シアトルのインディー・ロック、Minus The Bearの足跡を辿る

 シアトルのインディー・ロックの至宝と呼ばれた”Minus The Bear”は、5人組バンドとして活動していました。激烈ハードコア・バンドBotchの元メンバー、ポストロック黎明期に短命で終わったSharks Keep Movingの元メンバーなど、シアトル界隈のバンド人によって結成。2018年12月に地元・シアトルでの解散公演まで、約17年にも及ぶ活動の中で、オリジナル・アルバムを6作発表。日本へも3度の来日ツアーを果たしています。

 音楽的には、激しい要素よりも爽やかさと清々しさを感じさせるインディー/オルタナティヴロックを志向。エモ、ニューウェイヴ、プログレッシブ・ロック、ダンスミュージックを円滑に組み込み、タッピングや変拍子などの細かいことをやりつつも軽やかなのど越しという感じです。そして、ひとひねり効かせながらも歌心に溢れている。簡単にいうと、難しいことをを平然とやってのけるのがMinus The Bearの持ち味というわけです。解散しているからと聴き逃すのは惜しい存在。

 そんな彼等の作品をオリジナル・アルバム中心に、リリース順に追っていきます。先に結論を言っておくと、オススメは2ndアルバム『Menos El Oso』です。ついで3rd『Planet Of Ice』。知らないのはもったいないタグをつけたくなるのは、これらの作品を聴くと理解していただけるかもしれません。

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Highly Refined Pirates(2002)

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  かの激烈なハードコアの猛者であるBotchのメンバーを要するというのに、この爽やかさと清々しさはなんでしょう。幾重にも重なるギターが中心でありながら、空間を自由に行き来するエレクトロニカと躍動感あるダンスミュージックを取り込みんでいます。

 エモやオルタナを基調としつつポストロックやニューウェイヴといった要素も交えた音楽性。上辺だけ聴けばキャッチーかつポップと捉えられます。けれども、変拍子やタッピングを入れて技巧派として一癖もニ癖もある。それを淡々と演奏。キーボードやギターが空間的な広がりを持たせている辺り、この1stアルバムからバンドの特徴を出していると言えます。

 アルバム全体の構成に関して言えば、全14曲を収録していながらところどころに小インストを挟み、各楽曲とのつながりを意識。どの楽曲にしても叙情的で儚いフレーズがちりばめられており、メロディが染み込んできます。ファンのみならず人々をひきつけるには十分な#3「Absinthe Party at the Fly Honey Warehouse」、リズミカルに躍動する#8「Spritz!!! Spritz!!!」などが本作でもお気に入り。軽い変態性を持っていますが、叡智が光る逸品かと思います。

Menos El Oso(2005)

   3年ぶりとなる2作目。タイトルはバンド名のスペイン語表記からきてます。ハードコアへの揺り戻しがあるかと思えば、そんなこともなく1st路線をそのまま拡張。やはり単純に激しさやパワーで屈服させるようなことはMTBではしないようです。

 特徴的な感傷的なメロディと枯れ気味の情緒ある歌声、それが水面に広がる音の波紋のように響いてきます。鮮やかに彩を添えるギターのメロディをなぞりつつ、絡みつくような変なフレーズを交えたりと一筋縄ではいきません。対照的に、ヴォーカルはナイーヴに。単純なインディー・ロックとは一線を画す音の緻密な重ね具合もあって、電子音も交えたグルーヴがまた優れています。

 ツインギターのコンビネーションに歌メロが小気味よく効いてくる#2「Memphis & 53rd」、イントロで持っていく#4「The Fix」などの佳曲を挟み、ライヴでラストを飾ることの多いバンドの代表曲#6「”Pachuca Sunrise」でその感動はピークへ。そこからアクティブな展開のある曲はありますが、全体の雰囲気は涼やかさと程よい熱を持ち合わせたエモという印象で、1stアルバム以上に輝きを放っています。音と音の隙間からこぼれてくる優しさもまた心地よく、余韻にひたれるような感触が見事。Minus The Bearで1枚を挙げるとしたら、やはり本作になるでしょう。最高傑作と謳う人も多いです。

