【アルバム紹介】Converge、芸術として昇華されるハードコア

 1990年にジェイコブ・バノンとカート・バルーを中心に結成。アメリカはボストン出身のハードコア4人組。2001年発表の4thアルバム『Jane Doe』というハードコア界に燦然と輝く傑作を送り出し、その後も破壊と芸術を極めんとする作品を生み出し続けている。

 また来日公演を数回敢行。なかでも05年に行われたEXTREME THE DOJO VOL.11でMastodon、ISISとの共演は語り草となるほど。2019年のNeurosisとのツーマン”leave them all behind 2019″も大絶賛されました。

 本記事は4thアルバム『Jane Doe』から10thにしてコラボ作『Bloodmoon Ⅰ』までの計7作品について書いています。

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アルバム紹介

Jane Doe(2001)

 4thアルバム。全12曲約45分収録。誰もが認めるConvergeの代表作です。Slayerでいえば『Reign in Blood』的な絶対的立ち位置にあり、このアートワークは事実上のアイコンとして機能。タイトルは”身元不明の女性の仮名”を意味します。

 BotchやThe Dillinger Escape Planといったマスコア勢のように急加減速と猛烈な切り返しを多発し、歪みと鋭さを備えたギターリフが荒れ狂う。そして作詞作曲にアートワークとバンドを司るVo.ジェイコブ・バノンの悲鳴のごとき叫びが呼び込む混沌。

 #1「Concubine」の1分20秒がもたらす衝撃には血が沸騰します。ドラムを主導に変則性が際立つ#2「Fault and Fracture」、ハードコアパンクのストレートさが感情を煽る#6「The Broken Vow」といった曲たちも強力。

 合間にはスロウな曲調を挟んでいますが、弛緩することはありません。アルバムを通したひとつのストーリーとして完成度を追及しています。

 ラストの表題曲#12「Jane Doe」はスラッジメタルがいびつに変質化した11分半。破壊と芸術。ハードコアをアートへと昇華していくConvergeのスタイルは、後世に大きな影響を与えました。

 本作はNoisecreepが選出した2000年代のベストアルバム第1位を始め、各誌で歴史的なアルバムとして評価されています。イギリスの音楽誌Rock Soundは”ヘヴィ・ミュージックの領域全体における変革者“と評している。

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You Fail Me(2004)

 5thアルバム。全12曲約35分収録。前作の成功によってEpitaphと契約してのリリース。ビルボード200で171位を記録し、商業チャートにランクインした初めての作品になりました。

 “これは〈失敗〉についてのアルバムなんだ。俺や俺の親しい人たちの人生について、どんな経験をしてきて、どんな思いをしてきたか、不運にもこれまで経験してしまった悲劇や失敗などが、俺や俺の周囲の人たちの人生にどのように影響を及ぼしたのかという内容だとジェイコブは語ります(TOWER RECORDSインタビュー参照)。

 感情とエネルギーをフルスロットルで最大消費し続ける一大傑作『Jane Doe』。そのプレッシャーがある中で発表した本作は、マスコア的なスタイルよりもハードコア的です。先読みできない変則的なアプローチは維持しつつもストレートな衝動の方が勝っている印象。

 #1「First Light」~#2「Last Light」のタメと爆発による導入を経ると、#3「Black Cloud」から#6「Heartless」まで1~2分台のショートチューンで怒涛の畳みかけ。リズム隊をメインとした加速力は相変わらず脅威であり、スクリームとギターは鼓膜を噛みつくように迫ってくる。

 その上で#8「In Her Shadow」ではアコースティック調のナイーブな歌ものを届けるも、後半は歪みを効かせてカオスな時間をも生み出しています。

 表題曲#7「You Fail Me」は”この世界はあなたと戦わない 自分自身と戦うのだ”と聴き手を鼓舞。破壊と芸術、その主題を追求し続ていてもConvergeの肝は人間味だと気づかされます。

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No Heroes(2006)

