徹頭徹尾、鉄壁のアンサンブル Russian Circles

 幼馴染であるギタリストのMike SullivanとドラマーのDave Turncrantzを中心に結成されたアメリカ・シカゴ出身のヘヴィインストゥルメンタル・バンド3人組。1stアルバム『Enter』を発表後にベーシストが抜け、そこに元These Arms Are Snakesや後にSUMACとしても活動するベーシストのBrian Cookが加わり、以降はこの不動のラインナップで活動します。

 ポストメタル系インストとして知られる彼等は、初期はマスロックやポストロックといったテイストを押し出すものの、作品を出すごとに独自のスタイルを開眼。重厚なリフの反復で音の壁を打ち立て、ストイックに強度を突き詰めていく様は他バンドとは一線を画す。TOOLのツアーサポートに抜擢されたこともある実力派であり、ヘヴィかつスリリングなサウンドを生み出す鉄壁のアンサンブルはライヴでも定評があります(わたし自身も2014年と2020年に体感済み)。

 以降は、彼等のオリジナルアルバム作品7作について紹介していきます。

目次

Enter(2005)

 2006年リリースの1stアルバム。スリーピースながら想像以上に音はタフで芯がしっかりしており、その上で動と静の押し引きの上手さ、サウンド構築の妙技は新人ながら驚かされます。マスロック寄りに精微・堅牢な構成を成す中、Pelicanと同じくシカゴの自然の厳しさを想起させるような音塊の濁流、そして美しき景色を描写する流麗なサウンドが3人のバンド・アンサンブルによって生み出されます。壮大なスケール感も、美しい世界観の上に理路整然と成立。

 暴れ狂う轟音スペクタクル#3「Death Rides a Horse」は初期の名曲として君臨し、ゆったりとした展開から一気に燃え広がり爆発する#4「Enter」、荘厳でドラマティックに自然の厳しさと美しさを表現した#5「You Already Did」なども後に繋がっていくバンドの持ち味を示しています。

 眠っている感情を解き放ち、透明な音世界がクリエイトされていく様は何とも美しい。前述したようにマスロック/プログレ寄りの構築がされたポストロックとして、なかなかのインパクトを受けた作品でした。

Station(2008)

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 2ndアルバム。ベーシストのブライアン・クックが正式に参加しだしたのが本作からで、最高傑作にあげる人の多い作品です。ポストメタルというよりはポストロック方面へやや傾いていて、メロディを磨き上げながら、1stアルバムよりも構成を練り上げて壮大なドラマを描いています。

 ギタリストひとりとは思えない多彩な音とそのレイヤー構築、低い位置を安定的に支えるベースライン、狂強靭さと安定感を高いレベルで備えたドラム。よく言われる”3人とは思えない”という表現は、誰しもが本作を聴けば納得できるはずです。不穏なイントロから幕開ける#2「Harper Lewis」では途中で爆撃のごときリフが吹き荒れ、タッピングフレーズと組み合わせながら大きな起伏をつくりあげていく。表題曲#3「Station」にしてもリフを塗り重ね、塗り重ね、圧をかける。

 その上で繊細なロマンチシズムも生きています。#4「Verses」や#6「Xavii」といった天から降り注ぐ叙事詩のようで、美しいインスト曲として作品を彩る。Rosettaなんかと同様にアートのような芸術性も感じられます。また、Toolのツアー・サポートにも抜擢されるぐらいのクオリティというのも十二分に発揮。インストゥルメンタルを独自の美意識で昇華させた#5「Youngblood」はポストメタル系インスト最重要曲のひとつです。

Geneva(2009)

 3rdフルアルバム。基本的にはこれまで通りに、ヘヴィかつメタリックな轟音と流麗なメロディという鉄壁の組み合わせで構成。重心の低いバキバキのベースライン(特に中盤のベースソロが凄い)を下地に烈風が吹き荒れる#2「Geneva」、陽性のメロディが彩る序盤から暴発するように火柱が上がる#5「Malko」と破壊力は変わらず。

 ただ、ポストロックよりの明解さを持った曲が多い印象はありますね。これまで通りに随所に耳を引く劇的な掴みもあり、引き込まれる感覚は今までの中で一番かも。爆音と静寂の連鎖から成るスペクタクルな展開を期待していた人からするとちょっと寂しい内容かもしれない。空間的な揺らぎを強調したのはわかりますけどね。

