【作品紹介】ゆるめるモ! 脱力系アイドルが行く道無き道

 ”窮屈な世の中を私達がゆるめるもん!”してくれる脱力系アイドル・グループ、ゆるめるモ!。これまでの作品でNEU!やESGなどのオマージュ・ソングを発表し、はみ出し系のニューウェーブ・アイドルとして話題を集める。

 本記事ではシングル、ミニアルバム、フルアルバム含めて12作品を紹介しています。

タップできる目次

シングル&アルバム紹介

HELLO WORLD(2013)

 初のリリース作品となる1stシングル。写真通りに当時は4人編成でゆみこーん、けちょん、ももぴに卒業した初代赤担当のんちゃんという編成。収録されているのは、1stアルバム『Unforgettable Final Odyssey』に再録されている代表曲#1「ゆるめるモん」と#2「なつ おん ぶるー」の2曲(+インスト・バージョン)。

 作詞はこの頃から小林愛さんが担当。作曲は#1がプロデューサーの田家さんで#2がTamptin氏。まず#1「ゆるめるモん」はパンク調の軽快なギターと打ち込みに、可愛らしいラップが入る曲。3分ほどの短い楽曲で、終盤ではパーティーのようなテンションの高さを味わえる。

 ”眉間のしわ ゆるめりゃ なんとかなるんだもん”という新しい魔法を教えてくれたことでも有名でしょう(笑)。また当時のメンバーである、のんちゃんがおちゃらけた感じでキュートに歌うのは、凄く良いスパイスとなっている。

 続く#2「なつ おん ぶるー」はライヴの終盤に披露されることの多い四つ打ちのエレクトロ・ポップ。サビでの太陽が眩しく感じられるぐらいの熱さと昂揚感は、モ!の楽曲の中でも群を抜く。

 歌詞にも出てくる通り「歓喜の奇声 太陽に届くまで」といった感じでいつもライヴでは大きく盛り上がる。これを聴くとホントに夏に舞い戻る気分です、はい(笑)。これら2曲を皮切りに脱力アイドルと行く大気圏外への旅路がスタートしていきます。

メインアーティスト:ゆるめるモ!
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New Escape Underground!(2013)

  1stミニアルバム。EDM系の煌びやかな四つ打ちダンストラックに、「ゆるゆるゆるゆるゆるゆるゆるめるモォー♪」とおふざけ全開のコールが乗る#1「ゆるトロ (slo-モ!)」から、限りない脱力です。

 ニューウェイヴ系アイドルとは聴くものの、最初に聴いた時はやる気あんのか?(笑)と問いかけたくなるぐらいの、おちょくり&おふざけ感。ですが、この自然体のゆるゆる~さが個性ですし、逆に大きなインパクトにつながっています。

 ももクロの「走れ!」をオマージュした#2「逃げろ!!」は辛くても逃げていいというグループのコンセプトを体現した代表曲であり、無敵のアイドルポップスでリスナーもときめかせてみせる。四つ打ちで身体を揺らし、シンセやホーンが華やぎをもたらしていく#3「花のドイリー」もアイドルっぽい感じが出てて良いですね。

 さらに目玉のひとつが#4「Sweet Escape」。ジャケもタイトルも完全にNEU!しているわけですが、アイドルの楽曲としては異例の10分越え。NEU!「Hallogallo」をまじリスペクトっす!な仕上がりであり、無機質なハンマービートの反復とふわふわ歌唱が、謎の相乗効果を発揮して天国をふらつきます。

 クラウトロックとアイドルの親和性なんてほぼ無いと感じていたけど、オマージュ8割とはいえ、こうしてしっかりと昇華したものを聴かされると”参りました”ってなっちゃいます」。

 制作陣がアイドルというフィルターを通して楽しんでる感はあるにせよ、これ聴いて現実逃避、サブカルアイドルへエスケープできるはず。”ゆるめるモン”という魔法はいろんな人に効いてきます。

メインアーティスト:ゆるめるモ!
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箱めるモ!(2014)

