独自のインスト路線を突き進んで20年を超えたバンド Maserati

 2000年にアメリカ・ジョージア州のアセンズで結成された4人組のインストゥルメンタル・バンド、Maserati(マセラティ)。初期の頃は、もろにポストロックと呼ばれる形式のサウンドを追求しています。2003年には2ndアルバム『The Language of Cities』が国内盤としてリリースされ、MONOの招聘によって来日公演も経験。

 そこから彼等の音楽は徐々にクラウトロックがドッキングされていきます。2007年にリリースした3rdアルバム『Inventions for the New Season』はタイトルからしてマニュエル・ゲッチング色を濃くしていますが、最高傑作にあげたいぐらいの完成度を誇る一作です。

 ところが2009年にこのバンド以外でも名声を残したドラマーJerry Fucksが突然の他界。以降は、バンドは手探りながらも新たな方向性とドラマーを求め、活動を続けます。デジタルサウンドと人力ミニマルミュージックの融合、さらにはエレクトロポップやディスコサウンドを手中に収めながら、培ってきたヘヴィ&サイケ要素を還元しながら、結成当初からは想像もつかないような独自路線にいき着きました。

 そんな彼等の作品を追っていきます。

目次

The Language of Cities (2002)

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 イタリアの高級スポーツカーの名前を冠したUSアセンズのインスト・バンド、マセラティの2ndアルバム。リリシズムに満ちたメロディと繊細なアンサンブルで足場を固め、叙情的で物語性の高いドラマを抽出していくインストゥルメンタルです。

 骨太のベースラインと力強いドラムを地盤に、物悲しげに鳴るアルペジオやギター・ループが滑らかに遷移し、その合算が柔らかなエモーションと共に雄大なうねりとなって聴き手の涙腺を刺激していく。それは、まるできらびやかで美しい水脈が流れているかのよう。じんわりと染みてくるこの叙情の色合いには、ひたすら惹かれてしまう。それに奥行きある空間の広げ方や浮遊感の醸し方、ドラマチックな展開の巧さはバンド自身がInsturumental U2と自分たちの音楽を表現しているのにも納得。

 静から動へと歓喜を湧きあがらせていく丹念な手つきは、EITSとも近しいように感じる。しかしながら、稲妻を思わせるリフで荒々しく空間を切り裂く#4、さらには緩やかな立ち上がりから徐々に熱を帯びていく感じがEITSを思わせるが、彼等よりもさらに強烈な爆心地となる#5のようなダイナミックなサウンドが轟く場面も出てきます。その歓喜の表現もまたマセラティの強さの一つ。

 これ以上ないセンチメンタルで昂揚感あるドラマを大地に書き殴るラストの#8は、バンドの表現力の高さを物語る名曲といえるだろう。ただ、本作に限っていえば轟音バーストよりも丹念に織り込まれた静パートの方に一日の長があり、優美な魅力を湛えた安息の世界が何よりも心地よいです。

 なお、この作品は約1年ほど遅れた2003年12月にMONO主宰のHuman Highway Recordsからめでたく国内盤化されており、翌年2月には初の来日公演を行っている。

Inventions for the New Season (2007)

   Mercury Programとのスプリットを経て、5年ぶりにリリースされた3rdフルアルバム。ドラマーにJERRY FUCHS (LCD SOUNDSYSTEM、!!!等で活躍)を新しく迎えた本作は、これまでのインスト・ポストロックに多彩な資質が投下されていて、マセラティの音楽の独自性をより強く示しています。

 Canのプログレ/サイケ感覚、ホークウィンドのスペース感覚、!!!のうねるグルーヴ、マニュエル・ゲッチングの美しいミニマル要素、クラブ/テクノ経由のアシッドな電子音を懐に収めたサウンドは、極めて前衛的。静と動のポストロック的な縦の大きな揺さぶりのみならず、Jerryという強力なドラマーを軸とした持続的な横の揺さぶりを加味したことが、心地よい昂揚感を運んできます。

 既存のメロディの良さ、そして荒々しさを下地にしてそこから一段も二段も上の領域へ上書きされた音楽。多くの要素が細かく理詰めされながら、緻密な構成力のもとで活かされているのが素晴らしい。幻想的な美しさに往年のレトロ/サイケ/プログレ感覚、それにクラブ/テクノの快楽をドッキングすることで、ポストロックの無人の領域を開拓した新感覚のものへと導いています。

 前述したようにマニュエル・ゲッチングを思わせる美しいギター・ループと心地よいグルーヴが母なる大地から宇宙的へと膨張を続けていくような#1「Inventions」は、冒頭から鳥肌もの。滑らかに叙情の波紋を広げ、終いには轟音の楽園を噴出する#2「12:16」、2本のギターが精妙に絡み合いながら鮮やかに世界を染めあげる#4「Synchronity TV」とメロウな佳曲も充実。

 その中で異彩を放っているのが#6「Show Me The Season」。骨太のベースラインとタイトで力強いドラミングがダンサブルな音場を形成。一方でサイケデリックなギターがしっかりと酩酊を植え付ける至高の一撃です。前作の世界観をそのまま引き継ぐように甘美で至福のポストロックを鳴らす#8「World Outside」での締めくくりもまた味わい深い。既存の音楽性を大胆に上塗りした傑作であり、恍惚と覚醒の連続をもたらす驚愕の一枚。

