胸を震わす激しくも感動的なサウンドと壮大な世界観を確立し、今や世界からもその存在を認められる日本のハードコア・バンド。『君の靴と未来』を始め、多くの傑作を世界に発信している。
レビュー作品
> Atheist’s Cornea > Recitation > Split(Thursday) > Split(Jesu) > abyssal > Insomniac Doze > compiled fragment 1997-2003 > a dead sinking story > 君の靴と未来 > From Here To Eternity / Breathing and dying in this place
Atheist’s Cornea(2015)
約5年ぶりとなる6thフルアルバム。前作の『Recitation』はハードコアに回帰している部分もあれど、ポストロック要素が先行して温かみと光属性を強めていた。本作でもはっきりしているのは「繰り返す このエンヴィズム」の円熟研磨。言うなれば、激情系ハードコアとポストロックの錬金ではあるのだが、これまでの全てを糧にしてコンパクトに結晶化した全8曲44分は、シーンの最前線に立ち続けるハードコアおじさん達の凄みに溢れている。
まずは、結成から22年を経てもなおハードコア続行中を印象づける#1「Blue Moonlight」~#2「Ignorant Rain at the End of the World」の一気攻めの轟き。初期の『From Here To Eternity』に収録されていてもおかしくない、パンチ力とスピード感には血が騒ぐ人も多いだろう。何十年か振りに宝刀を抜いた感すらある、この始まりには思わず面喰らった。そして、これらの疾走ハードコアにベテランの味ともいうべき哀愁が乗ってる辺りに、今の彼等が表現されているように感じるところ。
以降は、近年のenvyの真骨頂であるポストロック的な側面の強い重厚さと壮大さを持った楽曲へとシフトしていく。某ガンダムとは全く関係がない#3「Shining Finger」では、SUNNY氏がキーボード・アレンジで参加することでリリカルな側面を強化。また、sgt.の成井さんがストリングスで加勢する#4「Ticking Time and String」では、ズッシリと来る重い轟音シンフォニーからメルヘンチックな世界へと移行する。ここ数年、年を追うごとに熟成されてきた詩読やメロディからは、より温かみや日本情緒を感じさせられるのだが、それは特に#5「Footsteps in the Distance」に表れていると思う。
さらには、現在のenvyが120%凝縮されて美点をフォーカスした#7「Two Isolated Souls」が作品のハイライトといえる輝きを放ち、ベタではあるが「暖かい部屋」を超える温かみと希望で満たしていく#8「Your Heart and My Hand 」で締めくくる。
通して聴いて一番に感じるのは、集大成のような貫禄を備えていること。目新しい要素は無いが、envyのenvyたらしめる要素がとことん磨かれた。それが結果として、盟友であるBORISが昨年にリリースした『NOISE』同様に、この『Atheist’s Cornea』にてキャリア総括型の逸品を作り上げた印象に繋がっている。まさにハードコアが奏でる8つの絶景。
Recitation(2010)
4曲入りのEP『abyssal』、JesuやThursdayとのスプリット作品を挟んではいたが、フルアルバムとしては実に4年ぶりとなる5枚目のアルバム。
既に世界でも悲哀と激情で紡ぐ壮大なサウンドスケープを轟かせて人気を得ている彼等。3作目にあたる『a dead sinking story』からはISISに共振していくかのように、轟音と静寂のコントラストを生かしたポストメタルに傾倒していき、前作『Insomniac Doze』では俄然スケールアップを感じさせる内容で存在感を大いに示していた。本作ではその路線をキープしつつも、過去のハードコア要素との結合をスムーズに断行、さらにはポジティヴな光でコーティングすることで、これまで以上に希望の焔が一層の意志を持って燃え上がっている。
