【ロック寄り】心を掻き鳴らす、おすすめ音楽小説12選

 活字から音楽を感じられるオススメの音楽小説(ロック寄り)を紹介します

  • 読んだら音楽を聴きたくなるような、演奏したくなるような音楽小説
  • 音楽をやり続ける、生み出し続ける苦悩を描いた音楽小説
  • 聴く側の音楽小説

 そんな音楽小説を集めてみました。最後に作品で気になったフレーズを引用しています。

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オススメ音楽小説

サラ・ピンスカー / 新しい時代への歌

あらすじ

感染症とテロによりライブが禁じられた世界。ローズマリーは超巨大企業スーパーウォリーに勤めていたが、ある日に顧客から仮想空間で行われるライブのチケットをもらったことで彼女の人生は変わる。音楽の新たな魅力を知ったローズマリーは、転職し、密かに行われているライブから新たなミュージシャンを発掘するスカウトになることを決意する――。他人と接触することがなくなった時代、禁止されてもなおライブの熱狂を求めるひとびとを描いた音楽SFの傑作。2020年度ネビュラ賞長篇部門受賞作。

 著者のサラ・ピンスカー氏は、インディ系レーベルからアルバムを4作リリースしているシンガーソングライターでもあります。ミュージシャンの彼女による長編第1作目にして、2020年度ネビュラ賞長篇部門受賞作。

 度重なる爆破テロと蔓延する感染症によって参集規制法が制定。人々が集まることが禁じら、オンライン/仮想空間で生きるのが当たり前になった世が舞台です。本書は2019年に刊行。その翌2020年に新感染症が全世界を蝕み、ソーシャルディスタンスやステイホームという言葉が定着したので、時代を先取った”予言の書”としても話題になりました。

 シンガーソングライターである”ルース”、アーティストを発掘する職業に転職した”ローズマリー”という2人の女性が主人公です。音楽を生で聴けた[前時代]に活動を始め、その熱を忘れられないルース。すべてが仮想空間で行われるのが当然の[後時代]に接触は悪だと教育されて育ったローズマリー。

 生まれも価値観も違う2人が出会い、惹かれあう。そして新しい時代とともに音楽で自分らしく生きるために共に行動していく。

 物語自体は淡々としていますが、情勢や時代が変わっても”音楽がもたらす力がある“。それを如実に感じる内容であり、大企業による大衆支配やはびこる閉塞感を打破するための音楽の力を信じてみたくなる場面が幾度もあります。

 2024年に入り、ステイホームも過去の流行語程度に落ち着いた感はあります。一時期のオンライン配信の隆盛も結局は人々が生で音楽を体感するという尊さには及びませんでした。それを思うとやっぱり”予言の書”なのか。正しさは必ずしも正しさを保証するものではないですし、新しい時代を切り拓くためには勇気がいる。クライマックス付近は特にそう感じさせられます。

 ただし全602ページあるので読むときは覚悟してくださいね。

世界はまだ終わってない。古いものをぜんぶ抱えつづけている必要はないし、新たなものは必要。ギターを借りて、弾き方を学んで。それがあなたらしいものでなければ、他の何かを探してみてほしい。あなただけのジャンルを見つけるんだ。何かにあなたのイニシャルを刻みつけて。好きな名前を付けて、好きな色に塗り、ぶちまけて、置き換えて、一変させて、新たな材料で自分自身を創りだす。

新しい時代への歌』p437より引用
著:サラ・ピンスカー, 翻訳:村山 美雪
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尾崎世界観 / 祐介

あらすじ

スーパーでアルバイトをしながらいつかのスポットライトを夢見る売れないバンドマン。恋をした相手はピンサロ嬢。どうでもいいセックスや些細な暴力。逆走の果てに見つけたものは―。人気ロックバンド「クリープハイプ」のフロントマン尾崎世界観、渾身の初小説。書下ろしスピンオフ短篇「字慰」収録!