Passages (2009)

  3rdアルバム『Inventions for the New Season』より2年ぶりに発表となる音源は編集盤。内容は、LPのみで1000枚限定リリースされたZOMBIとのスプリット盤に収録されている4曲(#1~#4)、リミックス盤の12インチEP『Inventions Remixes』に収録された2曲(#5,#6)、そして未発表のリミックス曲(#7)と未発表の蔵出し音源(#8)といった全8曲が収められている。

 中心となるのは間違いなくZOMBIとのスプリット曲。3rdアルバムでの躍進を踏まえて制作されたこれらの楽曲では、リズム隊による躍動感とグルーヴがさらに強化され、サイケデリック/クラウト・ロックの要素がポストロック/ミニマルが見事に融合を果たしています。サイケデリックなテイストとダンサブルなリズムが牽引する「No More Sages」の美麗さと幻想性と躍動感をドッキングしたこの上ない一撃は、持続的な快楽も瞬間の昂揚をも引き出しています。

 そして、早くも訪れる本作のハイライト#3「Monoliths」が凄くて、Maserati史上最強の曲かとも感じている1曲。こちらはマニュエル・ゲッチングの影響を思わせる幾重にも連なる美しいミニマル・ギターがメロディアスに響き心地よさを誘う。さらに徐々にグルーヴが強まってリズミカルに上昇しながら、心地よさを恍惚と解放へと変えていく展開の妙が何とも圧巻。この1曲のために本作を買う価値は十分あるといえます

 リミックスの3曲ではいずれも4つ打ちのクラブ仕様になっており、腰をくねらす快楽指数が高まっていて単純に気持ちいい。特に!!!のメンバーがリミックスした#6のアシッドな一撃はゆらゆらもの。そして、未発表のラスト#8では初期にも通ずる美麗な世界が展開されており、ひんやりとしたギターのレイヤーが純白の大地を眼前に広げるかのようなドラマティックな1曲で骨抜きにされてしまう。

Pyramid Of The Sun (2010)

 

  マセラティの新たな核となっていたドラマー、Jerry Fuchsの2009年11月の突如の事故死。それを乗り越えて完成した通算4枚目のフルアルバム。制作は2009年から始まっていて、基本はジェリー・フュークスのドラムが録音されていますが、足りない部分はスプリットEPを発売した盟友ZOMBIのスティーヴ・ムーアが補っています。

 本作でも3rd、スプリット盤から続く流れにあってグルーヴ感の強化、NEU!やマニュエル・ゲッチングやホークウィンドといったクラウトロックやサイケ/スペース/ミニマルの昇華、さらにはコズミック/プログレ色の強いディスコ・クラブ要素を煌めかせて、アップグレードを図っています。強力すぎるリズム隊を軸とした圧倒的な牽引力に、シャープに研ぎ澄まされた美しいギターとシンセ・フレーズが交錯することで増幅していく音の力が、稀有なる深宇宙を描く。

 ポストロックという言葉で語れないほど様々な要素の含有。インストという括りはもちろんあるにせよ、それを前作以上に感じます。古めかしいシンセの音色が幕開けを告げる短尺の#1から驚き。シンセのコズミックな音色とベースが力強く脈動する#4、生楽器と電子音がエレガントに混成する#7といったフロア系ともいえる曲が本作で存在感を放つ。根っこにあるグルーヴの引き込む力は尋常ではないレベルに達していて、前作の「Show Me The Season」を短く凝縮し、疾走感と快楽性を突き詰めた#3は間違いなく必殺曲と言えるだろう。

 同系の#6も然り。これぞマセラティというダンサブルな昂揚感を放出している。特に感動的なのはラスト曲で、おそらくタイトルからしてジェリーに宛てた遺作曲だと思います。オープニングの一面に広がる荘厳なコーラスから反復に反復を重ね、巨大な円を描く超絶グルーヴィなサウンドが地から天へ、天から宇宙へ、宇宙から無へと帰結していく名曲。

 ダンサブルな面が強まったとはいえ、展開の妙やメロディの底から滲み出る詩的な情緒に惹かれ、前衛的姿勢を決して失わずに前作以上に様々な音背景と融和しているのが本作。振り幅の広いこのインストは、ジェリーの遺作云々を抜きにして評価されてほしいものです。

Maserati Ⅶ(2012)

 

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  5枚目なのに、なぜかタイトルが『Ⅶ』な2年ぶりの新作。前作は、ジェリー・フュークスの不慮の事故の影響が色濃く、ドラムは生前の彼のパートにZombiのスティーヴ・ムーアも加勢していました。本作では、来日歴もあるエモ/マスロック・バンドのCinemechanicaのドラマーを迎えて制作されています。

 前作は、故ジュリー・フュークスが生前に示した方向性によるところが大きいながらも、彼の死後に残されたメンバーで答えを出した作品でした。本作ではそれを昇華させ、さらなる高みへと登りつめている。つまるところ、”クラウトロック×コズミック×ダンサブル” という言葉に集約。

