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今でも絶対的な存在、ポストメタルの雄 ISIS (the Band)

 1997年結成のアメリカ・ボストン出身の5人組、ISIS(the Band)。自身のレーベルであるHydraHeadを主宰するアーロン・ターナーを中心に結成され、ハードコアやスラッジメタルを出自にコンセプチュアルな作風、多彩かつ前衛的なアプローチを織り交ぜ、”ポストメタル”と呼ばれるサウンドを確立。数多くのフォロワーを生みました。

 特に2002年発表の2ndアルバム『Oceanic』と2004年発表の3rdアルバム『Panopticon』が世界各誌で軒並み高評価を獲得。そして、”音の粒子までもが見える”と評されたライヴ・パフォーマンスがまた多くのファンに支持された要因のひとつです。ここ日本でも来日公演は数多い。2005年に伝説の回と今でも語り継がれるConverge、Mastodonとの三つ巴が実現したEXTREME THE DOJO。2006年にはフジロック・フェスティバルへの出演を果たしています。

 2009年4月には第1回「leave them all behind」にて再来日を果たし、翌月に5thアルバムにしてラスト作『Wavering Radiant』をリリース。2010年3月にはBaronessを引き連れての最後の来日公演を敢行。その後、突如として『全てやりつくした』という言葉とともに解散を表明。敬愛するMelvinsとのツアーを経て、2010年6月23日にISISというバンドの幕を下ろしました。それ以降、音沙汰なく時間は流れましたが、2018年には急逝したCave InのCaleb Scofieldを追悼するベネフィット・ショーにて一夜限りの再結成を果たしました。

 しかしながら解散後に某勢力のせいで、バンド名自体が使えなくなるという悲劇に見舞われる。それでも、音楽界に与えた功績はあまりにも大きいものです。わたしもすごく影響を受けました。本記事では彼等のオリジナル・アルバム5枚について書いています。

目次

Celestial(2000)

   98年リリースの『The Mosquito Control EP』、99年リリースの『The Red Sea』という2枚のEPを経て完成に辿り着いた1stアルバム。全11曲約52分収録。長尺曲の合間に「SGNL」と題されたインタールードが各所に挿入される構成。本作にて、マイケル・ギャラガー(Gt)、ブライアン・クリフォード・メイヤー(Key)が加わり、2010年の解散まで続く不動のラインナップが完成しました。また、Matt Baylesとの共同プロデュースによる制作。

 先のEPではBlack Sabbath「Hand Of Doom」、GODFLESH「Streetcleaner」のカバーを収録していました。その音楽性と精神性を受け継ぐ中で、ConvergeやMastodonと同じくしてハードコアをアート/芸術的に高めていく事業が活発化しています(この3バンドは、後のEXTREME THE DOJOで共演を実現する)。

 とはいえ、初期ISISは殺伐・無機質といった言葉があてはまるほどに音の重厚/金属的質感が高い。先にもあげたGODFLESH譲りのリフ、そしてトレードマークであるアーロン・ターナー先生の咆哮が重なります。反復の中で少しずつ展開が成されていくのも既に形式化されています。

 本作のテーマには、04年発表の『Panopticon』と同じくして”テクノロジーの進歩に伴うプライバシーの侵害”を扱っており、よりプリミティヴな方法で実現しているといいます。”ポストメタル”という完成形には至ってないですが、スラッジメタルとポストロックの共同戦線的な形への落とし込みはみられます。アンビエントやエレクトロニクスも用いた短尺SEを各地点に置き、後に繋がっていくような#9「C.F.T」も収録。ヘヴィロックの中で示す理知と美学は、彼等特有のものです。

 特筆すべきは#2「Celestial (The Tower)」で冷徹に繰り返される重殺リフが鼓膜を蹂躙します。バンドの代表曲として長らく君臨し、ライヴでもラストを飾る重要曲でした。

Oceanic(2002)