Planet Of Ice(2007)

   氷河が地球を飲み込んでいく様が描かれたジャケットが印象的な3rdアルバム。前作の延長線上にある音楽ですが、中毒性とクセが強くなりました。ギターを中心に細やかなレイヤーを生み、その上でのダイナミックな展開による楽曲の品質の高さは折り紙付き。エモ~オルタナを基本軸に置きつつ、電子音と巧みに融合させて近未来を思わせるダンサブルなサウンドの形成に成功しています。

 先行曲となった#3「Knights」を始めとして小気味良い進行と小洒落感で魅了してくれます。表層上はスマートでポップにまとめつつ、特徴的なギターフレーズや凝りまくった展開を入れることで変態性を細かく出してくるのは彼等らしさ。#1「Burying Luck」で聴かせる熱のこもったヴォーカル、全体を静的なフィーリングでまとめるも後半にグルーヴを集約させていく#4「White Mystery」なども印象的です。

 前作よりも変則的な部分への意識・趣向を凝らしまくっていて、思わず唸らされます。「ニューウェイヴもオルタナもインディもハードコアも全てを飲み込む」や「ハードコア通過型現代版XTC」といった形容をされるのもうなずける作品に仕上がっています。本アルバム・リリース時の2008年2月の来日ツアーでMinus The Bearのライヴを体験することができました(名古屋・池下CLUB UPSETにて)。わたくしがMTBを見たのはこれが最初で最後です。バンドもこの来日ツアーが日本に来た最後だと思います。

Acoustics(2008)

LPまたは配信のみで流通しているタイトル通りの作品。冒頭の#1のみが新曲で後は既存の3作品からのアコースティック/アンプラグドバージョンが6曲収録(全7曲)。宇宙空間を漂うような有機性やオルタナ・プログレッシヴの感性をポップスと交じり合わせてる彼等ですが、今回はアコースティック作品ということで、アコギの枯れた感じとピアノの繊細なアプローチで丁寧な丸みと哀愁を際立たせています。

 ゆったりと落ち着いた雰囲気と牧歌的な感じが風通しよく、またその上で艶やかで淡いヴォーカルの色香が漂っているのがとても心地よい。持ち前のダイナミズムや躍動感は本作ではもちろん感じられないけれど、温かみや包容力がじわっと伝わってくるのが良いですね。名曲「Pachuca Sunrise」はもちろんですがが、「Nights」や「Buryling Luck」辺りがここまでしなやかなフォルムで構築されているのはかなり驚きます。まあ、元々の楽曲が優れまくっているってのもありますが(笑)。相変わらず琴線に触れる音楽を造るのがお上手だこと。

Omni(2010)

  これまで慣れ親しんだSuicide SqueezeからDangerbirdにレーベル移籍して放つ2年半ぶりとなる4枚目。プロデューサーも元メンバーで現在めちゃくちゃ売れているマット・ベイルスから別の人物に変わっています。

 その影響からか、サウンドの方もグッと洗練されており、とてもポップにビルドアップを施してます。ニューウェイヴ風のエキスを色濃く抽出して、ポストロックを斬新に唄ものの中に溶け込ませた、しなやかで柔軟な音世界。ポスト・ハードコアの核は完全にポップの源泉へ。優しくソフトにデザインされたオーガニックなサウンドが新鮮です。

 タッピングを交えたテクニカルなギター、バリバリの変拍子といった彼等らしい仕掛けは随分と少なくなったものの、重心の低いリズムを中心としたミドル~スローな曲調で緻密に聴きやすさを追求。これまでよりもエレクトロリックな色合いが強まってて、鮮やかで華やかな装飾をみせるキーボード/シンセが思いのほか目立ちます。また、色気のある唄メロの主張力を増したことでひどく感情に訴えかけるようにもなったし、ナチュラルにふれあう楽器陣からは宝石のようなメロディと流麗な浮遊感がもたらされています。

