痛みと覚悟の叫び、Svalbard『When I Die, Will I Get Better?』

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When I Die, Will I Get Better? (2020)

「After Hours 2019」においてここ日本のリスナーにも鮮烈な印象を残したUKブリストルの4人組ポストハードコア・バンド、SVALBARD。各メディアで称賛を浴びた前作「It’s Hard To Have Hope」以来およそ2年ぶりの新作となる2020年3rdアルバム。先行トラック「Open Wound」に象徴されるように、激情ハードコア〜D-BEAT〜ブラックメタル〜ポストロックetcの要素からなる美麗なサウンドスケープと激しいエモーション、ダイナミックかつ繊細な音世界は一層ブラッシュアップ。性差別や虐待、メンタルヘルスをテーマにしたリリックを伴ってより鋭角に突き刺さる全8曲。

 After Hours 2019で実際にみたSvalbard(スヴァールバル)は、鮮烈でした。Explosions In The Skyの恍惚感に浸っていたところ、サブステージで始まった彼女たちの演奏にぶちのめされる。当時の最新作だった2018年作『It’s Hard to Have Hope』を聴いて臨んでいたものの、それよりも己の身を削って表現することや苛烈さ極める演奏に大いに興奮と感動を覚えるものでした。

 ヴィジュアル系でいう扇風機ヘドバンのように頭を振りながら演奏と叫びを続けるSerena Cherryの存在は、目に焼き付いたものです。 Svalbardを経てトリのenvyに繋がっていくのは、本フェスにおける醍醐味だったようにも感じています。

 ちなみにSvalbardは、MONO20周年記念となる2019年ラスト公演のスペシャルイベント「Beyond the past: U.K」12月13日、14日2daysの13日に出演。共演がMONOとも長年の親交があるenvyとBorisなので、そこに彼女たちが割って入っているのだからいかに存在感を示しているかがわかります。

 本作はリリース前に急転直下の出来事がありました。これまでリリース並びに所属していたHoly Roar Recordsオーナーによる女性への性的暴行事件です。それが明るみに出たことで、レーベルを脱退。

 発売1カ月前の出来事であり、延期も視野に入っていた中でChurch Road Recordsと契約。予定通りのリリースに至っています。国内盤は、おなじみのTokyo Jupiter Recordsより発売。

 ベルギーのOathbreakerと共に歩んでいくようなクラスト経由のポストハードコアという印象が、本作においてはポストロック/シューゲイズ要素の強化を突破口にして、さらに進化しています。

 #1「Open Wound」では幻惑のレイヤーとクリーンなコーラスが冒頭を彩ったかと思うと、持ち味の馬力と瞬発力を思う存分に活かして突っ走り、また減速しては甘く魅惑する。ここで感じ取れる過剰なドラマティシズムは全曲に渡ってフル稼働しています。

 海外の音楽サイトEchoes and Dustは「ハードコア、メタル、クラスト、ブラックメタル、ポストロックの渦巻く混合物」と評していますし、実際にそれらのジャンルは密接に結びついています。その上でDeafheavenやAlcestのようなブラックゲイズの習熟が顕著に表れている。

 多幸感を手繰り寄せるトレモロ・ギター、爆発的な推進力をメインディッシュに緩急自在にコントロールするドラム、喉のダメージも厭わない男女ツインヴォーカルの叫びと女性ヴォーカル・Serenaのクリーン・ヴォイス。自身の武器を研鑽し成熟、その組み合わせの妙が表現を一段も二段も高いところへと押し上げます。

 闇雲に突っ走るだけでは満たされない、攻撃性だけでは人々は耳を傾けないと柔の部分はフォーカスされる。シューゲイズ由来の空間を埋めるような重層的レイヤーを用いながら、メロディは絶え間なく押し寄せます。

 苛烈を極める演奏の中に、美麗さがどの曲でも主役となれる存在感を放っていることが大きな特徴でしょう。急激にslowdive化して届けられる讃美歌#8「Pearlescent」が美しい幕引きには感嘆するほど。

 ブラックゲイズとクラストの猛烈な集合体と化す#2「Click Bait」、セレナの慈愛に満ちたクリーンヴォイスと白霧に支配された空間の中でそれでもなおハードコアの獣性を叩きつける#4「Listen to Someone」、”美の通貨”と日本語訳がつく中で最も強烈なリフの嵐に容赦なくさらされる#7「The Currency of Beauty」。

 激と美の友好的な調和はどの曲でも図られています。切迫感に満ちた楽曲が多い中で#5「Silent Restraint」は、メロディックなハードコアとして昂揚感と笑みをもたらすようで特にインパクトを与えます。

 表現の核であるSerena(Vo,Gt)の言葉は常に重い。自身の痛ましい経験や思慮深い視点/考察のもとで紡がれる言葉は、心からの疑念と真を世に向けたもの。 その内容は性差別や虐待、メンタルヘルス、ミソジニーと多岐にわたります。MeTOO運動の高まりがあるとはいえ、個人的な闘争としての想いが本作にはあるように感じます。

 ローカルな存在でしかないかもしれないが、そのひとりの想いと言葉が大きな流れへと波及することを信じて表現し続けている。「When I Die, Will I Get Better? = 死んだら、私は楽になりますか?」と自身と社会に問いかけながら、世と刺し違える覚悟を持って彼女たちは叫ぶのです。

 なお本作はMetal Hammer誌の2020年ベストアルバム第5位に選ばれています。そこには”2020年で最も強烈で不可欠なリスニング体験の1つでした”と評されている。

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