 マイク・パットン主催のIpecac Recordsに移籍しての2ndアルバム。かけがえのない女性を探し求める男の物語を描いたという本作は、全9曲63分収録。Neurosisの1996年作『Through Silver In Blood』が起源とされたポストメタルの雛形は、『Oceanic』によってもたらされました。頭を振りながら浄化と瞑想する音楽。Thinking Man’s Metalです。

 スラッジメタルの成分は抑えられ、ポストロック/アンビエント要素の大量導入による融和。具体的にいえばクリーンなギターとメロディ、咆哮ではない歌(上手くはない)、#7「Weight」における27の女性ヴォーカルであるマリア・クリストファーの参加ですが 、それらが混成することで1stまでには感じられなかった”有機的なグルーヴ”に繋がっています。秩序を保つ中で広がった音の幅、それでいてハードコアのアティテュードは失う事なく、彼等の独創性あるサウンドに息づいています。

 代表曲のひとつ#1「The Beginning and The End」から、ヘヴィネスとメロウネスが完璧なバランスで押し寄せる。変革の波を如実に感じる中でも生々しさと肉体性は強烈で、以前とは別の衝撃に襲われます。そして、彼等のライヴを評して”音の粒子までもが見える”という形容が躍った根源たる#4「Carry」の存在は、ISISがもたらす”うねりとレイヤー”の緻密さを物語ります。

 さらにはマリア・クリストファーとタッグを組んだ大曲#7「Weight」がもたらす至上の恍惚感、ハードコア/スラッジメタルからの深化を示す#9「Hymn」の神秘的なエンディングは、『Oceanic』の画期性を伝えているはずです。

 大海源の中でループする叙情と轟音は、非常に前衛的であり、ジャンルの先駆者として多くの賞賛とフォロワーを生みました。Terrorizer誌は2002年のベストアルバム第1位に本作を挙げ、Pitchforkにおいてもジャンル無差別の2002年ベストアルバム50で、31位にランクイン。次作『Panopticon』と並んでポストメタルのクラシックとして、君臨し続ける傑作です。

Panopticon(2004)

 最高傑作と名高い3rdアルバム。イギリスの功利主義哲学者ジェレミー・ベンサムが18世紀に考案した監獄『パノプティコン』、それを監視社会として現代に落とし込んだフランスの哲学者ミシェル・フーコーの概念がコンセプトになっています。

 デジタル社会における監視の脅威。それを示した全7曲約60分に及ぶ本作は、フーコーによる哲学からの引用も多いようです。航空写真によるジャケット写真は、どこにいようと視られている/追われている感覚を表現したものでしょうか。

 『Oceanic』よりもさらに思慮的で叙事的、かつ壮大でオーガニックなグルーヴ感。震天動地の幕開けを飾る#1「So Did We」における冒頭の衝撃から、丹念なギターのループと重層化されていくレイヤー。寄せては返す波のような静と動の繰り返しは、ポストメタルを言及する上での”波動”という言葉に繋がっていると思います。

 #2「Backlit」の澄みわたる青を連想するクリーンな音色と大らかなグルーヴ感、#4「Wills Dissolve」の以前までになかった静かな立ち上がりからの激情型爆発。アンビエント/リリカルなパートの比重は高まり、ポストロックのテクスチャーが前に出ていても、サウンドの強度は保たれています。

 そして、1曲を通してもアルバム全体を通してもドラマティックな流れは加速。完全なインスト曲#6「Altered Course」ではToolのJustin Chancellorが参加。美しい音色を主体に抑制しつつも緻密に重なっていく音が脳内宇宙を巡回する。

 ISISを象徴する#3「In Fiction」は、わたしにとって特別な曲です。”音の粒子までもが見える” 抽象的ながらも体感を煽る言葉の真髄が知りたくて、わたしは2007年1月末に彼等の来日公演に足を運びました(しかもアーロン・ターナー先生の目の前に陣取って見てた)。

 そのアンコールにて本曲が演奏されたのですが、雄大なストーリーを持つ中で包容力、陶酔感、爆発力、昂揚感などがあまりにも凄くて、音楽観が変わったぐらいの衝撃を受けました。影響の大きさはやっぱり弊サイトの方向性が変わっていくぐらいであり、ポストメタルとは何なのか?という探求に繋がっていきます。