 クリープハイプ・尾崎世界観氏の初小説です。売れないバンドマンのダークサイドが描かれます

 【”尾崎祐介”が”尾崎世界観”になるまでを描いた】と半自伝的小説という紹介がありますが、実際はそうは感じません。

 希望というワードがお亡くなりになった世界線。惨めさと焦燥感を抱え、日々のあらゆる物事に苛立ちながら祐介は生きています。

 バンドメンバーには捨てられる。一方で、アルバイト先のスーパーで気に入らない客が買った商品に爪を食い込ませたり、住んでるアパートの大家の郵便受けに尿を入れたり。

 人間の卑しい部分を生々しく表現しています。性善説何それ?状態。

 物語自体がどこかに明確に向かっていくわけではないです。それでも過剰な比喩表現とバンドマンならではの視点、売れなかった頃のエピソードが見事なトライアングルを成しています。

 負のエネルギーがもたらす推進力が何よりも凄い。特に下記の貧乏描写は気になった点です。

  • 節約のために使い古したベースの弦を鍋で煮て、付着した皮脂を取る
  • レンタルビデオ屋でパッケージから中身を器用に抜き取る方法
  • 客を呼べない自分達はライブハウスに高いノルマを払ってライヴしているのに、下積みのお笑い芸人は1ステージで500円もらえるから死ぬほどうらやましい

 ラストは狂気の展開でビビります。主人公がとある場所から全裸で逃げ出し、小学生の女の子から体操服を奪う

 これには「ちょっと何言ってるかわからない」と某芸人だけではなく誰もがつっこむでしょう(笑)。でも、村田沙耶香さんの解説にある通りに”ここから何かが始まる”ような予感があります。

この部屋にくるといつも、やめておけばいいのについ開いてしまう。「未来を射抜く希望の音」「苦悩の果てに生まれ落ちた歓喜の雫」、そんな安いキャッチコピーすら付かない自分の音楽に絶望して、すぐに手のなかの音楽雑誌を閉じるだけなのに

祐介・字慰(p58より引用)
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誉田哲也 / レイジ

あらすじ

音楽の才能は普通だが世渡り上手なワタルと、才能に恵まれるも、孤独に苦しみ続ける礼二。2人は中学最後の文化祭でバンドを組み、大成功を収めるが、礼二の突然の脱退宣言によりバンドは空中分解する。その後2人はお互いを意識しつつも相容れないまま別々の道へ。ロックする2人の男を時代の変遷とともに描いた音楽青春小説。

 ワタルとレイジの中学生から30代半ばまでの20年史。これが熱い。音楽をやっていた人には特にオススメです

 舞台は84年から00年代中盤で、中学生時にラウドネスがど真ん中という時代。後にはイカ天やベストヒットUSAが普通に出てくる。

 ワタルとレイジ、それぞれの視点で中学~高校~大学~社会人(フリーター)と描かれる。2人ともに音楽で食っていくという大きな夢に向かいます。アプローチの仕方は全然違いますけど。

ワタル:大学生時にそこそこ有名なハードロック系バンドへ加入

レイジ:高校生の時から楽器や機材一式を揃え、作詞作曲編曲全てを手掛けて自らのバンドを立ち上げる

 しかしながら、サクセス・ストーリーとは程遠く、音楽で生きていく過酷さを突き付けます。

 読んでいるとレイジの方に肩入れしてしまいますね。産業ロックとメタルにやたらと嫌悪感を示してますが(笑)。

 ”ぼくがおもうさいこうのおんがく”をレイジはひとりで作り続けていたのに、仲間たちとセッションしながらの曲作りやライヴでの一体感などからバンドマジックに目覚めてしまう辺りがなんとも良い。

 読んでいると本作のテーマ曲にあたる「風の彼方に」は聴いてみたくなる。そして中学から続いた友情がうらやましくなってきます。

 ちなみに著者の誉田氏はジウ・シリーズでおなじみですが、バンド経験者だけあって楽曲制作や演奏の描写が細かい(氏は椎名林檎を聴いてプロミュージシャンを断念し、小説家へ転身した経緯をもつ)。

俺はスーツより楽器のケースを選んだ。月給より創作を選んだ。協調よりは独走を、服従よりは自己責任を選んだ。安定よりもむしろ、不安の正体を暴きだす道を選んだのだ。

レイジ(p169より)
著:誉田 哲也
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イ・ジン / ギター・ブギー・シャッフル