切なく鳴らされるアルペジオは温かく響き、ポエトリーリーディングは鼓膜から優しく入って心の澱をほぐす。そして、ここぞ!で爆発する絶叫とバンド・アンサンブル、その一音一音の連鎖し、密なる結合が全てを一閃し圧する轟音へと導く。それは天地をもひっくり返し、壮絶な感動を刻みこむ。心の淵を抉る様な、また肯定的なメッセージにまで発展しうる情緒的で哲学的な詩が添えられる、この辺りは最近のenvyのトレンドといえるだろう。その軸はブレようがない。だが、静パートがより詩的で温かい音色を持つようになったことで、慈愛と希望の光が一層の輝きを増している。たおやかに美しく、そして優しく胸に響く。陽の因子が巧く散りばめられる事で聴きやすくなった印象だが、それゆえに静と動の起伏が大きくなっている事も受けてスケール感が雄大に拡張されている。
また、曲調の拡がり、全体を通しての物語性の高さも伺える。女優の奥貫薫さんをゲストに迎えた始まりの#1、終わりの#12からおやっと感じる人は多いことだろう。誕生を思わせる優しく激しい#2へと続いていき、徐々に希望を浮かび上がらせていく#5、ポジティヴな疾走感に全身が熱を帯びる#6、Monoを思わせる寒々しさを纏いながらハードコアでテンポよく駆ける#10といった多彩な曲調が目立つ。恐ろしい黒い轟音圧に奈落に引き摺られていく本作における負の感情を凝縮したスラッジ曲#11にはかなり驚かされたし。静と動の王道パターンを駆使するきらいがあった彼等だが、そうした色づけ・肉付けがジャケットのような白と黒、光と闇のコントラストを一層浮かび上がらせている。
人間の最も重々しい位置から始まり、ここまでの温かな表現力を開花させたそんな新たなenvyの一面が爆発したのがこの『Recitation』といえるだろう。川のせせらぎのような繊細さ、大海源のような雄大さと力強さに慈愛が加わった音色に心は傾く。悲壮・哀切の感情を崇高なる光で打ち消し、美しいメロディと轟音で満たしていく本作は、かつてのenvy像を追い求める人からはさらに遠ざかっている事は間違いないが、それ以上に多くのファンをつかむことも間違いない。
Split – With Thursday(2008)
互いにその音楽性に惹かれあったThursdayとenvyによるスプリット作品。本作では両者とも完全新曲でThursdayが4曲、envyが3曲を提供している。
Thursdayは名前しか知らなくて本作で初めて音を耳にしたのだが、意外にもクリアなサウンドを軸に激情迸るエモーショナルロックを展開。エネルギッシュにロックを叩きつける#1、劇的な展開を武器にエモを賛歌する#3からして全開なのだが、#2・#4というインスト2曲を入れてくる構成には驚き。モグワイにアメリカの土を塗したみたいな曲だけど個人的にはかなりツボった。ただ、客観視すればenvyの音像に吸い寄せられているって言われている内容かもしれない。それでも自分のような門外漢を引き込める4曲が収められているかと思う。
それに対してenvyだが、Jesuとのスプリットの時とはかなり違う。メジャーコードを入れたりしていて “轟音を駆使しないenvy” と表現されているのも各地で見たが、今回は持ち味の激情の美学をさらに追求している印象だ。ゆっくりと静と動をたゆたいながら激情を放出する#5「虚構に満ちた傘」、ド迫力の爆裂炸裂ハードコア#6「光源の孤立」、崇高なる美しさに泣き所が一杯の「美しき生誕と孤独」ともうどれをとってもenvyである。envyの激情・轟音・静寂を体験するのにはもってこいの3曲だといえるだろう。ただ、そのenvy印の安心感を与える一方で次どうするんか?ってのがイマイチ見えてこないのも事実なんだけども。前回同様に実験的な楽曲で攻めてもよかったかなという印象だ。うーむ、慣れか・・・
Split – With Jesu(2008)
互いにその存在と音楽を理解しあうenvyとJesuの強力なスプリット作品。
envyの音とは何たるか?を証明している3曲というよりは、むしろスプリットを意識して楽曲に広がりを持たせて実験的なことを試みた3曲といっていいだろう。今までのenvy像がオーバーラップするのは#2「夢幻の探求の冬」のみ。その曲にしても幽玄にたゆたう叙情的なギターの旋律から抑圧された感情が一気に空中爆発を起こす”美と破壊の哲学”に染まっており、今までと比べても強力な楽曲に仕上がっている。#2と違ってお決まりの展開といったものが浮かばない他の2曲には驚きを隠せない。