 そんな体験もあって『Panopticon』は格別な一枚です。思慮深いコンセプト、独創性と創造性は研ぎ澄まされ続ける。『Panopticon』はひとつの到達点であり、まさしくポストメタルの記念碑というべき作品なのです。

In The Absence Of Truth(2006)

 約2年ぶりとなる4thフルアルバム。全9曲約65分の収録で、全オリジナル・アルバムとしては最長記録。”真実の不在”と題された本作は、マーク・ダニエレフスキーのポストモダン小説『紙葉の家』に影響を受けたとか。マット・ベイルスとの共同プロデュースは本作まで続きました。

 繊細化と内省化。クリーンなサウンドはさらに存在感を増し、音がもたらす揺らぎは顕著になり、これまでよりも浮遊感という言葉が似合うようになりました。静と動のダイナミズムを始めとして、ISISたらしめる要素はもちろん健在。ですが、前作収録の「In Fiction」を細かく分解化したような印象も受けます。スピリチュアルに踏み込む音とでも言いたくなる

 一番叙情的といえる作品であり、その要因のひとつがアーロン・ターナー先生による歌が増えていること。むしろ詠唱と言った方がよいかもしれません。楽器だけでは生み出せない穏やかさを曲調に編みこんでおり、#3「Dulcinea」辺りは、終盤に駆け上がっていくような展開と爆発があるにせよ、メロディアスに特化しています。

 本作には、後期の代表曲である#7「Holy Tears」を収録。トラウマを植え付けられそうなMVのグロテスクな破壊力といい、クライマックスの熱量といい、いつ聴いても苛烈な衝撃を有する1曲です。また、ライヴではあまり演奏しなかったようですが、#9「Garden of Light」はポストメタルの収斂と拡散が見事に成されます。

 傑作とされる2ndと3rd、ラストアルバムである5thに隠れがちになってしまいがちですが、深く浸るという点では他作にない魅力があると思っています。

Wavering Radiant(2009)

 2年半ぶりとなる5枚目にして、ISISの天地創造最終章。全7曲54分収録。これまでの作品で共同プロデュースを務めたマット・ベイルスから離れ、新たにToolのサウンドにも携わるジョー・バレシをプロデューサーに迎えて制作されています。

 音のひとつひとつの密接な結びつきから美しいサウンドコスモスを形成した前作。しかしながら、『In The Absence Of Truth』はバンド内でも落ち着きすぎたという意見があったようで、本作は揺り戻しがある内容です。細かなテクスチャー/音の多層化を実現しつつも、屈強な肉体性が増しています。

 #1「Hall Of The Dead」のスタートは安心を買うものですが、一部の荒涼としたサウンドからは『Celestial』期を思わせることもある。洗練を重ねて、練り上げ強化されていく音からは、集約と深化の両方を感じ取れます。

 ハードコア/スラッジメタルに源泉がある中で、ポストロックやアンビエントの重なり、プログレの配合。深遠でドラマティック、かつ有機的な統合の果てに聴かせるのは、先鋭強化されたポストメタルです。ブライアン・クリフォード・メイヤーによるキーボードが、古典サイケ/プログレの薫りをやたらと漂わせており、#2「Ghost Key」のアプローチはバンドを新たな領域に導くもの。

 #6「20 Minutes/ 40 Years」もまたその流れに乗りますが、中間部のメロディアスなギターとベースの連携、そこからの轟音による波動はこれぞISISといえます。彼等が生む天と地を逆さにするかのような強靭なうねり、揺れ動く光点。

 ラストを飾る#7「threshold of transformation」では捨て身の推進から圧倒的なダイナミズムに飲み込まれ、終盤ではサイケデリックな陶酔までもをもたらします。本作でもって「やり切った」と解散を決めたことも納得しますし、その潔さもまたISISというバンドの特性だったのかもしれません。

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