あらすじ

朝鮮戦争の傷跡が色濃く残る1960年代初頭のソウル。戦争で孤児となった主人公キム・ヒョンの心の友は、米軍のラジオ局から流れてくる最新のポップスだった。どん底の生活を続けていたヒョンは偶然の積み重ねで、憧れの龍山(ヨンサン)米軍基地内のクラブステージにギタリストとして立つことに――。新世代の実力派作家が、K-POPのルーツである60年代音楽シーンの熱気と混沌を鮮やかに描く。第五回秀林文学賞受賞作。

 『ギター・ブギー・シャッフル』は劇中バンドがカバーするベンチャーズの曲名から。1960年代前半の韓国は、ロックとジャズが根付き始めた頃合いで、米軍基地を中心に広がりをみせたという。

 60年前の韓国芸能界のシステムを事細かく描き出し、作中に登場する歌手やミュージシャンは60~70年の韓国人気芸能人がモデル。プレK-POPみたいな側面が本作にあるのかもしれません。

 物語は主人公・ヒョンの数奇な運命をたどる成長記。幼少期の裕福な家庭から戦争孤児、その後は米国軍基地での仕事を得て、ある偶然からギタリストとして活動するようになります。

 ギタリストとしての挫折、バンドの空中分解、苦い初恋などを含みながら人としてたくましくなっていくヒョン。孤児の過酷な環境から、音楽を通して自らを救い上げていく姿は惹かれるものがあります。

 とはいえ、本著を読んで一番の教訓は”クスリ、ダメ、ゼッタイ”だったり。狂わされた人間が数人出てくるからそう強く思うわけですが、どんなに時代が移り変わってもその真実は変わらないことを痛感します。

 著者のイ・ジンさんは1982年生まれの女性作家。過去資料と想像力で本著を丁寧に書き上げていて、それが一番すごいと思いました。

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小野寺史宜 / ひりつく夜の音

あらすじ

46歳の下田保幸は、プロのジャズクラリネット奏者。演奏に全てを捧げた若い日の情熱は潮が引くように褪せ、いまは音楽教室講師の僅かな収入で過ごす。そんな暮らしがギタリストの青年・音矢との出会いで動き出す。どうしても困ったら下田を頼るよう、亡き母に言われたという音矢の名字は佐久間。下田が昔愛した女性と同じだった……。人生の折返し点で迷う大人たちの心をはげます感動作。

 ジャズ小説ですが、ロック要素も強いので本記事に入れています

 ジャズ・クラリネット奏者である孤独な中年男性・下田の枯れかかった生活が、恋人だった女性の息子であるギタリスト・音矢と出会うことで変わっていく。

 本著もここまでに紹介した作品同様に、音楽で食べていくことの難しさを突き付けます。昔はテレビに出るほどに活躍していた時期があったのに・・・。

 今は週に数回の音楽講師、時たまの演奏活動で金を稼いでの倹約生活。朝ごはんのちくわパン、豆腐をしっかりと汁まですすり上げる描写は、中年の哀感をやたらと加速させています。

 「聴きたい音楽自体が少なくなっている。いい音楽が少なくなったという意味ではない、僕の感受性が衰えたのだ(p56)」という独白もそうですが、年を重ねるごとに興味や熱意は本当に欠落していくものかもしれません。

 とはいえ音矢だけでなく、高校で同じブラスバンド部だった女性やバンド・メンバーにも再会。過去のつながりが停滞していた人生にふくらみと色味をもたらしていきます。

 静かながらも徐々に熱を帯びていくような展開はまさにジャズ風味。

 終盤の演奏シーンを読んでいると、その場で音楽を体感しているような気分になってきます。日々の生活と非日常である音楽との対比が生み出すコントラストがなんとも鮮やか。

夜にも音がある。昼間よりは、遠くの音が届く。それが近くの音と混ざり、濃淡がうやむやになる。全体としては静かだ。音がない、と表現することもできる。ほぼ聞こえないという形で、夜の音は存在する。

ひりつく夜の音(p325より引用)
著:小野寺史宜
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熊谷達也 / オヤジ・エイジ・ロックンロール