 メンバー増員で8人体制となった、カラフルつなぎ着用の脱力アイドル達のミニ・アルバム。いずこねこのバックバンドを務めた経験も持つ”箱庭の室内楽”というバンドとの企画コラボ盤です。表ジャケがWeezerのブルー・アルバムで、裏ジャケがGang of Four「Entertainment!」のパロディ。

 本作ではエレポップ(ギターロック風味)な#1「manual of 東京 girl 現代史」を皮切りにヒップホップ、シューゲイザー、オルタナ、エレクトロニカ辺りをゆる~くリンクさせた6つの楽曲を用意。

 箱庭の室内楽のハシダ氏が全て作曲を手掛けているが、様々なジャンルに踏みいれながら一癖も二癖も持たせ、彼女達らしい脱力の音楽に変えていってます。特に、ラップを舐めてます的な萌えラップを炸裂させる#2「木曜アティテュード」の賛否両論を巻き起こす破壊力。これだけ力抜いてヒップでホップなことをやるんだから、KAWAiiに代わるYURUiがトレンドにきますよ、きっと(笑)。

 アイドル×オルタナロックで昂揚感溢れるラストを駆けあがる#6「さよならばかちゃん」もとても魅力的なのだが、本作では#3「虎よ」が群を抜いている印象。「部屋からは出~たくない、出~たくない」と歌い続けるゆるふわ現実逃避ロック~シューゲイザー。脱力支援、万歳。

メインアーティスト:ゆるめるモ!×箱庭の室内楽
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Electric Sukiyaki Girls(2014)

 NEU!に続き、今度はESGをゲフゲフした5曲入りとなる3枚目のミニアルバム。ジャケもタイトルもそんな感じでございます。ただ、わたしがESGを全く聴いたことが無いため、楽曲のオマージュ度はわからないけれども・・・。

 作品紹介によると、ESGまじリスペクトっす!になるのはグルーヴィな#1「あさだ」や#4「アーメン」辺りらしい。#5「スキヤキ」ではあのFactory Floorもわかりやすく料理しちゃっております。これぞ、ゆるパワーONの脱力レジスタンス。

 ただ、歌に関してはこれまでで一番アイドルらしい歌唱となっていて、歩調を合わせるようにポップス度も高まっているように感じます。「逃げろ!!」のアンサーソングとなる#2「生きろ!!」のキラキラ感でどこまでも突き抜けていく感じは爽快。

 NW~エレポップ・テイストに鮮やかなアイドル歌謡性が加算された#3「私の話、これでおしまい」、トライバルなリズムによる躍動感で加速し、ホーンのアレンジ等が加わるサビで一気に祝祭感が増す#4「アーメン」も良いですね。ひねるところはひねり、元ネタを知っている人はニヤケさせる。

 特筆すべきは#5「スキヤキ」。Factory Floorの某曲へのオマージュしながら、華やいだJ-POPへと転換させていくアクロバティックな大技を完遂しております。

メインアーティスト:ゆるめるモ!
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Unforgettable Final Odyssey(2014)

 1stアルバム。作品名は略して『UFO』。NEU!やESGへのオマージュ・ソングをこのアイドル百花繚乱時代に発表し、高速道路を30kmで走る感じでおんがくギョーカイにちょっかいかけにきましたが、”窮屈な世の中を私達がゆるめるもん!”する彼女たちがついに1stフルアルバムです。裏ジャケはDEVO『Freedom of Choice(欲望心理学)』のパロディ。

 ニューウェイヴ~エレポップを中心に多彩なサウンドを煮込んで、クロスオーヴァーとへんてこりんと脱力のポップスへと昇華してきた彼女たち。本作に関しては、正統派のアイドルポップとしての感触がわりと強め。

 テクノ~エレクトロちっくなトラックに乗せてのアイドル歌唱、その中にエンタメ性が放り込まれている。グループ自己紹介的な#2「ゆるめるモん」はその筆頭。「眉間のしわ ゆるめりゃ なんとかなるんだもん」って、そんな新しい魔法があることを僕はこの歌で知りました(笑)。