 その効果をもたらしているのが繊細な音色を響かせるストリングス、温かみのあるホーンといった楽器の導入。それらがこれまでのトリオの演奏に豊かな表情を加えたことで、繊細なリリシズムがさらに哀愁度を増しています。

 仄かな切なさを纏うメロディを軸に管弦楽器が奥行きを持たせて音が徐々に膨れ上がっていく#3「Melee」、クールネスを増したEITSといえそうな展開美をみせる#6「When The Mountain~」といった曲ではそれが顕著かと。エッジの立った演奏や屈強なヘヴィネスが控えめになったことで、煽情度は下がったように思えるけど、ゆっくりと軌跡を描きながら映し出される優美な音風景は切なく胸を満たしてくれます。

Empros(2011)

 2年ぶりとなる2011年リリースの4作目。本作においても一層、自らの音の強度と構築性を高めています。前作においてはアブストラクトな揺らぎのある空間構築に精を出していた印象を受けたが、本作にて1stで見せたカオティックな扇情性や2ndにおけるダイナミックな構成力が収斂して、さらに進化/深化。確信を持って構築されていく楽曲群に隙はない。

 #1「309」から最重量級の鉄槌を撃ち落とすかのようなリフが炸裂。ここまで恐ろしいヘヴィネスを聴かせてくれる序曲に続き、本作のハイライトである#2「Mladek」へ。この曲はRussian Circlesの持つ資質を全て投下した素晴らしい楽曲に仕上がっており、透き通るように美しいギターのループから豪腕で屈強な爆音が津波のように襲います。

 音そのものの重みと破壊力が存分に引き出されており、それがスリリングな展開と相まって凄まじい効力を発揮。マスロックめいたフックの組み込み方も流石で、うねるヘヴィネスで翻弄し、美麗なパートで酔わせつつ、体も心もクラクラとするような爆音の乱舞で一気にスパートをかけられては、もう昂揚する他ありません。

 続く#3ではアブストラクトな揺らぎを聴かせてくれますが、終局では口をあんぐりさせるような轟音バースト。そんな中、締めくくりの#6では寂寥感のあるギターにたそがれた唄が遠くに聴こえるという驚きの結末。はっきりとした唄ものとはいえないと思うが、Pelicanが同じ4作目にて初のヴォーカル・ナンバーを導入した事を思い出さずにはいられませんでした。

 緻密さとダイナミズムを突き詰め、力強さも美しさも集約したインストゥルメンタル・ロックは、その手のファンを確実にうならせる作品。職人の域にまで達するその鉄壁のアンサンブルで彼等は前進を続けるのみ。 個人的にも本作は2ndと並ぶ傑作だろうと思う。そして、#2『Mladek』は本当に素晴らしい曲ですね。

Memorial(2013)

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 5thフルアルバム。最高傑作と各地で評判になった前作『Empros』に引き続きの快作と言える内容であり、逞しすぎる激重音と優美な叙情が相当なまでの説得力を持ちます。本作品についてのインタビューでは、ピンク・フロイドの「アニマルズ」にインスパイアされた部分もあったらしい。

 波のように寄せては返す切ないギターの音色が印象的な小インスト#1「Memoriam」の安らぎの始まりもつかの間で、#2「Deficit」の冒頭から襲いかかる重音は、前作の1曲目である「309」にも迫るものがあり、問答無用で鼓膜を征服。そして、堅牢なまでに貫かれたプログレッシヴな構成、鉄壁のアンサンブルが昂揚感を煽ります。また、マスロック的なアプローチやハッとする様な幾多のアイデアも健在。その中でいつも以上に攻撃的に振る舞っている印象は強い。

 特徴的なのは、全8曲で約37分と彼等の作品の中で最も短いアルバムで、楽曲のひとつひとつがさらにコンパクトな作り。5分を超えているのは前述の#2「Deficit」、儚いトレモロが冷涼とした風景を奏でていく#3「1777」の2曲のみ。長きに渡ってこのラインナップで戦ってきたことでの練度の高さもあるが、理知的かつ鋭い組み立てが光ります。

 また、憂いと湿り気を帯びたダークさがあることも挙げられます。ポストロック風の静から動へと引き上げていくアプローチはあまりなく、リフの波状攻撃を中心に忙しない変化を伴っているために、”光”をもたらすような感触はあまりないかな。しかし、#6「Ethel」では多彩な音色を煌かせながら、初期にも近いサウンドを聴かせてくれているのが個人的には嬉しい。