 6thアルバム。全14曲約42分収録。タイトルは他の人やバンドを偶像化するのは完全に無意味なことを表しているそう(wikipediaより)。ただアルバム全体を貫くテーマではなく、全ての曲は過去数年間のジェイコブ・バノンの経験について書かれた個人的な記録とのこと。

 作品としては、短く不規則で鋭い衝撃を有したマスコア+メタリックハードコアの強度が高まっています。1~2分台のショートチューンを中心に据え(9曲/14曲)、アジリティ特化の約1分曲の連打#1「Heartache」~#4「Vengeance」が序盤から巻き起こす嵐。

 安全という概念を忘れてしまったか、リミッターという言葉を知らないかのブチ切れ具合です。表題曲#6「No Heroes」でさらに突き抜ける暴虐とスピード。激しくて感情的な音楽を受け止めて肯定感を得る、そんな感覚があります。

 様相が変わるのが#7「Plagues」と#8「Grim Heart/Black Rose」。前者はミドルテンポのスラッジ曲。後者は9分30秒の大曲で同郷の先輩バンド、Only Living Witnessで活躍したVo.ジョナ・ジェンキンスがゲスト参加。前半は彼がクリーンヴォイスで歌い上げ、後半はジェイコブを中心にドラマティックな爆発をみせます。

 中盤に緩急となる大きな山場を設けていますが、それからは再び速さで圧倒してラストの#14「To The Lions」まで一気呵成。決してヒーローは不在ではない。ここにいる。

メインアーティスト:Converge
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Axe to Fall(2009)

    7thアルバム。全13曲約42分収録。世界陸上100m走決勝のテーマソングに最もふさわしい#1「Dark Horse」の猛烈なスピードにしがみつけ。放しちゃダメだ。そんな警告から始めないと本作についていけません。

 続く#2「Reap What You Sow」~ #3「Axe to Fall」も倍速視聴しているのかと錯覚する速さと濃い密度。前2作も本作への過程に過ぎなかったのかと思うぐらい、混沌を知る教典となっています。

 フィジカル&テクニカル面で練度を増していても音楽面でこれまでと大きな違いはありません。ですが歌唱も演奏も人間の限界に挑むかのようで、凝縮と爆発がもたらすインパクトは桁違い。

 またゲストミュージシャンが多く名を連ねているのも特徴。Cave Inとの合体で瞬殺度を増す#4「Effigy」、NeurosisのSteve Von Tillと共に悲痛なアコースティックを届ける#12「Cruel Bloom」は重要な位置を占めています。そしてラストを飾る#13「Wretched World」の男くさい憐憫の歌が沁みる。

 ハードコアのゲームチェンジャーを担った『Jane Doe』が金字塔として語り継がれていますが、わたしとしては本作を最高傑作として推したいですね。

 バンドを始動して19年経つのに丸くなるとか落ち着くとか一切ない。感情を刃にし、音を研ぎ澄まし、美意識を極めんと命を削る。聴き手の人生を変えてしまうぐらいの超絶な力を『Axe to Fall』は宿しています。

 なお本作は音楽誌のTerrorizerやSTEREOGUMで2009年のメタル系ベストアルバム第1位に選出されています。

メインアーティスト:Converge
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All We Love We Leave Behind(2012)

 8thアルバム。全14曲約38分収録。タイトルは収録されている表題曲にちなむ。

 ”この曲は、自分の人生において芸術的、音楽的な方向性を追求するために置き去りにしてきたと感じるものへの公開書簡“とジェイコブは説明しており、同曲は彼が長年飼っていた犬の死について歌ったものです(Pitchforkインタビューより)。

 前作と違ってゲスト参加は一切なし。また人為的なディストーションやオートチューンは入れず、生のライブサウンドにこだわったとのこと。

 プログレッシヴな構築美の上で破壊力を乗算する#1「Aimless Arrow」からConvergeの主要素が詰まっていおり、#3「Tender Abuse」や#6「Sparrow’s Fall」 はアクセル全開じゃないと死ぬの?ってぐらいスピードと手数に命かけています。

