臨終懺悔の向こう岸 COALTAR OF THE DEEPERS

 1991年にNARASAKI氏を中心に結成された日本のロックバンド。ヘヴィメタル、ハードコア、シューゲイザー、オルタナティブロックなどの様々なジャンルを見事に融合させたサウンドは、独特そのもの。本人は「ネッズ・アトミック・ダストビンとダイナソーJr.を足して2で割ったような音楽と音楽誌のインタビューで回答しています。初期はメタル寄りのアグレッシヴさが強く、中期はイチマキさんとのツインヴォーカル体制で甘美さ&ポップネスを追求、以降はさらに音楽的な幅を広げる方向へ向かっていきます。ただ、2007年の『Yukari Telepath』以降の新作フルアルバムの発表は無い状況。

 NARASAKI氏の特撮への参加、ももいろクローバーZやBABYMETALを始めとした楽曲提供、サウンドプロデュースなどの仕事が、制作に影響しているのかも。ただ、COTD自体はライヴ活動は意外と多くてコンスタントに活躍の場は設けている印象です。ということで、以下よりオリジナル・アルバム6枚とベストアルバム1枚の感想を書いています。ちなみにわたしは、2019年6月に大阪で初めてCOTDを見ることができました。

目次

THE VISITORS FROM DEEPSPACE(1994)

   メジャーデビューとなる1stアルバム。のっけから原曲の面影すら感じさせぬTHE CUREのカヴァー「KILLING AN ARAB」が、デスメタルばりの黒い狂気を発しながら炸裂します。出合い頭に右ストレート一閃の不意打ちですが、本作の強烈さを宣言しているようでもあります。

 弾丸のような速度と衝撃を誇るスラッシュメタル、重厚なオルタナ、繊細で甘美なシューゲイザーといった要素を絶妙にミックスさせた、多彩な表情を見せてくれるヘヴィ・ミュージック。轟音ギターと爽快なまでのスピード感でスリルを高め、美麗なメロディとNARASAKIの少年のようなあどけない唄声が至福にも似た安らぎを与えます。

 代表曲に挙げられる「Amethyst」はその典型で、破壊と耽美が鬩ぎあうCOTDの美学を如実に表しています。本作で一番顕著なのは剥き出しなまでの暴力性/衝動性。所々でほんのりとした叙情味を加えつつも、楽曲からはメタル気質が色濃く出ていて、鋭い切れ味と分厚い音圧を兼ね備えるギターリフ、暴れ回るドラムがアグレッシヴに畳み掛けてくる印象が強いです。特に「Blink」はCOTDの中でも抜きん出た名曲のひとつ。

 そ白銀の世界を形成していくミドルチューン「Snow」が荒々しい音の連続の中で、憩いになっています。脳が破裂するんじゃないかってぐらいにとんでもないノイズが暴れ狂う「The Visitors」。これをラストに配する遊び心。全体的にあくまで即効性の高い衝動がメインですが、しっかり緩急を効かせた全8曲33分は興奮しっぱなし。

 全く色褪せてないどころか、1994年リリースとは思えないほどの革新性。当時としてはおそらくかなり異形だったのではないでしょうか。初期の剥き出しの衝動を何よりも愛している方も多いと思います。2020年オリジナルメンバー5人により奇跡の再録音された『REVENGE OF THE VISITORS』が2021年にリリースされました。

SUBMERGE(1998)

 約4年ぶりとなる2ndフルアルバム。ハードコアやメタル、シューゲイザーを煮詰めた強靭なサウンドを軸にした破壊力満点の1stフルアルバムを経ての本作は、テクノやエレクトロニカ、ジャズ、ボサノヴァ等に手を出して音楽的拡張を図った作品となっています。

 鼓膜が痛くなるほどの轟音ヘヴィネスの炸裂からサーフロック調に移行する#1「The Breastroke」で幕を開けると、ジャジーで小洒落たインスト#4「Silver World」、ドラムンベース調の#6「dl++」、妖しくドゥーミーな#7「Tim」といった実験的な試みが耳を引く。前作にはなかった要素を加えて丁寧に編むことで、バラエティ豊かになったのが本作の特色でしょう。しかし、決して散漫な印象にならず、全体を通して一級品にまで昇華している辺りはNARASAKIワークス。

