【アルバム紹介】VMO、ブラックメタルと電子音楽の結託

 Vampilliaのメンバーを中心としたブラックメタル+電子音楽+ストロボの新感覚プロジェクト、VMO a.k.a Violent Magic Orchestra。

 公式から引用すると”Black Metal・Industrial・Techno・Noiseを乱反射させフロアを光と 闇のイリュージョンでつつむ、2度と世紀末を体験できない現在を生きる人類に贈る、架空の西暦2099年の世紀末音楽プロジェクト

 本記事はこれまでに発表されているフルアルバム2作品『Catastrophic Anonymous』『DEATH RAVE』について書いています。

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アルバム紹介

Catastrophic Anonymous(2016)

1stアルバム。全10曲約34分収録。Vampilliaの別動隊となる”電子音楽×ブラックメタル”プロジェクトがついにお目見え。Vampilliaの面々が楽器演奏を受け持ち、元Yellow Swansのピート・スワンソンがエレクトロニクス、Extreme Precautionsがシンセ&ビートを担当しています。

 ”メイヘム”や”エンペラー”と表記されたTシャツにコープスペイントを正装としておりますが、サウンドの主体はむしろ電子音。打ち込みの高速ビート、デジタルノイズ、インダストリアルな質感にブラックメタル風のトレモロが重なり、おぞましいヴォーカルが混乱を加えていきます。

 特に#3「In Favor Of Cruelty」の地獄のシャワーっぷりには唖然。かと思えば#2「Acts of Charity」や#6「One Day Less」のようにVampillia本隊に通ずるメルヘンな瞬間も登場する。さらにはSUNN O)))風ドローンに煌びやかさを加えた#7「At The Bank」という飛び道具もあり。

 けれども大半はブラックメタルと電子音楽の結託を動力源として、新たなエクストリーム音楽の領域を侵食しています。

 また過去に自ら招聘したお友達人脈でMayhemのアッティラ・シハー、The Bodyのチップ・キングが3曲で参加。#1「The Beginning Of Fortune」を始め、チップ・キングの人生の不公平を訴える哀しき遠吠えは、無機質な暴力性が目立つ本作においても優位性を保っている。

 ”現在もっともライブハウス、クラブで電力を喰うユニット”と公式の情報に書かれていますが、消費電力と快楽性はトレードオフであることをVMOは示します。種類違いのジェットコースターとバンジージャンプしかない遊園地みたいなアルバムだから、そりゃあ電気代もバカにならないですわ。

DEATH RAVE(2024)

 2ndアルバム。全15曲約67分収録。2017年にヴォーカルのザスターさまが加入してからは初となるフルアルバムです。

 ”2099年テクノとブラックメタルが君臨する惑星ヘルベテックから来て、未来のポップミュージックを放送するために2024年の地球にVMOストロボウォリアーズはやって来た“がコンセプト。ちょっと何言ってるか分からないですが、新しい音楽体験を約束する作品ではあります。

 8年も前になる前作はスリル満点のアトラクションしかない遊園地の様相で、ひたすら暴力的かつノイジー。対しての本作はテーマパークとしての煌びやかさと多様性が増しており、レイヴ感とファンタジー要素が濃くなっています。端的に言えば前作が陰キャ、本作が陽キャ。

 逆にブラックメタル的なものは薄まる。デジタルハードコア的な運動エネルギーの方が感触的には強いですね。それに加え、暴徒化するノイズを抑制するメロディの美しさやキャッチーな仕掛けも前作からの進化。

 #4「Choking Persuasion」や#7「Satanic Violence Device」、#9「VENOM」の高速化&スクリームでブルータルEDMとしての轟きますし、#12「SUPERGAZE」は稲妻が輝く瞬間が何度なく訪れる痛快さ。

 バラエティに富んだゲスト陣が参加する中、Kælan Miklaが助力した#10「Abyss」は天使と悪魔がにらみをきかせあう曲で神聖なムードが漂います。こういった曲をアルバムに置けるのが本作の魅力とスケール感の大きさを物語る。

 VMOストロボウォリアーズによる音と光のハイパーインフレは、日頃のストレスをチャラにする過激な祝祭を夜通し繰り広げます。でも惑星ヘルベテックに強制連行されないように用法・用量には注意した方がいいかもしれませんね。それぐらい中毒性が強いんで。

お読みいただきありがとうございました!
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