 マスコアとメタルの果たし合いに注がれる人間味あるロマン。そして聴き手を翻弄する仕掛け。スラッジメタル的導入からマスコア風ギターと激速で畳みかける#4「Sadness Comes Home」、妖しげなドゥーム/ポストメタルを奏でる#10「Coral Blue」という挑戦的なトラックはその筆頭といえます。

 ただ全体を通すと前作『Axe to Fall』ほど衝撃ではないですし、リスナー側からしてもConverge慣れがあることは否めません。それでも彼等の音楽に対する感覚は鋭敏で、核心に近づき射抜こうと試みる。

 なかでも表題曲#13「All We Love We Leave Behindの悲痛な叫びと小気味よい駆け上がりには、熱いものがこみ上げます。

メインアーティスト:Converge
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The Dusk in Us(2017)

 9thアルバム。全13曲約43分収録。ビルボード200で現在のバンド史上最高となる60位を記録している作品です。

 本作についてはPitchforkにてジェイコブが全曲解説を行っており、父親となったことが与えた人生への影響を書いた#1「A Single Tear」を始め、表現の源泉が語られています。彼の私生活・ステージ変化がもたらしたものやアーティストとしての苦悩・痛み。ハードコアを通した自身の解放運動は、聴き手のことは考えていないと言っていますが多くの人々を巻き込むエネルギーがあります。

 そしてこれまで薄かったナイーブな情緒や柔らかい表現が出てきているのも特徴。湿っぽい歌声を中心につづる前半からシューゲイザー/ポストメタル的な壮大さで回収していく#6「The Dusk In Us」はこれまで以上に哀感に溢れ、本作のピークとも言える楽曲です。

 また、スラッジテイストの強い#3「Under Duress」やノイズロック風味の#10「Trigger」のようにミドルテンポ引っ掻き型の曲も揃え、過去作とは違った色味を残します。

 それでも強烈なリフと散弾銃のごときドラムを携えた道徳的ではないショートチューンの数々は健在。#2「Eye of the Quarrel」や#5「I Can Tell You About Pain」、#11「Cannibals」はバンドの破壊衝動が全く衰えてないことを示しています。

 変わらず常人離れした音楽ですが、作品を発表するごとに増すのは人間味。落ち着いた部分は確かにある。ですが心のど真ん中でやり取りするような本作はまた別の感動がありました。

メインアーティスト:Converge
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Bloodmoon: I (2021) 

 10thアルバム。全11曲約58分収録。Roadburn Festival2016での共演を後押しに制作を始動。暗黒歌姫チェルシー・ウルフ、彼女のバンドメンバーであるベン・チザム、Cave Inのスティーヴン・ブロズキーを加えた7人体制による作品です。

 ”典型的な4人組のコンヴァージの音楽よりも、もっと壮大なものを作りたかった。一緒にライブで演奏して、良いケミストリーをそこで感じられたから、全員がこのまま続けたいと思った“と語る(Mikikiのインタビュー)。

 Convergeとしては未開の領域と言える内容で、明らかにポストメタルの意匠が全編を支配しています。#2「Viscera of Men」序盤のDビートや#6「Lord of Liars」のテクニカルなギター/ドラムは聴けますし、コラボや新しい手法でハードコアの再構築/拡大といった印象もありますが、あくまで部分的。

 チェルシー・ウルフの歌声に寄り添う幻想と暗夜の旅路となっています。アコギやホーンにストリングス等とパレットを可能な限り充実させ、ゴシック/ドゥーム方面にも足を伸ばし、場面によってはオペラのような歌唱もあり。ジェイコブ・バノンも叫びより歌うの方が多い。

 血の月を拝むレクイエムのごときトーンが貫かれており、リード曲#1「Blood Moon」や#3「Coil」の壮大さに飲まれます。Cave Inのような浮遊感を持つ#7「Failure Forever」を抜けた終盤4曲は、さらに慎重なドラマを刻む。 

 かつてNeurosisとJarboeがコラボレートした作品を思い出す濃厚なコラボ作。

メインアーティスト:Converge and Chelsea Wolfe
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プレイリスト

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