BUCK-TICK、35年を経た世界観の凝縮

1985年結成、1987年にメジャーデビュー。35年以上にわたって継続的に活動する日本のロックバンド。本記事では3作品を紹介しています。

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狂った太陽(1991)

 1991年にリリースされた5thフルアルバム。テクノやニューウェイヴ等の要素を取り入れ、ダークかつ芸術性に秀でた音像を創り上げたとして、自身の分岐点となった作品とされています。また、彼等の最高傑作と名高い作品のひとつ。以前よりもどっしりとした分厚いバンド・サウンドが根幹にあり、立体感や奥行きを与える様に電子音を効果的に重ねながら見事に調和。

 元々はわりと正統派なビートロックでしたけど、本作にてBUCK-TICKの暗くシリアスな世界観が出来上がったように思います(この後の作品でそれがより濃く深くなっていくのですが)。ポップな楽曲からマニアックな要素まで鮮やかに表出した多彩な楽曲が収録されていますが、統一されたダークなカラーでまとめあげている。

 大空を駆けあがっていくような開放感を持つ#1「スピード」、一転してクールで疾走感に富む#2「MACHINE」、変則的な展開と不思議な中毒性を持つ#3「MY FUNNY VALENTINE」といった序盤の流れ。そこから中盤では12弦ギターの澄んだ美しい音色が幻想的に響く大名曲#6「JUPITER」、櫻井氏が亡き母に捧げた儚くも優しい#7「さくら」といった曲が涙腺を直撃する。「MAD」~「地下室のメロディ」~「太陽ニ殺サレタ」という一線を超えた毒々しい終盤もお見事。

 惚れ惚れとしてしまう耽美な闇。BUCK-TICKの表現力や独自性がなお一層深まった名作であり、入門盤としても推薦されている一枚。日本レコード大賞において優秀アルバム賞も受賞。

殺シノ調ベ(1992)

 1991年までにリリースされた楽曲の中からメンバー自身が選曲し、リアレンジを施したセルフカバー作品。単なるベスト盤に着地しない辺りがBUCK-TICKらしく、5thアルバム『狂った太陽』で大いに花開いた才能をいかんなく発揮した一枚。

 どっしりとした重低音とデジタル・サウンド、大胆なアイデアを組み合わさることで新しい輝きを放つ楽曲群。インダストリアルへの傾倒を感じさせる攻撃的で毒気のある#1「ICONOCLASM」から、リアレンジされた初期の大名曲#2「悪の華」の流れがもう痺れるほどのかっこよさで、以降も見事な解体・再構築が続きます。

 エスニックな曲調を取り入れながら憂いを帯びた世界を表現する#6「Oriental Love Story」、荘厳なクワイアが加わってよりスケールを広げた#8「Jupiter」、洗練されたビートロックでKOする#9「Moon Light」、ミステリアスかつ淫靡な魅力すら振りまく#14「Hyper Love」など。覚醒したバンドの手によると、こうも変貌を遂げるのかと驚かされる曲は多く、原曲以上のクオリティと言えるものが多いです。櫻井氏の表現力も段違いで、耽美でダークな音楽性をより高い次元に押し上げている。

 そして、やっぱりBUCK-TICKといえばこの曲と思うほど好きな#12「Just One More Kiss」の収録も嬉しい。あまりにも前衛的なリメイクとなった#5「MAD」は、賛否両論だったにせよ、深化を遂げたBUCK-TICKだからここまで大胆に表現できるのでしょう。洗練と実験精神を両立して高い完成度を誇る本作は、セルフカヴァーという枠に収まらないBUCK-TICKのマスト・アイテムのひとつ。

或いはアナーキー(2014)

 日本ロック界の重鎮の約1年9カ月ぶりとなる17枚目。2014年リリース。”シュルレアリスム”をテーマに置いて制作されたそうで、四半世紀を生き抜いてきたBUCK-TICKの凄さを改めて感じさせる仕上がり。誰もが完全に意表を突かれる初っ端の#1「DADA DISCO -GJTHBKHTD-」からして異常で、ぶっ壊れたファンクネスとユニークさで見たことも無い宇宙が広がる。一流に予定調和などないと言わんばかりのこの曲からスタートする遊び心と冒険心、常にこのバンドは野心的です。

 端的な印象では近年の流れにある、デジタル色濃いロック作品といえるえしょう。ニューウェイヴ、エレクトロに歌謡性、その他にも大胆な実験精神のもとで様々な要素が煮込まれ、BUCK-TICK印の多様性を持ったロックへと昇華。#1に負けず劣らずこちらもぶっ飛んだセンスを発揮したデジロック#2「宇宙サーカス」、アコギが清涼感をもたらしつつもやたらとグルーヴィで歌メロが薬の様に効く#3「masQue」、どこを切り取ってもBUCK-TICKすぎる#6「メランコリア」と前半だけでもとても濃い内容。

 このバンドがやれば自然とバラエティ豊かな作りなるのかもしれなませんが、無秩序に陥らずに懐の深い作品へと繋げていくのは、やっぱり彼等だからこそ。後半にしても、TRFも松平健も裸足で逃げ出しそうな豪華絢爛サンバで踊り狂わせる#8「SURVIVAL DANCE」、タイトルからは想像もつかない透き通るようなバラードで全てを包み込む#11「世界は闇で満ちている」、鮮やかなポップネスと心地よい疾走感に満たされる#12「ONCE UPON A TIME」と楽曲は粒揃い。その上でどの曲も非常に説得力があります。

 そして、死ぬほど美しい荘厳なバラード#14「形而上 流星」が告げる完璧な終わり。25年を超えてもなお意欲と創造性に溢れ、変化を厭わずに前進を続けて、このような傑作を生み出すんだから、誰も追いつけないわけです。

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