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全身に広がる陶酔。日本の3人組バンド、D.A.N.

 2014年に櫻木大悟(Gt,Vo,Syn)、市川仁也(Ba)、川上輝(Dr)の3人で活動開始。 “いつの時代でも聴ける、ジャパニーズ・ミニマル・メロウを追求すること”をバンドのテーマに掲げ、ダンスミュージックとバンドサウンドの密なる融合で染み踊る感覚を与えます。

 2015年にフジロックのルーキーステージに出演。2016年4月リリースの1sアルバム『D.A.N.』以降は、より開かれた世界に飛び出し、大型フェスの出演や海外公演なども重ねていきます。

 本記事では、2021年10月にリリースされた最新作『NO MOON』を含むフルアルバム3枚、2017年発表のミニアルバム『Tempest』の計4作品について書いています。

目次

D.A.N.(2016)

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 “いつの時代でも聴ける、ジャパニーズ・ミニマル・メロウを追求すること”をバンドのテーマに掲げる東京出身の3人組。2015年のフジロックのルーキーステージに出演を果たしています。そんな彼等の全8曲約42分収録の1stアルバム。

 冷めざめとしてミニマル、でもメロウさがいつもお隣にあります。柔らかくのっかっていくファルセット、軽やかなギター、ゆるいテンポの中をしっかりと導くリズム。それらを阿吽の呼吸でくっつけるD.A.N作法で不思議な心地良さを味あわせる。

 ゆったりと音像に染みこむアンビエント、サイケ、チルウェイヴ、歌謡性。信条のミニマリズムはクールで抑制が効いている。とはいえ、日本詞による歌を通して物語が浮かんできますし、サポートの小林うてなさんによるスティール・パンがトロピカルな音と色彩感を楽曲に与えています。

 聴いていてThe XXやOGRE YOU ASSHOLE等が引き合いに出されるのは納得するところ。2ndアルバムの頃のFoalsっぽいところもあるかなと感じます。消化の良さやリラクゼーション効果の高さは感じるところですし、懐かしさを覚えるメロウな歌もの#5「Time Machine」は若手らしからぬ味わいあり。

 静謐の価値とインテリジェンスを感じるミニマルな#3「Native Dancer」、深海に沈んでいくかのような前半からダンス・ミュージックの側面を強めていく#4「Dive」、チル歌謡ポップの魔法をかける#8「POOL」と楽曲は粒ぞろいです。軽やかな聴き心地からふわりと持ち上げられ、全身に広がる陶酔。実に見事で玄人のような仕上がりの1stアルバム。

TEMPEST(2017)

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 2017年リリースのミニ・アルバム。新曲3曲に加え、AOKI takamasa氏によるリミックス等を加えた全5曲約48分の収録となっています。「ツラいときこそD.A.N.のグルーヴに身を任せよ」とお偉いさんは言いますが、さらなる深みに潜る彼等のサウンドは徹底したミニマリズムによって統率。

 夜の帳に落ちるヴォーカルのファルセットだったり、ゆったりとタメの効いたリズムであったり、スティールパンの軽やかな装飾など用いている武器は変わってません。しかし、1stアルバムよりも全体的なトーンを抑え、ジャケットのようなクールな闇が広がります。

 軽やかに揺れる歌声とスティールパンに豊かなグルーヴがアーバンな夜の街を彩る#1「SSWB」、グッとBPMを落として残像のようにゆらめくおぼろげな音像が聴き手を彷徨わせる#2「Shadows」、なんとも怪しげでエキゾチックで原始的な色合いで全体をまとめつつ、さらにアンサンブルが強化される8分以降で広がる極楽浄土#3「Tempest」。いずれも長尺曲でありながらゆるやかに刺激を与えて、酔わせていきます。

 刺激とは表現したものの、D.A.N.の音楽って鋭角な箇所がなく、全てが丸みを帯びたパーツで構成されているイメージがあるんですよね。その組み合わせ、ミニマルとメロウネスの絶妙さが何とも言えない中毒性を担っているように感じます。音の隙間の味合わせ方も上品。またホラー作家の恒川光太郎さんの世界観が浮かびあがるような特殊性も感じます(特に「夜市」っぽい)。

  派手さはなくてもバンドの確固たるスタイルを創り上げ、突き詰めて深化/表現させることがいかに重要か。邦楽的でもあって洋楽的でもあって、でも聴けば聴くほどにそのどちらとも違う地平にいるような感性がある。だからこそ彼等のグルーヴに酔いしれるのかもしれません。孤独に飯食ってる松重豊さんの心にも、D.A.Nの音楽が染みるのもうなずけます。

Sonatine(2018)

