激・美・速・甘・衝 Deafheavenの作品について

 2010年にアメリカ・サンフランシスコにて、George ClarkとKerry McCoyを中心に結成されたポストブラックメタル・バンド。当初は2人だけの編成にWhirrのNick Bassettなどが加わっていたそうですが、ポストハードコア/ブラックメタルを幹としつつも、Alcestなどが手法に用いたシューゲイザーやドリーム・ポップの要素を掛け合わせた音楽を指向。それは現在までに独自品種改良を行いながら、音楽性の拡張を続けています。

 1stアルバム『Roads to Judah』はDeathwishからリリースされていることで、激情型のハードコアとブラックメタルの要素が強く表れていました。そこからMogwaiのカバー曲をシングルとしてリリースしたのを経て、一大飛躍を遂げた2013年作『Sunbather』に辿り着きます。Pitchforkを始めとして各音楽誌が絶賛する内容は、瞬く間に世界へと波及しました。その後もコンスタントにアルバム発表を続けながら、彼等は前進し続けています。2021年にはメタル要素を限りなく薄くした新作となる5thアルバム『Infinite Granite』を発表。

 本記事ではDeafheavenの作品についての感想を述べます。著者自身、彼等のライヴは3度見ています。2012年のleave them all behind、その直後に行われた伝説の集客数を記録した名古屋公演、そして2016年のフジロック。初期からのリスナーとしてバンドがどでかくなっていく様を追っていけるのは楽しい。それは2021年に突入して以降も続いていくことでしょう。

目次

Roads to Judah(2011)

  2010年の結成からわずか1年足らずでDeathwishとの契約を交わし、送り出したサンフランシスコ出身バンドの1stフルアルバム。巷で言われてるようにこれが、激情ハードコア、ポスト・ブラックメタルが手を繋いで立ち向かう胸を掻き毟る一枚に仕上がっている全4曲約38分。

 冒頭の#1「Violet」からポストロック好きに捧げるような美しい拡がりを見せるインストが・・・と思ったら4分を過ぎた辺りでドラムを合図に急加速して、一気に世界が反転。トレモロ&ブラストビート&痛々しい絶叫が虚空を勢いよく切り裂いていきます。その恐ろしく猛烈な勢いと感情の奔流に身も心もあっという間にズタズタにされる。

 シューゲイジング・ブラックメタルを手本にした空間意匠と神秘性、またそこにWolves In The Throne Room的な突進力が加わり、激性と叙情の深遠なる調和が10分近い楽曲の中でドラマティックに繰り返されます。さらにはheaven in her armsやCeleste辺りを思わせる激情・悲哀・ドラマティックさが交錯。Deathwishが惹かれたであろうハードコアの強さやエモーショナルが所々で感じられる。

 それに加速・減速の極端な緩急の妙がまた昂揚と緊迫感を上手く高めているし、アトモスフェリックなパートも挟んだ叙情美の練り上げ方といい、この手のファンに訴えかけるポイントは多いように思います。特に#4はこのバンドの全部発揮されたかのような楽曲で、10分近い時間の中で凄まじい起伏と緩急が激ドラマティックな展開を演出して、聴き手を圧倒。各地で話題になっている事も納得の強烈な作品です。

Sunbather (2013)

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 1stアルバム『Roads To Judah』で話題を集め、昨年にはleave them all behindで初来日を果たしました。翌々日の名古屋公演では観客20人ほどというスカスカのフロアを見事なパフォーマンスで熱くもしました。そんなデフヘヴンの2年ぶりとなる2作目。

 既に所属のDeathwishの看板バンドのひとつとなった感のある彼等ですが、Pitchforkを始めとした海外メディアで高く評価されるのも頷ける、キャリアでもターニング・ポイントとなる作品を2作目で早くも送り出してきました。焦燥感を煽り立てる激速とトレモロ、Vo.ジョージの切迫とした叫喚等のブラックメタルをベースとしたサウンドの中核は健在。

 それに激情系ハードコアが持つ胸を掻き毟る様な感情の迸りがあり、蒼い初期衝動が走り、ポストロック/シューゲイザーを巻き込んだ繊細で甘美なメロディまでもが響きわたります。

 音の強度・疾走感を保ちながらもモグワイ系の轟音系ポストロックへと雪崩込む#1「Dream House」を皮切りに、ハードコア~メタルから現代のインディ・シーンまでもを俯瞰した上で、わかりやすくトレンドを抑えたモダンな音響構築でまとめています。

