わたしはX(ex-Twitter)で読んだ本のことをポストしたりしています。Xでの反応は薄いんですけど(汗)、前々からこれらをまとめた方が良くない?と感じていましたので、記事を立ち上げてみました。
2024年正月に【2023年ベスト本10選】をアップしましたが、年1よりも通年で定期アップデートさせる記事の方が良いので、”2024年よかった本まとめ”として追加していこうと思ってる次第です。
年間100冊以上の書籍を読むので全部が全部あげるわけじゃありません。しかしながら、おこがましく思いつつ良かった本はみなさんにも読んでいただきたいですね。それでは以下からどうぞ。
※追加したのが新→古の順に並べています。
2024年よかった本まとめ①
松永K三蔵『バリ山行』
バリ山行のバリとはバリエーションルートの略であり、通常の登山道ではない道をいくこと(p35)。”純文山岳小説”と銘打たれた本作は、家族持ちのサラリーマン労働生活と臨場感ある登山の描写が半々ずつぐらい。
悪化していく会社の業績から家族を養っていけるかという先行き不安の危機、バリ山行に出向いたことで遭遇した一瞬で死と隣り合わせの危機。主人公・波多が直面するその事態を丁寧に描写しています。
労働も山も明確な答えを決して教えてくれません。共に人生は道なき道だと伝えてるようでもある。だからこそ人は悩み葛藤し、思考し行動する。オススメ小説です。芥川賞受賞作のわりに読みやすいですし(純文学とはそういうものだと言われそうですが)
ちなみに主人公をバリ山行に連れ出す会社の同僚・妻鹿(めが)さん。彼の登山アプリのアカウント名がMEGADETHなのは笑いました。
会社がどうなるとかさ、そういう恐怖とか不安感ってさ、自分で作り出してるもんだよ。それが増殖して伝染するんだよ。でもそれは予測だし、イメージって言うか、不安感の、感でさ、それは本物じゃないんだよ。まぼろしだよ。だからやるしかないんだよ、実際には。
『バリ山行』p115より
近藤康太郎『アロハで田植え、はじめました』
プロのライターであり続けるため、都会生まれの朝日新聞記者が地方転勤を直訴し、長崎で”オルタナ農夫”として生き始める。しかし、プロの農夫として生きるわけではありません。むしろ農夫のプロになっちゃいけない。プロはライターだけ。そのために早朝の1日1時間を主食である米を作るために田んぼに立つ。
本著は米作りの奮闘記であり、資本主義や会社への反抗記もあり、生き様の表明でもある。『三行で撃つ』『百冊で耕す』の著者らしく、文章は切れ味とユーモアと反抗にあふれている。決して自分の生き方は曲げない信念の強さ、やりたいことをやり続ける。FIREではないこういう”オルタナティヴ・ライフ”もある。
革命もユートピアも犬に食わせろ。わたしがやってることは、ただ「資本主義という怪物に、力なくからめとられるだけが、人生なのではないんじゃないか?」という仮説を、人体実験で確かめようとしているだけなんだ。
『アロハで田植え、はじめました』p98より
オルタナ農夫で重要なのは、プロになることではない。ミュージシャンなり画家なり作家なり、社会運動家だっていいんだが、そしてわたしの場合はライターなんだが、「これをできないなら死んでしまう」という強い願望があるなら、実存の契機がそこにあるならば、一生しがみつく。可能性にかけて跳躍する。そのチャンスを与えてくれるのが農業なんじゃないか。と、そう言っているだけなのだ。
『アロハで田植え、はじめました』p207より