あらすじ

70年代ロックシーンの熱気がよみがえる―学生時代以来のエレキギターを再開した中年サラリーマンの巧也。一人だけの趣味として楽しむつもりが、会社の同僚に知られたことがきっかけでバンドを結成、さらにはアマチュアロックコンテストの全国大会を目指すことに。しかしそこには思わぬ人物との再会が待っていた…!自らもバンドを率いる著者がオヤジ世代に贈る傑作青春プレイバック長編。

 主人公・中年サラリーマンの巧也が50歳を目前に、最初はその気はまったくなかったのに買ってしまった。

 30年ぶりに足を踏み入れた楽器店で、学生時代に弾いていた頃を思い出してついつい65万円もするギブソンのギターを

 買ってすぐはひとりでディープ・パープルやレッド・ツェッペリンをちまちまとコピー。でも、結局はあの頃に突き動かされてバンド活動へ。

 ”もういい年”なんて関係ない。趣味を通じて人生に張りが出て家族・友人関係も好転していく、そんなストーリーです。

 ギターを買ったお店ではオヤジ・ホイホイでエフェクターとかリズムマシンとかアンプとかも高いのを買わされるんだけど(笑)、接客したショップ店員の方とバンドをやるからわからないもの。

 学生時代のバンド仲間との再会してメンバーに加えたり、ヴォーカリストとして加入した20代女性は、主人公と不思議な関係性。

 そんなメンバーを率いてアマチュア・バンド・コンテストで躍進。人生を豊かにする音楽を仲間たちと鳴らす姿が素敵に映ります。

 文庫400ページの分量はあるものの、とても読みやすい。あくまで仕事あってのバンド活動というのが、著者の志向を表しています。そんな熊谷さんもバンド活動を続けているとのこと。

音楽でもなんでもかまわんから、仕事をしている以上に楽しいことや好きなことがひとつふたつあったほうが、人生は絶対に豊かになる。俺たちくらいの世代の誰もが、衒うことなく自然体でそう言える時代に、そろそろなってもいいんじゃないか、この国も。

オヤジ・エイジ・ロックンロール(p266より引用)
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花村萬月 / ロック・オブ・モーゼス

あらすじ

朝倉桜は京都の私立校に通う高校二年生。同級生の「モーゼ」こと百瀬は幼い頃から天才ギタリストとしてもてはやされ、今はプロで活躍中だ。学校に居場所を見いだせない桜はいつのころからか目立たぬように行動するのが習い性になっていたが、モーゼの強い勧めでギターを始めることに。すぐにギターの虜になった桜は高校を中退し、モーゼ率いるバンド「モーゼス」に加入。プロのミュージシャンになると決意するが……。

熱情、誇り、挫折、才能――青春の全てがここにある。心を掻き鳴らす、珠玉の青春音楽小説

 モーゼという天才に見出された主人公・朝倉桜が、ギターを手にして音楽家としても女性としても成長していく物語

 最初はモーゼへの憧れ・恋心から必死でギターを練習し続ける。ジョン・マクフラリンがらみの複雑なコード進行や8分の21という変拍子の課題克服、ジョン・コルトレーンのソロをコピーさせられながら、音楽という快楽に目覚めていく。やがては母親と決別し、高校を中退してまでも音楽に懸ける。そしてモーゼスへ加入。

 バンド加入後は、少女から女性としての変化や人間関係に振り回される描写が増えていく。青春小説というにはエグさと痛ましさを伴うもので、さわやかさを求める方には厳しいかもしれません。

 ただ、本物の音楽の才能を持つ人間が開花していく姿は、悲しいときにこそ跳ねるブルースのリズムのような昂揚感をもたらしてくれます

 花村氏の趣向で音楽は60~70年代のロック、ブルース、ジャズ、クラシックなどを参照しています。ピンク・フロイド、トラフィック、フリートウッドマック、エリック・クラプトン、フレディ・キング、ブルックナーなど。

 小説自体は京都を舞台に、時代はおそらく00年代ごろの話だと思われますが、高校生の選曲としては渋すぎる。80年代以降のバンドはほとんど出てこず、それこそが本著における花村氏の味となっています。