#1「存在の結論」はMogwaiにも通ずる哀愁漂う洗練されたポストロックといった印象を受けるし、#3「雨に濡れた命」は驚くほどメジャー感のある楽曲で、麗らかな陽光のように穏やかなメロディが心を繋ぎ、ヴォーカルの声は感情を真っ直ぐに伝える。この3曲を聴いて個人的に感じたのは、昔のように”壮絶な光景”を見せるというよりは”美意識に満ちた世界”が広がっているということだ。どんどんと深まる世界観は、確固たる志が宿るenvyの音楽が常に前に進み続けているからだろう。今回の3曲はなかなかおもしろかった。
abyssal(2007)
シングルフォーマットとしては、かなり久々となる4曲入り作品。Pelicanとのツアーでも披露された10分を越える#1「水が作る風の路」の他に#2「過ぎ去った全てが眠った」,#3「千の痕」,#4「遠ざかる幻」という約25分という収録内容になっている。基本的には前作「Insomniac doze」の延長線上といえる作品であろう。壮大な世界観と深遠なる音の響き、せせらぎのような美しい旋律と情念が燃え広がる激動のサウンドの対比的なコントラスト・・・。全てが力強く全てに説得力がある。自然のエピックともとれる繊細さと流麗さがとにかく逸脱。確実に地に足をつけ、歩みを進めているのがよくわかる作品だ。
10分を越える#1は何度も交錯する美しい音と轟音の嵐がドラマを生み出していて、圧倒的な存在感を放つ1曲。#2は初期のハードコア魂をみせつつも現在のenvyらしく昇華している狂気と美徳に富む楽曲。#3では静と動の対比がとにかく美しく、それが“我々に千の痕を残す”。#4で全てを静かに安らかにゆっくりと心を洗い流す。4曲という収録内容だが、チェックが必要な作品に変わりは無いだろう。
Insomniac doze(2006)
前作より3年ぶりとなる本作はこれまで以上の壮大な世界観を誇ると同時に今までになかった側面を提示した作品となった。
穏やかな叙情と大地を渦巻く激情、その静と動の対比が以前よりも大きな振り幅を持つことで、また一つスケールアップした彼等の音楽性。敵意剥き出しだった刃のように突き刺さる感情・暴力的轟音が沈静化してしまったところは賛否が分かれるだろうが、本作からは人間の優しさや体温を肌で感じ取ることができ、温かい包容力が備わっている。それを表現する確固とした力強さ、リアルに迫る感情の波。何度聴いても掴みきれない深遠なる奥深さを思い知らされる。ある意味では職人的技量が加わったといえるかもしれない。
レーベルメイトでもあるMogwaiのような轟音ポストロック的手法が目立つため、envyのハードコアという矜持は少しずつ姿を変えつつあるが、5人の男達による嘆きの叫びのような演奏が心を震わせることになんら変わりは無い。壮大なドラマと圧倒されるダイナミズムに言葉を失い、魂が震える。本作は彼等にとっての真摯なロックといえるだろう。空間的な音の広がりもまた美麗さを際立たせている。叙情的で儚げなメロディとドラマ性が光る#3「風景」は風光明媚な様子が眼前に映し出され、#7「暖かい部屋」は母性的な優しさに締め付けられる特にオススメしたい名曲である。
激動と悲哀が交錯する極限の果て、雲で覆われた灰色の空の隙間から降り注ぐ僅かな光は崇高なる希望への灯火であり、壮絶なるクライマックスは時空を越え夢幻へと飛翔する。「Insomnia Doze」への歩みは確実なる深化への一歩。そしてここからまた物語は続くのである。
compiled fragment 1997-2003 (2006)
現在では入手困難になっていた過去のスプリット、オムニバス盤などを全部まとめた作品であり、結成10周年を迎えたということを記念してつくられたもの(発売はInsomniac Dozeと同じ日)。今作を聴くとenvyというバンドの変遷がよくわかる。前半は現在のenvyに通ずるようなポストハードコア的なアプローチを試みているが、中盤~後半はもろ直球ハードコアで、ボディブローのようにずっしり腹に響く激しい音塊にのた打ち回る。envyの音楽的な流れ、そしてそれら昇華しての現在の姿をしっかりと確認できる作品といえよう。ラスト2曲のライブ音源は2004年にイギリスで行われたALL TOMORROW’S PARTY出演時、BBCによって録音されたものを使用している。これらもひっくるめて彼等の歴史をおさらいにはぜひこれだ。
a dead sinking story(2003)
