pg.lost、純粋なドラマと昂揚感をもたらすポストロック

 スウェーデン・ノルヒェーピング出身のインスト・ポストロック4人組。元Eskju DivineのメンバーやCult of Lunaに2013年に加入したKristian Karlssonを擁す同バンドは、メランコリックな曲調と実験精神を持ち合わせ、各国のポストロック・ファンから支持を得ます。これまでにMONOやAlcest等のサポート・ツアー、各フェスティバルに出演。またロバート・スミスがキュレーターを務めた2018年のメルトダウン・フェスティバルにも出演を果たしています。

 本記事は、フルアルバム5枚と1st EP『Yes I Am』を紹介しています。ちなみに2016年9月には初来日公演を実施。

目次

Yes I Am(2007)

 1st EP。全5曲約36分収録。メンバーが20代前半にレコーディングされた作品ですが、現在でも主力ナンバーが揃う原点。そして、メランコリーに彩られたインスト・ポストロックの海源です。静と動にかけ橋をかけて行き交う、00年代ポストロック王道作法に準ずる音楽性。ただ、pg.lostはもっと叙情性に寄ったスタイルをとっています。

 冒頭を飾る表題曲#1「Yes I Am」がそれを物語ります。美麗なツインギターのコンビネーションを基に音を重ね、轟音化の波形を辿る。バンドとしても指針のひとつとなった曲であり、先人達のフィールドに待ったをかけます。続く#2「Kardusen」は心地よく絡み合うバンドアンサンブルの中で切なく物語を奏で、終盤には咽び泣くようなギターが聴き手の感情を煽る。

 そして、10分を超えるラストトラック#5「The Kind Heart of Langion 」が引き連れてくる温かい春風のような心地よい時間。クライマックスへ向けて儚くも力強くビルドアップされていくこの曲は、本EPが持つ温かみやエレガントさを示しています。メンバーは本作について「良くも悪くも、20代前半にレコーディングされたこのアルバムは、僕らのDNAに刻み込まれ、バンドの進化の証として存在しているんだ」と話す。

 本作は2020年にリマスター再発。マスタリングをMagnus Lindberg(Cult of Luna)が務めています。アルバム発売から10周年を記念した2017年に故郷・ノルヒェーピングでの本作全曲演奏をボーナストラックとして追加。時を経ての変化と洗練の歴史が詰め込まれています。

It’s not me, it’s you!(2008)

 1stフルアルバム。全6曲約56分収録。煌びやかでメランコリックという特徴が押し出された前EPからすると、北欧バンドらしい冷涼感や透明感が押し出されています。とはいえ、ディレイやトレモロを多用したギターを中心に轟音化へと向かい、カタルシスを得るという意図・構成は変わっていません。

 しかしながら、#1「The Day Shift」にてピアノが幅を効かせて優雅に曲を彩り、#2「Head High」の終盤ではストリングス・アレンジが入る。以降の作品に比べるとアクセント的な使い方という方が適切。あくまで4ピースのポストロックが主体ですが、前EPから楽器数を増やしたことで曲における美醜のコントラスト、壮大な演出が増えました。

 リズミカルにディレイ・ギターを重ねていく進行から一気に爆発が巻き起こる#3「Pascal’s Law」、どこか陰りを帯びた雰囲気を持ちながらも速足のテンポと共に昂揚感を得ていく#5「Jonathan」はバンドの新境地といえる曲。ポストロック方程式の利用と逸脱の中で、堅実さと冒険心を持つ彼等は自身の音楽を着実に積み重ねています。

 ラストを飾るのは12分を超える#6「Siren」。これこそが典型的なポストロックに分類される曲ですが、ギターとシンセのみのミニマルな序盤から徐々に音数を増やし、初となる淡いヴォーカルを添えて祝福の音が鳴り響く。珠玉という言葉を贈りたい優美な轟音は、この手の音楽を聴く最大限の喜びと解放感を与えてくれる1曲です。わたしの中ではCaspianの「Sycamore」に匹敵する。

In Never Out(2009)

 約2年ぶりとなる2ndフルアルバム。全6曲約51分収録。基本的にはこれまでの流れにある路線に変わりはありません。平均8分超の尺。そして、薄まったとはいえメランコリックな色調は基本軸として、時に暗さをにじませつつ、丹念にストーリーを紡ぐ。全体的な印象で言えば、方法論は一緒にも関わらず、重みを伴う悲しさが増してます。さらにはベースとドラムによる低音が強調されたことでしょうか。

 始まり方がEITSの「First Breath After Coma」を彷彿とさせる#1「Prahanien」で寂寥感を募らせるようにトレモロギターが鳴り、やがて全楽器が一体となった爆発へと導きだす。#2「Jura」や#3「Heart of Hearts」は悲壮感が勝るようなパワーバランスですが、大枠として静→動への大音量化は変わらず。全体的なトーンが3段階ぐらい暗め設定。暗さと重さが本作を語るうえでのキーとなっています。

 全編において抑制のミニマルリズムが支配する#5「Crystalline」、身の置き場も無くなるほどの圧力を感じる#6「Gomez」と終盤のテンションはこれまでと違う。そこにダークで広大な世界を奏でるという挑戦は感じられます。ただ、その分に失われているのが煌びやかさ。前作や前々作で人々を虜にするようなメロウさがあったと思うと、作品としては地味という印象が残ります。それでも、ゆっくりと重量感と哀しみが押し寄せる。

key(2012)