 分厚いギターの壁と可憐さも感じさせる儚いNARASAKIのヴォーカルが溶け合う#2「Receive Assimilation」、初期のキラー/チューンのひとつである疾走チューン#3「Cell」、甘美なメロディをまとうギターロック#5「Sazabi」といった曲ではポップでノイジーという彼等らしさを存分に発揮。この先に行人坂シリーズとして続いていく#9「Natsunogyouninzaka」の切なさと温かさにもホロッときます。前作と比べて大人しく整然とした作りとなっているものの、親しみやすくなったメロディが聴き易さに通じているし、電子音の巧みな配置もまた揺るぎない世界観に寄与しているように思う。

 初期のキラー・チューンのひとつ#10「submerge」から物憂げなスロウ・ナンバーの#11「The Lifeblood」に心をさらわれて幕を閉じる流れも良く、深い余韻がいつまでも続く。そんな本作は、初期の集大成としてファンからも高く評価されている。

THE BREASTROKE(1998)

  1991~1998年までに発表した楽曲の中から選りすぐった13の名曲を収録したCOALTAR OF THE DEEPERSのベストアルバム。この作品を始めとして初期作品は長らく入手困難・廃盤となっていたが、2008年9月になぜか再発されました。

 幻世界が揺れ惑う49秒のマイブラ風インスト#1「Raising Slowly」から間髪入れずに突入した#2「My Speedy Sarah」が流れた瞬間、体の中を稲妻が駆け抜けて芯から骨抜きにされました。メタル・シューゲイザーを筆頭に、ハードコア、オルタナ、テクノ、アンビエント、インダストリアルなどなどの多種の要素を貪欲に飲み込み、独自のセンスと様々なアイデアを使って構築されたCOTDの音楽。2008年に再発された時に本作で初めてCOTDを聴きましたが、何でこのアルバムを聴き逃していたんだろう・・・と大きな後悔に襲われたのを覚えています。

 怒涛のリフが耳に雪崩れ込んで悶絶し、淡いNARASAKIのヴォーカル(たまにデス声も)と揺らめくノイズが生む摩訶不思議な浮遊感に恍惚とする。“スラッシュメタル meets マイブラ” 的な衝撃と甘美の相乗波及。リフの質感はメタルそのもので、痺れるような疾走感と鮮烈なアグレッションを叩きつけながらも、シューゲイザーの甘美さも漂わせています。前述した#2に続いて突き抜けるような昂揚感を生む#3「BLINK」、#4「SUBMERGE」の攻撃チューンも秀逸。そこにヘヴィメタル的なダサさやアクの強さは一切感じず、近未来的なアレンジも効いています。

 インディ系ポップが心地よい#5に、轟音と静謐の波が絶えまなく押し寄せる#7、シューゲイザー的な幻想に包まれる#8、激しいリズムに揺さぶられる#9といった曲が並ぶ中盤では、極彩色の音模様。この辺りの楽曲を聴いているとこのバンドの奥深さに慄きすら感じてしまうほど。破壊力満点の轟音を操りながらも、琴線を擽るポップネスがとても刺激的です。#11「Amethyst」、#12「Cell」では暴力的なギターリフを武器に再加速し、爆発。ラスト#13「Sinking Slowly」では甘いノイズが悠久の白昼夢へと意識を誘い、恍惚としたまま11分が過ぎる。

 1998年といえば自分が真面目に音楽聴き始めた年なのですが、その時に本作に出会っていたらきっとまた違う人生を送っていたと感じますね。それぐらい素晴らしき傑作だと思います。ベストアルバムではあるんですけども(笑)。もっと早くに出会いたかったと今でも感じています。

Come Over To The Deepend(2000)

