Mamiffer ‐‐Review‐‐

フェイス・コロッチャとアーロン・ターナーの2人組(夫婦)によるインストゥルメンタル・デュオ。ピアノをメインの武器としながらも美しいアンビエントとオルタナ的なギターが折り重なる世界は独特の緊張感が全身を駆け抜ける。

レビュー作品

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MARE DECENDRII (メア・ディセンドリ)

Mare Decendrii(2011)

   約2年半ぶりとなる2ndフルアルバム。元These Arms Are Snakesのドラマーのクリス・コモンはいつの間にか抜け、代わりに前作でも協力していた元アイシスの我らがアーロン・ターナー総帥が正式加入しての新体制で制作された。昨年3月の初来日公演(House Of Low CultureとMerzbowと共演)を思い出す人も少なくないだろう。この模様を収録した『Lou Lou』というタイトルのライヴCD+DVDも日本独占500枚限という形で同時発売になっている。

 仄暗く重たいドローンの闇から息を呑むほどの美しさが溢れだしてくる見事な作品だ。前作でもドローン/ミニマル/現代音楽と親和しながら、ポストクラシカルな優美さと独特のアート感覚を持った世界を打ち立てていたわけだが、本作ではその音楽をさらに掘り下げて深遠な領域へと突入している。その功績は、なんといってもアーロン・ターナーの加入が大きいだろう。はかり知れぬ才気と実験精神、真摯な音楽への姿勢を見せる彼の加入が、Mamifferの耽美さと幽玄さをさらなる次元へと押し上ることに成功。特に前作を遥かに上回る重厚なドローンギターの妖しき轟きが凄まじく、背徳感の詰まったノイズの残響や恐ろしく緊張感を持って鳴らされるリズムの一打一打を繊細に調和させながら、儚い闇を忍ばせた音の風景を描いていく。もちろんコロッチャ嬢の流麗なピアノが主体となっている事に変わりはなく、それ故にゆるやかな展開と一定の優美さを保っているのだが、呪術的要素の強まり、深みをもたらすストリングスの活躍、前作では少し使われただけのコロッチャの儚いヴォーカルを多用したりすることによって音が捉えようとする要素/ジャンルは広くなっているし、作品全体の深度は深くなっている。不穏な静寂からドローンの深い霧を抜け、クライマックスのアヴァンな展開で涅槃の地に引き連れていく13分を超える#1からその凄さは実感できるはずだし、哀しみの念を募らせるピアノの音色や深いドローン・ギターを筆頭に厳粛な響きと異常な重みを帯びたサウンドスケープが心身に感銘を与える20分超えの#2は圧巻という他ない。有機的に練り上げられたサウンドの磁場は、確実に人々を引きつける。滑らかなピアノの音色が一番美しく響いている#5や深い森に誘うような15分超の呪術的瞑想ドローンを聴かせる国内盤付属のボーナスディスクの曲も忘れてはならない。

 静寂という印象が全体的に強いにも関わらず、ここまでの重たい緊張感や儚い情念の揺らぎを聴かせる事ができるのはMamifferの強みといえるだろう。その静寂と包み込もうとする闇の向こう側から美しさが溢れだしてくる。これには矛盾しているようだが、安らかな混沌を表現しているようなそんな気さえしてしまう。また、前作はそれこそ灰色のイメージが個人的には強かったが、本作ではモノクロの印象は変わらぬけれども白と黒でグラデーションが描かれている印象を個人的にはもっていたりする。1stから比べると格段の進化/深化を示しており、アーロンの加入でより”ポスト”を意識し、スピリチュアルな芸術性に磨きがかかった業深い作品といえるだろう。SUNN O)))のStephen O’Malley『ファインアートとしての勇敢な仕上がりに感服する』という賛辞を与えたのにも納得である。


Hirror Enniffer

Hirror Enniffer(2008)

   Hydraheadより発売されたMamifferの1stフルアルバム。ヴォリュームとしては6曲約34分とやや抑え目であるのだが、中身は耽美でもの悲しいピアノの旋律とアンビエントなノイズが重なり合う密な世界。ミニマルミュージックやオルタナティヴ、アンビエント、ポストロックといった要素を内包しつつ、妖しい闇のグラデーションを奏でるピアノが肝となっている。表面さえとればエレガントとも取れるクラシカルなピアノの凛とした響きに心が揺らめくのだが、時間が経つごとに何か寂寞とした感情がひしひしと湧き上がってくる。特に#4、#5辺りにはグッとこみ上げるものがあり、締め付けるような切なさが真っ白な雪のように積もっていく。そこにたゆたうノイズ音や不協和音のようなギターが退廃の薫りを漂わせながら絡み合うのも原因だろう、悲壮感と荒涼感が伝わってくる。どことなく鬱蒼としており、まるで曲全体が濃厚な霧で覆われているかのようだ。聴いているとその美しさにうっとりとしてしまうと同時に現実から遠ざかっていき、妄想の世界に逃避していく感覚を覚えてしまう。美しいノイズのゆらぎが印象的な#2やアコースティックな音色による牧歌的な空気と女性の甘い声が耳を掠める#6といった曲も決して光を灯しているわけではなく、深い翳りを滲ませており、シリアスな世界観を打ち立てるのに重要な役割を担っている。独特の緊張感と美、現実感のある切なさを求めたい方にお勧めしたい作品だ。

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