 ももクロのオマージュ・ソングである#4「逃げろ!!」からそのアンサー・ソングとなる#5「生きろ!!」の流れはキラキラ・アイドルポップスとして、ゴージャスなサウンドと四つ打ちが自然とノせてくれる。この辺りの楽曲を聴いていると、王道アイドル・ファンにも振り向いてもらおうという意気込みが伝わってくるはず。(歌を除くと)Pains Of Being Pure At Heartみたいな#10「DO FUFU」も良いですね。

 その中でも特にラストの流れがいい。80’sエレポップで萌えっ×キラッな#12「OO(ラブ)」から、ラストトラックとなる#13「たびのしたく」で未確認飛行物体にさらわれてROVOばりの宇宙×昂揚感のクライマックスへ。脱力アイドルと行くアナザヘヴン。オマージュも含めた過剰なアイデアがぶん投げられ、興味深い仕上がりになっています。

 ちなみに過去EPの「虎よ」や「SWEET ESCAPE」といった曲が収録されてないのは、あえて外してアイドルとしての親しみやすさやポップ性を重視したからだそう(Real Soundインタビューによる)。ただ、”みんなのハートをゆるめる”キャッチーで魅力のあるアイドル・ポップス、それと「スキヤキ」や「たびのしたく」などのいわゆる楽曲派もうなる曲がバランス良く混在していて、広範囲にアプローチできる作品になっています。

 アイドルというフィルターを通しているっていうのはあるけれど、玉手箱のようにおもしろいアルバム。”脱力レジスタンス”でどこまで駆けあがっていけるのか楽しみ。

メインアーティスト:ゆるめるモ!
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解体的交歓 ~真夜中のヘヴィ・ロック・パーティ~(2014)

 非常階段 featuring ゆるめるモ! として発表するコラボレーション・ライヴ作品。9月26日の渋谷マウントレーニアホール公演を収録し、ジャケットは阿部薫と高柳昌行の『解体的交感』のオマージュ。

 基本的にはゆるめるモ!の楽曲をコラボレートする形で、オケ+非常階段の演奏です。モ!のオリジナル5曲にオープニング&ラストの即興演奏を加えた全7曲を収録。視覚的な面は想像になるが聴いていると、非常階段の演奏をバックに、モ!が伸び伸びと歌い、パフォーマンスしている印象があります。ノイズはかなり偏屈に轟いてはいるんだけど、彼女達の歌声も決して負けてない。この辺りはBiS階段を経てのバランス感ある録音になってそう。

 NEU!のオマージュである10分超えの#6「SWEET ESCAPE」は混沌とした宇宙が広がり、ラストの轟音即興セッションとなる#7「解体的交歓」は、モ!のメンバーも楽器演奏しています。このコラボレーションの一番美味しいところを詰め込んだ内容。大気圏外の世界がそこにはあります。

 本作は追体験という意味合いもあるし、作品としても良好でありますが、◯◯階段系列ってやっぱりライヴを生で体験してこそな気がしますね。

SUImin CIty DEstroyer(2014)

 2014年大晦日にリリースされたミニアルバム。”オマージュはズッ友だよ”を合言葉に今回はアメリカのノーウェイヴ系バンドのSUICIDEを攻略。

 収録内容は、nhhnbaseのマモル氏が初めて楽曲提供した#1「眠たいCITY vs 読書日記」、#3「メルヘン」を含む全4曲(歌詞は小林愛さんがいつも通りに全曲担当)。本作はこれまでにも増して、飲食店の裏メニューだけ集めましたみたいな印象で、ひねくれた楽曲ばかり。

 ラーメンもハンバーグもカレーも置いてないが、クセのあるサイドメニューで行列できるみたいな感じでしょうか(笑)。#1や#3は変拍子多用もあって掴みづらくノリにくいですが、ダークなエレクトロ系パンクに終始しているわけでもなく、KAWAii要素を活かしながら、ドーパミン分泌に役立つ電波系ソングへと変えている。

 これまでに「べぜ~る」を提供した大星徹氏による#2「波がない日」も印象的。最近のモー娘。を意識したようなブロステップっぽい入りの部分から、華やかでチャーミングなちょいEDM風アイドルポップが咲き乱れ。学校のチャイムをコラージュしている点も良いですね。歌詞にメンバーの名前が隠されているのも味噌。

