黒斑と光芒のハードコア heaven in her arms

 トリプルギターによる激しいサウンドと繊細な表現、誌的な歌詞を用いるポストハードコア・バンド、heaven in her armsは2000年代前半から、東京を拠点に活動をしています。00年代後半から海外バンドの招聘、1stアルバム『黒斑の侵食』のリリースと活動が国内外へ向けて本格化。日本産のハードコア・バンドとして最前線に立ち続けています。

 Celeste、Aussitot Mort、City Of Caterpillarとの日本ツアー。さらに自身の幾度かの海外ツアー、海外フェスへの参加。2ndアルバム『幻月』、3rdアルバム『白暈』のリリース。時を経ても活動を止めることなく進む彼等の作品について、本記事では書いてます。

 わたし自身、08年から彼等を聴いています。1st「黒斑の侵食」のインパクト、またその当時に行われたOff Minorの来日公演・名古屋で体感した時の衝撃からきているものですが、彼等がその歴史を紡ぎ続けていることが何よりも大切なことです。直近では、コロナ禍ギリギリで行われてた2020年2月末のRussian Circlesとの共闘ツアーでのこと。また再び彼等のステージを見れるのを願っています(もちろん、Russian Circlesもですよ)。

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黒斑の侵食(2008)

 全ての負の根源がここに詰め込まれているかのようだ。トリプルギターの駆使と詩的な表現を用いて国内外で支持を集めるポストハードコア・バンド。既にアンダーグラウンド界ではその名を轟かせているこの5人組は、2008年リリースの1stアルバムでとんでもなく物凄えパワーを四方八方にぶっ放しています。

 トリプルギターを中心に紡ぐ深遠なストーリー。それをさらに激しくドラマティックに仕立てるkentの詞と声。端的に言ってしまえば、envyを思わせるポストロックの要素を導入したダイナミックな展開を持つポストハードコアです。ただ、冒頭の#2「 痣で埋まる」でも決まってますが、ブラックメタル的な苛烈さやアンダーグラウンドな臭気がやたらと人間味を感じさせます。

 初期の代表曲#4「鉄線とカナリア」では、暴発するように中盤で激動を巻き起こしながらも、クリーントーンのギターを旗振り役に全体をもの悲しげなトーンで占めています。だからこそ、ここぞの場面での激情の解放が圧倒的な衝撃を残しているのでしょう。ライヴで最後を飾ることの多い#11「赤い夢」もまた激しく振り回すような展開を持ちながらも、美しい音色と轟音がもたらすエモーショナルなクライマックスが印象的です。

 希望と絶望が鬩ぎあい、答えのない螺旋を描いていく。怨念と狂気性を秘めながら、ここまで混沌とした世界を描けるのは本当に凄いの一言。文学的な詩(たまに晒す中二病感はご愛嬌)も巧みであり、人間の悲哀と苦悩を心に真っ直ぐ突き差します。バンドが臨界点を越えて生み出す破格のエネルギーとダイナミズムは尋常ではない。11分30秒に及ぶ壮大なラストトラック#12「黒斑の侵食」のあとに見える世界は、ただただ重く暗い。

被覆する閉塞(2009)

 約1年ぶりの音源となる4曲入り約30分のEP。2009年2月リリース。前作は、どん底に叩き落す絶望が聴き手の体温を根こそぎ奪い取っていくような名作でありました。本作はその延長線上にあると言えるもので、じっくりと展開を紡ぐ三本のギター、意味深なポエトリーリーディングと壮絶なる絶叫が黒と鮮血で染めていくポストハードコアから大きな変わりはない。常に胸元に剣先を当てられているような戦慄に苛まれるが、一つ一つの楽曲の深みと重みが増しています。

 前作でいえば「鉄線とカナリア」、「赤い夢」、「黒斑の侵蝕」といった曲に近い印象を持つ曲が多いですかね。#1「縫合不全」に#2「錆びた爪痕」は、不穏な静寂とカオティックな爆発がスピリチュアルな刺激をもたらします。弦楽器の音色がジワジワとジワジワと侵食しながら、kentさんが放つ詞のひとつひとつが聴き手の覚悟を問いているかのよう。#4「角膜で月は歪む」に至っては出足からクライマックスのテンションで迫り、胸熱のラストで物語を締めくくります。

 envyは僅かな光を見出し静と動のコントラストを生かしたスケールアップを図っていったのに対し、彼等は美しき叙情で彩りながらも光が遮断されるほどの闇に覆われている印象がある。人間の最も重たい核をぶつけているかのようなサウンド、ここにはもう太陽も月も決して昇りませぬ。

幻月(2010)

 

