We Lost The Sea、尊い命を悼む鎮魂のポストロック

 オーストラリア・シドニー出身のシネマティック・インストゥルメンタル・バンド6人組。2007年のバンド結成から数年はヴォーカルありのポストメタル・スタイルでフルアルバム2作品をリリース。Cult of Lunaから影響を受けたサウンドとコンセプトを掲げた作品で知られるようになります。

 2013年にヴォーカリスト・Chris Torpyの自死に伴い、完全にインスト・サウンドへと移行。2015年に3rdアルバム『Departure Songs』をリリース。世界的に大絶賛され、ポストロック・バンドとしての地位を確立することになりました。2019年には4thアルバム『Triumph & Disaster』を発表。

 本記事はフルアルバム4枚について書いています。

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Crimea(2010)

 1stアルバム。全5曲約42分収録。Cult of LunaのMagnus Lindbergがプロデュース&録音、ミキシングを担当。そのCult of Luna(CoL)からの影響が色濃いポストメタル・スタイルが特徴。

 MMMのインタビューではCoLの名盤『Somewhere Along the Highway』に人生を変えられたという証言を残しています。静寂から轟音へのセクション移行、スラッジメタル譲りの鈍さと重量感、CoLのヨハネス・パーションを思わせるChris Torpyの咆哮。愚直なまでにポストメタルでございます。

 10分を超える大曲#2「Hail! Star of The Sea」はそれらを体現し、2分強で完結する#3「Balaklava Cold」においては全面的にデスラッジの猛攻を仕掛けてきます。アメリカよりも欧州のポストメタル感が強いのはオーストラリアという土地柄か、Magnusの尽力によるものか。

 本作はタイトルにある通り、”クリミア戦争(1853年-1856年)”を題材にしています。また世界初の戦争詩人の一人と言われるハリー・ターナーの詩に、インスピレーションを受けているとのこと(公式Bandcampより)。戦禍の悲惨さをつづった物語であり、現代にもその問題は続く。

 それでも、20分に及ぶ#5「March To Scutari」の容赦なく険しいサウンドを経た後半はGY!BEの「Storm」を思わせる希望が訪れる。”自由になるために死ぬ”と歌詞にある通り、幾千幾万もの犠牲の上に成り立った自由の尊さを時代を超えて思い知らされます。

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The Quietest Place On Earth(2012)

 2ndアルバム。全7曲約60分収録。録音とエンジニアはTim Carrが担当。大きな揺さぶりをもたらす修羅の咆哮があるにせよ、トリプル・ギターの憂いを帯びた響きとピアノを中心に紡がれる#1「The Quitest Place」から驚かされます。Thinking Man’s Metalとしての破壊と創造はそのままに、デリケートな叙情性を加味。

 具体的にはアンビエント・パートの増量、ピアノやグロッケンの追加、中盤における女性ヴォーカリストのゲスト参加が挙げられます。16分30秒を数える#3「With Grace」のCaspianとISIS(The Band)の衝突を思わせる展開、女性ヴォーカルを迎えた#4「Forgotten People」の荘厳な讃美歌がもたらす清冽さ。これらは前作になかったものです。

 シンプルな方法とはいえ、感情が湧き立つストーリーを長い時間をかけて描いています。#2「Barkhan Charge」では剛腕さの中に冷涼としたトレモロを活かす。ポストメタルの強度をしっかりと保ちながら表現されるダイナミクスとドラマ性は、前作を遥かに凌ぐレベルだと感じます。

 そんな本作は「A Day and Night of Misfortune」と題された2部形式20分の楽曲#6~#7で締めくくられる。物悲しくも強靭な音像に圧倒されたかと思うと、ピアノの独壇場となるエンディングを迎えます。タイトル通りに静かなムードを引き立てて終わっていく。

 翌年にヴォーカリストのChris Torpyは、24歳という若さながら自らの命を絶つ。公式Bandcampの最後にメンバーは彼に対してこの言葉を掲載しています。”このレコードはクリス・トーピーに追悼を捧げます。安らかに眠れ、兄弟よ”。

