SoulのVo.YUKIさんも参加していました。

 アルバムは2枚発表して、ベーシストの脱退を機に解散を表明。2013年にその幕を閉じました。それでも、コアな人気を獲得していて、アルバムは生産枚数が少なかったというのもあれど、わりと高値で取引されていたり。

 彼等は新メンバーを迎えて2019年に復活を宣言。海外ツアーに挑戦するなど、意欲的に活動に取り組んでいます。

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アルバム紹介

crystallize(2011)

   元Plastic treeのドラマー・ササブチヒロシを中心に結成された新バンドのデビュー作。My Bloody Valentine、Ride、Chapterhouseといったシューゲイザーの偉大な先人達への憧憬を形にしています。

 まさしく東京酒吐座(トウキョー・シューゲイザー)。バンド名のサウンドを体現したものです。端的に表せば ”ゴシック体の太字でシューゲイザー!”って書いたような感じでしょうか。

 揺らぎのある音像、夢見る轟音フィードバック、メロディの洪水は、シューゲに対する想いの強さがしっかりと伝わります。近年のネオ・シューゲイザーというニュアンスも含んでいるし、ポストロック的な感性を持った表現にドリーム・ポップとしての機能性をも加味。

 また、acid androidの渡辺清美さんやPresence of soulのYUKIさんがいることで、儚さと後ろめたさが強調されている気がします。

 思わずディーパーズが頭をよぎった歪んだギターとドライヴ感が強烈な#1には驚かされます。轟音ギターと男女Voが甘く溶け合うハーモニーがあまりにも心地よい#2「Just Alright」に心奪われたし、YUKIさんの柔らかなヴォーカルとメランコリックに彩色されたサウンドに惹かれっぱなしの#3「Bright」もとても情感豊かに響く。

 儚く優しい序盤から大らかな包容力を持つ力強い轟音が鳴り響くラストの#7「Back To My Place」もまた秀逸。

 目の覚めるようなこのダイナミックなサウンドスケープを維持しながら、全体通しても陽性のニュアンスが強く、温かさや慈愛を感じさせます。そんな本作はシューゲイザーの心、浪漫が形になった至福を味わえる一枚。

 ちなみにユニオンで購入したら特典CD-Rが付いてきて、そちらは#5「Waltz Matilda」のライヴ音源と透き通るような美しいサウンドが白昼夢へと誘う未発表曲を収録している。

turnaround(2013)

 ヴォーカルを務めていたYUKIさんの脱退、ZEPPET STOREの五味誠さんの加入等の変更を経た2ndアルバム。ミックス・エンジニアには新メンバーの五味さんとMUCCのミヤさんが担当している。2019年に復活を果たしたものの、フルアルバムはここで止まっています。

 バンド名にある”シューゲイザー”という基本軸は、当然ながらそのまま。その上で女性ヴォーカル脱退の影響から、イチマキさん(BP / ex-COALTAR OF THE DEEPERS)、 miyuさん(Royal cabaret) 、尾苗愛さん(POLTA)といった女性ヴォーカルをゲストとして迎えてます。

 轟音に溶け込ませ、美麗なるシューゲイザーを突き詰めていく。澄んだアルペジオのリフレイン、甘さと毒気を孕んだような男女ヴォーカル、爆発するフィードバック・ノイズ。白昼夢へと誘うシューゲイザー・サウンドは全く揺らいでません。なかでも、cali≠gari 桜井青さんの詩をイチマキさんが可憐に歌い上げる#2「Tasogare Perspective」は、透明感のある音色と程よい疾走感が手伝い、とても心地よいです。

 ベクトルが外を向いた音響構築という印象を受けるのは、#4や#6といった曲の存在だろう。cali≠gari/GOATBEDの石井秀仁さん、BorisのAtsuoさん、成田忍さんという才能が終結した#4「Jack And Gill」は霧がかったサウンドに、エフェクトのかかった声と電子音がミステリアスな雰囲気を強め、冷たくクールに仕上げられています。

 ラストを飾る表題曲#6「Turnaround」では、閑雅なヴァイオリンの旋律を起点に温かなバンド・サウンドが柔らかく連なり、ジャケットのモノクロの景色に色を灯していくようで見事。東京酒吐座の新たな前進がこの2曲で十分伝わるはずだ。

 メンバー交代を経ての期待通りの作品といえるだろう。わたしとしては、ゲストが自分の好きな人ばかりというのもあるが、シューゲイザーへの愛と自らの進化を高らかに宣言する作品であり、様々な方へ届いて欲しい逸品。1月に出たLemon’s Chairとのスプリット作品もオススメです。

月世界遊泳(2022)

 9年ぶりの3rdアルバム。coming soon…

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