 締めくくりの#8「Memorial」には新世代ゴシック・クイーン、チェルシー・ウルフをゲスト・ヴォーカルに招いてます。彼女の霧がかった儚い歌声と優美なギターの音色が揺らぎのあるミステリアスな空間を創り上げている。日々の鍛錬と共に逞しい上昇を続けるRussian Circlesだからこそ、奏でることができるヘヴィ・インストのひとつの指針にもなるべき作品に仕上がっているように思います。

Guidance(2016)

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 6thアルバム。2014年夏に初来日公演を果たし、そしてベースのブライアン・クックがSUMACでも活躍していることは周知の通り。また、本作ではKurt Ballou(Converge)がプロデュースを手がけています。

 作品毎に着実なる前進。それを本作でも実感します。スリリングな展開と重厚なサウンドを実現する鉄壁のアンサンブル。無駄な贅肉を削ぎ落とし、バンドの芯の部分をSASUKEオールスターズ並にストイックかつタフに鍛え上げてます。まさしく本格派と技巧派を兼ねる音。前作ではチェルシー・ウルフ姐さんをゲストに招いたヴォーカル・トラックが、新しい感性をもたらしていました。それが本作においては7曲全てにインストゥルメンタルを揃え、本来の姿に立ち返っています。

 聴いていて積み上げられたと一番に感じるのはヘヴィネスの部分。エフェクトを多用しての歪みと厚みの倍々ゲームは、無差別重量曲#6「Calla」における轟きが物語ります。卓越した演奏力とアイデアの多彩さから成る3人とは思えないグルーヴは、作品を重ねるごとに強靭に。それでいて明暗硬軟遅速を展開に合わせて隅々までコントロールし、柔らかなリリシズムとともに曲の背景を膨らませています。

 ダイナミズム溢れる#2「Vorel」や#3「Mota」辺りは、聴いただけでRussian Circlesとわかるぐらいに彼等の専売特許。そして、ラストの#7「Lisboa」ではシカゴの冬を思わせる寂寥感募る静寂からダウナーな轟音が吹き荒れる。

 大きな方針転換はなくとも、自身の音楽を分析して突き詰め、研磨を続ければマンネリなんて言葉はねじ伏せることができる。それを証明する1枚かと思います。期待は裏切らず、必ず衝撃を用意。まだまだRussian Circlesの手によって、インスト界隈は更新されていきそうです。

Blood Year(2019)

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 目下の最新作である7thアルバム。前作に引き続いてKurt Ballou(Converge)がプロデュースを手がけた全7曲約40分収録。強靭・重厚・精微・鉄壁・反復・知的。本作を漢字2文字で表せる言葉がいろいろとあります。ポストメタルといっても異質であり、独自の方向を突き詰めている彼等。もはやストイック or Dieです。

 端的にいえば、リフで押して圧しての精微重厚インストゥルメンタル。職人のように地道に品質改善を重ねながら、己のスタイルを昇華し続けています。仙人化していくマイク・サリヴァンのギターと階級を上げ続けるブライアン・クックによるベース、その両リフを基盤にして反復とレイヤーによる分厚い音壁構築。それが前作以上に肉弾戦上等といった感じで攻めています。

 決して型通りではなく、ポストロック/ポストメタルの黄金法則には則らない。新選組ばりに己の特化した技を極めまくる姿勢を貫く。#2「Afluck」や#7「Quatered」が象徴するようにリフで攻める、攻める。トレモロやタッピングなど多彩な味付けもしてはいますが、音に音を重ねて鼓膜を蹂躙することに変わりなし。ドラムもずっしりと重いですが、曲のスリリングさとスピード感は確実に維持しつつ、ブラストビートを取り入れたりしています。

 叙情的な側面も所々で聴かせますが(インタールード的な#1「Hunter Moon」#5「Ghost on High」の役割がそう)、あくまで彼らなりのバランスのもとで整理されています。#6「Sinaia」は久しぶりに轟音系と呼べそうな方法論で作られていますが、やたらと生々しくて重たい響きを堅持している辺りはこのバンドらしい。

 前作以上に生々しいライヴ感が強い。あとはジャケットのようなダークな側面が押し出されていて、音から感情的なものは失われている印象を受けますが、アンサンブルの強度が増して、リフの嵐がひたすら耳の説得を試みる。そんなアルバムです。2020年2月末、本作を引っ提げての来日ツアーを新型コロナウイルス拡大前に見れたことは、大変幸運でした。

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