 ポストハードコア界隈で確固たる存在感を示すhihaの2ndフルアルバム。まさかのenvyのSONZAI RECORDからリリースです。envyとポスト・ブラックメタルを黒魔術で合成したかのような作風で、数々の信者を獲得してきた彼等。本作ではCorruptedのエキスを多分に吸収してスラッジメタルのテイストが強い#3やストリングスの嘆き節が精神を揺るがすラストの#8などを用意して、極端な闇はさらなるスケールアップを施しています。

 そして、本作の象徴といえる存在感を示す#6「ハルシオン」~#7「螺旋形而蝶」の組曲は、ハードコアにとどまらない深化を表現したかのような1stアルバム以降の到達点を明示。美と醜を煮詰めたhihaの一大巨編は、果てしなく肉体的かつスピリチュアルに轟きます。ただ、様々な要素を実験的に取り入れたこともあってか、バンド自体が昇華できていないように感じられる箇所も。疾走感を伴った苛烈さに欠けていて、全体的にも冗長的かつ蛇足に思えてしまう点がある。世界観を造り込みすぎてしまったという印象はどうしても拭えず。

 尊大な迫力とオーラをまとっていた1stや09年発売のEPに比べると、ちょっと魅力に欠けるかなという結論になってしまいます。ライヴで体験するとまた印象がガラっと変わってくるかもしれませんがね

刻光(2013)

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 東京のエクストリーム系ブラックメタル・バンドのCOHOLとのスプリット作。初共演を果たしてから10年にもなるという親交の深いこの2バンドが、共に3曲ずつを提供しています(ここではhihaのみ記載)。2013年リリース作。

 先行は、heaven in her armsからでメランコリックな旋律を幾重にも重ねながら眩いパノラマを広げる#1「黒い閃光」、MALICE MIZERを思い出すオルゴールの音を主体としたSE#2「繭」と意表をつくようにインストを2曲配置。これまでの作品よりも光を直視しながら、切ない余韻を残すストーリーを描いていきます。

 しかしながら、最後にはこの清流が激流へと変貌する#3「終焉の眩しさ」がラスボスのように登場。COHOLと共振するかのようなトレモロやブラストビートを用いながら、僅かに差し込んでくる一筋の光に願いを託しながら激走。ブラックメタル的な攻撃性を見事にドッキングさせつつ、叙情性とのコンビネーションが冴え渡っているのは彼等の美意識が働いているがゆえでしょうか。特に、途中のポエトリーリーディングを抜けてからの怒涛の展開には悶絶します。

 FOLLOW-UP誌のインタビューでは、「スプリットしたくない。あくまで一緒にひとつの作品を作る」という言葉を残しているのだが、10年以上もお互いに切磋琢磨しながら成長を続けてきた両バンドだからこそ、こうして形にできたものでしょう。今後の足がかりになるであろう重要作。

白暈(2017)

 トリプルギターの駆使と詩的な表現を用いて国内外で支持を集めるポストハードコア・バンド、約7年ぶりとなる2017年発表の3rdフルアルバム。COHOLとのスプリット作に続いて、Daymare Recordingsからリリースされています。大きな揺さぶりとダイナミックな展開を持ったポストハードコアという基本線は、7年の時を経ても変わっていません。2ndアルバムと比べるとスラッジ色は薄め。以前より押し出されたブラックメタル寄りの激動と冷たさが結び付けられています。

 ただ、それで無慈悲に素早く攻め立てるだけかと思えば違う。クリーントーンの美しいフレーズが儚さを表出させ、時に膨れ上がる音圧が恍惚へと誘います。先行曲として披露された#2「月虹と深潭」からは緩急の妙が絶妙であると同時に、猛烈なサウンドの中に溶ける繊細なアルペジオが深い叙情をもたらし、また本作の白眉である#4「終焉の眩しさ」では洪水のごとくトレモロとkentさんの叫びが聴き手の心の内をかき乱す。特に5分以降の展開はそこらのビジネス・エモを屈服させるドラマが詰まっています。

 2014年にはDeafheavenとのツアーを行っていますが、アンダーグラウンドの線を飛び越えたドリームゲイズ~ポストブラックメタルの感触を上手く取り入れ、閉塞感を打ち破る光への道標としている印象。白を基調としたジャケ写には誰しもが驚くと思いますが、それが暗示していたであろう闇やどん底をくぐり抜けた先の光や希望が確かに感じ取れるものです。白い霧を思わせるような轟音ギターから徐々に音数を絞り、約11分をかけてドリップして美しさと儚さを抽出する#7「幻霧」は、本作のエンディングを飾るのにふさわしい1曲。

 「心臓を吊せ 眼球を吊せ」と衝撃的に叫んでいた彼等が辿り着いた『白暈』は、洗練という言葉だけでは足りない7年の月日と音に対して真摯に向き合った男たちだからの境地なのだなと。

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