Maserati ‐‐Review‐‐

アメリカ・ジョージア州アセンズのインスゥルメンタル・ロックバンド。轟音と静寂のポストロックから、クラウトロック~サイケ~プログレのレトロ趣向を打ち出したサウンドに移行し、渋い支持を集める4人組。

レビュー作品

> Rehumanizer > Maserati Ⅶ > Pyramid of the Sun > Passages > Inventions for the New Season > The Language of Cities


masaerati2016

Rehumanizer(2015)

 約3年ぶりとなる6thアルバム。引き続いてTEMPORARY RESIDENCEからのリリースとなっています。Cinemechanicaのドラマーはそのまま常駐し、Jerry急逝以降のグルーヴは固められている。

 彼等もいつの間にか活動15年を超えるベテランとなっているわけですが、前作で打ち出した”クラウトロック×コズミック×ダンサブル” という方向性に拍車がかかっています。イマドキの音楽に興味をあまり向けず、時計の針を逆進させて温故の源泉を引っ張りだし、なおかつヴォコーダーを使ったロボットボイスも投下。#4「End Of Man」における渋い新型ダンスロックは、このバンドだからこそといえるものでしょう。全体的に80’sシンセポップっぽさも感じさせるものですし、その上でクラウト&サイケ&プログレ増し。組曲となっている#5~#6「RehumanizerⅠ~Ⅱ」のミニマリズム&グルーヴ強化、このマセラティ宇宙紀行は、独特の昂揚感を伴ってみなさまを誘います。

 海外のサイトでは”retro-futurist sound “なる形容もされておりましたが、レトロ趣向がこれまでの持ち味と咬み合って、音楽性がさらに発展していく → バンドとしての魅力がさらに増す。そうした形をMaseratiは続けているので、稀有な存在であるなと思います。ポストロックから辺境へと飛び立ったが故の個性。スペーシーなギターが冴え渡る10分超の#1「No Cave」から快楽の連続であります。


Maserati VII

Maserati Ⅶ(2012)

   5枚目なのに、なぜかタイトルが『Ⅶ』な2年ぶりの新作。前作は、ジェリー・フュークスの不慮の事故の影響が色濃く、ドラムは生前の彼のパートにZombiのスティーヴ・ムーアも加勢していたわけだが、本作では、来日歴もあるエモ/マスロック・バンドのCinemechanicaのドラマーを迎えて制作された。

 前作は、故ジュリー・フュークスが生前に示した方向性によるところが大きいながらも、彼の死後に残されたメンバーで答えを出した作品であった。本作ではそれを昇華させ、さらなる高みへと登りつめている。つまるところ、”クラウトロック×コズミック×ダンサブル” という言葉に集約されるだろう。前々作の3rdアルバムからクラウトロックを参照にしながら自らの音楽的幅を広げてきたが、精微で力強い演奏がもたらす躍動感や煌くエレクトロとの調和が前作以上に堂に入っている。#1「San Angeles」から一切の迷いがない。自然と体を揺らす強靭な四つ打ちに、コズミックなシンセが添えられ、美麗&サイケなツインギターも相まって有機的なダイナミズムを生み出していく。

 リード曲#3「The Eliminator」の弾丸のような疾走感と弾きまくりのギターにも昂揚する他ない。特に新ドラマーの存在は大きい。この力強い刻みにはジュリー・フュークスが叩いているのと同じような感覚さえ覚えてしまうほど(まあ、もともとCinemechanicaのドラムでもすごいわけですが)。ベーシストも変わらずのナイスな仕事ぶりで、マセラティの屋台骨を支えるリズム隊がいかに大事かがわかる。

 後半の#6ではクラフトワーク、#7ではクラスターといったバンドの面影さえ浮かぶといえば浮かぶが、パンキッシュなノリやすさやサイケデリックな要素も十分に孕んでおり、クラウトロックの影響を濃くしながらも独自のインスト像を開拓する辺りはEmeraldsに近い印象も。しかし、こちらはあくまで人力のダンスミュージックとしての趣が強い。特に印象的な楽曲は前述の#1、#3、そしてエレクトロとグルーヴが強化された#2「Martin Rev」。さらに#5「Abracadabracab」では、『Inventions~』期のマニュエル・ゲッチングを彷彿とさせるギターが炸裂するのが気持ちイイ。バンドがこれからどうなるかをの不安を払拭する好盤。


Pyramid Of The Sun

Pyramid Of The Sun(2010)

   マセラティの新たな核となっていたドラマー、Jerry Fuchs(他に!!!やLCD Soundsystem, Juan Macleanで叩いていたことでもお馴染み)の2009年11月の突如の事故死を乗り越えて完成した通算4枚目のフルアルバム。フルアルバムのリリースとしては実に3年ぶり。制作は2009年から始まっていて、基本はジェリー・フュークスのドラムが録音されているのだが、足りない部分はスプリットEPを発売した盟友ZOMBIのスティーヴ・ムーアが補っている。

