フランス・ボルドーを拠点に活動するポストメタル系インスト・バンド6人組、Year Of No Light。2006年リリースした1st『Nord』では凶悪なスラッジ・メタルを創り上げていたが、ヴォーカリスト脱退後の2010年にリリースした2nd『Ausserwelt』ではNadjaを思わせるアンビエントも含んだ重厚なインストへとシフト。いずれのスタイルでも高い評価を獲得している。2013年には3rdアルバム『Tocsin』を発表した。
レビュー作品
> Tocsin> Ausserwelt > Nord
Tocsin(2013)
約3年半ぶりとなる3rdアルバム。獣性剥き出しの激烈スラッジを轟かせた1stアルバムから、ヴォーカリストの脱退を経て、2ndアルバムではNadjaを思わせる吹雪のような重音インストへとシフト。異なる作風であるとはいえ、いずれの作品でも世界的に大きな衝撃を与えたのは、記憶にあるところ。
本作では、ひとまず2ndアルバムの路線を継続。トリプルギター、ツインドラムが叩き出す脅威の音圧/轟音で鼓膜を蹂躙する。そして、変わらずに長尺曲を並べていて5曲中4曲で10分越え。トータルでも5曲約57分という構成になっている。荘厳な幕開けから、鉄槌の如きリフの反復が世界を暗転させる表題曲#1「Tocsin」から己の世界を浮かび上がらせており、Nadjaの初期の名作『Touched』を想起する重音とアンビエンス、エレクトロニクスの絶妙な混合が核となる中で、人力で叩き出すがゆえのダイナミズムが強烈である。その独特の美意識と高まった破壊力を基に、前作からさらなるパワーアップが図られたといえるだろう。
Lentoが漆黒なら、YONLは灰色といったイメージが個人的にはあるかな。フランスらしいお耽美さと芸術性がどこか通底しており、聴いていると異様にロマンティックに感じる部分もある。そんな轟音美麗の本作の中でも一番のインパクトがあったのは、彼等にしては珍しい約6分の#2「Géhenne」。掛け合う様にツインドラムが力強いリズムを刻み、3本のギターが美しく激しく鳴り響く。コンパクトながらも威力は絶大で、新境地を切り拓く一曲になっている。また、8分を過ぎた辺りで奈落の底から天上界へ駆け上がり、突き抜けていく劇的な展開に骨抜きにされる#4「Stella Retrix」も本作を象徴する1曲といえるだろう。見事な完成度を誇る1枚に仕上がっており、超人的な音の波動を鼓膜と身体で感じれば、あちらの世界も見えてきます。彼等の公式Bandcampの最後には、こんな文面もあり。
『Maximum volume delivers maximum results! = 最高音量が最高の結果をもたらす!』
Ausserwelt(2010)
3年ぶりとなる2ndフルアルバム。前作から比べると随分とモデルチェンジしていて、まず4曲約46分という構成に驚かされる(LP盤は2LP仕様で片面に1曲ずつ入っているらしい)。そして、あの獣性に満ちた野太い絶叫が跡形も無く消えて、完全インストゥルメンタルの作品となった。
地表に裂け目をもたらすかのような激重のリズムはそのまま本作に受け継がれているものの、アンビエントの愉悦を覚え、シューゲイザーの恍惚感が増した。前作でのシューゲを内包したスラッジ/ドゥームから飛躍してアンビエント~ドローンの領域まで侵し始めていて、破壊的なヘヴィネスに覆いかぶさっていく耽美・陶酔のサウンドは彼等しか成しえないものとなっている。
こんなYONLの音楽を聴いて想起するのはNadjaだと思う。それは、壮絶なまでの美しさと重量感を伴った轟音の調べが、確かにあの夫婦デュオに通ずるものがあるから。とはいえ、バンド形態だからこその強烈なダイナミズムがしっかり感じ取れるし、Ufomammutにも接近する重さも獲得しているように思える。大地に淡々と降り注ぐ冷たい雪のようなアンビエントに、積もり積もった白銀の雪景色から引き起こされる雪崩のような轟音、それは美しさを纏いながらも一歩も二歩も他バンドを凌駕している印象だ。強靭なまでにタフで重たいリズムの一撃は脳髄を穿ち、反復することで酩酊を促していく。20分に及ぶ組曲形式の#1、#2での差し迫ってくる音の洪水には恍惚感を味わうことができるだろう。ブラックメタルのような激しいブラストが飛び出す13分超の#4のような飛び道具も確かに機能していて、世界観はさらに深まっている。全編から伝わってくる身を切るような凍てつく寒さと閉塞感がまた本作のキーとなっていて、MONOのようなもの悲しい雰囲気までもがシビアに伝わってくるのも個人的に惹かれます。
Nord(2007)
ISISのオープニング・アクトも務めたことがあるというフランスの6人組ドゥーム・バンドの初作。荘厳な空気の中を天空から打ち落とされる鉄槌の如し轟音が重たく駆け、ドラマティックなフレーズが瞬き、フィードバック・ノイズが吹き荒すさぶ、シューゲイザー風味のエッセンスを交えた激震ドゥームでございまする。悪意と獣性を剥き出しにひたすら音を塗り重ねて打ち立てられる巨大な壁には唖然、呆然。ドゥーム直系の重さとスラッジ直系の苛烈さ、その両方の種が芽を出して実を結び、とてつもなく重いグルーヴとなって脳髄をかき乱し、骨肉にガシガシと響いてくる。絶えず押し寄せる爆発的衝撃。一音、一音の鳴りは空間を軽く歪ませるほどに恐ろしく強烈だ。
けれどもフランスのお国柄ともいうべお芸術志向も生きていて、うっすらと耽美の薫りを詰め込むことで恐ろしい重圧の中に麗しさが顔を出してくる。#1や#5辺りはその特徴が顕著に表れており、美しい轟音を無限の荒野に咲かせていく。重くて息苦しい、そういった思いを和らげる叙情性は、昨今のポストメタル勢と共振していることも伺える。#9を聴いているとRosettaと交信しているようにも思えるし。ただ、やはり本作はスラッジ/ドゥーム色が強く、ひたすら視界の悪いところを汚い音と共に進んでいく、こやつらの気概が逆に頼もしい。どす黒い暗黒の情感を纏いながら、地獄へと駆け下りていくラストの#10における人生の投げ捨て具合、素晴らしいじゃありませんか。
最新情報をお届けします
Twitter でGrumble Monsterをフォローしよう!