KADOKAWA
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鵜林伸也 / ネクスト・ギグ

あらすじ

逆光を浴びステージに登場したボーカルは、突如悲痛な叫び声をあげるとその場に頽れた。彼の胸には千枚通しが突き刺さっていた。衆人環視の中での不可解な変死により、ロックバンド〈赤い青〉は活動休止に追い込まれる。事件直前、カリスマ的なギタリストが冒した、彼に似つかわしくない凡ミスは事件と何か関係があるのか? ライブハウスのスタッフである梨佳は、あの日なにが起こったのかを考え始める。本格派新人、感動の長編

 ロック小説×本格ミステリーが融合した傑作

 ライブハウス・スタッフである梨佳の視点で進み、登場人物それぞれに聴いて回る【ロックとは何か?】が基本軸にあります。

 ロックとは俺たちのやっている音楽そのものである、金である、文化である、打ち上げ花火である。各々の答えが謎解きの回収に役立ち、後半は物語がどんどんと加速していくので一気に読めます。

 ミステリーだけにネタバレ厳禁ですが、ライブハウス運営の背景やCDが売れなくなった現状のバンド・ビジネス、昨今盛り上がるアイドルブームなどが丁寧に盛り込まれています。業界がわかる内容に落とし込んでいるのも見逃せない。

 著者のnoteで『ネクスト・ギグ』逆ライナーノーツが公開されていますが、読了後にチェックすると答え合わせのようでおもしろい。ミッシェル・ガン・エレファントからsora tob sakana、ラブリーサマーちゃんまでモチーフはいろいろ。

 鵜林氏はマスドレの大ファンとのこと。著者自身にバンド経験は無いとのことですが、物語を通して音楽が聴こえてくる。ロックが掻き鳴らされている。

ミッシェル・ガン・エレファントやザ・ルースターズ、ザ・イエロー・モンキーなど、僕の心を躍らせてくれたロックンロールの数々が、本作を生み出す源となりました。これからも素晴らしいロックが世界中に鳴り響きますように。

ネクスト・ギグ(p401 単行本版あとがきより引用)
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瀬尾まいこ / その扉をたたく音

あらすじ

ミュージシャンの夢を捨てきれず、親からの仕送りで怠惰に暮らす、29歳無職の宮路。ある日、余興の時間にギターの弾き語りをするために訪れた老人ホーム・そよかぜ荘で、神がかったサックスの音色を耳にする。ホームに通うようになった宮路は「ぼんくら」と呼ばれながらも、入居者たちと親しくなっていく。人生の行き止まりで立ちすくんでいる青年と、人生の最終コーナーに差し掛かった大人たちが奏でる感動長編!

 大学卒業後、7年間無職。ミュージシャンの夢を追い続けるギタリスト・宮地(29歳)が主人公。そんなんでどうして7年も生きられるんや、どう生活しとんねん? となりますが、資産家の父から毎月仕送り20万円が振り込まれるので生活には困りません。

 「仕事がお金のためであるのならば、俺は働く必要がない。やりがいが仕事ならば、やりたい職業なないのだから働きようがない」と言うぐらい序盤は能天気っぷりな主人公なので、人生なめんな勢の怒りを買ってもおかしくありません。

 しかし、彼がギターの弾き語りで訪れた老人ホームに出入りするようになり、新たな人生の音が鳴り始める。その施設で働くサックス奏者の渡部君、宮地がウクレレを教えることになった本庄さん、「ぼんくら」と呼んで毎週おつかいを頼む水木のばあさん。

 主にこの3人とのふれあいやぶつかり合いを通じて、宮地は人の数だけ人生があることを知る。自分がいかにひとりよがりだったかを知る。音楽がもたらしてくれる新たな喜びを知る。そして、宮地は自分の足で人生を歩もうと踏み出していく。

 音楽を題材にした物語ではありますが、結局は音楽が魔法のように何かを救うわけではありません。人と人が互いに影響しあって、新しい自分に気づく。人生はその繰り返しです。

 『その扉をたたく音』は音楽を媒介役にした確かな希望の物語としてあなたの心に寄り添います。

時がいろんなことを解決してくれるのは、ちゃんと日常を送っているからですよ。こんなふうに、布団の中で時間をやり過ごしているだけで薄れる痛みなんて、何一つありません。