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Departure Songs(2015)

 3rdアルバム。全5曲約67分収録。完全にインスト・バンドへと移行した初作です。本作のテーマについて”人間としての義務を超えて他人のために自分を犠牲にした人々について書かれている。アルバムの各曲にあるストーリーは歴史上のもので実在の人物についてのものだ”とSONIC SENSORYのインタビューで答えています。

 1曲目から順に南極探検隊のローレンス・オーツ大尉、チェルノブイリ原発事故の汚染水の排水に尽力した3名、オーストラリアのダイバーであるデビッド・ショー、1986年に発生したNASAのスペースシャトル・チャレンジャー号爆発事故の乗組員たちが該当。

 静から動へ。轟音系ポストロックの系譜を受け継ぎ、喪失から再生への物語を描いています。緻密に連なるトリプルギター、柔らかなトーンをもたらすベース、大らかに打たれるドラム。澄んだ音色を駆使しながらも痛ましい深刻な光景や死の匂いすら漂う暗鬱なムードの方が強いのは、反復による悲哀の増幅とテーマに則した構築の妙によるものでしょう。

 とはいえ、ナイーヴな感情の動きを繊細なタッチと大胆な連動で表現し、悲劇のままに終わらせない救済と希望の描き方は見事。静かな立ち上がりからチェロやトランペット、合唱団を経て光をともしていく#1「A Gallant Gentleman」による鎮魂は聴き手をがっちりとわしづかみする。

 心の最も深いところへと届くような物語は、#ラストを飾る#5「Challenger part 2」でピークへ。part1の暗鬱なトーンが一転して、光が氾濫するまぶしすぎる希望の瞬間が訪れます。これぞというカタルシスが最後の最後にもたらされます。

 67分という尺をかけて尊い犠牲を悼む『Departure Songs』は、スタイル変更をものともせずにバンド史上最高の成果をもたらしました。最高傑作と謳われ、ベルギーで開催されているdunk!festival 2017に出演した際に本作を全曲演奏したライヴ盤も発売されています。

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Triumph & Disaster(2019)

 4thアルバム。全7曲約64分収録。公式Bandcampによると”世界の崩壊に関する黙示録的な見解で、童話のように語られ、地球上で最後の1日を過ごす母親と息子の目を通して描かれている”とのこと。明確には、人類の進化と増加による気候変動と過剰消費、食糧危機、ひいては地球破壊について表現(Wall of Soundのインタビューによる)。

 ほぼ全面的にインストを継続していますが、ポストメタルへの揺り戻しか重厚感が増しています。前作と同じく重い主題を扱い、失われていくものに対して捧げられた音楽といえます。しかし、歓喜や希望へと短絡的に流れない展開にしているのが特徴。

 警告のようなトレモロでスタートする15分の大曲「Towers」のそびえたつ音の壁は、未来の残酷さを示しているかのよう。美しい崩壊と題された#2「A Beautiful Collapse」ではPelicanばりの重音を振りかざしながら、荒れ果てていく世界そのものを映し出す。

 #6「The Last Sun」の中盤ではEITSのような叙情性が顔を出すも、終いには太陽の光を失う。最終盤において吹き荒れる轟音は最も残忍な瞬間を生んでいます。

 ”童話のように語られる”とありますが、生やさしい語り口はしておらず。悲劇と破壊をもたらすサウンドは、厳かなドローン#3「Dust」やノスタルジックな旋律で綴られる#5「Distant Shores」でねじれを加えながら、作品の進展とともに聴き手に危機感を募らせます。

 それでもラストを飾る#7「Mother’s Hymn」は”母の讃美歌”と題される通りに、女性ヴォーカルがゲスト参加。ホーンや鍵盤が豊かな広がりをもたらす中、”本当に手遅れですか?”と地球の終焉日に連呼して作品を荘厳に結んでいる。

 バンドは”地球の崩壊についての悲しいラブレター”と本作を表現しています。胸に激しく迫ってくるインストの波状は、重い喪失を続ける現代に切実なメッセージを刻んでいるのです。

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