 フックの効いた展開、静と動による見事な塗り分けによるロマンチシズムはさも当然と言わんばかりのレベルであり、近年のenvyばりの激情系ハードコアと怒涛のブラスト・ビート~疾走の応酬が壮絶な表題曲#3「Sunbather」にもまた圧倒されてしまう。自らの音楽に十分に磨きをかけ、より大きくスケール・アップしたことが伺えます。

 その上で本作で飛躍的に向上したのは、Wolves In The Throne Roomと比肩するぐらいの全体を通しての構築美でしょうか。7曲中10分弱/超の曲が4曲あるのは1stもそうであるが、インタールード的な#2,、#4、 #6といった楽曲がもたらす安らぎや緊張感、荘厳さがまた見事。

 なかでも作家ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』をAlcestのネージュが朗読する#4「Please Remember」は、アコースティックからインダストリアル・ノイズまでの振り幅で驚きを与えてくれる(この小説は、ジョージの敬愛する小説のひとつだとか)。作品にはまるで抜け目が無く、攻撃性と叙情性のバランスも不思議と感じるぐらいに良いです。

 その後に続く14分半の大曲「Vertigo」もまた非常に印象的な楽曲で、カミソリのような切れ味と哀愁の旋律が交錯し、ドラマティックに展開していく。またラストの#7「The Pecan Tree」では本作でも最も苛烈なブラックメタルを轟かせる前半を経て、後半ではExplosions In The Skyのような多幸感と美しさを持って全7曲約60分を壮麗に締めくくります。確実な成長と深化を示す作品であり、AlcestやLiturgy、Krallice等が示したポスト・ブラックメタルを代表する一枚としてこれからも評価されていく一枚。

 また、Daymare Recordingsから発売された国内盤にはBosse-De-NageとのスプリットLPに収録された、モグワイのカバー「Punk Rock / Cody」を収録。来日公演でも最後に演奏されたこの楽曲では、モグワイに倣った美しい轟音と悲痛な絶叫から残り1分になろうかというところで、ブラスト~疾走で駆けあがる爆発的なクライマックスが素晴らしいです。

New Bermuda(2015)

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 全世界で旋風を巻き起こした『Sunbather』より2年ぶりとなる3rdアルバム。お洒落ぶったピンクのジャケの前作が売れちゃったからか、Wilco等の在籍するAnti Recordsへと移籍したようですが、作品はデフヘヴンらしさで貫かれています。丸くなってないし、尖ってるし。

 無駄なインタールードは挟まずに、収録された5曲全てが8分超え。前作ではポストロック/シューゲイザー要素の比重を高めることで、美しく眩惑的なサウンド・テクスチャーの構築に成功。十分な攻撃性能を発揮しつつ、ドリーミーな心地よさとドラマティックな盛り上がりに長けた逸品でありました。

 本作に置いて言えば原点への揺り戻しなのか。ポストハードコアやブラックメタルといった鋭利でアグレッシヴなサウンドを強化し、かと思えばシューゲイザーしてないわけでもなく、1st-2ndの中間地点のようなバランスの取れた作風という印象がある。それが美醜の極端な対比に繋がっているかな。リフを押し出しているし、以前よりもダークになっているしでジョージ氏の刹那感のあるシャウトもますますキレています。

 アグレッシヴに畳み掛けながらもクリーントーンの美しさが際立つ#1「Brought to the Water」を皮切りに、”最高のデフヘヴンをあなたに”お送りする全5曲。違う明日を見つめていたわけではない叙情性の強し#3「BABY BLUE」、天国と地獄を見境なく行き交うめくるめく展開に痺れる#4「Come Back」などやはり強烈な楽曲が揃う。有無を言わせない一流の味。

 各方面からはなにかとやっかみをうける彼等だけど、時代を読みながら硬派に自分たちを表現し続けているバンドなんだと改めて思います。Pitchforkで9.0を獲得してのBest New Musicに選ばれたのを始め、本作も音楽サイトではやはり軒並み高評価が連なるが、それだけの説得力を持った作品には違いありません。

Ordinary Corrupt Human Love (2018)

