The Black Heart Rebellion、ハードコアから禅なる音楽へ

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 2004年にベルギーの古都・ゲントで結成された5人組のエクスペリメンタル系バンド。00年代は彼ら自身のルーツにあるポストハードコアやポストロックをミックスした音楽スタイル。1stアルバム『Monologue』でその実力をみせつけます。2009年には国内盤リリース元であるTokyo Jupiter Recordsの招聘によって来日ツアーが実現しました。

 バンドは09年ごろにドイツの劇団との舞台劇の共同制作を経て、変化の道を歩みます。型にはまらないパーカッション・パターンやインドの民族楽器といったものを導入し、儀式的かつアート性の高い音楽へと開眼。12年に発表した2ndアルバム『Har Nevo』、2015年『 People, when you see the smoke~』はその証明となる前衛性を発揮した怪作となっています。

 本記事は上記3枚のフルアルバム、1枚の編集盤について書いたものとなります。聴く手助けになれば幸いです。

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目次

The Black Heart Rebellion (2008)

    初期音源集となる編集盤。2005年にOfferandum Recordsからリリースされた同郷Autumn DelayとのスプリットCDから4曲、2007年自主制作のツアー限定CDより1曲、さらに1stアルバム収録予定の未発表デモを加えた6曲入りです。ただ、すでに廃盤となっています。

 母国ベルギーでその名を轟かすのも納得。蒼く激しき衝動が詰まった作品です。燃えたぎるポストハードコアと美しきポストロックの両軸の中で育まれていくドラマティックな楽曲の数々。軸となっているのは、Explosions In The Skyにまで肉迫するほどのクリーンさを持ったインストゥルメンタル。その壮麗さは出だしの#1「Cuts Will Prove Me Right」を聴いただけでもうなずけるはずです。洗練されたメロディは、鼓膜からすっと入りこんで心の中で熱くたゆたいます。

 しかしながら、内なる情念を全て解き放つかのような悲痛な絶叫、爆発する轟音は迫真性に満ちています。近年のenvyに代表されるようなポストロックへ通ずる独特の透明感や美麗さを湛えたポストハードコアが本質にある。静と動の高い精度を持った劇的な組み合わせ/展開でグイグイと聴き手を引き込み、白熱した瞬間を聴き手に刻みつけていく

 炸裂の美学とでも表現すべきものが本作には存在します。ドラマティックな旋律に牽引され、ためたところで爆発する王道スタイルがストレートに感情を煽る。体温を上げて血を騒がせるだろう#2「Silhouette」、#3辺りは本作で白眉。スマートさも感じるのに、ここまでの情熱的な音塊へと昇華してくる点は強烈な個性といえます。美しくエモーショナルに織り上げられた本作は、繰り返すが情熱の音楽として印象深い

Monologue (2008)

   1stフルレングス。okyo Jupiter Recordsからリリースされた国内盤は、日本盤限定で書き下ろされた新曲を追加。アートワーク、パッケージ、OTO RECORDSの吉武氏による歌詞対訳封入の限定仕様となっています。

 ほぼ同時期である編集盤からスタイルはそのままに熟し、順当な成長をみせる作品です。メランコリックであって、蒼く熱いエモーションがある。麗しいギターの旋律、芯の強さと重みを備えたリズムを先導役にして、崖っぷちの精神状態で生々しい感情を込めた絶叫が鋭く心に迫ります。

 徐々に熱を帯びていくような静と動のメリハリをつけた展開、劇的なクライマックス。ポストロックの穏やかな美しさ、ハードコアとしての性急さと強度が合致。作品のフィーリング自体は物悲しさとモノクロームの叙情性に彩られていますが、エモーショナルの嵐にさらされます。一段と叙情の色合いを強めたインスト#1「The Morphing Light」で始まって、続く#2「Leaving The Capital」でストレートに感情を揺さぶってくる。

 ソリッドな切れ味、強靭なグルーヴと轟音、哀切のメロディ等が火花を散らしながらの怒涛の連鎖は、聴く者を引きつけてやまない。#7「The Darkest of Men」が初期の集大成ともいえる曲。大きなインパクトへと力強く推進していく本作は、前作同様に熱いロマンが詰まっています。リリース後の2009年には、The Caution Childrenと共に初来日ツアーを行いました。

Har Nevo (2012)

 4年ぶりとなる2ndアルバム。アートワークにWe Became Aware (Amenra, Oathbreaker) を起用。国内盤のリリースはTokyo Jupiter Recordsより。