 女性Vo/Gtのイチマキさんが加入しての3rdフルアルバム。新体制をやけくそ気味のデスヴォイスで猛々しく祝う#1「MARS ATTACK」には度肝を抜かれますが、全体を通すとさらに洗練された音作りで新たなファン層を開拓した作品となるだろう。

 男女ツインヴォーカルとなったことでキャッチーさに磨きがかかり、メロディもそれに合わせて柔らかなものとなりました。重厚で立体的な音響は継続されているが、シンプルにポップさが追求されていて、風通しがずいぶんと良い。#2「UNLIMBER」にしろ#3「HARD REALITY」にしろ、タイトな演奏の上に澄んだメロディを効果的に配されています。また、軽やかで感傷的なサウンドに涼やかな男女ヴォーカルが乗る甘いポップ・チューン#4「TASTE」が桃源郷へと連れて行く。入門編にも向いたキャッチーな曲が並んでいることには少し驚きもあるが、ストレートなギターロックの良さを楽しめもします。問答無用の大名曲#5「C/O/T/D」には何度、胸を熱くさせられたことか。

 濃霧のようなスペーシーな音響に艶やかなメロディが添えられる#8「AKI NO GYOUNINZAKA」で微睡みの世界を体感したかと思うと、ラストは妖しいヘヴィネスが鬱蒼とした樹林へ引きずり込む#9「SYNTHETIC SLIDE」で締めくくり。頭とケツの2曲のマニアックな表現には同じバンドがやってる音楽かと戸惑いますが、一筋縄ではいかないのが彼等らしい。転換期にあったとはいえ、見事な方向性を打ち出した快作かと思います。イチマキさんの加入は大きかった。

NO THANK YOU(2001)

  前作より1年2ヶ月ぶりとなる4thフルアルバム。“LOVE & DEATH”をメインテーマに据えて製作。これがまた、彼等を語る上では欠かすことのできない傑作としてファンの中では語り継がれています。

 荒々しいギターノイズとドラミングで紡ぎだす轟音ヘヴィネスをこれまで通りに継承。ポップス的な柔和さと涼感を出し、きらめくシンセとチープな打ち込みがによってさらに重層的に彩られたテクスチャーを生み、マイブラ風ツインヴォーカルで揺らめきます。凶暴性を剥き出しにしたメタルと幻想的シューゲイザーの異種配合を実践してきた彼等ですが、ここにきて渋谷系 + マイブラにかなりビルドアップした感があります。NARASAKIさんとICHIMAKIさんのコンビが板についたというのが大きいはず。

 幻想的アンビエントの#1から始まって、#2「GOOD MORNING」~#4「STAR LOVE」の3連発においては渦巻くヘヴィネスと凶暴なデスの要素を随所に入れながらも、ICHIMAKIさんの明朗なヴォーカルや風通しの良いメロディの方を主張させて爽やかな清涼感を残す。この天使と悪魔のような二面性が巻き起こすミステリアスな心地よさと衝撃が聴き手の心を掴んで離しません。#7、#8辺りでは轟音を痛快に叩きつけたり、終盤ではゆるやかにうねるギターロックに重きを置いたりと、所々にあるインタールードを挟んでガラッと変化していく様子は、これまでと違って新鮮味に溢れている。

 その中でも特にタイトルトラックの#11「NO THANK YOU」のできは素晴らしく、本作を1曲でものの見事に体現している曲といえそうです。シークレットトラック(マイブラ「Sueisfine」をCOTD的に捻じ曲げてカヴァー)までも瑞々しいセンスを発揮。甘いメロディによる陶酔感と切れ味抜群の疾走感に溺れて聴き続ける他ありません。わたしとしては「THE BREASTROKE」のようにメタルっ気の強い方が好きだが、さらにシューゲイザー方面に舵を切った本作の支持が高いのは大いに頷けます。

newave(2002)

 前作『NO THANK YOU』からなんと僅か9ヶ月という短いスパンでリリースされた5thフルアルバム。しかもavexから発売されていることに驚き(まあ、この9年後にBorisをリリースしますが)。なお、イチマキさんは前作で脱退しての再出発となります。