驚くのはハシダカズマ氏(箱庭の室内楽)による#4「NNN」で、シガー・ロスっぽい感じのする新雪アンビエントから、同氏提供の「たびのしたく」でみせたような昂揚感と祝祭感に溢れたラストが用意されています。”モ!う源郷”に連れていかれたような気分。2015年も多くの人をゆるめていきそう。

メインアーティスト:ゆるめるモ!
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Hamidasumo!(2015)

 4人時代の『HELLO WORLD EP』以来となる久しぶりのシングル。表題曲の#1「Hamidasumo!」はPOLYSICSハヤシ氏の作詞作曲。曲調をゆるめるモ!に合わせてるわけでもなく、ハイテンション高速ピコピコナンバーのこの曲はモロPOLYSICS、超POLYSICSであります。

 それでも極自然にハまっているのは、互いにニューウェーヴに軸足を置いているからだろうか。しふぉんのヴォコーダーやあのちゃんの即興ギターソロなど聴きどころが満載。

 カップリングに収録された曲もアッパーなニューウェイヴ~エレクトロ調の曲が揃う。今回のシングルはその点で統一しているのかも。「OO(ラブ)」等を作曲しているTamptin氏による#2 「難」は弾けた電波&KAWAii系ソング、通常盤のみ収録の田家P+ハシダさんよる#3「聞こえる」も爽快なスピード感&エレクトロでぶっ飛ばす。これらは、ライヴでさらに騒々しくなりそう(笑)。

 初回盤のみに収録の「1!2!カンフー!」が意表を突く感じの曲で、中華風フレーズを基軸に心地よいテンポで進む。途中にゆる~いラップを乗せていて、彼女達のまた新しい一面を引き出しています。今回のシングルは正直なところ、ハイテンション過ぎて全然ゆるめられませんが(笑)、だから入りやすい作品だと思います。

メインアーティスト:ゆるめるモ!
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文学と破壊EP(2015)

 約5ヶ月ぶりとなる新曲3曲+各曲のインストを収録した全6曲のEP。ジャケットはベルセバのオマージュの模様。”窮屈な思いをしている誰かのために、ゆるめるモ!がくだらない秩序と法則をぶち壊す”っていう帯の文面に、ゆるめるモんであります。江頭2:50師範代の精神が宿っているといいますか(笑)。

 #1「夢なんて」は、作詞・作曲をミドリカワ書房氏が担当。作品紹介にあるフォークトロニカというよりかは、ネオアコのフィーリングの方が強い印象。しかしながら、誰しもが抱えそうな青春の苦悩を涼やかなメロディと歌で昇華していく感じが良いです。聴くほどにせつなさを掻き立てられる。ぶっ飛んだオマージュが続いた中で、こうした感傷的な気分に浸れる曲がくるとジーンときますね。

 続いての#2「Refresh Your Jewellery Box」は、ゆいざらす卒業公演にて彼女に贈られた楽曲を1年の時を経て初音源化しています。箱庭の室内楽のメンバーやcinema staffの三嶋さんを含む、ゆるめるモ!バックバンドが編曲を担当。大所帯からなる様々な音色が、カラフルで前向きなポップスを形成しています。

 しかしながら平和に終わるわけもないのがこのグループ。”BOREDOMS+マイブラ” をイメージして制作されたという#3「Only You」でぶっ飛びます。ツインドラムとパーカッションを惜しげも無く使ったリズムはHolyfuckの「Super Inuit」っぽい印象もあるし、ホーン隊も交えた豪華な音色と異様なサイケ感が落とし込まれていて、これまで発表してきた楽曲の中でも狂い度が半端ない。まさに狂気と破壊。

 そこにちゃんとアイドルポップのキラキラ感も搭載。ようなぴ先生の「飛べ!」の連呼はすごくインパクトあります。生演奏+野外フェスのシチェーションで体感したら、さぞ最高な曲ですね。

メインアーティスト:ゆるめるモ!
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女の子よ死体と踊れ(2015)