 一気に緊張感の高まる鈴の音に始まり、重厚なグルーヴと楽器としての感触を強めたヴォーカルが絡み合う#1「Avraham」からして変化を実感します。明らかな新章突入といえるぐらいの変化。美しさと激しさに彩られたポストハードコアは、民族/宗教/現代音楽をミックスすることで独自の地平を切り拓きました。ここまで野心的に変革したので初聴時の衝撃は大きかったものです。

 東洋風のメロディ、トライヴァルなリズム、読経風ヴォーカルなどが醸し出す妖しいまでの幽玄さ。葬儀の時に使いそうな鈴の音、マンドリンといった多彩な楽器が鳴り響く。よって湿っぽい雰囲気は助長されて、不穏な闇が広く深く浸透しています。ハードコアやポストロックの要素がベースにあることは確かだが、前作との感触の違いは明らかです。

 以前までの枠組を明らかに飛び出した本作は、別のインスピレーションを与える代物となっています。さらなる深みにはまっていくだろうオリエンタルな感触を増した#2「The Woods I Run From」、古の儀式のごとし#3「Circe」と、聴き進めるごとにこの世ならざる場所を歩んでいく。そして、あのOMやGrailsを彷彿とさせるような異国情緒や淡い煙たさに視界が歪む

 さらに本作は、打楽器陣の増加でトライバルなビートを強烈にして怒涛の喧騒を生み出す#4「Animalesque」、宗教色と不気味な気配をあぶりだしていくようなミッドテンポの#6「Ein Avdat」等も擁し、暗鬱とした雰囲気や宗教/民族音楽色は濃さを増していく。

 ラストを飾る#8「Into The Land Of Another」では、エキゾチックな味わいをもたらすシタールっぽい音色、強靭なアンサンブルに独特の情感をかぶせていく表現力豊かなヴォーカルによって世界は暗転。進化/深化を長きにわたって追求した果てにこぎつけた、ハードコア通過型のエクスペリメンタル・ミュージックの真髄を大いにみせつける作品です。

『Har Nevo』は、私が永らく聴いてきた音楽のうち、最も興味深い作品のひとつだ。The Black Heart Rebellionはヨーロッパの音楽史の新章を自らの手で刻んだのだ。

Amenraのヴォーカリスト、Colin H. Van Eeckhoutの言葉

 本作を引っ提げて2012年11月末に来日ツアーを行っています。わたしは吉祥寺WARPまで見に行きました。

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People, when you see the smoke, do not think it is fields they’re burning (2015)

 約3年ぶりの3作目。もちろんTokyo Jupiter Recordsから国内盤のリリースとなっています。

 “野を焼くと人な思ひそ一と煙” 帯に載せられたその意味深な言葉はタイトルの和訳で、日本の俳人・北川楳價(ばいか)による辞世の句からの引用。Amenraによる”Church of Ra”に入信してわたしたちは変わりました!という変化は継続しています。ハードコアではないどこかへと胸を焦がし、前作『Har Nevo』からさらにエクスペリメンタル・ミュージック密教部の深奥へと進んでおります

 パーカッションを含めて強化したリズム、呪文を唱えているがごとしの渋すぎる歌を中心とした民族音楽への傾倒。そのサウンドから近年のSwansであったり、OmやGrails等の名前をあげたくなるところです。不穏なパーカッションを基調としたグルーヴにフルートが乱舞する#3「Om Benza Satto Hung」は人里離れた山奥での儀式感半端ない。反復によってどんどん酩酊してくる。もはや黒魔術。

 前作と比べても作品に熱量で押す部分はほとんど無い。かつてのオラオラ感のあるハードコア要素もほとんど無い。音符ひとつひとつが、人間の神経・ツボをピンポイントで刺激し続けているような感覚。数度の来日経験もイマジネーションに繋がっていそうで、”禅”という言葉も聴いていると浮かんできます

 ゲスト・ヴォーカリストとしてAnnelies Van Dinterを迎えて閑寂な世界を紡いだ#6「Near to the Fire for Bricks’」、女性コーラスを交えたラストトラック#9「Violent Love」などはエキゾチックで官能的ですらある。

 結成から10年の経過。彼等は予測もつかない深化の果てに、ハードコアという物差しで計るには恐れ多いバンドとなった。属さないことで見出した瞑想の音楽。オリジナリティや唯一無二という言葉はここまできて初めて与えられる言葉でしょう。歴史のあるお寺さんで聴くべき合掌南無阿弥盤。

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