その扉をたたく音』p194より引用
著:瀬尾 まいこ
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高橋弘希 / 音楽が鳴り止んだら

あらすじ

作詞・作曲の天賦の才に恵まれた、福田葵。彼が幼馴染と組んだバンド「Thursday Night Music Club」・通称サーズデイが、とうとう大手レコード会社の目に留まった。デビューの条件は、ベーシストを入れ替えること。「君には音楽の才がある。代償を恐れて自分で才能の芽を潰すことは、音楽への裏切りにもならないか」 プロデューサーの中田の言葉を受け入れ、メジャーデビューを決断した葵は次第に変貌し――。芥川賞作家の新境地、圧巻のバンド小説。

 中学の時にU2に洗礼を受けた福田葵。90年代オルタナ系ロックに影響を受けたバンドであるサーズデイを率い、プロのバンドマンとして華々しく売れていく物語です。

 ちなみにサーズデイは、p340から引用すると“ピクシーズとグリーンデイと槇原敬之をまぜてどうにかしたバンド”だという。

 展開としてはメジャー・デビュー後にわりとすぐドカーンと認知されていき、チャートで上位進出。ホール~アリーナ・クラスでライヴをやるようになる。

 しかし、売れていくほど葵がプロとして音楽活動・創作していく苦悩が濃くなっていきます。音楽はこうまでして心身ともに犠牲を払って続けていかなければならないのか、と心配を覚えるぐらいに。

 レコード会社からのビジネス的な要望と示される楽曲の方向性、それとは別の主人公自身がやりたい表現がぶつかり、またしても巻き起こるメンバー交代の論争。

 後半に進むにつれ、葵が放つロックスター独特の孤独と狂気は一層強まります。

 作品から常に漂う危うさは、これまでの小説同様に著者の味。ですが、終盤における主人公の爆発は、夭逝した90年代のロック偉人達を思わせるものがありました。

 音楽はいい意味でも悪い意味でも人生を変える。本格的なロック小説を読みたい方にぜひともオススメしたいです。合計388ページ、濃厚濃厚。それに高橋氏もバンド経験者。文章から音楽が鳴っている感覚がすごくする。

なんなら今回のアルバム1枚で解散してもかまわないよ、ロックに日常性なんて必要か? 必要なのは衝動と破壊と混沌だよ、俺はそういう気分でいま音楽を作っているんだ。

音楽が鳴りやんだら(p334より引用)
著:高橋 弘希
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ヤーニス・ヨニェヴス / メタル’94

あらすじ

1994年、ライフスタイルがデジタル化される前の最後の時代。ソ連からの独立後間もないラトヴィアで、ヘヴィメタルを聴き、アイデンティティを探し求めた少年たちの日々を描く半自伝的小説。10ヶ国語以上に翻訳され、ラトヴィア文学最優秀デビュー賞、ラトヴィアの文学作品で初となるEU文学賞を受賞し、舞台化・映画化されるなど刊行と同時に大きな反響を得た、著者デビュー作。

 15歳になりかけの主人公ヤーニスとその仲間たちがアンダーグランドなメタルへと傾倒していく。その様を、15年後に過激な音楽を全く聴かなくなっていたヤーニス自身が回顧する物語です。

 全編にわたってバンド名が頻繁に登場。巻末のバンドおよびミュージシャン一覧を見ると、その数は驚異の122を記録します。メイヘム、アナセマ、カンニバル・コープス・・・etc。日本からはアビゲイルが登場。

 実際にはバンドがいっぱい出てくるけど、ロックでもメタル小説でもないです。メタルを聴く、探求することで自分探しをする

 ニルヴァーナの全部、デス、ドゥーム、ブラックメタルの全部を知ろうとすることで己の形成に繋がっていくと信じて。

 ただ、どれだけ凄い音楽を聴いても自分に自信が持てなくて取るに足らない人間だと自覚してしまう悲哀。結局、バンドを結成することなく青春は過ぎていく。メタルからも離れていく。