 ”森の中であのちゃんの死体を見つけ、ノルウェーのブラックメタル・バンドが伝える儀式によって彼女を蘇らせる”という狂ったストーリーを持つ映画のサウンドトラック。サンドウィッチマンの富澤氏なら即座に「ちょっと何言ってるかわからない」とつっこみそうです。

 本作はその主演映画に使われた5曲を収録。リ・レコーディングverとしてESGオマージュの#1「あさだ」と#2「アーメン」、そしてTamptinが手がけたエレクトロ調の佳曲#4「OO(ラブ)」。#2「アーメン」はイントロで顕著ですが、もう1本ギターを追加してるっぽい。

 大きな変更としては8人体制→6人体制で現メンバーで再録。そして新曲は2曲(いずれも2ndアルバム『YOU ARE THE WORLD』には未収録)。#3「その他のみなさん」は、作曲のハシダさんが若かりし頃に聴いていたray wonderやboo radleysなどを意識して作成したというハッピー系ソング。

 映画主題歌としてエンディングで流れる#5『人間は少し不真面目』は、ミドルテンポで紡ぐ壮大美麗シューゲイザー。Slowdive等を思わせたりもしますが、6人の歌声が青春とポップと儚さを感じさせることで彼女達らしい曲に仕上がってます。

 「夢なんて」もそうでしたが、音楽の枠組みを自由に飛び越えてポップな楽曲を提供する姿勢に頭が下がります。

YOU ARE THE WORLD(2015)

 2ndフル・アルバム。前述したシングルやミニアルバムからの既発曲9曲に新曲8曲を加えた全17曲収録。先のメンバーに加えてナカコーさん(LAMA、ex-SUPERCAR)や後藤まりこさんなどが作曲陣に参加。もちろん、小林愛さんやハシダさん(箱庭の室内楽)、松坂康司氏や大星徹氏といったレギュラー・メンバーも名を連ねています。

 1stアルバムと比べるとさらに表現の幅が広がった本作。「辛かったら逃げてもいい」というメッセージ、そしてニューウェーヴを基軸にしたグループでありますが、どんどん”なんでもあり”の領域へ(前作もそうといえば、そうですけど)。17曲を通して本当にいろんな音楽が耳に飛び込んできます。

 エイフェックス・ツイン等を意識したリズムに連なるピアノの旋律、チャーミングかつ力強いサビの歌メロで持っていく#1「モモモモモモ!世世世世世世!」からまさにそうでしょう。エレクトロ方面からオルタナティヴな方向に振れていくという作品全体の流れはありますが、その展開の必然性はラストの#17「Only You」に集約される。

 曲毎に注聴していくと(主に新曲について)、#3に続いてPOLYSICSのハヤシ氏提供の#6「不意打て!!」はポリイズムとゆるイズムの合算による昂揚感が生まれ、USオルタナ/インディー・ロックを参照したという#10「よいよい」のお祭りハッピーソング感はライヴでさらに化けそうです。

 Minor ThreatとKAWAiiが衝突する可愛威斬鉄剣#11「KAWAIIハードコア銀河」は、cinema staff三島さんのバッキバキなベースライン、しふぉんさんの冒頭の煽りが良ろし。後藤まりこさん&ハシダさんによる#12「id アイドル」はオルタナティヴの炸裂からエレクトロ調への移行の鮮やかさ、理想と現実に悶えるアイドルの葛藤を描く歌詞の切なさが印象に残ります。

 そして、本作のトピックのひとつであるナカコー提供曲の#15「もっとも美しいもの」は、彼のテイストが当然のようにそのまま持ち込まれて、アルバムの中でも特に異彩を放っています。

 好奇心と野心を持って今の自分たちに様々な音楽を足し算、足し算、時に掛け算。その膨張し続ける音楽性は、田家さんがインタビューで「フジロックのホワイト・ステージに出ても遜色ないものをやってるんだよってことを世間に知らしめたい」と語るほど自信を持ったもの。それは先人にリスペクトを捧げてもいます。

