自己解放する歌ものドゥームメタル、King Woman

 イラン系のアメリカ人女性シンガー・Kris Esfandiari(クリス・エスファンディアリ)が2009年に始動したプロジェクト、King Woman。後にバンド編成へと発展し、2015年に1st EP『Doubt』をリリース。一躍その名を轟かせます。

 ドゥームメタルを基調としながらも、彼女の過剰なリバーヴヴォーカル、カルトレベルの宗教的コミュニティで育った背景からきている詞が組み合わさる。King Womanはそれらを骨格にした独創的なサウンドで支持を得ていきます。

 2017年にRelapse Recordsから発表した1stアルバム『Created in the Image of Suffering』は、Pitchforkの2017年ベスト10メタル・アルバムのリストにも含まれ、Consequence of Soundの「10 Most Anticipated Metal Albums of 2017」にも選出されました。

 2021年7月には2ndフルアルバム『Celestial Blues』がリリース。本記事はこれまでにリリースされている2枚のフルアルバムについて書いたものです。以下からどうぞ。

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Created in the Image of Suffering(2017)

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 2017年2月リリースの1stアルバム。全7曲約39分収録。Relapse Recordsからのリリースとなっています。タイトルは訳すと”苦しみのイメージで創られたもの”。

 ドゥームメタル由来の空間を抑圧する重々しいグルーヴを軸にして、シューゲイザーやゴスという要素が交錯しています。スロウテンポで振り下ろされるリフとリズムはひたすらに重い。分厚いドローンの壁。タイトルのわりには鼓膜から過圧体験をもたらす#2「Utopia」から重低音による理想郷が広がっています。

 首謀者であるKristina Esfandiariは、自らの声にエフェクトをかけて囁くような歌を基調にしています。それは遥かな遠景から届くようでもあり、聖性の包容力と悪魔の怨念を持ち合わせている。どの楽曲でも彼女のスタイルが前面に出ており、ドゥームメタルの重量感はいい意味で緩和されています。そこはエンジニアであるJack Shirleyの貢献も大きい。音像が巧みにぼかされていて、良い意味での柔らかさに繋がっている。

 OmやNeurosis辺りの影響を感じさせるし、ドゥームメタルの影響濃いフォークを鳴らすChelsea Wolfeと共振する部分もあり。その中で最も近いと思ったのはJesuです。特に#4「Shame」は冒頭から初期Jesuのごとき甘美なヘヴィロックが轟きます。Justin先生はヘヴィロックをポップに軟化させて白銀体験を生み出しましたが、King Womanはドゥームメタルをアトモスフィア化させ儀式的/祈祷の音楽として鳴らしています。

 歌にしても演奏にしても輪郭のくっきり/はっきりしない音像。ですが、明確なものがある。それはここに綴られている詞です。Kristina Esfandiariはキリスト教のカルト的コミュニティで育った生い立ちがあり、その宗教的抑圧からの脱却/解放を訴えています。実際に自分の体験、仲間の話、宗教教育を盾にした児童虐待など。ドラマティックな曲調の#5「Hierophant」や#8「Hem」は神聖な言葉を疑問視しながら、信仰とは何かを問いかける。

 ひたすらにダウナーで希望をみせる感じではありません。でも、不思議と神秘性を帯びているのは Kristina Esfandiariの存在感によるものだと感じています。ストリングスが悲劇を助長する#7「Manna」はハイライトとなる曲。 King Woman自体が彼女の立ち向かおうとする姿勢を示すものであり、過去の体験からの解放の訴えでもあるのです。

Celestial Blues(2021)

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 約4年ぶりとなる2ndアルバム。全9曲約40分収録。本作にもJack Shirleyが関わっており、Relapase Recordsから引き続きリリースされています。

 ドゥームメタルの重量感を伴うもそこにはフォークやブルースのしみじみとした叙情、ポストロックの静動ダイナミックシフト、ゴシックの妖しさ、グランジの憂鬱などが盛り込まれる。表題曲#1「Celestial Blues」はまさしくバンド自身を体現するオープナーとして存在感を示します。

 スタイル自体は前作から堅持されていますが、ポイントとして使われていた緩急の急が意識的に盛り込まれるようになっています。終始走っているハードコア的#5「Coil」のような曲、またMVが公開されている#6「Entwined」はブラックメタル的な加速。これらの今までになかった要素が加味されています。

 また、本作ではKristina Esfandiari自身に内在化した宗教というテーマが、ジョン・ミルトン『失楽園』を参照しながら描かれている。実際には、彼女を縛っていた聖書を再解釈してつくられた物語とのこと。Luciferという単語は先行公開曲#2「Morning Star」で用いられており、この曲はルシファーの堕落をモチーフにしています。ラストトラック#9のタイトルは「Paradise Lost」であり、楽園からの追放を静かな曲調で歌っている

 ささやきが中心であった歌は、嘆くような叫びが増え、呻き声をあげたり、吐息を使った表現だったりしながら、拡張された音像に適したものを用いています。ドゥームメタルとインディー系フォークの混合体という趣は、彼女の歌が代えがたい核になっているためです。

 そうしたヴォーカルワークが生きているのが#3「Boghz」。タイトルはアラビア語で”憎しみ”を意味しますが、陰鬱な序盤から巨大なリフによって空間を圧迫される中、ソフトな歌い回しから急に唸り声を上げたりする。 #4「Golgotha」では暗鬱なドゥームフォークに厳かなチェロが追走する中で、最も儚い歌声を聴かせます。ちなみにGolgotha(ゴルゴタ)はキリストが磔にされたと言われている場所です。

 必要以上にシリアスであって暗いし、重い。前作よりも明確にエッジが立つ瞬間もあれど、音像は霞がかっていて柔らかさは変わらずに伴っている。Kristina Esfandiariの長年にわたって続いた宗教的背景による苦悩と痛み。それでもなお苦闘の歴史を通して彼女は、心と身体に巣くう悪霊を振り払い光を紡ごうとしているのです。

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