  本作は、まず感じるのは攻撃性や重量感が意図的に抑えられていること。そして電子音の強化、さらには民族音楽の融合といった新しい側面です。パーカッションを下地にNARASAKIの気怠い歌声が電子音と共に浮遊する#1「downfall」から、ずいぶんと意表をついたオープニング。メジャー発売だろうが、マニアックな嗜好をもちろんであって、本作では自由に新しきを追求しているような感じでしょうか。

 しかしながら、デスメタル~シューゲイザー~エレクトロニカが次々と表出する#2「hyper velocity」、切なげなアルペジオとキラキラのシンセを交えた甘酸っぱい疾走ギターロック#3「without hesitation~」と彼等らしい攻め駒でまず序盤を進撃。特色のひとつだった男女ツインヴォーカルという武器は失った。とはいえ、メロディや歌メロは変わらずに惹きつける魅力あるもので、電子音と生音とで編み上げるサウンドスケープも緻密に練り上げられています。

 中盤では、マイブラを彷彿とさせる轟音シューゲイズにラップが絡む#5「prophet proved」、幻想的なムードからトライバルなリズムが徐々に強さを増し、精霊のごときコーラスとともにカタルシスを生む#6「newave」と一癖も二癖も持った曲を配置。本職といえる甘美なシューゲイザーを響かせる#8「snow again」も効いてます。

 驚きなのは、サンバとヘヴィロックとエレクトロニカを交錯させ、擬似リオのカーニバル開演の#10「sweet voyage」でしょう。過去にはないハッピーで胸躍るラストに、NARASAKIさんの手のひらで弄ばれてると実感する他なかった。全体を通すとやや暗く内省的なムードで、静に重きを置いた印象。様々なジャンルを行き交うも、あくまでディーパーズ色に染められた楽曲が並んでいます。

Yukari Telepath(2007)

 5年半ぶりとなる6thフルアルバム。シングルやEPは出てますが、2021年になっても新作となるフルアルバムは未だに出ていません。

 スペーシー&SFをコンセプトに制作された作品で、ニューウェーヴ~テクノといった要素が押し出されており、前作と比べてもさらに電子音の割合が高くなっています。とはいえ、シューゲイザーやメタルを基点に、バラエティ豊かという言葉では足りないぐらいの幅広さ、密度の濃い構築された作品です。

 猛烈なデスメタルから清涼さすら感じるポップな面をも浮かび上がらせる#2「Zoei」はディーパーズならではだし、三味線を取り入れた嵐の轟音ナンバーとしてかなりの破壊力を持つ#3「Wipeout」も衝撃的。この重厚さと切れ味は5年という期間を空けようが、専売特許のようなもの。一方で近未来感を演出するようなシンセがフィーチャー。鋭いギターリフの応酬からサビで神秘的なテクノが花開く#4「Water Bird」、ニューウェイヴ装飾と疾走感が心地よい#6「Aquarian Age」、宇宙と交信するような「Automation Structures」など、別の刺激を与える楽曲が並びます。

 後半では、切ないギターポップ/ネオアコ#10「AOA」、ボサノヴァ風味の#12「Carnival」、80年代産業ロックに挑戦したという割にディーパーズらしさに彩られた#13「Evil Line」とさらなるごった煮ぶり。意表を突くようなフックの効いたとも言いたいけど、目まぐるしく曲調を変えていくこのカメレオンぶりには参ります(笑)。

 締めくくりの#15「Deepless」はエレガンスなピアノを中心に静かに綴ったかと思ったら、終盤で男臭いコーラスワークの連呼。曲の輪郭を上書きしてしまう。アイデアの暴力だってぐらい実験的だけど、同時に余裕もどこかで感じます。#14「Ribbon no kishi」なんてお遊びとしか思えないけど、彼等ならではの曲ですね。全15曲が本当に多種多様。これでも品質を担保してリスナーに届けるんだから、NARASAKIワークスは半端ないってと感じます。

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