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 フジロック2016への出演を果たした彼等の3年ぶりとなる4枚目。前作はダークでソリッドに音像をまとめあげていました。世界で絶賛された前作『Sunbather』から尖鋭化し、重く鋭く凍てつくような衝撃。ポストブラック/ブラックゲイズはここでひとつ極まったといえるかもしれません。

 それを経ての本作は、淡いノスタルジーと温かいメロディが伴ったものへと変化しています。当然のように中核であるブラックメタルの鋭利さと激性は披露される。それでも#1「You Without End」でピアノの叙情的な調べが聴き手を巻き込んでいくように、新たな境地へと達したことを伺わせます。Explosions In The Skyを思わせるメロディが天から舞い降り、静動のダイナミックなレンジを維持しつつも陽性のベクトルが勝っている印象。

 全7曲のうち10分超の曲は4曲あります。2ndからの流れを汲む「Honeycomb」、エレガントな装いと哀愁をポストブラックへ統合していく#3「Canary Yellow」。さらには本作で一番起伏が激しい#5「Glint」が祝福するような衝撃を与えてきます。その軌道は以前よりもソフトでカラフルな場所へ向かっているのが明らかです。

 slowdiveへの憧憬を示すシューゲイズトラックが#4「Near」が幻惑し、Chelsea Wolfe姐さんと共にゴシックな讃美歌を送る#6「Night People」も用意。美しいツインギターの基で猛威を振るうのがジョージ・クラークの叫びだけであるラストトラック#7「Worthless Animal」は、今までのエンディングとは別の未来をを描いているかのよう。

 これまではブラックメタルとシューゲイザーのゴージャスな耐久戦により激と美が並び立っていたのが、本作だと美と美の間に凶暴さが挟まれている感覚になりました。実験的でありながらも温かいセンチメンタリズムが通底し、多彩な表現も光る。わたしとしてはこのスタイルが一番好みだと感じ、気に入っている作品です。

Infinite Granite(2021)

 3年ぶりとなる5作目。これまで全てでプロデュースを手掛けたJack Shirleyではなく(エンジニアとしては参加)、新たにJustin Meldal-Johnsenをプロデュースに迎えて制作。変化への渇望はここで見られ、M83やParamoreなどを担当した経験もあるその手腕に託しました。

 唖然、騒然のブラックメタル総辞職。彼等が下した決断はそれでした。でも、存在自体が革新的だったDeafheavenならいつかは必ず起きただろうことです。脱ポストブラックメタル/ブラックゲイズ化は本作でもたらされました。変化のために徹底された制限と解放。ポスブラ耐久マラソンはしません。ひたすらに穏やかで優しい航海が続く#1「Shellstar」の始まりは冗談でもなんでもなく、彼等の決意の表れです。

 痛烈なスクリームと爆速のドラムを極端に抑え込み、オルタナティブ~UKロックによるブラッシュアップを施しました。ディレイ~クリーントーンのギターの多用、ジョージ・クラークのファルセット等を用いた”歌”への置き換え。もともと持ち合わせているシューゲイズ要素も発揮されているとはいえ、もっと普遍的なロックへの接近が感じられるのが本作でしょう。リード曲となる#2「In Blur」の澄み切った美しさは、煌めく音色と共に心に染みてきます。

 もともと力の表現よりも、アプローチの妙だったり楽曲の構成だったりが肝だったと思います。本作において新しい音楽様式という感じではなく自然体に感じるのも、持ち合わせていた要素を解き放っただけだからという印象。Alcestが『Shlter』を出した時とはまたちょっと違う感触で、ここで大きく舵を切ることがDeafheavenにとって必要だったのかなと。

 しかしながら完全封印したわけではなく、ブラックメタルの蕾は#6「Villain」や#9「Mombasa」で花開きます。特に後者は、ヒーローは遅れてやってくるかの如く伝家の宝刀を引き抜き、苛烈なクライマックスへと雪崩込む。最後の最後でこれまでの姿が帰ってくるのは、己の美学なのか。それとも迎合なのか。

 この変化を進化と呼びたくない勢も多数いる中で、好意的に捉える人も多いだろうし、新たな支持も得ることでしょう。本作におけるDeafheavenの航海は、間違いなく新しい親しみやすさと美しい旋律に満ちたものです。光を鮮やかに反射しながらこの先も進んでいくかは彼等のみぞ知るところですが、自分たちにとってのDeafheavenらしさとは?に次作でまた苦しむんだろうなという気はします。

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