 前々作の3rdアルバムからクラウトロックを参照にしながら音楽的幅を広げてきましたが、精微で力強い演奏がもたらす躍動感や煌くエレクトロとの調和が前作以上に堂に入っています。#1「San Angeles」から一切の迷いがない。自然と体を揺らす強靭な四つ打ちに、コズミックなシンセが添えられ、美麗&サイケなツインギターも相まって有機的なダイナミズムを生み出していく。

 リード曲#3「The Eliminator」の弾丸のような疾走感と弾きまくりのギターにも昂揚する他ない。特に新ドラマーの存在は大きい。この力強い刻みにはジュリー・フュークスが叩いているのと同じような感覚さえ覚えてしまうほど(まあ、もともとCinemechanicaのドラムでもすごいわけですが)。ベーシストも変わらずのナイスな仕事ぶりで、マセラティの屋台骨を支えるリズム隊がいかに大事かがわかります。

 後半の#6ではクラフトワーク、#7ではクラスターといったバンドの面影さえ浮かぶといえば浮かぶ。パンキッシュなノリやすさやサイケデリックな要素を十分に孕んでおり、クラウトロックの影響を濃くしながらも独自のインスト像を開拓する辺りはEmeraldsに近い印象もあり。しかし、こちらはあくまで人力のダンスミュージックとしての趣が強いですね。特に印象的な楽曲は前述の#1、#3、そしてエレクトロとグルーヴが強化された#2「Martin Rev」。

 さらに#5「Abracadabracab」では、『Inventions~』期のマニュエル・ゲッチングを彷彿とさせるギターが炸裂するのが気持ちイイ。バンドがこれからどうなるかをの不安を払拭する好盤。

Rehumanizer (2015)

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 約3年ぶりとなる6thアルバム。引き続いてTEMPORARY RESIDENCEからのリリースとなっています。Cinemechanicaのドラマーはそのまま常駐し、Jerry急逝以降のグルーヴは固められている。

 彼等もいつの間にか活動15年を超えるベテラン。前作で打ち出した”クラウトロック×コズミック×ダンサブル” という方向性に拍車がかかっています。イマドキの音楽に興味をあまり向けず、時計の針を逆進させて温故の源泉を引っ張りだし、なおかつヴォコーダーを使ったロボットボイスも投下。

 #4「End Of Man」における渋い新型ダンスロックは、このバンドだからこそといえるものでしょう。全体的に80’sシンセポップっぽさも感じさせるものですし、その上でクラウト&サイケ&プログレ増し。組曲となっている#5~#6「RehumanizerⅠ~Ⅱ」のミニマリズム&グルーヴ強化、このマセラティ宇宙紀行は、独特の昂揚感を伴ってみなさまを誘います。

 海外のサイトでは”retro-futurist sound “なる形容もされておりましたが、レトロ趣向がこれまでの持ち味と咬み合って、音楽性がさらに発展していく → バンドとしての魅力がさらに増す。そうした形をMaseratiは続けているので、稀有な存在であるなと思います。ポストロックから辺境へと飛び立ったがゆえの個性。スペーシーなギターが冴え渡る10分超の#1「No Cave」から快楽の連続であります。

Enter The Mirror (2020)

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 結成20年。約5年ぶりの7thフルアルバム。これまでにExplosions In The Sky、Swans、Angel Olsen等を手がけ、グラミー賞も獲得しているプロデューサーJohn Congletonを迎えての作品です。リリースはもちろん TEMPORARY RESIDENCEにて。

 彼等の歴史を振り返るとJerry Fuchs以前・以降で音楽性が分けられます。以前はマニュエル・ゲッチング色の強いポストロック。以降は作品を重ねるごとにデジタルサウンドとダンサブルビートが主張を強めています。本作ではそれが過去最高のMaseratiと言わんばかりで、近未来と懐古を巡回しながら快感中枢を刺激し続ける縦と横の揺さぶりが冴えわたる。現在のポストロックは様式美であることも確かですが、彼等の存在は本当に稀有なものです。

 クラウトロックとエレクトロとメタルとポストロックの衝突作用による異形化、独自路線の邁進。コズミックなシンセサウンドの幕開け#1「2020」からロボットボイスを多投するエレクトロポップ#2「A Warning From The Dark」への展開。そこから一気に高速道路とダンスフロアを行ったり来たりする#3「Killing Time」#4「Der Honig」がぶち上げる快感指数。もはやMaseratiは止めようがありません。

 しかし、ここまでデジタル色が強くなっても固持されている人力感。ミニマル・機械的といった印象は受けるけれども、人の手による演奏の強みや熱さが決して失われてないんですよね。それこそが20年の矜持かもしれません。Heavy Metal化したGOATBEDのインパクトを持つ#6「Empty」にやられ、ラスト曲#7「Wallwalker」が彼等が積み重ねてきたロックとエレクトロの両サイドを集約して締めくくる。ここ10年で独自の路線を突き進み続けた結晶、20年の重みがここにあります。

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