 最終章は、30歳になった主人公がヘヴィメタルに傾倒していたあの頃をノスタルジックに振り返る。結局、あの頃の熱量は何だったのか?と思い返してもわからない。

 それでも、”思春期のオレたちにはメタルがすべてだった”という感じがなんだか良い。

 本書に付属する武田砂鉄氏の解説が見事です。”ヘヴィメタルを求める人々には、憤怒の先に優しさがある(p332)”

ヘッドバンギングをするのは、脳という意識の要塞をノックアウトして恍惚状態に入るためだ。ひたすら頭を振り動かすと、鍋の粥が縁から弾け、僕たちの内に眠る王国が思考から解き放たれて、その一瞬、存在に直に触れる・・・・・手短に言えば瞑想と同じだ。

メタル’94(P134より引用)
著:ヤーニス・ヨニェヴス, 翻訳:黒沢歩
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 なお、本作は映画化されています。日本では観れないようですけどね。

テイラー・ジェンキンス・リード / デイジー・ジョーンズ・アンド・ザ・シックスがマジで最高だった頃

あらすじ

彼女はデイジー、LA生まれLA育ちのパーティガール。彼はビリー、ブレイク間近のバンド「ザ・シックス」のフロントマン。天性のロックスター二人が出会うとき、才能の火花がはじけ、「デイジー・ジョーンズ・アンド・ザ・シックス」はスターダムを駆け上がってゆく──。70年代西海岸のロックシーンを舞台に、音楽に魅せられた若者たちの、刹那的だけれど確かに輝いていた青春の季節を描く傑作小説。

 1970年代を象徴するような架空のパーティ・ロックバンドの快進撃を描く、スタイリッシュで推進力のある作品
──《ニューヨーク・タイムズ》

 1960年半ばから話がスタートするものの、主には1970年代後半の話。70年代アメリカの西海岸のシーンで活躍した架空のバンドの物語を当時のメンバーや関係者の回想やインタビューで辿ったのが本作です。

 音の描写を細かく描いたものではなく、バンド内の人間関係と恋模様の方に重点が置かれた回想記。バンドにあの時、何が起こっていたのか?のかが数十年経って赤裸々に語られています。

 70年代という時代背景からくるだろうセックス、ドラッグ、ロックンロールのノリ。それでも聴き手にイナズマを落とすような音楽が2人のロックスターによって生み出されます。

デイジー・ジョーンズ&ザ・シックスによる “大ヒット・アルバム”『Aurora』も発売決定!

 1978年に発売したアルバム『オーロラ』とそれを引っ提げたツアーは、タイトルにもある”マジで最高だった頃”を描き出しています。しかし、バンドはあっけなく儚く散る。理由は本著で確認してほしい。

 巻末にはアルバム『オーロラ』の全訳が載っています。これも著者が書き下ろしているんだとか。ちなみに2023年3月3日に音源が本当に発売されます。

情熱ってのはそれこそ炎みたいなもんだ。そして炎ってやつは手に負えない。しかし俺たちは水でできてる。水ってのは、俺らが生きていく術であり、生き残るために不可欠なものだ。家族は水だ。そして俺は水を選んだ。どんな時だってそうするさ。

デイジー・ジョーンズ・アンド・ザ・シックスがマジで最高だった頃(p331より引用)
著:テイラー・ジェンキンス・リード, 翻訳:浅倉卓弥
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amazonプライムビデオのオリジナル作品として、2023年3月3日より配信開始されています。

おわりに

音楽で熱くなり、苦しくなり、それでも音楽に生かされている人々の物語をぜひとも味わっていただければ幸いです。

まだまだ紹介できていない作品が多いので、徐々に数を増やして本記事をパワーアップしていく予定です。

お読みいただきありがとうございました。

以下は巻末おまけの【電子書籍のススメ】となります。

電子書籍を読むならkindle paperwhite

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紙の本も同様に買い続けているのですが、もはや読書する上ではkindle paperwhiteも欠かせません。

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・【読書する】という機能だけに特化
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・白黒でカラー表示できない
・雑誌を読むのには不向き
・読書しかできない

 電子書籍ってどうなん?と紙で読んできた人は思うところですが、

 慣れればイケますよ。変わらない感じで読めます!

 それでも小説は紙をめくりながら味わいたいというのは残ってますけどね。

この機会に電子書籍デビューをぜひ!

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