 本作でも3rd、スプリット盤から続く流れにあってグルーヴ感の強化、NEU!やマニュエル・ゲッチングやホークウィンドといったクラウトロックやサイケ/スペース/ミニマルの昇華、さらにはコズミック/プログレ色の強いディスコ・クラブ要素を煌めかせて、徹底的なアップグレードを図っている。このクロスオーヴァーっぷり、音の背景の深さには恐れをなすぐらいだ。ストイックなまでに美学を貫き、昇華させたサウンド・サケープは実に見事。強力すぎるリズム隊を軸とした圧倒的な牽引力に、シャープに研ぎ澄まされた美しいギターとシンセ・フレーズが交錯することで増幅していく音の力が、稀有なる深宇宙を描く。

 ひとつ言えるのはポストロックという言葉で語るには無理なほど、ジャンルに括るのが難しい音楽になったといえることだろうか。インストという括りはもちろんあるにせよ、それを前作以上に感じるのである。ジェリーやZOMBIの力を借り、多種多様なエキスを吸い上げながら、卓越した技術とセンスで掛け算することでコンセプチュアルに具象化し、新たなインスト像を打ち立てている。様々な面で音の強度を増しながら、構築の美をしっかりと感じさせる所もまた素晴らしい限り。ジェリーに対する追悼の想いと本作へ懸ける並々ならぬ感情もあって、さらに精微に音造りを行ったことが伺える。

 古めかしいシンセの音色が幕開けを告げる短尺の#1からして、おやっと思わせられる人も多いだろう。バリエーションの広がりを感じさせてくれるのも本作の特徴でシンセのコズミックな音色とベースが力強く脈動する#4、生楽器と電子音がエレガントに混成する#7といったフロア系ともいえる曲が存在感を放つ。これを実現する楽器陣と電子音の巧みな連携もさることながら、緻密な構成力をベースにした組み立てもさすがだ。もちろん、根っこにあるグルーヴの引き込む力は尋常ではないレベルに達していて、前作の「Show Me The Season」を短く凝縮し、疾走感と快楽性を突き詰めた#3は間違いなく必殺曲と言えるだろう。同系の#6も然り。これぞマセラティというダンサブルな昂揚感を放出している。特に感動的なのはラスト曲で、おそらくタイトルからしてジェリーに宛てた遺作曲だと思う。オープニングの一面に広がる荘厳なコーラスから反復に反復を重ねて巨大な円を描く超絶グルーヴィなサウンドが地から天へ、天から宇宙へ、宇宙から無へと帰結していく名曲。エンドレスに沸々と増していく昂揚感と解放感が全身を支配する終幕には、天国から届けられた不思議な力が関与しているような気さえする。

 個人的にはポストロックを下地にジャンルを越境していった感のある前作の方が、自分の音楽的な好みに近いことは近い。けれどもダンサブルな面が強まったとはいえ、展開の妙やメロディの底から滲み出る詩的な情緒もまた惹かれる要因のひとつだし、前衛的姿勢を決して失わずに前作以上に様々な音背景と融和した本作における振り幅の広いインストゥルメンタルも、ジェリーの遺作云々を抜きにして評価されてほしいものである。これまでの作品で一番短いが(8曲で約40分)、想いは最高に詰まっていることでしょう。


Passages

Passages(2009)

   3rdアルバム『Inventions for the New Season』より2年ぶりに発表となる音源は編集盤。内容は、LPのみで1000枚限定リリースされたZOMBIとのスプリット盤に収録されている4曲(#1~#4)、リミックス盤の12インチEP『Inventions Remixes』に収録された2曲(#5,#6)、そして未発表のリミックス曲(#7)と未発表の蔵出し音源(#8)といった全8曲が収められている。

 中心となるのは間違いなくZOMBIとのスプリット作の曲だろうと思う。3rdアルバムでの躍進を踏まえて制作されたこれらの楽曲では、リズム隊による躍動感とグルーヴがさらに強化され、サイケデリック/クラウト・ロックの要素がポストロック/ミニマルが見事に融合を果たしている。前作の進化/深化は紛れもなく本物。サイケデリックなテイストとダンサブルなリズムが牽引する「No More Sages」にまず痺れを覚えた。美麗さと幻想性と躍動感をドッキングしたこの上ない一撃は、持続的な快楽も瞬間の昂揚をも引き出している。

 そして、早くも訪れる本作のハイライト#3「Monoliths」が凄い。個人的には、Maserati史上最強の曲かとも感じている1曲。こちらはマニュエル・ゲッチングの影響を思わせる幾重にも連なる美しいミニマル・ギターがメロディアスに響き心地よさを誘えば、徐々にグルーヴが強まってリズミカルに上昇しながら、心地よさを恍惚と解放へと変えていく展開の妙が何とも圧巻である。この1曲のために本作を買う価値は十分あるといえる。また、彼等のセンスが抜きんでている事を証明しているようにも個人的には思う。