Mogwaiが運営するRock Action Recordsから海外リリースもされた2年ぶりの3rdアルバム。前作「君の靴と未来」でもハードコアの概念を越えたアプローチをしていたが、本作はより叙情的な方向性に拍車がかかっており、ロックの深淵に踏み込んだ作品といえるだろう。静寂と轟音がこれまで以上に対極し、この二つのコントラストが濃く深まったのをきっかけに楽曲が長尺・複雑化している。
#1「深く彷徨う連鎖」を聴いただけでも、その兆候がはっきりとわかるであろう。激動と悲哀の果てに感じる極限の絶望が心に突き刺さり、一層深まった音の波が頭の中で蠢く。そして何より非常にドラマティックだ。#6「狂い記せ」はどん底に佇む人々を蘇らせる賛歌であるし、#9「灰に残る意思」は”音と共に眠りにつく”人の一生を表現した12分の物語に涙する。9曲63分という時間の中で何度となく魂を擦り減らして叫ぶその姿に心を動かされない人はいない。
どの曲を聴いた後も言い知れぬ余韻を感じ、なぜかもの凄い虚脱感に襲われた。どん底にいるような絶望感に打ちひしがれるのはこれまでと変わらない。けれどもこれまで以上に希望という光が救いの手を伸ばす。ハードコアという哲学を越えたenvyの信念の強さが本作には宿っている。そしてその絶対的信念の裏側には深遠なる含みを孕んでいる。 「君の靴と未来」を経て行き着いた新たな道「a dead sinking story」にはさらに多くの可能性が広がっていた。
君の靴と未来(2001)
全てのものを飲み込んでしまうであろう圧倒的な衝撃がここに! 3年ぶりとなるenvyの2nd「君の靴と未来」は世界で絶賛される傑作だ。
感情を超越した未知なる混沌、悲痛なる言葉の雨、屹立としたハードコアの美学が貫かれた音楽性に身体の芯から震え出す。狂気と絶望を剥きだしのまま叫び、灼熱の炎のごとく迫り来る轟音が襲い掛かる。1分も経たずに打ちのめされてしまう人間も少なくないであろう。渦巻く激しい負の感情は余りにも凄まじい。それでいて叙情的なアプローチを取り入れることで、静と動を共有して緊迫とした世界も創り上げている。刹那すら集中を殺いではならない音の嵐の中にいるようだ。
それにしても”激しくも美しい”、そんな情景が眼の前に浮かぶのはなぜだろう。闇雲な衝動などではない。envyの生み出す音の一つ一つに宿る迫真性は人間という存在の本質を理解しているからこそである。絶望へと意識を走らせながらも、同時に希望という言葉が頭の中を瞬いていく。そんな天と地ほどもかけ離れた奇跡を体感することができるであろう。破壊と創造を繰り返しできていく未知なる世界に脱帽、まさに漆黒の闇から黄金色の輝きを放つ激情ハードコア。
“45億年を超える恐怖” の “音による解放”。
絶望の底から壮絶な旅路の果てに訪れる感動的なラストには、さよなら言葉の”君の靴と未来”の絶叫と共に涙が頬を濡らす。最期に知ったenvyの愛情の深さはいつまでも心に残り続けるであろう。世界観も確かにそうだが、この感動こそが唯一無二なのだ。
From Here To Eternity(1998)
coming soon…
Breathing and dying in this place(1997)
Blind Justiceを経て、新たに”envy”として活動し始めた5人組の1st EP(フル?)。これを書いている2014年現在で結成20年を超えているが故に、大半の人が本作を聴くと「envyにもこんな時代があったのか」と驚く作品だろう。瞬間最大風速が続くような全9曲約16分、まさしく電光石火のハードコアで蹂躙しにかかっている。1~2分台に収まった(1分未満の曲もある)楽曲は、小細工なし。例えるなら、球種は真っすぐしかないが、その剛速球で捩じ伏せるみたいな感じだろうか。音質があまり良くないのも手伝って黒々しさと重みを持ったリフが鋭く鳴り、リズム隊が加速度を与えていく。そして、当時の若さゆえか憤怒をぶちまけるような絶叫。ニューヨーク・シティ・ハードコアに大きく影響を受けたと言うが(本作ではないが、Constatine Sankathiのカバーをやっていたりする)、ここで聴けるのは、まるで整理されてない生身の男達が戦場で放つかのような音であり、剛球のハードコアなのである。モグワイやアイシスといったバンドの影響でポストロック~ポストメタルのエッセンスを集約させ、壮大な作風へとシフトしていったことはご存知だろうが、この頃の破壊力は異質。彼等の原点を知る上で重要な一枚といえるだろう。
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