【作品紹介】Slow Clush、ベルギーの陰鬱優美シューゲイズ

 2017年から活動を開始したベルギーのオルタナ/シューゲイザー4人組。ヴォーカル兼ベーシストのIsa Holidayを中心に90年代風味のシューゲイザー、グランジ、ドリームポップをミックスした音楽が特徴。

 ArcTanGent FestivalやRoadburnといった音楽フェスに加え、AmenraCult of LunaDeafheavenPelicanTorcheといった重鎮バンドのサポートに抜擢されるなどバンドの躍進が続く。

 本記事は2025年8月にリリースされた3rdアルバム『Thirst』を含むフルアルバム3作品について書いています。

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作品紹介

Aurora(2018)

 1stアルバム。全8曲約34分収録。元々はHoly Roar Recordsから発売されていましたが、レーベル・オーナーの性加害問題で消滅したため、Church Road Recordから2021年に再発されています。

 基本的にはミドルテンポで甘くとろける感覚を与えるシューゲイザー。ぼんやりとした夢の中を佇んでいるような気分にさせてくれます。ファズをベースにしているという霧のようにくぐもった音像、その上を優雅に彩るクリーントーンとIsaの甘く不明瞭な歌声。

 90年代シューゲイザーの王道を引き継いでいますが、グランジ寄りのダウナー/パワフルさを提示する#1「Glow」、Nothingよろしくな重厚で退廃感を醸し出す#2「Drift」といった楽曲がバンドが包括している要素の多さを物語ります。

 スロウペースで積み上げて退廃と夢見心地の狭間を行く#3「Tremble」からバンドの本分は表れ、聴き進めるごとに糖度と浮遊感が増していく。#4「Sharrow Bearth」からはマイブラの薫りがプンプンとしますし、終曲#8「Aurora」は青天井の甘美さが聴き手を包み込む。

 本作についてFemme Metal Webzineのインタビューによると共感とセルフケアをアルバムのテーマに掲げている。

 歌詞ではラブソングからプロテストソングまで内包。#1「Glow」は社会的な束縛から自分を解き放って夢を追いかけること、#3「Tremble」は(社会的な不正や動物愛護、家庭内暴力など)声なき声を代弁し、#4「Shallow Breath」はひと夏のロマンスを歌う。そして#8「Aurora」はIsaの親友が別れを経験したことにインスパイアされたものです(前述インタビューより)。

 ひとつのジャンルに収まるようなものではないと彼女は話しますが、シューゲイザーを主文脈にいくつものジャンルを橋渡す作品です。ハードコアやポストメタルもその領域に含まれ、この後のツアーでPelicanTorcheGouge Awayといったバンドと共演したことが証明になっている。

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Hush(2021)

 2ndアルバム。全10曲約46分収録。前作からギタリスト1名とドラマーが交代し、レーベルはChurch Road Recordに移ってリリースされています。

 ”『Aurora』よりも暗いテーマがあると思う。孤独だったり、少し無力感を感じたりする気分。でもバランスを見つけることがすべて。闇がなければ光もないし、その逆もある。サウンド的にも同じで、陰と陽は音楽にも歌詞にも存在している。それがSlow Crushのサウンド“とASTRAL NOISEのインタビューで語る。

 前作と比較するならば陰鬱さやスタイリッシュな上品さ、幻想性が高まります。#3「Swoon」のみギアを入れ替えたハードコアパンクで号外を出しますが、それ以外は統一された雰囲気。クリーントーンの麗しさやシューゲイザー由来の轟音を主軸に、控えめなIsaのヴォーカルは逆に神秘性をもたらしています。

 #4「Gloom」から#8「Lull」まで続く静けさと哀切のロマンチシズムはバンドの真骨頂。大人びた落ち着きとシネマティックな美しさがより”浸る感覚”を強めています。

 また前述インタビューでは”あえて各楽器の間に少し余裕をもたせた“とも証言していますが、ポストロック~アンビエント的な空間/距離間の持たせ方が作品の奥ゆかしさにつながる。

 ワルツのリズムとIsaの歌声が慎重に魅惑する#6「Rêve」、メランコリックなムードに満ちた#8「Lull」など現実逃避を推奨する曲を揃えており、現実で削られた心を包み込む儚い世界が『Hush』で生み出されています。

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Thirst(2025)

 3rdアルバム。全10曲約42分収録。Pure Noise Recordsへと移籍してのリリース。”アルバムごとに明確な進化があると思う。『Aurora』はもっとアップテンポで少しパンクっぽかった。『Hush』は全体的なドリーミーでダークな感じだった。今回はその全てが少しずつ入っています。あらゆる要素を詰め込み、聴く人がそれぞれに響く何かを見つけられるようにしました“とThe Luna CollectiveのインタビューでIsa Hollidayは本作について回答しています。

 夢見心地を引き寄せるヘヴィシューゲイズ。Jesuを思わせる分厚い音の壁を下地に、Isaの透明感のあるヴォーカルや品のあるメロディが溶け合わさる。その効果としてあらわれるまどろみ、没入。オープニングを飾る表題曲#1「Thirst」は脆く儚い瞬間、どっしりとした重量感が並立するバンドの特徴が大いに表れています。また、先行シングルである#3「Cherry」ではDeftonesを思わせるサウンドが、彼女の物憂げな歌声によって包まれフェードアウトしていく。

 加えて、1stアルバム『Aurora』期のアップテンポを思い出す#2「Covet」は、終盤にサックスを導入するというアイデアを発動。#5「Hollow」や#10「Hlýtt」においてはブラックゲイズ風のスクリームを入れる狂ったバグも起こしてます。こうした驚きの演出は新たなプロデューサーであるLewis Johnsの助けが大きく、”当初に思い描いていたサウンドがより壮大になり、私たちの視野を広げてくれた“とNEW NOISEのインタビューで話している。

 作品は少しアップテンポで荒々しい前半、穏やかな側面が目立つ後半で雰囲気を変えています。これはスマッシング・パンプキンズ『メロンコリーそして終りのない悲しみ』を意識してとのこと。Isa本人がいくつかのメロディが琴線に触れると感じていると話す#7「While You Dream Vividly」を始め、確かに後半の楽曲からは催眠的な心地よさとロマンティックな性質がより発揮されています。しかしながら、#8「Bloodmoon」はHoly Fawnの「Seer」じゃねえかとツッコミを多数入れられてますが(ちなみにこの2組、2019年に共演ツアーしてますけどね。)

 ”アルバムの長さに関係なく、ただ今この瞬間に身を置き、曲を聴いて、他のことは何も考えずにいられる。だから、私たちの音楽がそういう風にできたらいいなと思っています“とIsaは話す。ひとときの夢遊、現実からの脱却。これまでの2作品を踏まえたうえで、本作は目の覚めるような轟きと催眠的な心地良さの魅力を増しています。

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ライヴ映像

Slow Crush | Outbreak Fest 2022
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