 リミックスの3曲ではいずれも4つ打ちのクラブ仕様になっており、腰をくねらす快楽指数が高まっていて単純に気持ちいい。特に!!!のメンバーがリミックスした#6のアシッドな一撃はゆらゆらもの。そして、未発表のラスト#8では初期にも通ずる美麗な世界が展開されており、ひんやりとしたギターのレイヤーが純白の大地を眼前に広げるかのようなドラマティックな1曲で骨抜きにされてしまう。つぎはぎの印象も残るといえば残るのだが、ただの企画盤と侮って欲しくない。彼等の純粋な進化を確かめる上で押さえておきたい作品である。


Inventions for the New Season

Inventions for the New Season(2007)

   Mercury Programとのスプリットを経て、5年ぶりにリリースされた3rdフルアルバム。ドラマーにJERRY FUCHS (LCD SOUNDSYSTEM、!!!等で活躍)を新しく迎えた本作は、これまでのインスト・ポストロックに多彩な資質が投下されていて、マセラティの音楽の独自性をより強く示すものへとなっている。

 Canのプログレ/サイケ感覚、ホークウィンドのスペース感覚、!!!のうねるグルーヴ、マニュエル・ゲッチングの美しいミニマル要素、クラブ/テクノ経由のアシッドな電子音を懐に収めたこのサウンドは、極めて前衛的。静と動のポストロック的な縦の大きな揺さぶりのみならず、Jerryという強力なドラマーを軸とした持続的な横の揺さぶりを加味したことが、心地よい昂揚感を運んでくる。既存のメロディの良さ、そして荒々しさを下地にしてそこから一段も二段も上の領域へ上書きされた彼等の音楽は、多くの要素が細かく理詰めされながら、緻密な構成力のもとで活かされているのがまた素晴らしい。幻想的な美しさに往年のレトロ/サイケ/プログレ感覚、それにクラブ/テクノの快楽をドッキングすることで、ポストロックの無人の領域を開拓した新感覚のものへと進化/深化させてしまっているのだ。

 前述したようにマニュエル・ゲッチングを思わせる美しいギター・ループと心地よいグルーヴが母なる大地から宇宙的へと膨張を続けていくような#1「Inventions」の冒頭から鳥肌もの。滑らかに叙情の波紋を広げ、終いには轟音の楽園を噴出する#2「12:16」、2本のギターが精妙に絡み合いながら鮮やかに世界を染めあげる#4「Synchronity TV」とメロウな佳曲も耳を惹きつける。

 麗しき感性もこれでもかと光る一方で、本作の中でも特にひときわ輝きを放っているのが#6「Show Me The Season」。骨太のベースラインとタイトで力強いドラミングがダンサブルな音場を形成する一方でサイケデリックなギターがしっかりと酩酊を植え付ける至高の一撃である。前作の世界観をそのまま引き継ぐように甘美で至福のポストロックを鳴らす#8「World Outside」での壮麗なる締めくくりもまた味わい深い。既存の音楽性を大胆に上塗りした傑作であり、恍惚と覚醒の連続をもたらす驚愕の一枚である。


ザ・ランゲージ・オブ・シティーズ

IThe Language of Cities(2002)

  イタリアの高級スポーツカーの名前を冠したUSアセンズのインスト・バンド、マセラティの2ndアルバム。リリシズムに満ちたメロディと繊細なアンサンブルで足場を固め、叙情的で物語性の高いドラマを抽出していくインストゥルメンタルである。

 骨太のベースラインと力強いドラムを地盤に、物悲しげに鳴るアルペジオやギター・ループが滑らかに遷移し、その合算が柔らかなエモーションと共に雄大なうねりとなって聴き手の涙腺を刺激していく。それは、まるできらびやかで美しい水脈が流れているかのようである。じんわりと染みてくるこの叙情の色合いには、ひたすら惹かれてしまう。それに奥行きある空間の広げ方や浮遊感の醸し方、ドラマチックな展開の巧さはバンド自身がInsturumental U2と自分たちの音楽を表現しているのにも納得である。

 静から動へと歓喜を湧きあがらせていく丹念な手つきは、EITSとも近しいように感じる。しかしながら、稲妻を思わせるリフで荒々しく空間を切り裂く#4、さらには緩やかな立ち上がりから徐々に熱を帯びていく感じがEITSを思わせるが、彼等よりもさらに強烈な爆心地となる#5のようなダイナミックなサウンドが轟く場面も出てくる。その歓喜の表現もまたマセラティの強さの一つ。これ以上ないセンチメンタルで昂揚感あるドラマを大地に書き殴るラストの#8は、バンドの表現力の高さを物語る名曲といえるだろう。ただ、本作に限っていえば轟音バーストよりも丹念に織り込まれた静パートの方に一日の長があり、優美な魅力を湛えた安息の世界が何よりも心地よいのである。むろん、それは轟音を隠し味に巧くつかっているからこそであるが。

 なお、この作品は約1年ほど遅れた2003年12月にMONO主宰のHuman Highway Recordsからめでたく国内盤化されており、翌年2月には初の来日公演を行っている。

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