 清涼感とエモさが入り混じった唄とシンセが艶やかに隆起する#1「My Time」にはスムーズに引き込まれるし、ひんやりとした心地よさがある#7「Into the Mirror」も女性Voを導入して全体の風通しをよくしている佳曲。#2、#4、#6辺りも歌心に溢れていて、聴けば聴くほど味が出る。スケールは矮小化してしまった感じがありますが、彼等なりにポップという明確なものが落とし込まれた本作。変態を重ねるブルックリン勢に対して、鮮やかに意義を唱えるかのようなインディ・ロックの魅力があると思います。

Infinity Overhead(2012)

  前作に続けてDangerbird Recordsからリリースとなった約2年ぶりの5thフルアルバム。元メンバーの売れっ子プロデューサー、マット・ベイルスと3rdアルバム以来、再びタッグを組んで制作されました。

 そのマット・ベイルスと組んだこともあって、2nd~3rdアルバム辺りの空気感が感じられなくもありません。でも、作風はニューウェイヴィな意匠が目立った4thからの継続といった感じ。めちゃくちゃテクニカルなのに異様なほどオシャレな#4「Toska」を聴いているとわかりますが、キャッチーさに磨きをかけつつも、曲の捻り具合がますますおかしなことになっています。特に極彩色の音色を紡ぎだすギターが、様々なアイデアと卓越した技巧によってさらに冴え渡る。浮遊感あるキーボードによる心地よさ、ダンサブルな躍動感も健在。とはいえ、繊細にしてやや枯れた情緒を晒すヴォーカルと叙情的なメロディに重きを置いており、腰を据えてじっくりと味わえます。

 夏の薫りを運んでくるかのようなイントロから予測もつかない展開が脳を刺激する#2、ナイーヴなヴォーカリゼーションとメロディに惹かれる#3「Diamond Lightning」辺りを聴いてると、さすがの構築力。多彩なジャンルの要素を柔軟に混じり合させ、絶妙なバランスを保ちながら滑らかに組み立てていくセンスも変わらず。それがユニークかつポップという作風に繋がっています。一方で、きらびやかな電子音とストリングスが鮮やかな演出を施す#6「Heaven Is a Ghost Town」、テクニカルなギターフレーズとサキスフォンの絡みに驚かされる#9「Lonely Gun」、終始攻めの姿勢を崩さないツインギターとスペーシーなキーボードで立体的に構築されていく野心的な#10「Cold Company」などで曲調に幅を出すことにも成功しています。

 一捻り加えて強烈に尖った部分がどの曲にもあるのに、ほぼ3~4分とコンパクトに、そしてここまでスタイリッシュにまとめあげるのは、彼等ならでは。職人芸ともいえるマジカルなサウンドスケープは、魅力が十分すぎるほど詰まっています。

VOIDS(2017)

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 Suicide Squeezeへ復帰しての約5年ぶりとなる6作目。プロデューサーにBloc Party等を手がけたSam Bellを起用。活動15年を超えていろいろな面で枯れた情緒と年季の入ってきた彼等ですが、良い音楽を奏で続けるということに関しては裏切りません。

 前作の延長上にある作品という印象は受けますが、熟成を極めた末の回帰を感じさせる#1「Last Kiss」や#3「Call & Cops」など初期の薫りを漂わせる曲も含んでいます。以前にも増してシンセを活かしたゆえのドレスアップが施されてますが、彼等なりのエモ搾りが効いてますし、突拍子もない展開のひねりもお手の物といった感じ。各パートが山村紅葉の顔面ばりに主張しながらも滑らかでキャッチーに聴かせる#4「Invisible」がまた良い味を出してます。歌に関しては加齢とともに渋さを増していってますが、随所に程よい熱が乗るところにホッコリ。

 丁寧に削ぎ落としていくことで、全体的にしっとりと落ち着いた大人の音楽。そう思わせておいてラスト2曲の#9「Robotic Heart」と#10「Lighthouse」は、オルタナとプログレとニューウェイヴをミキサーでかけてしまったかのよう。聴き入ってるだけで終わらせず、変態カウンターを喰らわしてくれるのは頼もしい。MTBは円熟の域であることを伺わせると同時に、新規ファンも入っていきやすい内容に仕上がっています。変化はすれど、看板の味はいつまでも変わらないオルタナ・ソムリエの矜持。

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