【アルバム紹介】Les Discrets、淡く幻想的なポストブラックメタル

 Amesoeursのメンバーとしても活躍したFursy Teyssierが「音楽とアートを集めるプラットフォーム」として2003年に始動したプロジェクト。現在はAudrey Hadornとのデュオ編成で活動。過去にはAlcestのドラマー・Winterhalterが在籍。

 Alcestと同様にポストブラックメタルとして歩みを始め、モノクロームの冷たく淡いサウンドは独特の質感を誇る。ポストロックからインディー・ロック、トリップ・ホップ、ドゥームやフォークからの影響まで、様々な要素を融合させたシネマティック・ミュージックを展開しています。

 現在までにフルアルバム3作を発表。本記事ではそれら3作品について書いています。

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アルバム紹介

Septembre Et Ses Dernieres Pensees(2010)

   1stアルバム。全10曲約43分収録。当時はWinterhalterを含む3人編成。タイトルは”9月の最後の想い”の意。自然、愛、死の三位一体をテーマにした野心的なコンセプト・アルバムとなっています(いずれの情報もBandcamp参照)。

 前年暮れにはAlcestとのスプリット盤を発売しており、フルアルバム発表前から大きな期待を集めていました。本作はその期待に確実に応える作品です。

 Prophecy Productionsから出ていることで、Alcestに続くポスト・ブラックメタルを思い浮かべますが、本作はポストロック/シューゲイザー寄り。ちなみにスクリームはなしで、クリーンヴォーカルのみを採用。

 透き通る美しさを誇るアルペジオ、温かなトレモロとベースライン、情感豊かに歌い上げるヴォーカルが部分部分に煌く宝石を散りばめながら、儚くノスタルジックな世界観を造形していく。

 要所で女性コーラスや可憐なフレーズを挟み、丹念かつ耽美に紡がれています。 ザラっとしたリフやメタル・パートが飛び出してくるとはいえ、ホンの隠し味程度。

 温かみがあって聴きやすい部類に入りますが、サウンドの底にはモノクロで冷たい感触が存在しています。優しく寄り添うようでいて、冷涼感を心に残していく。それがなんだかAlcestの1stと2ndの中間的な感触があります。

Ariettes Oubliees(2012)

   2ndアルバム。全8強曲約43分収録。物悲しくメランコリック、柔らかな浮遊感、陰りのある美しさを表現していた1stアルバムを経て本作はさらにマイルドな味わいです。ただしアートワークは前作よりも怖いです(苦笑)。

 Fursyの優しく艶やかなヴォーカリゼーションが温もりを増し、音像もシューゲイザー/ポストロック方面へとさらに歩みを進めたことで、おフランスらしい豊かなリリシズムと上品さが目立ちます。

 アコギを効果的に配した哀切のメロディは心の芯に響き、シューゲ風のノイズ・ギターも柔らかな拡がりをみせる。それにAudreyのコーラスも月明かりのように優しく照らす感じで情感溢れる作品を支えています。

 もちろん、ブラックメタル出自を忘れさせない粗暴なサウンドやツーバス疾走も出てきます。ですが、前作と同様にスパイス程度でしかない。全体を通しても哀しみを包み込むようなハートウォーミングな作風。それでも耽美さの中で虚無感/孤独感が浮かび上がることもあります。

 Alcestにも比肩する上品でロマンティックな美意識と叙情性に満ちた#2は本作でも屈指だし、アコギの染み入る様な旋律からドラマティックに発展した表題曲#4は、PVでも高いストーリー性を発揮。

 涙を誘発する慟哭のメロディが印象的な#6や幻想的な世界へと導く#7も大変良い。前作からの流れを踏まえて、磨き上げてきた作品です。

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Pr​é​dateurs(2017)

 3rdアルバム。全10曲約43分収録。Winterhalterが脱退し、デュオ編成での初作。

 本作はBandcampによると”深夜、列車での旅、あるいは、座って待つしかすることがないときに、人生や物事の意味について考えるためのレコードだ。その主なテーマは、時間、自然、人生である“と述べられている。

 もともとブラックメタル要素が薄いとはいえ、本作にギターにその面影はあろうと脱ブラック化の流れは一層強まっています。

 ROCK UR LIFEのインタビューにてマッシヴ・アタックやポーティスヘッドからの影響を話していますが、トリップホップやエレクトロの要素が入り混じった暗いインディーロックの様相を呈している。

 静かに立ち上がってくるリズムに乗せて白夜を思わせるミステリアスな音響をつむぎ、柔らかな歌声が重なる。青白く冷たい質感は確かにポーティスヘッドっぽいですが、アコースティックの優美さや人肌の温もりを忍ばせているところがアクセスのしやすさに繋がっています。

 AlcestやLantlosが共に4thアルバムで聴かせたポストブラックからの穏やかな変質ではなく、氷のような透明感とデジタルとの融合を重視した点はLes Discretsならではの持ち味。

 ちなみに実体験から得たインスピレーションを表現した曲も多い。#8「Rue Octavio Mey」はリヨンにある通りの名でFursyとAudreyが実際に6年間住んでたことから生まれた曲。

 またダークアンビエントに徹した#10「Lyon – Paris 7h34」は、午前7時34分発のリヨン – パリ行きの電車のことですが、これに乗車したことが本作のコンセプトに結びついたという(前述のインタビューより)。

メインアーティスト:Les Discrets
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プレイリスト

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