 約2年ぶりとなる3rdフルアルバム。全7曲約55分収録。オープニングを飾る#1「Spirits Stampede」から美的、美的。重みや歪みよりもクリーントーンの鮮やかさの方が目立つもので、美しさは全てをかっさらうと言わんばかりの劇的さがあります。それこそEITSに匹敵するような飛翔感と開放感だってもたらしてくれている。

 『Yes I Am』の頃みたい、そういった言葉も出てきます。お国柄というべき冷涼感や悲哀も曲には反映されていますが、やはり前述したようなメランコリックな美への意識が前作とは違う。#2「Vultures」や#6「Gathering」でゆるやかに向かっていく光属性。重厚さは残しつつ、歪みよりもクリーンさが凌駕するような音楽として届けられています。

 それでも、パワフルなグルーヴをたたきつける新境地#3「Terrain」を用意。バンドの中でなぜかSpotifyで一番再生されているのですが(2022/03/19時点で440万回超え)、ライヴで終盤を飾ることの多い彼等の重要曲。終盤の不協和音はやたらと耳にこびりつきます。

 締めくくりとなる13分超の#7「Weaver」は、最後にして局面を全く変えてしまう曲。鍵盤を軸に据えてとてもドラマティックな仕上がり。クライマックス付近にて轟音の祝祭は起こりますが、全体を通すと落ち着いた物語(おまけのカタルシス付き)。1stアルバム収録「Siren」とはまた違う感動がありますね。暗く切ない部分はほどほどに、美のブラッシュアップが功を奏したと感じる作品です。

Versus(2017)

 約4年ぶりとなる4thアルバム。全7曲約54分収録。本作はTokyo Jupiter Recordsより国内盤が発売されました。レーベルインフォによると、レコーディングの直前に自分たちのスタジオを購入したそう。さらにはベーシストのKristianがキーボーディストとしてCult of Lunaへ2013年に加入。そして、レーベルを移籍してリリースがPelagic Recordsからとなりました。

 そのような影響を受けた本作。一番に感じるのはキーボードの増加で、#3「Monolith」や#4「Versus」辺りにそれが顕著。ヴェールのような被せ方からメロディを弾いたりとアクセントというよりは、準レギュラーぐらいに昇格した印象です。また、圧壊を引き起こすレベルのヘヴィネスの獲得があり、2nd『In Never Out』がかわいく思えるぐらいに重い支配が続きます。アトモスフェリックなアプローチや控えめなメロディの配置はありますが、ベースとドラムの重量感は過去最高。

 反対に煌びやかさは抑えていて、作品としてこういった配分になってしまうのがpg.lostの特徴なのかも。ただ、2ndアルバムよりも新しい要素との混成具合がうまくいっていて、新たに彼等を象徴する曲となった#1「Ikaros」を始めとして、楽曲は充実しています。#2「Off The Beaten Path」の尋常なく重いベースラインに驚いたし、#6「Along the Edges」のトライバルなリズムパターンもまたインパクトを残す。

 静と動のコントラストを持ち味とする中で、動における重と爆発力をさらに高めたことがポストメタルの領域にまで踏み込んだことを示唆します。Russian Circlesが本作で引き合いに出されることが多いのもその証明。なお、本作リリース後となる2016年9月には、一夜限りの来日公演が開催されました。わたしは参加できずで悔やんでおります。

Oscillate(2020)

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 4年ぶりとなる5thフルアルバム。全8曲約56分収録。自分たちが所有するスタジオで制作し、Cult of LunaのMagnus Lindbergがミックス/マスタリングを務めています。

 これまでで最も変化を感じるであり、最も多彩な作品です。ド定番の轟音化というアプローチは、なるべく避けています。その上で反復と細かなディティールを詰め、ダイナミックなシフトを手なずけながら曲中に組み込んでいます。完全に主権を得たキーボードのレイヤー、前作でほぼ封印していたエフェクトヴォーカルの復権、70’sクラウトロックやアンビエントからの影響、光と影の対比。マンネリの打破はバンドとしても課題だったようですが、自身が打ち立ててきた音楽性の上で多様化が図られています。

 #3「Mindtrip」や#6「Waves」といった曲においての内省的なアプローチは、これまでにはないものです。また、Tim Heckerのバンド版みたいな印象を残す表題曲#1「Oscillate」もまた変化の表れです。タイトルからしてもクラウトロックの影響下を感じる#2「E22」のループによる至福、さらにはメタリックな攻撃性が発揮された#7「Eraser」が塗り替える眼前の景色。どれもがドラマティックな大作を成すうえで、必然のピースとなっています。

 本作においてはシネマティックという言葉を添えたくなるし、ポストメタル的な強度を誇りながらも”浸る”という感覚が強い。1曲完結型から作品を通した物語性が重視され、即効性よりも8曲の中で大きな起伏を経ての感動が得られます。『Versus』以上に踏み込んだ変化を求めて、見事に結晶化。偶然とはいえ、#8「The Headless Man」の召されるエンディングは、世界が多くを喪失した2020年に希望と救いをもたらすように響きます。

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