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 フルアルバムとしては約2年ぶりの2作目。タイトルは北野武さんの映画にリスペクトを込めてと各インタビューで語っています。スティールパン等で加勢する小林うてなさんがサポートから離脱しており、コアの3人だけでどこまでできるかというのが目的としてあるようです。

 前作やミニアルバムと比較して感じられるのがリズム隊の太さ。#3「Sundance」におけるファンキーなベースラインがもたらす躍動。SF映画で使われそうな電子音と共鳴しつつ、太く逞しい低音が楽曲をリードする#4「Cyberphunk」がその証明と言えます。どちらかと言えば音に身を任せるままに”揺れる”だったのが、本作は”揺さぶる、揺らす”と意図的なリズム強化を感じます。

 そのような性質の変容はあれど、踊れるという土台の上で彼等らしいアブストラクトな音作りは継承。ミニマリズムと夜に溶け込んでいったミニアルバム『Tempest』よりも”歌”の訴求力がアップし、インタールードとなる#5「Debris」以降の曲では、プリミティブ/民族音楽的なリズムが加わってきます。シンセで彩るレイヤーは冷たさを湛えるも艶やかであり、何とも言えない心地よさと浮遊感を醸すもの。

 前作からスティールパンの導きが無くなった分、寂しさはあります。しかしながら、これまでに無かった3人のグルーヴ、さらには熱量までも感じるようになり、以前よりも強まったバンド感が生まれています。クールという印象を覆すぐらいで、全身に温かい血が巡っていく。冷静と情熱の間だったのが、やや情熱寄りに傾いたと言えます。

 終盤には、歌と音響の濃淡によって世界が深まっていく#8「Borderland」が10分をかけて意識の深層に忍び込む。そこからR&B寄りのノスタルジックな歌もの#9「Orange」での締めくくりがまた儚い。方法論を変えながら、バンドとしての横軸も縦軸も広がりをみせる作品です。

NO MOON(2021)

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 約3年3ヶ月ぶりの3作目。全12曲56分収録。ひょうひょうとした風貌から恐ろしい作品を生み出し続けている3人組は、さらに最高値を更新するアルバムを発表してきました。小林うてなさんが再び合流してスティールパンの魔煌めきと宗教染みたコーラスワークが追加。#3「The Encounters」には tamanaramen(玉名ラーメン)と MIRRRORのTakumiさんを招いてのラップまで入ってくる。

タイトル通りの#1「Anthem」におけるD.A.N.要素を全部用いてのゴージャス集中砲火で幕開け。やや速足のBPMで重厚かつプログレッシヴともいえる曲の中で、”未来は無重力のダンスフロア”と歌うように音が踊りまくっています。そこから深淵に落とし込む#2「Floating in Space」、麗しい鍵盤とファルセットに吸い込まれていく#5「Bend」と水面に広がる波紋のようにしなやかなうねりがもたらされる。

 アルバムはインタールードとして3曲用意された「AntiphaseⅠ~Ⅲ」までを的確に配し、これまで以上に流れが重視されています。ド頭はド派手に盛り上げ、すぐに沈み込むような地と海の底を眺め、徐々に浮上しながら月のない世界に飛び込んでいく。また、映画『TENET』における時間の描き方の影響も大きいとインタビューで語っています。

 言葉を追っていくと歌詞が以前よりも示唆的なことにも気づきます。初っ端で”未来は無重力のダンスフロア”と書いていたものが、曲が進むにつれ未来への不安が深まっていく。僕はだれのためのストーリーと疑心し、くたびれた夜に打ちひしがれ、本当の世界を夢想する。「NO MOON」においては”逃げられない時代の奴隷”とまで言葉にし、”明日はまぼろし”とまで言うほどに先が見えない。それこそ月が消えてしまった世界で生きているかのように、ロマンチックな未来を歌ってません。

曲の方に話を戻すと。本作で最長の約9分となる#8「Aechmea」は特に印象的です。静かな歌ものとして立ち上がりながら近未来へ突入していくかのような電子音が乱舞し、途中に狂ったテリー・ライリー化とプリミティヴなリズムが表出しながら、ムーディーに締めくくる佳曲。さらには最終曲#12「NO MOON」が6分にも満たない中で、密度と質量を増して圧し掛かる。曲終盤における神の御加護的コーラスを経て、エレガントに締めくくっていく様は見事。

 みんな、変わってしまった世界を生きている。それでもD.A.N.の音楽は踊らせることを止めません。複雑かつ重厚化しながらも、昂揚の波は全12曲に渡ってひたすらに押し寄せる。そんな本作は、現時点における集大成ともいえる傑作。

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