 しかし先鋭化しようが、ゆるめるモ!のレシピに重要なゆるい・優しい・KAWAiiによって最高にポップでハートウォーミングなものであることは守られています。いや、ボイトレを始めたことやライヴの場数を踏んでたくましくなった彼女達の歌の表現力が、むしろもっとポップさに拍車をかけているようにも感じます。そもそもこの頭のおかしい狂ったプロデューサーの無理難題を乗りこなしてる時点で凄いわけですが(笑)。

 メンバーの成長が特に実を結んでいると感じるのは、いつかの自分に対しての感謝を届ける#14「私へ」であまりの切なさに涙腺が緩む。冒頭がColdplayの「Every Teardrop Is a Waterfall」を少し思わせたりもしますけどね。

 本作のハイライトとなるのはやはりラストの流れ。アンビエントからポストロック風に美しく壮大に展開する#16『NNN』から、ボアダムスを骨格にマイブラやHolyfuckをぶち込んで「全て壊します」と叫ぶ#17「Only You」によるコズミックな大開放は、新しい宇宙を見せます。この曲が彼女達の現時点における最高到達点だと思います。

 「たびのしたく」を終えたからこそ紡ぐことができた全17曲約74分の特大ボリュームが生み出す、狂騒と祝祭のYOU’LL ワンダーランド。ここから新しい物語が始まってほしい。

WE ARE A ROCK FESTIVAL(2016)

 もね・ちーぼう脱退の4人体制始動後すぐにリリースされた7曲入りミニアルバム。”私たちがロックフェスティバル”という大風呂敷を広げていますが、内容としては邦楽ロック系フェス攻略メソッド(いわゆる4つ打ち系ギターロック)を使った曲が多いです。それに加えてでんぱ組.incっぽさも増してます。

 4人への減少による声のバリエーションの少なさ(4人でもいろいろな声を使おうとはしてる)は感じるところ。それでも、先行公開のギターロック#2「サマーボカン」を始めとしてノリの良さで客席を沸かせる楽曲が多い。#1~#5まではその流れ。そこにお祭り感やでんぱソングっぽさをドッキングしているのは見事。

 でも「なつ おん ぶるー」を超えるサマーアンセムは無いかな。これまでのファンにはプラネタリウムがイメージできるようなエレクトロポップ#6「ゆるビスタ!」や#7「ナイトハイキング」の支持率が高そうです。

 フジロックのホワイトステージの音が鳴っているのを意識した2ndアルバムの素晴らしさがある分、本作はあえてしぼっている感があるし、4人でやれることを試している感もあります。でも、全体通していいフェス夢気分は味わえるものだと思いますし、脱退してすぐに作品を出す辺りにゆるめるモ!チームの覚悟は強く感じます。

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YOUTOPIA(2017)

 3rdアルバム。ゆるめるモ!5周年を記念してリリース。

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サプライザー(2020)

 4thアルバム。あのさん脱退。新メンバーのなにさん、ねるんさん加入。けちょんさん、しふぉんさん、ようなぴさんのフルアルバムとしてラスト作。楽曲制作陣には、玉屋2060%さん(Wienners)、ハヤシヒロユキさん(POLYSICS)、オータケハヤトさん(元ROCK’A’TRENCH)、DOTAMAさん、ハシダカズマさん、小林愛さん、M87、安原兵衛さんらが参加。

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GOLDEN YOU(2023)

 5thアルバム。長きにわたって支えたオリジナル/初期メンが抜けての新5人体制となっての初作品。楽曲制作陣にPOLYSICSのハヤシヒロユキさん、Wiennersの玉屋2060%さん、元RIP SLYMEのPES氏、小林愛さん、M87氏、安原兵衛さん、顕 -aki-さんらが参加し、新曲11曲を含む全17曲を収録。

You’ll Records(ゆるレコ)
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ゆるめるモ!を知る手引き

 プロデューサー・田家大知さんによるアイドル運営方からゆるめるモ!誕生秘話、成長物語までつづった1冊。グループを知る上で読んでほしい1冊です。電子書籍は新たに”ゆるめるモ!の躍進とそしてこれから”は加筆されているので、買うならこちらをオススメ。

プレイリスト

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